異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい   作:星たつゆき

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2.変身

 夜も更け、シオンは荷物の中に有った薄手の毛布に身をくるめて焚き火の傍で横になる。俺は眠気もほぼ無いまま、ただちろちろと燃え、たまにぱちっと小さく爆ぜる焚き火に木切れを放り込み、その揺らめきを見ていた。

 俺の身に起きている事の幾つかはヒーローの身に起きた事と一致する。だがそもそも何故俺なんだ? 俺は一介のファンでありただのオタクに過ぎなかった筈なのに、どうしてこの世界ではその「英雄」そのものになったのか。時折微かに腹の中で違和感を覚える妙なモノも気になる。あの番組通りなら、身体と変身ベルトが一体化したと捉えるべきなのだが、本当に自分の身体に同じ事が起きたのか。それにしてはあの番組では知らない能力も備わっている。と言うより複数の「仮面ライダー」の能力が備わっている様にも感じ、自分の身でありながら少々戸惑いを覚える。

 遠くの方で、何やら物音が聞こえる。遠くと言っても普通の人間では分からない程の距離だ。恐らく一キロ以上は先だろう。--いや、そもそもこの世界での縮尺や単位はどうなっているのか分からない事だらけだが、俺の耳には確かに聞こえる。車輪の軋む音、馬のいななき、緊迫する御者の声--何かに襲われて居るのは確かだ。

 シオンに声を掛ける。眠そうに目を開ける。事情を話すと、顔色を変えた。

「ボクの耳には何も聞こえないけど」

「そうか。じゃあここでおとなしくしてるんだ。もうあと数分もすれば近くの街道に来るだろう」

「わかった」

 俺は立ち上がった。シオンは隠れる為か、さっと焚き火を消した。辺りは漆黒の闇に包まれた。

 

 待ち構えて数分後、騒々しい音を立てて馬車が近付いて来る。やはり俺の耳は聞き間違いでなかった。周囲を飛びながら攻撃しているのはシオンを助けた時に戦った怪物と同じ……だとするとガーゴイルと言えば良いのか。

 馬が威かされ行き足が止まる。もうこれまでかと御者が震える。ガーゴイルは哀れな御者を乱暴に突き飛ばすと馬車の扉に手を掛ける。

 俺の身体が、そして臍の下辺りが疼く。キュルルと音を立てて変身ベルトが姿を現すと、中心に嵌まるサイクロイドストーンが鳴動する。強力な光がまるで照明の様に輝き、変身待機の独特な音を繰り返す。

 ぎょっとして振り返るガーゴイル。その数二匹。ベルトから発せられる光の余りのまぶしさに思わず身がすくんでいる。俺はそのままゆっくりと近付く。目の前に突然正体不明の存在が出現した事で混乱しているのは明らかだった。なかばヤケになり手に持った剣と槍を振り回してくる。俺の身体は--俺自身は幼い頃親に連れられ見よう見まねで空手を半年程嗜んだ程度の腕前だったが--極めて自然、正確、そして的確に相手の隙を突き、剣を避け槍を躱し、ガーゴイルに重い蹴りとパンチを食らわす。

 ガーゴイルがよろめき、けたたましく鳴く。

 俺も構えたまま、あの言葉を口にする。

「変身!」

 サイクロイドストーンの輝きと鳴動は頂点に達し、俺の身体を包む。表面に甲冑にも似たフォルムが現れ、身体をすっぽりと覆う。ベルトに手をやるとサイクロイドストーンが再び輝き、そこからすっとストームスピアが出て来る。素早く掴むと、ガーゴイルに向かって構える。槍を持ったガーゴイルが突っ込んで来たがすぐに躱し、深々と突き刺し、そのまま切っ先で薙ぎ払う。傷口から光がかあっと漏れ、ガーゴイルは苦しみもがき爆発して塵と消えた。

 もう一匹のガーゴイルに向かう。なかばヤケになって突っ込んで来る。ストームスピアを仕舞い、キックの構えを取る。ちょうどのタイミングで素早く一閃。まるで居合の様に決まった蹴りはガーゴイルを頭から地面に突き刺す勢いで、奴はそのまま爆発して消えた。

 他に敵は居ない様だった。何処で見ていたのか、シオンがすぐに掛け寄って来た。

「セイイチ、大丈夫?」

「ああ。怪我人が居ないか見てみないと。手伝ってくれるか?」

「もちろん」

 御者はかすり傷と数カ所の裂傷が有るが命に別状は無さそうだ。ガーゴイルが狙っていた馬車の中はどうなっているのか。しかしこの格好で開けたら多分誰であれ悲鳴を上げると思われたので、変身を解いてから、こつこつとノックする。返事が無いのでそっと開けて見ると……短刀を喉に当てたまま震える女性二人の姿が有った。うち一人は随分と立派な身なりをしている。

「もう大丈夫。怪物は倒した。俺はあなた方の敵ではない。どうか落ち着いて」

 御者の手当を終えたシオンが来た。そして中を見るなり目を丸くした。

「貴女様はオーヴェル郷の聖女様では?」

 その声を聞き、ようやく警戒を解いたのか、手にしていた短刀を膝の上に置いた。

「まさか自害するつもりだったのか」

「はい。貴方達は」

「ボクはベルガー郷のシオンと申します。こっちは昨日知り合った--ええっと、セイイチと言う者です」

「見た事の無い姿ですね」

「ああ--遠くから来たので。と言うか、ただの通りすがりだが」

「ともかく御礼を申し上げます。私はオーヴェル郷の聖マルグリーテ、こちらは侍女のエレーヌ。そう言えばクルトは無事?」

「御者の事かな? 彼なら怪我をしているが大丈夫だ、問題無い」

「どうしよう? 街道の真ん中に居続けるのも……」

「あっしは大丈夫です、道を急ぎましょう」

 クルトと呼ばれた御者は立ち上がると馬の様子を見た。何とか行けそうだと判断したらしく、身支度を調える。

「あの、もし宜しければ」

 聖マルグリーテと名乗る女性が俺達を見、言った。

「またいつ襲撃が有るか分かりません、郷に着くまで護衛をお願い出来ないでしょうか? 勿論御礼はします」

「はい、聖女様の事と有れば喜んで」

 俺が答えるより先にシオンが了承していた。ここは成り行きに任せるとしよう。

 

「私達はホルム郷のヘルマー伯爵に乞われ、治癒を行う為に旅をしておりました」

 がたごとと揺れる馬車。街道も小石だらけで乗り心地はお世辞にも良くない。ただ徒歩よりも早く目的地に着く事は明らかだった。乗り合わせた俺達四人は、聖女様から事の顛末を聞いていた。

「その帰り、モンスターに待ち伏せされてしまったのです。奮戦虚しく護衛の者は全滅し、私達だけが何とかここまで逃げましたが、もはやこれまでかと」

「それは……、お気持ちお察しします」

「お気の毒に」

 シオンと俺は慰めの言葉をかける。

「でもそんな時貴方方が現れ、私達は救われました。まさに神の助け」

「ボクも及びませんが少々の治癒魔法と攻撃魔法が使えます。微力ながらお役に立てるかと。そしてこのセイイチ、見た目は奇妙ですが腕は確かです」

「まあ、奇妙には映るだろうけど」

 自分の身なりを見て思う。確かにまるで中世から抜け出て来た様な三人の姿と違い自分は二十一世紀の日本の若者の姿をしている。違和感が半端無い。そして戦いともなると仮面ライダーに変身するのだから尚更だ。

「ちなみに貴方方は何処へ行かれようとしていたのですか?」

「ボクは自分の郷から遣いに出されておりました。二つ隣の郷へ行った帰りにモンスターに襲われたところ、このセイイチに助けられました。街道だから大丈夫かと油断しておりました」

「最近は主要な街道も賊やモンスターだらけですものね……」

 聖女様は困った顔を作る。

「ところでセイイチ様はどうして此処に?」

 三人の視線が注がれる。半ば興味本位でもあった。俺は正直に--少しだけ話す事にする。

「それが分からないんです」

「分からない、とは?」

「気付いたらこの地に居ましたし、この力も有ったのです」

 ふっと聖女様は微笑んだ。

「おかしな方。でも貴方のお陰で助けられたのは確かです。郷に帰ったら御礼をさせてください」

「いや、お構いなく。俺はシオンと一緒に彼女の郷に行かないと」

「そうですか……。でも数日は滞在して旅の疲れを癒してから行かれると良いかと。少々距離が有りますし」

「有り難き御言葉」

 そこで俺の頭の中で危機センサーとも言うべきサインが閃く。御者に速度を上げる様伝える。馬車の屋根に上がり、空を見る。遠くに翼を生やした赤い化け物が見える。何かを構えている。

「あれはレッサーデーモン! セイイチ、どうして分かったの?」

 身を乗り出して来たシオンが聞く。

「勘だ」

「奴等、ファイアボールでボク達を馬車ごと焼くつもりだ」

「そうはさせん」

 ぐっと構える。変身ベルトが姿を現すとサイクロイドストーンが輝く。

「変身!」

 即座に戦闘態勢を取る。遠距離攻撃をするつもりならこちらから先にやれば良い。

 ベルトの横に手をやり、ベルトのサイクロイドストーンからストームスピアを出す。シオンにこのまま先に行けと伝え、一人街道に降りる。地面を思いっきり蹴り、跳躍する。凄い勢いで飛んで来た俺に悪魔は驚いた様子だった。ちょうどファイアボールと言う魔法を唱えたらしく手元に巨大な火の玉が見えたが、勢いで俺が手にしたストームスピアは火の玉ごとレッサーデーモンを貫き爆発した。

 着地し、まだ敵は居ないか周辺を見回す。まさか上空から襲って来るとは、今後は三次元的に敵襲を警戒しないといけない。馬車は少し進んでいる様だったのですぐに追い付く。

「それが貴方の姿なのですか」

 身を乗り出して来た聖女様が俺の仮面ライダーの格好を見、呟いた。

 俺は変身を解くと、小さく笑って言った。

「戦いの時だけです」

 そう言って馬車に乗り込んだ。

「不思議な方ですね。貴方の様な方は聞いた事が有りません。ライカンスロープとも違うみたいですし」

「多分違うと思います」

 そもそも、俺も知らない単語やら色々有ってともかく聞きたい事だらけ。しかしまずは敵の襲撃を退ける事が最優先だ。彼女達を無事に送り届けなくては。

 

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