異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい 作:星たつゆき
その日は郷から程近い川に行った。漁師が久々に漁をするので俺に見せたいとシオンが言ったので、一緒に来たのだった。川沿いは綺麗に整備されているが川は全体的にゆったりと流れていて深さも結構有りそうだ。俺が転生前に馴染みのあった日本の川とは全然雰囲気が違う。
「見てセイイチ、投げ網で一気に魚を捕るんだ」
「なるほど。俺が元居た世界でも似た漁は有ったな」
「へえ」
「ちなみにどんな魚が獲れるんだ?」
「この辺だと水鯛に太コイに長フナに--あと何だったかなあ。川じゃないけど、交易で大タラの干物を手に入れる事も有るね」
「なるほどな」
「魚は重要なんだ。教会の四季の行事で肉料理が禁じられて代わりに魚料理を食べる日が有ってね」
「そうなのか」
学生時代の講義で聞いた話を思い出す。中世欧州でも似た様な事が有った様な。もっともそれを聞いたのはもう何十年も前のことだが。
「それに魚は結構沢山獲れるから、酒場でも定番の料理で出て来るよ」
「おっ、メニューに有るのか。早速食べに行くか?」
「もう食事の話? まあ良いけど」
漁師がばあっと投げ網を川面に投げた。見事なもので、円状に川の中に網が広がり、沈んでいく。暫くしてゆっくり網を引き揚げると、シオンが話していた通り、大ぶりな魚が沢山掛かっていた。小さいものは漁師がすぐに川に返している。
「小さいものまで乱獲すると後々少なくなるからね。先々代の長が決めたんだ。『十ミリクーリル以下の魚は川に返せ』って。あとは時期によって禁漁の時期も有るんだ」
「禁漁か。徹底してるな。しかし、何だそのクーリルって? 単位か何かか」
「あ、そっか。セイイチはこっちの事まだあんまり知らないもんね」
今度詳しく教えるよ、とシオンは言って笑った。
「じゃあ、今日はここまでにして酒場に行こうよ。魚料理も食べて貰いたいし」
「嬉しいな」
シオンは俺の手を取ると、郷に戻った。そのまま酒場に行くつもりだ。
酒場で早速魚料理を注文する。太コイの煮物、と言う料理が今日のお薦めで出ていたので早速食べてみる。頭とワタを取った太コイから出た濃厚な風味が一緒に煮込まれた野菜の甘さと相まってなかなか優しい味になっている。これに日本の「味噌」を入れれば多分俺が元居た世界の「鯉こく」に近いのだろうが味噌なんてこの世界には無い。そして目の前のそれは塩と香草で味付けされているのでかなり印象が違う。
「うん、美味い」
「でしょ? 良かった、好みに合って」
次に来たのは水鯛の串焼きだ。元々ヒューマンの背丈程有る水鯛を大きめのぶつ切りにして刻んだハーブと塩をまぶして串焼きにしたものだが、こちらもシンプルに美味だ。川魚特有の臭みをハーブがうまく打ち消して風味を増している。
「これも美味いな」
「でしょでしょ? この郷の近くの川では良い魚が獲れるからね」
シオンは自分の手柄の様に誇らしげだ。
今日は生憎長フナが無い、と言われたがこれだけでも十分だ。
「お酒が進むなー」
「あ、シオンお前いつの間に」
「酒場に来たら一杯飲まないと」
「おっさんみたな事言うんだな」
「セイイチみたいに子供じみてないから、ボク」
「痛い所を突くな」
ふっふっふ、と意味深にシオンは笑うとビールのジョッキを呷った。