異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい 作:星たつゆき
そんなこんなで、ラウラの奢りだと言うのでシオンと俺は酒場で酒と食事をご馳走になった。
シオンは途中で寝てしまった。酔っ払う事は有っても、酒場で寝るとは珍しい事もあるものだ。
……もしや。
おれはシオンが残した酒と食事を「全部片付けるから」と言って全部食べた。……なるほど。シオンの酒にだけ強力な睡眠薬が仕込まれている。いつの間に。
「旦那さん、意地汚くない?」
「嫁の不始末は旦那が付けないとな。食材も勿体ない」
「へえ~」
ラウラは不思議そうに俺を見、ちびちびと酒を飲んだ。
その夜。
俺はシオンを寝かしつけて……尤もこの分だと暫く起きないと思うが、俺もベッドに横になった。
一時間……二時間……三時間近く経っただろうか。そいつは音もなく寝室に忍び込むと一直線に俺に向かって来た。振り下ろされる刃物。
ガっと手首を掴んでニヤリと笑い、俺は言った。
「シオンを毒殺しなかった事は褒めてやる」
さっきまで一緒に飲んでいたラウラだ。
「毒が効かないってのは噂通りって事か」
酒場の時とは明らかに目つきと口ぶりが違う。殺気が半端無い。まるで別人だ。
「貴様、何処まで知っている? 誰の差し金だ?」
「さあね」
「なら大体は知っているな?」
俺は起き上がりざまラウラの手首を掴んだまま、木の窓をぶち破って部屋の外に出ると屋上の屋根に飛んだ。
ラウラは俊敏な動きでもう片方の手にした大ぶりのナイフで俺を斬ってきた。手首を離し、屋根の上で対峙する。
「俺だけでなくシオンを巻き込み睡眠薬を飲ませた罪、償って貰うぞ」
「さあ寄越せ、神々の宝玉を」
「お前が取れるならな」
「ほざけ!」
本性を見せたフェルパーは両手に大ぶりのナイフを握る。二刀流と言う事か。俺は構えた。
「変身!」
眩い光が一瞬輝き、俺は仮面ライダーの姿になった。フェルパーは俺の腰にあるサイクロイドストーンを見て目を細めた。
「ほう、改めて見ると美しい、それが神々の宝玉か」
「改めて聞く。誰の依頼だ?」
「簡単に言うと思うか?」
「ならば少々痛い目を見るが」
「大きく出たねこのクソッタレが。怖いのかい? まあ当たり前よね、このアサシンのあたしが」
「試してみるか? 俺だって仮面ライダーだ」
屋根の上を走り、広場に降り立つ。斬撃をいなす。何度かナイフの切っ先が俺の首筋に掛かるがぎりぎりで避ける。なるほど、腕前は口先だけじゃなさそうだ。
ならば俺も本気を出さねば。
斬撃の他に的確な蹴りや足払いも行う事から、確かに腕の良いアサシンである事は分かる。だが、俺に小細工は通用しない。
ぶんと蹴りが飛んで来る。踵と足首を掴むとそのまま手荒にぶんぶんと振り回し、全身を地面にどかっと叩き付けた。勿論手加減はしているつもりだが普段よりも力加減は緩やかだ。それはつまり、普通の人間にはかなりのダメージ……致命傷スレスレの打撃となる筈。
案の定、俺が掴んでいた方の足首の関節が外れ、全身に酷く打撃を受け、ぐはっと血を吐くラウラ。
「まだやるか?」
「まだまだ!」
ラウラは片足ひとつで低く跳ぶと俺のベルトに組み付いた。
「取った!」
「無駄だ。言っておくが、こいつは俺とこいつに害成す者は誰であれ容赦しないぞ」
「何?」
ベルトのサイクロイドストーンが輝く。鋭く輝く光に、ラウラの手が、手首が、そして向けられていた顔面が焼かれる。
「ぎゃあああああ」
のたうち回るラウラ。光で発した炎は消える事なくフェルパーを焼く。
流石にこの大立ち回りだ。何事かと郷の人々が松明を手に集まってきた。俺の姿を、そしてラウラの惨状を見て何が有ったか察した様だ。
「なんという事だ。こやつ、セイイチ殿への刺客だったとは」
見物人に郷の長も居て、嘆かわしや、と呟いた。
俺は哀れなフェルパーの様子を見た。先程サイクロイドストーンの光を浴びた際一瞬光が全身を巡ったが、その光が腹の部分に何か有る事を示している。
俺は手刀を作ると、ラウラの腹にずん、と突き刺した。手応えあり。郷の人々は一体何を、と止めに入ったが待ってくれと声を掛ける。
何かが腹の中でのたうち回っている。ぐいと掴むと一気に引きずり出した。見た目、虫の様なミミズの様な、そして何処か甲殻類にも似た無気味な姿だ。郷の人々に見せる。
「これがこいつの腹の中に居たんだが、何だか分かるか?」
「そ、それは!」
「ベイカーのソウルトラッパーだ!」
「ソウルトラッパー? それは何だ?」
「寄生した者を意のままに操る暗黒魔法と聞いている」
「これを使って、意のままに操る者を特定出来ないだろうか?」
「それは無理じゃセイイチ殿」
何やら詳しそうな郷の長が教えてくれた。
「そやつは体から抜き取られたり、寄生体が死ぬと同じくすぐに死んで溶けてしまうのじゃ」
さっきまでビクビク動いていたソウルトラッパーは、確かに大人しくなった。そうしてぶくぶくと泡を発し、溶けて消えてしまった。
「セイイチ殿、怪我は無いか」
「おかげさまで」
変身を解く。ラウラは虫の息と言った感じで倒れている。
「郷の皆にも、騒ぎを起こしてしまって申し訳ない」
「いや、それ程の力を持つセイイチ殿にはこう言う輩も来るじゃろうて。気にするな」
「これ以上郷の皆の迷惑になるなら、俺はこの郷を離れる。俺の事で郷の人を巻き込む訳にはいかない」
これは俺の本心だ。やはり仮面ライダーたるもの、孤独がお似合いか。
だが、郷の人々は口々に言った。
「水臭いぞ、セイイチ。これまでこの郷を何度も救ってくれたじゃないか」
「ウチの郷でシオンと結婚したじゃないか。ずっと一緒に居てやってくれよ」
「これからも郷を守ってくれよ、頼むよ」
「シオンと結婚したんだし、私達家族みたいなもんでしょ?」
涙が出かかったが、まずは、ありがとう、と礼を言った。
「して、この下手人は何故にセイイチ殿を?」
サイクロイドストーンの事を話すべきか迷う。有らぬ誤解を招きそうなので、少しオブラートに包むとしよう。
「俺のベルトを狙って来た。何やら奴等にとっても重要なモノらしい」
「でも、セイイチからはそれ、取れないだろ?」
「ああ。でも、取ろうとしたんだ」
「なんてこった」
「無謀過ぎる」
郷の人々は口々に言った。
俺は足元に倒れるラウラを見た。
「こいつはまだ生きてるみたいだ。施療院で怪我を治してやってくれないか?」
「えっ、セイイチ殿を襲った下手人を?」
「さっきも皆見ただろう。ソウルトラッパーで操られていたんだ」
「まあ、確かに」
「頼む」
「セイイチ殿がそこまで言うなら」
俺はフェルパーを施療院に運び、世話を頼んだ。郷の長にも礼を言ったが逆にお礼を言われた。