異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい 作:星たつゆき
ラウラの治療には数日掛かった。治療のついでに先日運び込んだ二人にもソウルトラッパーが居ないか確認して貰ったが幸いにも二人は大丈夫だったらしい。順調に回復しており、もう暫くすれば歩ける様になるらしい。
……そしてその間、夜間戦闘の際にぶち破った家の木の窓を修理したり、あの対決時、何も知らずに睡眠薬ですやすや寝ていたシオンのご機嫌取りをしたりと、あっと言う間に時間が過ぎた。シオンは怒っていたが単に俺に怒っていただけでなく、睡眠薬を盛られた事に気付かなかった自分の不甲斐なさにも腹を立てていた。でも仕方無い、あれは本物の暗殺者が使うレベルのものだと慰めたが、余計に悔しかったらしい。そうして怒ったかと思えば、俺を失いたくないと泣きついて来たり。俺だってシオンを失いたくないし一服盛られた事に瞬時に気付けなかった俺も同罪だ、とシオンを慰めた。シオンは、じゃあ、と言うと俺を寝かせてくれなかった。数日夜通し……俺達は改めて愛を確かめ合った。
暫くして、あらかた治癒したと言うラウラと面会した。見た目も哀れな包帯姿だった。……いや、ボコボコにしたのは俺と変身ベルトなんだが。
「このフェルパー、記憶を無くしてるよ」
施療院の施術師は残念そうに言った。
「記憶が無い? どうして」
「元々此処に運び込まれた時からかりそめの記憶だったんじゃないか? あまりにも引き出せる情報が少ない。自分の名前すら覚えてないんだ」
「なんてこった」
ラウラは不思議そうな目で俺達を見た。まるで初めて見ると言わんばかりに首を傾げる。
「どうしたものか」
そう言えば、と施術師は言葉を続けた。
「こいつが話してたシャルローと言う郷だが、遥か東方に有った郷だ」
「有った? それは一体どう言う意味だ」
「十年以上前に悪の軍勢に襲われて壊滅した。勇者様達が何人も向かって大勢の住人を退避させたが、それが精一杯だったそうだ」
「郷の壊滅はままある事だから……」
「しかしシオンも知らなかったとは」
「ボクも長生きだからって何でも知ってる訳じゃ無いよ」
「そりゃまあ」
「で、彼女どうするつもりだ?」
「記憶も無い、無い無い尽くしで困ってる」
そこでラウラが俺とシオンの服を掴み、袖を引っ張った。まるで猫みたいに。
「パパ」
ラウラは俺を見て言った。
「は?」
「えっ?」
俺とシオンは仰天した。今度はシオンの服を引っ張った。
「ママ」
「ちょっと、ボク?」
「なんだって?」
施術師は苦笑した。
「懐かれてしまったな。どうする?」
「いや、どうすると言われても」
「ねえ」
「あたし--」
「ん? どうした?」
「あたしの、なまえは?」
俺とシオンは顔を見合わせた。そうしてふっと笑う。俺はラウラを見て言った。
「お前の名前は、ラウラだ」
「ラウラ。あたしのなまえ」
「そう」
「少しずつ思い出して行けば良い」
「ねえ施術師さん、悪いけど少しの間彼女預かってもらえないかな」
「傷が治るまでは良いけど、それ以降はどうする?」
「そうだなあ……どうする、シオン」
「ボクはお断りだよ。また平気な顔してボク達を襲ったりしたら極炎魔法で焼き尽くす」
「物騒だな。情けというものは無いのか」
「そう言うセイイチはどうしたいの? 彼女飼うつもり?」
「飼うってペットじゃないんだし」
「さっきから懐いてるし、家族に迎え入れたらどうだろう」
施術師の言葉に、思わず絶句するシオン。なるほどな、と呟く俺。
今日から暫くは、夫婦で家族会議をしないといけない様だ。
第一章はここまでとなります。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
趣味とオマージュ・パロディを入れた作品ですがお気に召して頂けたなら幸いです。