異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい 作:星たつゆき
途中何度かの襲撃未遂は有ったが事前に察知した俺の先制攻撃で全て潰し、聖女様とやらの郷に近付いて来た。馬車だと早いものだ。あと数時間も経てば着くとの話だ。
「あっ、見えて来ました」
侍女のエレーヌが窓越しに指し示した。先日見たものとほぼ同じ、人工の建築物だ。周囲を大きな空堀が取り囲みその内側の城壁が行く手を阻む。空への備えはと言うと大小の弩や弓が揃えられている様だ。そして「郷」と聞いてはいたがかなり大きい。俺が見る限りではちょっとした街程の広さが有る。
ぐるりと回る様に道が続き、やがて内部に続く大きな跳ね上げ門が見えた。横にある見張り台から兵士らしき人物が何かを構えてこちらに向けた。
「止まれ。汝等の名と郷、目的を告げよ」
声が聞こえる。遠隔で音声を伝える魔法の様だ。便利なものだ。御者は慣れたものであれこれと答える。すると見張り台の兵士達は慌てて門を下ろした。鎖の響きもけたたましく門が下り、ようやく俺達は目的を果たす事が出来た。
郷、と呼ばれるその大きな町は普段にも増して賑わっている様だった。シオンにそれとなく話を聞くと生存が絶望視されていた聖女様が帰還したので人々が喜んでいるらしい。
「お待ちしておりました聖女様。神と精霊のご加護の元、郷にご帰還なさいましたこと、民々一同喜ばしく存じます」
一足先に馬車を降りた聖女様と侍女を兵士達、教会の聖職者達が取り囲み祝福を喜び合っている。
「なあ、シオン」
「どうしたのセイイチ」
「この後俺達どうなるんだろう」
「聖女様を助けたんだよ? 間違っても悪い様にはしないと思うけど」
「いや、俺の存在は明らかに異質だ。見た目も、能力も。それを見て悪魔だ何だと言われて殺されないか気になる」
「心配性だなあセイイチは」
「このまま裏からそっと出て行かないか? 何か気まずいな」
「え? でも聖女様が呼んでるよ。行こうセイイチ」
「シオンが言うなら仕方ないか」
意を決して二人で馬車から降りた。
「聖女様をお助けしたのはそなた達か」
兵士達の中でも高位と思われる豪華な格好をした者から声を掛けられる。
「はい」
「郷を代表して御礼申し上げる。よくぞ我らの至宝、聖女様をお救いしてくれた。後日郷の長からお声が掛かろう。それまでは暫く宿所で休んで行かれるが良い」
手を胸にやり、祈る様な仕草をした。俺の知ってるお礼のポーズとは違うが、どうやら敬ってくれているらしい。どうにも歯痒い。
「いや、危機に遭った者を救うのは仮面ラ……あいや、人として当然の事。礼には及びませぬ」
「何と謙虚な若者か! まさに騎士道を体現する者」
「いや、それ程でも」
「ともかく暫くは我らが郷で休んで行かれるが宜しかろう。飯も鱈腹つけよう」
「ありがとうございます」
シオンは乗り気だ。彼女はそう言えば飲まず食わずで此処まで来たのだ、彼女に合わせるとしよう。
「かたじけない」
相手に釣られて喋り方が時代劇じみてきた。
宿所はやや古びていたが手入れが行き届いていて不快感は無かった。色々な人達が頻繁に出入りしているのだろう。やむを得ない事だ。そして気付いたのだが、シオンとも違う人々--と言うより種族--を複数目にする。やたら筋骨隆々な人、小柄で身動きが早そうな人、獣の様な耳が生えて体毛が多い人、そしてシオンの様な人も。
宿所の脇に有る食堂の様な所では、素朴だが温かい料理を振る舞われた。シオンは喜んで口にしている。俺はこの世界に来てから空腹にならない体質なのだが食べないのも失礼かと思い少し食べてみる。俺がよく食べていた和食とは全く違うが、よく言えば質素--悪く言えば見た目にあまり華やかさが無い--そんな料理が多い。もっとも祝祭でもない限りはこれが普通なのだろう。ただ、味付け自体は意外としっかりしていて滋味深いものもあってなかなかに興味深い。シオンが俺の皿をちらちら見るので食べるかと薦めるとありがとうと言ってぱくぱくと食べる。育ち盛りなのか余程腹が減っていたのか、ともかくこう言うのは嫌いじゃない。
暫く食事を楽しんだ後、シオンは湯浴みに行った。一足先に宿所の一室に戻り、ベッドに腰掛け、ふう、と一息付く。これまでに色々な事が起こり過ぎ、そして多くの未知のものを見て来た。どう整理整頓すれば良いのか困る。かと言って何も知らないシオンを捕まえて話を聞きまくるのも少し悪い気がする。
そんな事をぼんやり考えているとドアが開いた。さっぱりした格好のシオンが帰って来た。
「湯浴み気持ち良かったー」
衣類もついでに洗ったらしい。どうやって乾かしたかは謎だが、きっとそう言う魔法が有るんだろう。予備の衣類をきゅっと小さく丸めるとバッグにしまうと、靴を脱ぎ、ベッドに横になった。
「それは良かった」
シオンが俺を見て聞いてくる。
「セイイチは良いの?」
「大丈夫だ、問題無い」
「本当、不思議なひとだね」
「自分で言うのも何だけどそうかも」
「セイイチの事、たくさん聞かれたよ。何処出身だとか、どんな魔法や武術を使うのかとか」
苦笑するシオン。
「何て答えたんだ?」
「隠しても仕方ないから、見た事とセイイチから聞いた事を全部。みんな不思議がってたよ?」
「だろうな。異端だとか悪魔だとか言われなければ良いが」
「流石に--」
ドアがこつこつと叩かれ、兵士が数名入って来た。何故か武装している。
「聖女様がそなた達をお呼びである。今すぐ拝謁する様に。我々が案内する」
案内、と言うには妙だ。殺気に似た気配すら感じる。シオンも同様に思っているらしく不安そうな顔を俺に向ける。
「大丈夫だ。何か有ったら俺が守る」
頷き、一緒に支度をした。