異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい   作:星たつゆき

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4.世界

「夜分にお呼び立てしてしまい申し訳ありませんでした」

 聖女様は町の中にそびえ立つ大きな教会に居た。裏口から案内され、建物内の一室に通されると彼女が一人で待っていた。兵士達は聖女様に恭しく一礼するとそっと扉を閉めた。しかし扉の外で待ち構えている--と言うか警護をしているのか、戸口の前から動く気配が無い。

「いえ、大丈夫です。それで、ご用件は何でしょう」

「ここは一番内緒話に適した部屋なのですが、念には念を入れましょう」

 聖女様はテーブルの上に有ったオルゴールにも似た小さな木箱を手に取り、何か呟くと木箱がぱあっと光り、辺りを照らす。

「これは」

「音漏れ防止の魔法が掛かった小箱です。これで何を話しても大丈夫です」

「お気遣いありがとうございます」

「その魔導具初めて見ました」

 シオンは魔法の道具に興味津々だ。

「改めて、命を救って頂き感謝御礼申し上げます」

 聖女様は開口一番胸に手を当て祈る仕草をした。

「いや、礼には及びません。何度も言われても恐縮してしまいます」

 俺は苦笑して言った。

「さて、その事はさておき」

 急に聖女様の顔が真剣になった。

「貴方の事を教えてくれませんか。シオンさんの事は分かりましたが、貴方の事はどんな文献にも載っておりませんし、どの魔導具でも素性が分かりません」

「なるほど」

 ちらっとシオンを見る。

「ボクは、ボクが知る事をお伝えしただけだよ」

「いや、責めてる訳じゃ無い。何しろ自分でも分からない事だらけだ」

「分からない、と言いますと?」

「聖女様。言い方は悪いが、情報交換と行きませんか? まずは俺の話を聞いてくれますか? そしてこの世界の事を知りたいのです。色々教えて頂きたい」

 聖女様は少しびっくりした表情をしたが、ゆっくりと頷いた。

 

 俺は自分の事を話した。ただそのまま伝えても混乱するだけだと思うので端折った部分も多い。自分は「仮面ライダー」と言う存在である事。気付いたらこの力を手に、この世界で目覚めた事。恐らく別の世界から「やって来た」であろう事。そうして道すがらシオンを救い、聖女様を救った事。

「シオンさんの仰った事と相違有りませんね。但し少々まだ何か隠されている気もしますが」

「話しても良いですが恐らく狂人扱いされると思うので、分かる範囲でお話したまで」

「そうですか……。それで、セイイチ様の知りたい事とは」

「沢山あります。この世界は何と呼ばれているのか。魔法や怪物の事。そして姿形が異なる人々の事……」

 

 聖女様からは、まるで幼子に絵本を読み聞かせる様に多くの事を教えてくれた。この世界は神が作ったと言われる場所で古代より善の神々とその眷属達に人類、それに対する悪の軍勢が戦い続けて来た事。人類と呼ばれる者には三分の一を占めるヒューマン、次に多いエルフ、ドワーフ、ハーフリング、そしてフェルパーと呼ばれる五つの種族が居る事。ヒューマンは万能だが他種族に対して特筆する特長が無いのが特徴。エルフは他の種族と比べ身体は弱めだが魔法の扱いに長けており中でもハイエルフは長命の種族である事。ドワーフは魔法力は弱いが力が強く文字通り力仕事や格闘、体術等に優れている事。ハーフリングは他の種族に比べてやや小柄だがエルフの次に魔法に詳しく特に宝石や魔導具の扱いに長けている事。フェルパーは別名「獣人」とも呼ばれており獣の特徴を備え他の種族に比べ五感が発達して俊敏である事。

 この世界の人々は悪の軍勢--魔物から自らを守る為、基本的に「郷」と呼ばれる強固な防御施設を備えた集落及びその周辺に住んでいる事。悪の軍勢に対抗する為、神の恩寵を受けた「勇者」と呼ばれる人々が複数存在し太古の昔から戦い続けている事。人々は剣術や様々な武術と共にそれ以上の種類の多彩な魔法を駆使している事。魔法は戦いのみならず普段の暮らしでも役に立っている事……等々。

 聖女様から一気に聞いて、自分が知っているおとぎ話と言うかファンタジー小説の世界ほぼそのままである印象を受けた。シオンは横でうんうんと頷いている。夜も更けてきた。

「勿論、人類同士で争いが無い訳では有りません。盗賊の類も居りますし、進んで悪の軍勢に入る者もおります。しかし根本的には悪の軍勢と対峙すると言う訳では」

「なるほど」

 やはり人が集うと何かしらは有るものだ。そもそも人には善人もいれば悪人も居るだろう。どの世界でも一緒だ。

「それで、私が思うのですが」

 聖女様は言葉を続けた。

「セイイチ様は、もしや勇者ではないかと思ったのです」

「それは無いです」

 俺は即答した。

「どうしてそう言い切れるのです」

「この世界に対して余りに『俺』と言う存在が異質過ぎる。俺が自分自身をこう言うのもアレだが、この世界に居てはいけない存在の様な気もする」

「その是非はセイイチ様ではなく、神がお決めになり、民が認める事なのですよ」

「はあ」

「セイイチ様は、ならばこの後どうしたいのですか?」

「そうですね……」

 言い淀み、横に居るシオンをちらっと見る。

「最初に約束したのが、彼女を彼女の郷に連れて帰る事です。それが済んだら、もし彼女と郷の人達が許してくれるなら、そこでそっと静かに暮らしたい」

 言われてシオンは少し嬉しそう。

「隠者のおつもりですか。それにしては余りにも強い力をお持ちですね」

「ではお聞きしたいのですが、聖女様は俺が仮に勇者だとお思いならば、どうして欲しいのですか」

「勿論、勇者として悪の軍勢との戦いに参じ、戦いに終止符を打って頂きたいのです」

「俺にそこまでの力は無いかと」

「ご謙遜を」

 そこで急に聖女様側の後ろのドアが開いた。金ぴかの鎧を着た騎士がずかずかと入って来て、俺を指差した。

「そやつの言う通りですぞ聖女様。この様な素性の分からぬライカンスロープ風情、勇者とはとんでもない見当違いです」

「無礼ですよネイサン。それに私達の話を盗み聞きするとは」

「聖女様の身の安全を思っての事です。おい、このライカンスロープ野郎」

「俺の名はセイイチだ。化け物じゃない」

「名前なんぞどうでも良い。外で俺と勝負しろ。負けたらお前の仲間共々化け物として引導を渡す」

「止めなさいネイサン」

「さあ来い」

 俺達の後ろのドアも開き、兵士達が槍を構えてじりじりと寄ってくる。シオンを庇いつつ、間合いを取る。

「この愚行、査問会議にかけますよネイサン」

「ライカンスロープ風情との戦いが済めばどんな処罰も受けましょう。しかし聖女様に近付く怪しいモノを見過ごす訳には参りません」

 こうして俺とシオンはネイサンと名乗る騎士とお供の兵士に囲まれ、郷の広場に連行された。

 

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