異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい 作:星たつゆき
聖女様が無事に戻ったと言う事で、昼前から宴が盛大に開かれた。この郷の長--王とでも呼べば良いのか--も最初だけ顔を見せ、労いと祝福の言葉を聖女様、そして俺とシオンにかけるとさっさと引っ込んでしまった。後は郷の者達が総出で料理を作り、飲み歌い踊りの大騒ぎとなった。豪華な料理や酒が惜しみなく振る舞われた。
俺はすぐに人目の付かない所に引き下がり、人々の乱痴気騒ぎを見ていた。俺が行くとどことなく空気が変わるのを、さっきのネイサン戦で身を持って知った。やはり俺は異質な存在なのだろう。このまま寡黙に去るのが良いのかも知れなかった。
シオンが俺を見つけてやって来た。
「あり合わせの材料で作ったとは思えない程豪華だよ? セイイチも食べようよ」
「シオンが俺の分まで食べてくれればそれで良い」
「ボクはもうお腹いっぱいだよ」
それに、とシオンは少し顔を赤らめて言った。あの戦いの時から目を合わせてくれない。
「どうかしたか?」
「あの、さ……。ボクは、セイイチにとってどんな存在なの?」
「ん? 言ってる意味が分からない」
するとシオンは、少し怒った様に俺に詰め寄って来た。
「ボクの事、どう思ってるの? さっきの戦いの時、『たったひとりの大事な者』って言ったよね?」
「ああ、確かに」
「それは具体的にどう言う意味?」
「お前を守ると約束したから」
「それ以上の意味は?」
「それ以上……?」
そこで俺は気付いた。シオンは思い違いをしているのかも知れなかった。だが否定するのも躊躇われ……俺はガラス細工を触る様にそっとシオンの手を取る。
「セイイチ、力強い。痛い」
「ああ、これでもまだ強いか。すまない」
またやってしまった。仮面ライダーは改造人間。力をセーブしたつもりでも相当な怪力になってしまう事は覚えている。ネイサン戦でも分かってはいたが、これからは更に慎重にならないと。
そうして、そーっと、優しく抱きしめる。
「これも縁だ。出来れば、ずっと傍に居てくれないか」
ようやくシオンが俺の目を見た。
「それってプロポーズで良いのかな?」
「ああ」
「ボクで良いなら、セイイチが良いなら、いいよ」
シオンの甘い吐息が頬に掛かる。このまま口づけを交わしたい。でも年齢差が……と躊躇っていたらシオンからキスされた。長いキスの後、はあ、と溜め息が漏れる。ゆるゆると抱き合う。
何だかトントン拍子に話が進んでしまった。シオンの郷に帰ったらご家族に挨拶しないと。
遠くの乱痴気騒ぎの広場では、一組、また一組と出来上がった男女が姿を消していた。……いや、近くの茂みで何やら始めている。まるで江戸時代の盆踊りの様なノリと勢いと性の乱れを感じたが、この世界ではそう言うものなんだろうか。そう言えばさっきからシオンもそわそわしている。俺から見れば成人になっていない様に見えるシオンも、実は立派な女性なのかも知れないがここでそれを聞くのは野暮だ。俺は沸き上がる欲望を--なるべく控えめに、そして可能な限り優しく--シオンにぶつけた。シオンも全身で応えてくれた。
これでもう、後戻りは出来ない。
翌日。俺達は相談して、予定よりも早くシオンの出身の郷に向かう事に決め、朝一番に聖女様に最後の挨拶に向かった。聖女様に会いたい旨を伝えるとすぐに侍女を連れて顔を見せてくれた。
本題に入る前、侍女と雑談しているシオンを横に、聖女様にこっそりとシオンの事を聞いてみた。彼女は姿からエルフに見えるがやはり長命なのかと。聖女様はまるで昨日の出来事を見ていたかの様にふふっと微笑むと言った。
「セイイチ様のご懸念には及びません。シオンさんは名高きフォレストエルフ、貴方には幼く見えても既に成人ですし、恐らく今後セイイチ様よりずっと長生きされるでしょう」
良かった。昨夜の件は犯罪沙汰では無かった様だった。
「でもヒューマンとエルフでは子は出来にくいですから……励んで下さいね」
「いや、その……ど、どうも」
「それと、これは私共からの贈り物です」
聖女様は小さめの革袋を渡してくれた。ずっしり重い。
「郷の長からの謝礼に、私からもお出しいたしました。命の恩人ですから」
シオンは中をちらっと見てうわあ、と声を上げた。
「いいんですか、こんなに」
「本当はもっとご用意すべきですし、もっと長く歓待すべきなのですが……先日のネイサンの件も有りますし」
「いえ、それはこちらも不安に思わせて申し訳無い」
「それと、もうひとつ私から個人的に、貴方達に」
用意した真っ赤なスカーフをそっと俺、そしてシオンに巻いてくれた。
「この布地には魔力が込められています。これからの旅で力になってくれるでしょう」
「ありがとうございます」
「聖女様から直々に頂けるなんて光栄です」
俺も嬉しかったが明らかにシオンの方が喜んでいる。テンションが高い。
「では、私はこれで。旅のご無事を祈っております」
そう言い残し、聖女様は侍女と共に去った。侍女はお礼の仕草をしていたので俺とシオンも同じく返す。つい(元)日本人の癖でお辞儀をしたくなるがそれは違う。文化の違いは何気に難しい。ましてや異なる世界ともなると。
風にスカーフ--いやマフラーとでも呼べば良いのか--が靡く。隅に小さく刺繍された紋様が美しい。
「お揃いだな」
「だね。嬉しい」
俺とシオンは共に手を取り、聖女様の郷を離れた。宴はまだ続いている様だった。見張り台の兵士が暫く手を振ってくれていた。