異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい 作:星たつゆき
聖女様の郷からシオンの故郷までどの位距離があるのかと聞いたところ、何やら分からない単位で答えられた。歩いて何日掛かりそうか聞いたら六日もかからないとの事だった。
……これから六日間も歩き続けるのか。
いや、この世界の人々は時間の流れと言うか感覚が緩やかなのかも知れなかった。
シオンはさっき聖女様から貰った革袋の中身を見てうわあと声を上げた。
「オーヴェルの刻印入りの金貨だ。凄い額だよ」
「どれ位価値が有るんだ?」
「そうだね、オーヴェルに居るならこの一袋で一年遊んで暮らせる位」
「そんなに」
「有り難く貰っておこうよ」
「じゃあ、それはシオンが預かっていてくれ。俺は身ひとつだし」
「分かった。重大任務だね」
シオンはバッグの奥に仕舞い込んだ。
そして、シオンに聞きたい事も幾つか有った。彼女自身の事だ。慎重に言葉を選びながら、彼女の事を知りたい旨を伝えると、シオンは笑って答えてくれた。
彼女はベルガーと言う郷で生まれ育ったフォレストエルフ。年齢は秘密だそうだが聖女様の言葉から成人済との事は知っている。今回の旅のきっかけはとある書簡の配達で数名のパーティーを組んでいたのだが帰りの途中モンスターに襲われてしまい彼女が唯一の生存者だそうだ。そして追っ手から逃走中だった大ピンチの彼女を助けたのが俺、と言う訳らしい。治癒魔法や幾つかの便利な魔法、そして攻撃魔法を覚えているとの事で未知のアイテムの鑑定も出来ると言う。彼女曰くまだまだ駆け出しの魔法使いらしいが、まだ彼女が最前線で戦っている姿を見た事は無い。基本、俺が前面に出て全て倒しているからだ。
最初は怯えていた彼女も俺と接し、行動を共にするうちに「興味を持った」らしい。気付けば彼女と体を重ねプロポーズまでしていた俺は一体。でも何処かあどけなさが残るその姿は、庇護欲をかき立てる。そして昨日夜を共にして分かった事だがシオンは着痩せするタイプで実はかなり豊満な体をしている。こんな可愛い娘、他の男達が放っておかないと思うのだが幸いにも俺を好いてくれている……今のところは。色々有るがまずは彼女を安全に郷に連れて帰らねばならない。
途中、街道の脇で燃えて消し炭になった荷馬車の残骸を数台見た。「モンスターに襲撃された」とシオンは言っていた。何故に襲撃するのか? 狙いは荷物かと聞いたら「それもだけどモンスターは人の恐怖をエサにしてる奴も居るから人が怖がる事を進んでやっている」との回答だった。何気にタチが悪い。
そうして一日歩き、夜は街道の脇で小さな焚き火を焚いてキャンプを作る。普通なら交代で休憩して周囲の警護をすべきなのだが俺はどう言う訳か睡眠欲が無いので、シオンに好きな様に寝て貰っている。それに何か戦闘でも起きたら俺の方が即座に対処出来そうだ。
しかし厄介なのが魔法だ。俺は魔法の事はよく分からない。転生前の元の世界で嗜んだゲームや漫画、小説等で多種多様な魔法が存在する事は知っていたがこの世界でもそう言うものは有るのだろうか。しかし詳しく聞こうとするとちょっとしたお勉強になりそうでシオンの手と頭を煩わせるのも可哀相。
一人焚き火に薪をくべ、その夜は静かに過ごした。シオンは安心しきっているのか毛布の中ですやすやと寝息を立てている。
朝になる。シオンは毛布にくるまった起きるとうーんと伸びをし、ふわわと大きなあくびをした。この辺の生理現象はヒューマンもエルフも変わらないらしい。おはよう、と声を掛けると少し眠そうにおはようと帰って来た。
「本当にセイイチは寝なくて良いの?」
「俺には睡眠欲が無いからな。大丈夫だ」
「寝ずの番って大変だよ。もう何日も寝てないんじゃない?」
「問題無い。特に徹夜明けみたいな感覚にはならないし」
「便利だね、セイイチの体は……ああ、悪く言うつもりじゃないからね」
「気にするな」
シオンはバッグから固いパンにも似た何かを取り出して囓っている。携行食か何かだろうか。それは何? と聞くと、シオンはありふれた固パンだと答えた。日持ちする様に、水分を抜いて焼き上げる、麦を使った食料らしい。欲しい? と聞かれたが断った。シオンの分が減るし、俺は食欲が無い上に食べる必要も無い。不思議な人だよね、とシオンは笑った。水筒の水を少し飲むと片付け、よいしょ、と立ち上がった。
「そろそろ行けるか?」
「うん。セイイチは大丈夫?」
「勿論」
そこからまた歩き出したが……暫く進むうち、何やら嫌な予感がする。シオンにそう伝えると、またモンスター? と聞かれた。モンスターなら単純な悪意と殺意が感じられるのだがそれとは少し違う。その事を伝え、警戒する様伝える。
そうして暫く歩くと、……向こうからこの辺の街道には似つかわしくない一団がやって来た。近くで馬を下りるなり、俺達の方ににじり寄ってくる。
マズイ事にならなければ良いが、とシオンに伝えると緊張の面持ちで彼女は頷いた。