異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい   作:星たつゆき

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8.勇者

 一団は俺達の前に止まると誰何した。

「貴様がライカンスロープ風情の怪人か」

 “怪人”呼びとは笑える。だが奴等からしたらそうなのだろう。呼んできた一団の長みたいな者を筆頭に、胸や鎧、法衣、盾等に特徴的な紋様が見られる。

「もしや貴方は勇者様!」

 シオンはこいつらが「勇者」と呼ばれる一団である事に気付いた様だった。しかし一喝される。

「そこのエルフ! 何故この者に加担する? そいつは悪者かも知れないのだぞ」

「それは違います勇者様! ボクを何度も救ってくれた。オーヴェル郷の聖女様を救ったのもご存じでしょう?」

 勇者--前に聖女様から聞いた事が有る。悪の軍勢に立ち向かう者、と。それが今俺達に刃を向けている。俺の悪い予感は当たった。

「そうやって悪魔は人を誘惑して行くのだ。エルフ、お前は魅了されている」

「違います! 話を聞いてください!」

「その力、看過出来ぬ」

 既に連中は抜き身の剣を持ち、後方では魔法使いの様な連中が杖を握っている。

「ならどうするつもりだ」

「エルフ共々殺す。……殺れ」

 俺は咄嗟にシオンを抱きかかえると一気に跳躍した。そのまま街道から外れ、一行と距離を取る。

「俺のせいですまない。こんな事になるとは」

「勇者様はきっと勘違いしてるだけだよ。だから、セイイチ、あの人達を殺さないで」

「非殺か……やれるだけやってみよう」

 追っ手はすぐにやって来た。俺はシオンの前に立ちはだかる。

「随分と常人離れした跳躍力だな、ライカンスロープ風情」

「違う。俺の名は、仮面ライダー。人類の自由の為に戦う者だ」

「ライカンスロープ風情がほざくな。さあ、真の姿を見せろ」

 俺は構えた。勇者達一行は先日のネイサン達と違い、殺気も凄まじく本気を出す必要が有りそうだ。

「そこまで俺の姿を見たいのなら、お見せしよう」

 腰のサイクロイドストーンが輝く。鳴動が周囲に木霊する。構えを取る。

「その光……まさか」

 勇者と呼ばれた男と一行は瞠目し、そして狼狽えた。

「変身!」

 一瞬にして姿を変える。

「その姿、噂通り……髑髏にも似た顔面、赤く大きな目、全身を覆う軽装の鎧、謎の腹の光る石」

 ざわつく一行はすぐさま武器を構え襲い来る。後ろでは魔法使い達が杖を手に詠唱を始める。

 こう言う乱戦の時、まずは後方の魔法使いから倒すのが定石、と何かのゲームか本で覚えていた。ではどうするか。

 その時ベルトが光り、脇のボタン部分から力を感じた。自然と手をやる。俺の身を包む鎧が輝きを変える。たん、と地面を蹴った。途端に周囲全体がスローモーションに見える。これもあの特撮番組の通りの効果なら、時間の動きが俺だけ違っている--周囲からは超加速している様に見える筈だ。だが仮面ライダーでも能力的に作品が違う。やはり俺は複数のライダーの「能力」を備えているのかも知れなかった。

 一挙に後方の魔法使い達を“軽い打撃”のみで沈黙させ、シオンに迫る剣士達を叩き伏せた。

 時間の流れが元に戻る。勇者は俺の「変化」に気付いていた様だった。

「貴様、何の魔法を使った!? 時間を操る事も出来るのか!」

「そうらしいな」

「私の部下を全て打ちのめすとは。ならお前に魅了されたエルフを殺す」

 勇者は腕をシオンの方に向けた。途端にシオンが苦しみだした。遠隔魔法か。俺は再び一気に加速し、勇者の腕を掴み、全力で投げ飛ばす。肩の関節が外れ千切れる音がしたが構わず力を込めた。ごろごろと情けなく転がり、辛うじてまだ付いている腕を押さえ立ち上がり呻いた。

「ぬう、その力」

 俺は勇者とやらに近付くと容赦なく千切れてない方の腕の関節を決め、ぎりぎりと締め上げた。

「お前は勇者だそうだな」

「そうだ」

「勇者は人を守るのが使命だと聞いている」

「その通りだ」

「なら、何故無辜の者をさして調べもせず先入観だけで殺す? それがお前達のやり方か?」

 腕に力が籠もる。

「ぐっ」

「俺は、魔物達の敵であり人類の味方だ。人を見殺しにはしない。そして……、人一人救わなくて、救えなくて、あっさり殺して何が勇者様だ? ふざけるな!」

 そのまま勇者を力一杯投げ飛ばした。また地面を何度も転がり……そのまま突っ伏した。

 俺はシオンの元に駆け寄った。苦しそうに喉をさすっている。

「大丈夫か?」

「うん。ありがとう。助けられるの、何度目かな」

「何度でも助けるさ。お前が嫌と言ってもな」

 シオンは自分自身に治癒魔法を掛けた。少しは楽になった様で顔色も良くなった。

 暫くしてようやく片膝を付いて、身を起こす勇者。

「貴様の力、見せて貰った。そしてお前の考えとやらも」

 勇者は何やら呪文を唱える。みるみるうちに傷が回復していく。

「まだやる気か」

 俺はもう一度構えた。

「いや。考えが変わった。帰還して議会に報告する」

「何だその議会って」

「大勢の勇者様が集まる、年に一度の行事だよ」

 シオンが教えてくれた。

「魔物なら本能のままに人を躊躇わず殺す筈。しかしお前は違った。私の部下に手は出したが殺さなかった」

「言った筈だ。俺は魔物じゃない。お前らを殺す理由が無い」

「なるほど--ならば私も貴様等を殺さない。貴様は殺すには余りに興味深く、私一人では判断しかねる」

 勇者はもう一回呪文を唱える。倒れていた部下達の傷が瞬時に治り、皆がよろよろと立ち上がる。もう相手に戦意は無い様だった。

「皆の者、帰還するぞ」

 ぽかんとした表情をする部下達を連れて帰る勇者。

「また会おう。次は違う形で--平和なかたちで会えれば良いが」

「お前達次第だ」

 勇者は一笑に付すと、踵を返し、去って行った。俺もそれを見届けると変身を解いた。

「これで良かったのか?」

「どうだろう。でも、ボクも、セイイチも助かったよ」

「ああ。しかし、いきなりシオンを殺そうとするなんて勇者のする事かよ」

「勇者様は人を守るのが使命だから……。犠牲が少なければそっちを選ぶ」

 前の世界でよく聞いた「トロッコ問題」じゃあるまいし、この世界でもそんな事有るのかと腹が立つ。そして--

「その犠牲がシオンと言うなら絶対に許せん」

 俺の言葉を聞いてシオンは照れ臭そうに笑った。

「勇者様も色々有るんだと思うけど。でも本当、今回もありがとう」

 そっとシオンが抱きついてきた。俺もそっと彼女を抱き寄せ、軽く口づけを交わした。

 

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