異世界と変身ベルト~仮面ライダーとして転生した俺は静かに暮らしたい 作:星たつゆき
シオンの故郷まであと少しと言う所まで来た。
郷の近くにはそう離れていない所に別の集落が有るそうだ。規模を聞くとちょっとした村の様な感じらしい。
しかし妙な胸騒ぎがする。そして嗅覚が、聴覚が只ならぬ事態に陥っている事を告げる。
俺はシオンにそれを伝え、急ぎ集落を目指した。
果たして、集落は蹂躙されていた。集落の建物が焼き討ちに遭い、人々が逃げ惑う。魔物が十何匹も居る。シオンが言うには悪の軍勢の混成部隊だと言う。大仰な飾りとお面を付けたゴブリンシャーマンを頂点に、小柄なゴブリン、ヒューマン程の背丈のコボルト、そしてひときわ巨大な……数メートルは有ろうかと言う巨体のサイクロプス。
「シオンは人々の保護と治療を。俺は彼奴等を倒す」
「気をつけて」
「ところで、あいつらは手加減は--と言うか殺して構わないのか」
シオンは一瞬えっと言う顔をしたが、勿論、と言った。
ならば俺がやるべき事はひとつ。
構えを取る。サイクロイドストーンが輝き、腰にベルトとして顕現する。光を放ち、鳴動する。
それまで略奪や暴力行為をしていた魔物達の動きがぴたりと止まり、視線が一斉に俺に向けられる。ベルトの光に怯えるモノ、腹立たしく鳴くモノ等反応は様々だ。
構えを決める。
「変身!」
一瞬で姿を変える。そして跳躍する。
棍棒で襲い掛かってきたゴブリン二匹の頭を掴むと着地の勢いのまま地面に押し潰す。ごしゃっと嫌な音がしてゴブリンの頭が原形を留めない程に潰れた。コボルトの攻撃もさっと躱し、体に蹴りを入れる。腹を抉られ、臓物と共に吹き飛び、ごろごろと転がったまま動かなくなった。尚も襲い掛かるゴブリン達は顔面を殴りつけ--正確には叩き潰し、蹴りを決め--正確には勢いでぺちゃんこに潰し--襲って来たコボルトの槍を掴むとそのままねじ伏せ転がった頭を勢い良く踏み潰し沈黙させる。サイクロプスは俺の危険度に気付いた様で、妙な唸り声を放ち大きな棍棒を振り回して来たが俺もストームスピアを取り出し対峙する。動きが鈍いサイクロプスはただの大きな案山子と変わらない。何度も斬撃を喰らわせ、最後、跳躍し全身を抉る勢いで切り裂く。悲鳴に似た唸りを発すると数歩よろけ、サイクロプスはどうと倒れ込み爆発した。
ぎょっとしたゴブリンシャーマンは慌てて逃げ出したが、俺は跳躍して奴の前に立った。
「絶対に逃がさん!」
「mアqwセdrftgyh!!!!」
何かを言っている様だが危険な呪文かも知れない。一気に加速し懐に潜り込むと腕をへし折り奇妙なお面を付けた顔面に強打を入れる。こいつはなかなかしぶとく、お面は砕けたが一撃では潰れなかった。割れたお面の隙間から汚い体液を吹き出しよろめくゴブリンシャーマンを前に蹴りの構えを取り、さっと飛び上がり、必殺のキックを食らわせる。流石に効いたか、断末魔の悲鳴を上げると少しの間もがき苦しみ、そのまま爆発四散した。
まだ何者かが俺達を見ている。まるでドローンで上空から様子を伺うかの様に。俺はストームスピアを手に取ると、炎を纏わせ、気配のする方向へ渾身の力で投げ付けた。上空百メートル程の所でストームスピアが見えない何かに刺さり、爆発してストームスピアは俺の元に戻った。同時に妙な悲鳴が聞こえたが、“覗き魔”にはちょうど良いお仕置きだ。
これで、この場に生きている魔物は居なくなった。
生き残った人々は呆然と俺の事を見ていた。視線に気付き、変身を解く。
「セイイチ、随分と派手にやったね」
シオンが駆け寄って来るなり驚きの声を上げた。
「手加減無用と言ったじゃないか」
「確かに集落の人々は助かったんだけど……何と言うか」
「激し過ぎたか」
うん、とシオンは小さく頷いた。
「普段は力をセーブしているのだが……本来の力を出すとこんな感じになる。以前ガーゴイルを叩き潰した時と同じく」
「あれは元が石像--魔法生物だから。こっちは魔物だけど一応--」
「言いたい事は分かる。すまん。やり過ぎた」
「ボクは何となく慣れてるから良いけど。ともかく、集落の怪我人を助けよう」
「分かった」
集落の人々は突然現れ、外見を変化させるや否や酷たらしく敵を殺戮して回った俺の事を複雑な目で見ていた。救世主には違いないのだが……、と言った目だ。
俺は瓦礫を片付け、シオンは人々を治療して回る。シオンが人々に話を聞いたところ、幸いにも死者は出ず、俺達が早く到着したお陰か被害も最小限で済んだらしい。
「あの……貴方は一体」
集落の代表と思しきご老人が姿を見せた。俺の首に巻かれた赤いマフラーを見、そこに描かれた小さな刺繍を見て何か悟った様だ。
「もしや、貴方が噂の、聖女様をお救いになったと言う勇者様か」
もうこんな所にまで話が流れて来ているのか。俺は驚いたがすぐに言葉を返した。
「聖女様はお救いしましたが俺は勇者ではありません。通りすがりの仮面ライダーです」
「か、仮面……? そう言えば横に居るのは隣のベルガー郷のシオンではないか。どうしてお前も一緒に」
お揃いのマフラー姿を見て戸惑う老人。
「セイイチと一緒に助けに来たんだよ」
「『セイイチ』? それが勇者様の名か?」
「ええ、まあ。でも勇者じゃないです」
俺は念を押した。
「セイイチは力の加減がまだ十分に出来ないんだ。だから許してあげて。この通り」
「シオンが言うならまあそうなんじゃろうが……しかし、あんなに容易くモンスターを殺して回るとは、相当な力をお持ちですな、セイイチ様」
「人々を怯えさせて申し訳無い」
「いえ、相手は憎き魔物ですから。これで、少しは奴等も懲りたでしょう」
「だと良いのですが」
周囲を見る。村人達は爆発せずに残った魔物の死体や残骸を集めて集落の外れの穴に放り込み、何かの詠唱を唱えると青色の炎を発生させ、片っ端から焼いていた。
「あれは?」
シオンに聞くと答えが返ってきた。
「モンスターがアンデッドで復活しない様にする為の、清めと灰化の魔法を兼ねた炎だよ」
「なるほど」
「セイイチが爆発させた魔物は跡形も無いからどうしようもないけどね」
「まあ、確かに」
「そう言えばさっき空中に槍投げてたよね? 悲鳴も聞こえたけど。あれどうしたの?」
「そこから視線を感じたから、魔除けついでに投げておいた」
「だとすると、遠視か何かの魔法かな。セイイチは勘が鋭いから。あの感じだと多分見てた方も無事じゃないと思う」
「ちょっとした警告になれば良いんだが」
「ともあれ、貴方様は集落を救ってくれたのだから何かお礼をせねば」
老人は俺とシオンに言ったが俺は断った。
「いえ、礼には及びません。シオンの郷のお隣さんなんだろう、ここの人々は」
「そうだよ」
「なら、お隣同士仲良くしないと。ご老人、お礼はここの集落の復興に充てて下さい。じゃあ、俺達はこれで」
「何と謙虚な若者か! ありがたや。まさに騎士道の顕現、そして神の使い」
「いや、本当、そう言うのじゃ無いですから。お気遣い無用です。……行こう、シオン」
「分かった。セイイチが良いって言うなら」
俺達は足早に立ち去った。集落の人々の数名からお礼を言われたのが唯一の救いか。