ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか? 作:いろはす/1roh4su
あたたかいお日様の光と、心地よい匂いで自然と目が覚める。
目を開ければ見慣れたふわふわ。昨日と変わらないやさしい笑顔を浮かべたお母さんがそこにいた。
──おはよう、おかあさん。
ぼくがそう言うと、お母さんは決まってぼくの頭を撫でてくれる。
それが心地よくってぼくはいつも思わず目を細めてしまうんだけど、お母さんにはそれが心底可笑しいみたい。
やさしい笑顔が楽しい笑顔に変わって、またやさしい笑顔に戻る。
そうすると、ぼくもうれしくなって自然と笑ってしまう。
いつもと何も変わらない、フツーの朝。
でも、今日はなんだかいつもと違うような気がした。
お母さんがくれたご飯がぼくの一番好きな珍しいきのみだったり、いつもより撫でる時間がちょっと長かったり。
気のせいと言われれば気のせいな気もするけど、なんだかちょっと不思議だと思った。
でも、お母さんが割ってくれた(外側の皮がすごくかたくてぼくには割れない)きのみのとろけるような甘さにほっぺたが落ちそうになっているうちに、そんなことはいつの間にか忘れてしまった。
ご飯を食べた後はいつものように森の中を駆け回って遊んだ。
少し前まではどこへ行くにもお母さんが付いてきたけれど、ここ最近は一人で遊びにいくことが多い。
ちょっと前にどうして付いてこなくなったのか聞いてみたら、「あなたはもう赤ん坊じゃないでしょう?」だって。
うれしいようなさみしいような、でもやっぱりうれしい不思議な気持ちになった。
遊んだ後は昼寝をして、おやつにはさっぱり甘い桃色のきのみを食べた。
おいしかったけれど、一つじゃ物足りないって言ったらお母さんがもう一つ取ってきてくれた。いつもならご飯が食べられなくなるから我慢しなさいって言われるのに。
おやつを食べ終わった後、お母さんがぼくを呼んだ。
すぐにそばに駆け寄ると、お母さんはどこか真剣な顔でぼくを見つめる。
──どうしたの?
──あなたに伝えなければいけないことがあるの。
そう言うお母さんからは、どこか胸がきゅっとするような、悲しい匂いがした。
──あなたはこれから、遠いところにいかなくちゃならないの。
──そうなの? でもぼく、おかあさんと一緒ならどこにでもいけるよ!
そう言った途端、悲しい匂いがすごく強くなった。
──お母さんは一緒には行けないの。あなたは一人で行かなくちゃいけない。
──え……? そんなの、そんなのイヤだよ!
──ごめんね。でも、あなたがお役目を果たすことができたら、きっとまた会えるわ。頑張れる?
──うん……ぼく、がんばれるよ。
ぼくはそう言った。本当はすごくつらかったけど、お母さんのほうがずっとずっと悲しいからガマンすることにした。
それに、また会えるってわかっているなら、ぼくはきっと大丈夫。
お母さんがウソをついたことなんて今まで一度もないんだから。
──本当にごめんね。愛してる。
そう言って、お母さんはぼくを抱きよせた。
──ぼくもだよ、おかあさん。
お母さんに抱きしめられながら、ぼくはお母さんのふわふわの毛並みに頬ずりした。
かぎ慣れたやさしい匂い。毎朝ぼくを包んでくれているふわふわに顔を埋める。
しばらくして、ぼくを離したお母さんは真剣な顔でぼくに語りかける。
──向こうについたら、ニンゲンを探しなさい。
──ニンゲン?
──ええ。最初に出会ったニンゲンと一緒に行くのよ。あなたは彼を守って、彼はあなたを守る。そうやってあなた達が立派に成長したとき、彼はきっとあなたをお母さんのところまで連れてきてくれる。
──わかった、ぼくがんばるよ!
ニンゲンがぼくをお母さんのところまでつれて行ってくれる。
よくはわからないけれど、きっと大丈夫。どうしてかはわからないけど、そんな気がした。
──それじゃあ、お別れよ。……向こうでも元気でね。
──うん、おかあさんもね。
そう言うと、ぼくの身体を光が包み込んだ。
光の向こうに三匹のポケモンの影が見えたような気がして──かき消えた。
それと一緒に、ぼくの意識もゆっくりと──溶けて────。
あたたかいお日様の光と、水の音で目が覚める。
ゆっくりと目を開け、飛び込んでくる光に目を細めながら体を起こす。
見知った場所とは違う、でもどこか懐かしい森の景色にぼくは首を傾げた。
──あれ?
ふと、視線の先──木漏れ日が差し込んでいるその場所に”ナニカ”が横たわっていることに気が付いた。
近づいてよくよく見れば、それは生き物のようだった。
ぼくよりも大きな身体で、毛はぼくよりも少ない。
しばらく見つめていると、その生き物は突然身体を起こして、キョロキョロと辺りを見回し始める。
「……ん?」
目が合った。その生き物はぼくのことを不思議そうな目で見つめると、突然自分の顔を思いっきりつねった。
そんなことをしたら──思った通り、痛がっている。
──何してるの?
そう聞いてみると、その生き物はゆっくりとぼくに手を伸ばしてきた。
あたたかい手に触れた瞬間、ぼくはなんとなくこう思った。
ああ、これが──おかあさんが言ってた、ニンゲンなんだ。
このニンゲンに付いていけば、ぼくはまたお母さんに会える。
自然とぼくは、ぼくをやさしく撫でるあたたかい手に頬ずりをしていた。
「なるほどつまり異世界転生……というかこの場合は異世界
ニンゲンはなんだかよくわからないことを言うと、ぼくを撫でるのをやめてゆっくりと立ち上がった。
──まってよ、おいていかないで!
そう言ってニンゲンを追いかける。
これから、彼と一緒に旅をするんだ。そう思うとぼくの胸はいつのまにやら、ワクワクでいっぱいになっていた。