ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか?   作:いろはす/1roh4su

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──二章、開幕!


第二章「宙まで響け燼滅の喇叭」
第十一話「ベストマッチな奴ら」


 モルトシティから電車に揺られることおよそ一時間。

 その間特にこれといったトラブルもなく、ツムグとミノトは次の町へと辿り着いた。

 

 

『ケルシュタウン──優れた職人と美味しいヴルストの町』

 

 

「ついたーっ! この距離を一時間で移動できるなんて……。いやあ、アウルムの電車ってすごいんだね」

「何処の電車もこんなもんだと思うけど、まあ便利な乗物だよな」

 

 元の世界では何の感慨もなく利用していたが、徒歩の辛さを知った身からすると心の底から「科学の力ってすげー!」である。

 全人類は毎日駅に向かって五体投地で感謝の意を示すべきだとすら思っている。どう考えても感化されすぎだ。

 

 さて、そんなツムグ一行がやってきたここはケルシュタウン。元の世界のニュルンベルクにあたる場所に位置している。様々な路線が乗り入れるハブ駅が設置されているということもあってか、タウンと名がつく割に人口も多く活気づいているという印象を受ける町だ。

 聞いた話によればモルトシティから試練に挑むトレーナーは皆、ケルシュタウンまで鉄道に乗ってそこからは徒歩で次の街へと向かうらしい。

 鉄道が通っていないというのもあるが、その主な理由は「手持ちポケモンを鍛えるため」である。

 大前提として、アウルム地方で行われている試練は過酷な自然に適応できるトレーナーを育成するためのプログラムとしての側面を持っている。

 そんな試練に生半可な実力のまま挑んだ所で、到底突破できるはずがないのは火を見るよりも明らかだ。

 

「よし、それじゃまずは旅の物資を買いに──」

 

 そう言い終える前にぐぅと可愛らしい音がツムグの耳に入ってきた。

 音の出所を見やれば、ミノトが腹を押さえて赤面している。

 時刻は既に昼過ぎ。腹が減るのも至極当然のことである。

 

「ま、先に昼ご飯にするか。これだけ人がいるんだから飲食店なり出店なりあるだろ」

「……うん。そうしよ」

 

 

 

***

 

 

 

 ケルシュヴルストとは、パフュートンの肉を用いたソーセージの一種である。

 その名が示す通り、発祥の地はアウルム地方ケルシュタウン。マジョラムというハーブを食べさせたパフュートンの肉のみを用いており、ジューシーかつさっぱりとした味わいが特徴。

 長さが7センチから9センチと小型なのは、一説によると外出禁止時間にソーセージを買いに来た客に鍵穴から提供できるようにするためだとされている。(Poképediaより引用)

 

「へえ、どれどれ……?」

 

 宙に浮かぶスマホロトムの画面を眺めながら、手に持ったサンドイッチを一齧り。パンに挟まれた焼きたてのケルシュヴルストからは肉汁が溢れ、同時に甘く爽やかなハーブの香りが鼻を抜ける。Poképediaの記事に偽りなしであった。

 自家製らしいマスタードの辛味やケチャップの酸味も肉の味によく合っていて実に美味しい。屋台の看板にデカデカと”ケルシュに来たならこれ食べなきゃモグリ!!”なんて全方位に喧嘩を売りそうな文言を載せるだけはある。

 ところで何故、ツムグはスマホロトムを見ながら食事などという行儀の悪い行いをしているのか。

 彼が礼儀作法を知らない人間であるため──否。

 ケルシュヴルストに対する知識欲を抑えきれなかったため──否。

 その答えは──。

 

 

「んー、おいしーっ! やっぱりお肉にはマヨネーズがベストマッチだねっ!」

 

 

 マヨネーズ狂(ミノト)の蛮行から目を背けるためである。

 アホみたいな量のマヨネーズをトッピングしたサンドイッチを頬張る彼女の姿を見てしまえば、胸焼けでサンドイッチが喉を通らなくなってしまうことは明白。

 ……というか、遠目で見たらもはやサンドイッチの上にもう一つ白いサンドイッチが乗っているようにしか見えないのだが。マヨネーズの量どうなってんだ。

 

「この美味しさはリザードン級超えて警報(ハザード)級だよ……! ツムグもマヨネーズが足りなくなったら言ってね、いつでも分けてあげるよ」

 

 遭難でもしない限り言うことはないだろう。

 そうこうしながらも最後の一欠片を口に放り込んだツムグは、同じように最後のマヨの塊を口に放り込んだミノトの方へと向き直る。

 

「よし。腹ごしらえも済んだことだし、次は買い出しだな」

「りょーかい! ……で、何を買うんだっけ?」

「とりあえずはミノトの分の食器類、水と携帯食料の買い足しもしなきゃだし──」

 

 何としてでもツムグには手に入れなければいけないものがある。

 彼は数日間、この過酷なアウルム地方を旅してきた。そんな短い期間にも関わらずツムグは幾度も()()を求め、そして幾度も眠れない夜を過ごした。

 

「ゴールドスプレーを……絶対にゴールドスプレーを買わなければ……ッ!」

 

「ゴールドスプレー?」

 

 ゲームでは先頭の手持ちポケモンよりレベルが低い野生ポケモンと遭遇しなくなるという効果を持つアイテムだ。現実ではそれらのアイテムは元の世界における”虫除けスプレー”と同じようにポケモン除けの道具として使われているほか、クマ除けスプレーのように直接野生ポケモンに噴射することで撃退できるタイプもあるらしい。過酷なアウルム地方での旅の必需品といえるだろう。……何故かタドリに貰った初期装備には入っていなかったのだが。

 試練を一つクリアしたとはいっても、ツムグもポケモン達も未だ発展途上。用心に用心を重ねておいて損はない。

 

「つーわけでまずはフレンドリィショップだ。傷薬とかも補充しとかないといけないしな」

「はえーそんな便利な道具が……。なるほど、一理どころか百理くらいあるね」

「だろ?」

 

 そう言うとツムグはマップアプリを開き、ミノトを連れて最寄りのポケモンセンターへと向かい始めるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 程無くしてポケモンセンターのフレンドリィショップコーナーへとやってきたツムグは昨夜タドリから教えてもらった”すごいよく効くヤツ”を探していた。事前に販売元の名前を聞いておいたはずなのだが、うっかりドわすれしてしまったのだ。

 ツムグがしばらく売り場を彷徨っていると見かねた店員が声を掛けてきた。

 

「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」

「ゴールドスプレーを探してるんですけど……何だったっけな、確かリンゴ印の──」

 

 幸い、店員が商品を特定するにはその情報だけで事足りたようだった。

 

「リンゴ印……ああ、”マルスエンタープライズ”の商品ですね。はい、どうぞ。毎度ありがとうございます」

 

 そういって渡されたゴールドスプレーはパッケージにリンゴを模した企業ロゴが印刷されていることを除けば普通のものとさして変わらないように見えた。タドリが言うには他社の製品の三倍は効くらしいが本当だろうか。

 

「まあなんにせよ、これで目的は達成だな。ミノトは確か外で待ってるって言ってたよな……」

 

 自動ドアから外に出て辺りを見渡す。その時だった。

 

「そこな少年、ちょっといいか?」

 

 不意に背後から声を掛けられ、振り返る。

 そこにいたのは年老いて色が抜けたのだろう長髪を後ろで結わえた老人だった。

 短く整えられた髭と年老いて尚力強い光を湛える瞳からは如何にも紳士然とした印象を受ける。

 惜しむらくは──

 

 

「すまないが……服を貸してくれないだろうか」

 

 

「うわーっ!? 変態老人だァーッ!?」

 

 

 彼は下着(ふんどし)以外の衣服を身に着けていなかった。

 

「ハッハッハ! いやあワシはなんて運が良いんだ。君が来てくれなかったらそこにいる少女に頼まなければいけないところだったよ」

「やっと出てきた! 早くそのお爺さんをなんとかしてっ!」

 

 必死に両手で目を覆い隠しながらそう言うミノト。事案かな? 事案だな。(自問自答)

 

「えーっと、何がどうしてそうなったんです……?」

「なあに、簡単なことだよ。そこに大きな建物があるだろう?」

「……? ありますね」

 

「アレはゲームコーナー、所謂カジノというヤツでね。最近できたばかりのこの街の新しい観光名所なんだが……。あそこで小遣いを全部スってしまった

 

「やってんな爺さん!? バッカじゃねェの!?」

 

 ツムグは頭を抱えた。この老人、ギャンカス過ぎる。

 

「本当にすまないね、ワシの名はヨウザン。しがないポケモントレーナーだ」

「何で今自己紹介したの!? あーもう何なんだアンタはよォ!!」

 

 

【流浪のポケモントレーナー(ギャンブラー) ヨウザン】

 

 

「よ、様子のおかしい人だ……。アウルムって怖いトコなんだね……」

 

 目を背けながらミノトはそう言うが、まず間違いなくこの老人がおかしいだけである。

 

「ところで少年、そろそろ服を貸してくれないか? 流石に下着一枚だと肌寒くてね……」

「だーっ、しょうがねえなあああ! これ使ってください!」

 

 そう言ってツムグはカバンに入れていた予備のジャージをヨウザンに渡した。

 ヨウザンは手に持った赤色のジャージをしげしげと眺めると一言。

 

「ふむ……この服はワシには若すぎると思うのだが」

「は? 文句があるなら全裸で帰ったらどうですか?」

 

 服を借りた側の人間とは思えないヨウザンの態度に、流石のツムグもこめかみに青筋を立てる。

 

「ハッハッハ、それは勘弁願いたいね」

 

 ヨウザンはそう言って笑いながらジャージに袖を通した。

 

「ハッハッハじゃねーよ……。ほら、スマホロトム持ってますか? 連絡先教えるから、ちゃんと洗って返してくださいね!」

「ふむ、あいわかった。スマホロトムは確か……ん?」

 

 ガサゴソと身体をまさぐり、キョロキョロと辺りを見渡すと、ヨウザンは突然何かを思い出したような表情で手を打った。

 

「ああ、そういえば家に忘れてきてしまっているんだったな。ハハハ、困った困った」

 

「おい爺さんこの野郎」

 

「えぇ……」

 

 最悪である。連絡手段も無いまま別れてしまえば、ツムグの手にジャージが戻ってくることはないだろう。

 

「ハハハ、そう怒るな少年。その腕輪(カレイドバングル)を見るに、君は”祠めぐり”をしているのだろう?」

「祠めぐり?」

「アウルム地方を旅しながらヌシさまの試練を受けて回る儀式のことさ。もっとも、今やその呼び名を使う人間も少なくなっているがね」

 

 確かに、いかにも真面目で優等生気質なリコットが”祠めぐり”なる呼び名を使っていなかったことを考えると、時の荒波に巻き込まれて今や消えつつある呼び名だというのも納得である。

 

「ここにいるということは今からラムの試練に向かうのだろう? ならその次はきっと”ギンジョウ”の試練を受けることになる。”ラムの次はギンジョウ”、祠めぐりを終えた者達は皆そう言うものだ。何故だかわかるかね?」

「……何でなんですか?」

「──ワシも知らん。近いからじゃないか?」

「えぇ……?」

 

(このクソジジイ……っ!)

 

 あまりの適当具合にツムグとミノトは揃って頭を抱えた。

 ひょっとして、彼は定期的にボケを挟まないと死んでしまうとかそういった類の難病に罹っているのではないか。むしろそうであって欲しい。そうでないのならこの老人はただのクソボケということになってしまう。実際クソボケではあるが。

 

「ハハハ、まァそれはいいんだ。ギンジョウはワシの地元でね、君が試練を受けにギンジョウへ来た時にこの服を返すことにしよう」

「そんな麦わら帽子みたいに……。まあちゃんと返してくれるならいいですけど」

「もちろんだ。少年にはワシが嘘を吐く男に見えるのか? ……なんだね、その顔は」

「イエ、ナニモ」

 

 正直そうにしか見えていない。

 

「……まァいい。そもそも身勝手な頼みごとをしているのはワシの方だからな」

 

 うーむ、と何やら考え始めたヨウザン。数秒も経たないうちに何かを思いついたのかポンと手を打った。

 

「では少年、お礼と言っては何だが──ワシとバトルをしようじゃないか」

「え? 何でまた……」

「ルールは1対1のシングルバトル、審判は……そこの少女に頼むとしよう。幸いこの町にもバトルコートは備わっているから、早速──」

「ダメだこの爺さんまるで話を聞かねェッ!!」

 

 ツムグはまたしても頭を抱えた。もう限界かもしれない。

 そんなことを考えていると、ヨウザンはゆっくりとツムグへと向き直って笑った。

 

「ハハハ、これでもワシは若い頃に祠めぐりを修了したんだ。年を取ったとは言え、君のような若造にはまだ負けん」

「それが何だって──」

()()()()()と言っているんだ。ワシとて伊達に長く生きたわけじゃない。勝とうが負けようが、強敵との戦いはきっと君の糧になる。……ワシはそう思うがね」

 

(……言われてみれば確かにそうだ。弱い相手ばかりと戦っても上がるのは手持ちのレベルだけ。ゲームじゃそれで良かったけど、ここはゲームの世界じゃない……!)

 

 雷に打たれたような気分だった。

 ここはゲームの世界ではない。上げなければいけないのはポケモンの能力(レベル)だけではなく、トレーナーであるツムグ自身の技量(レベル)もだ。

 ポケモンはトレーナーの指示を聞いて戦う。いくらポケモンのレベルが高くても、トレーナーの能力が低いままではポケモン達は本来の実力を発揮できない。

 そしてツムグにはそのトレーナーとしての能力──その礎となる戦闘経験が圧倒的に足りていない。

 ならば選択肢はただ一つ。

 

「是非、お願いします!」

「よろしい、やるからには本気だ──君の全力をワシに魅せてみなさい」

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