ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか?   作:いろはす/1roh4su

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第十二話「ギャンカスのギャラドス、ギャラカス」

 ヨウザンに連れられ、やってきたのはケルシュタウンの中央。

 普段から使われているのか所々に痕が残っているものの、綺麗に整備されているバトルコートに三人はいた。

 審判役を務めるミノトはコートを挟んで向かい合うように立つツムグとヨウザンを見やる。

 

「──ルールはカレイドシフトありの1対1のシングルバトルです。二人とも準備はいいですか?」

 

 その問いに短く首肯するツムグ。対してヨウザンはにやにやと笑みを浮かべながら「問題ないさ」と返す。

 返答の仕方に差はあれど、どちらもやる気は十分である。

 

「それでは、勝負……始めッ!」

 

 両者がボールを放り投げたのは、ミノトがそう言い終えるのとほぼ同時だった。

 ボールは弾け、二匹のポケモンが場に現れる。

 

「──イーブイ、お前の出番だッ!」

「──行け、ブイゼル」

 

 ツムグが選んだのは無二の相棒、イーブイ。

 対するヨウザンが繰り出したのは、黄色い浮袋と水色のヒレを付けたオレンジ色のイタチ──ブイゼルだった。

 

(ブイゼルか……進化前だし、かわいいポケモンだけど……あのブイゼル、何か変じゃないか……?)

 

 ブイゼルは後ろ足を軽く開き、前足をきゅっと握り締めて構えている。その構えを見て思い出すのは昔テレビで見た空手家だ。

 ツムグの知る限りではブイゼルというポケモンは水単タイプ。その外見もツムグの知るブイゼルと相違ないことを考えれば、新種のリージョンフォームというわけではないハズだ。

 

「このブイゼルは物理技が得意な子でね……物は試しと昔カントーで買ったカラテの教材を与えてみたらいつの間にかモノにしてしまった。なかなか聡い子だろう?」

「ききゅい!」

 

 ブイゼルは気合いの籠った掛け声を発しながら、素早くシュシュッと拳を突き出した。

 その動きは素人目にも非常に洗練されているとわかるほどにキレが良く、隙がない。

 

「では始めよう。ブイゼル、素早く攻めなさい(”アクアジェット”)

「”でんこうせっか”で迎え撃て!」

 

 素早く跳び出した二匹のポケモンが空中でぶつかり合い、同時に弾かれる。

 

(一合目はほぼ互角──と言いたいところだけど、僅かにイーブイが押し負けてる……あのブイゼル、身体の使い方が巧い!)

 

 着地してすぐにブイゼルは再度水流を身に纏い、勢いよく跳び出す。

 イーブイも負けじともう一度”でんこうせっか”で迎撃する構えを取った。

 猛スピードで地上を泳ぐブイゼルがイーブイに迫ったその時──

 

 

「今! ”でんこうせっか”ッ!」

「その勢いのまま”ダブルアタック”」

 

 

 ──瞬間二撃。そう形容するほかない鉄拳がイーブイを襲った。

 

 

「な……ッ!? 速過ぎだろ……!」

「ポケモンバトルとは、如何に得意を押し付けるかだよ。少年」

 

 勢いよく殴り飛ばされ、宙を舞ったイーブイはそのまま力なくコートに墜落した。”ひんし”にこそなっていないものの、かなりの大ダメージを受けたようだ。

 

(いや待て、いくらあのブイゼルが武闘派だからって、1回のダブルアタックでこのダメージは流石におかしい。こんな大ダメージ、()()()()()()()()でも受けない限りそうそう──)

 

「まさか──」

「そのまさかだ」

 

 ブイゼルの固く握りしめた拳──否、その全身から、目に見える程の闘気が立ち昇っている。

 カレイドシフトによるものではない。例え熟練者であってもバングルに触れずにカレイドシフトを発動するのは不可能だ。

 それが示すのは能力の上昇。それに加えてイーブイの受けた不自然なまでの大ダメージを鑑みれば、答えは一つに絞られる。

 

「──”ダブルアタック”に”グロウパンチ”を重ねてたって言うのか……!?」

「おお、ご名答。型にハマった戦い方も良いが、時には思い切りも大事なのだよ」

 

 使うたびに攻撃が上昇する格闘技”グロウパンチ”、それを発動した状態で一度に二回攻撃をする”ダブルアタック”の合わせ技。これによりブイゼルはイーブイに大ダメージを与え、それと同時に攻撃を二段階引き上げたのだ。

 

「そんな技の使い方が……」

「君は若い割に少し頭が固すぎるんじゃないか? もっと自由に、柔軟に考えてみなさい。相棒の持っている可能性を信じることもトレーナーの仕事だ」

 

 相棒の可能性。

 思い当たるのは、他のポケモンと比べても際立つフィジカルだろうか。それ以外をツムグはまだ知らない。

 

「……まだいけるな? イーブイ!」

「ぇぼお……ッ!」

 

 効果抜群の攻撃を受けても尚、脚を震えさせながらイーブイは立ち上がった。

 まだ諦めていない。それを示すようにイーブイの目には強い光が灯っている。

 

「正直、お前のことはまだよくわからない。出会って数日とは言え、相棒なのに変だよな」

 

 出会いはあまりに唐突だった。

 この世界に生きる彼らがただのデータではなく心を持つ”生き物”だと真に理解したのもつい先日のことで、イーブイが何故自分に懐いているのかも、何が得意で何が苦手なのかもツムグはまだ知らない。

 

「──でも、そんなのは後でゆっくり知っていけばいい……! 今は、今できる全力を相手にぶつける! ぶつけて、勝つ!」

 

 そう高らかに吠えた瞬間、ツムグの瞳にもイーブイのそれと同じ強い光が灯る。

 やる気十分、負ける気はない。相手がどんなに格上であっても、必ず勝利をもぎ取ってやるという不屈の光だ。

 

「ほう……随分と良い目になったじゃないか」

 

 ガラリと変わったツムグの目付きにヨウザンは思わず感嘆の声をあげる。

 息を整え、ツムグは叫ぶ。

 

「行くぞイーブイ! ”でんこうせっか”で駆け回れ!」

「えっぼおッ!!」

 

 その場から勢いよく跳び出したイーブイは、素早い動きでフィールド内を縦横無尽に駆け巡り始めた。

 

「ふむ、反撃する準備をしておきなさい」

 

 周囲を跳び回るイーブイを横目に、ブイゼルは静かに己の拳に水と闘気を纏わせていく。

 言わずもがな、イーブイが攻撃しようと接近した瞬間にカウンターを入れるのが狙いである。

 

「”スピードスター”を展開、発射しないでそのまま走り続けろ! 後は威力を少しでも上げるッ──」

「フフ、果たして一体どうするつもりなのか……。魅せてもらおうじゃないか、少年──」

 

 

「「──カレイドシフトッ!!」」

 

 

 二人は揃って腕を捲り、カレイドバングルのダイヤルを勢い良く回した。

 たちまち黄と橙の光が放たれてそれぞれのポケモンを包み込み、そして弾ける。

 次に現れたのは闘気のオーラを全身から迸らせるブイゼルと、バチバチと周囲に静電気を漏らすイーブイだった。

 

 

【ブイゼル≪カレイドシフト≫ うみイタチポケモン タイプ:みず/≪かくとう≫】

 

【イーブイ≪カレイドシフト≫ しんかポケモン タイプ:ノーマル/≪でんき≫】

 

 

(よしッ! ひとまず賭けには勝った! 地面タイプを選ばれていたらマズかったけど、あのオーラの色は間違いなく格闘タイプだ!)

 

 ブイゼルは元々水タイプ。四倍弱点というリスクを抱えてしまう以上、地面タイプにシフトすることはないハズだという読みが見事に的中した結果である。

 

「イーブイ、”≪雷の≫でんこうせっか”で突っ込めッ!!」

「寸前で躱して”きあいパンチ”だ!」

 

 バチバチと雷が弾ける音を鳴らしながら猛烈なスピードで地を駆けるイーブイと、静かに水を湛えた拳を構えてそれを待ち構えるブイゼル。

 二匹が衝突する瞬間、ブイゼルはほんの少し身体を反らし、イーブイの横腹目掛けて拳を突き出した。

 

「今だ、跳べッ!」

 

 しかしイーブイは寸前で高く跳躍し、その攻撃を躱す。

 そして次の瞬間、腕を振り抜いた状態のブイゼルに雷を纏った無数の”星”が突き刺さった。

 

「きゅい!?」

 

 その正体は事前に展開し保持しておいた”スピードスター”だ。

 カレイドシフトによって電気技へと変わっているため、水タイプのブイゼルに効果は抜群。堪らず体勢を崩し膝をついてしまう。

 

「これはいかん──ブイゼル!」

 

 慌てて指示を飛ばすヨウザン。しかしどれ程鍛え上げられた肉体であろうとも、電流が流れてしまえば身体は必ず一瞬硬直する。

 そしてイーブイとブイゼルの間にある距離は僅か数メートル、加えてイーブイは二度目の”でんこうせっか”の準備を既に終えている。もはや対処は間に合わない。

 

 

「ぶち抜けッ! ”≪雷の≫でんこうせっか”ッ!!」

 

 

 雷鳴が轟くと同時に、稲妻の如き突進がブイゼルにぶち当たる。

 ブイゼルは未進化ポケモンであることもあって非常に打たれ弱いポケモンだ。

 であれば、弱点を二度も突かれてしまったブイゼルが目を回して倒れこんでしまうのは必然とも言える。

 

「──そこまで! この勝負、ツムグの勝ち!」

「ハッハッハ、いやあ参った! まだ若いのに強いなァ、君は!」

 

 ヨウザンは気絶したブイゼルをボールにしまうと、満面の笑みを浮かべてそう言った。

 

「あはは……そうですかね?」

「ああ、成長した君にこのジャージを返す時が今から楽しみだ。その時はまた、大人げない年寄りのリベンジに付き合ってくれるか?」

「──はい、望むところです!」

 

 そう言うと二人は固い握手を交わした。

 ツムグにとっても非常に学びのあるバトルであった。むしろこちらこそ再戦を頼みたいところである。

 

「さて、少女も審判役ありがとう。君とも一戦交えてみたかったが……どうやら時間のようだ」

「いえそんな……気にしないでください」

「ハハハ、そう言ってくれると助かるよ。では少年少女よ、また会おう」

 

 ヨウザンはどこからともなくブイゼルのものとは別のモンスターボールを取り出し、軽く放り投げる。

 現れたのは二本の髭を靡かせて宙を泳ぐ青き竜だった。

 

「すげえ……本物のギャラドスだ……! 実物だとやっぱりデカいな……!」

 

 

【ギャラドス きょうあくポケモン タイプ:みず/ひこう】

 

 

 ヨウザンは軽々とした動きでギャラドスの背中に飛び乗り、ツムグとミノトに向かって片手を挙げる。

 

「では諸君、ギンジョウシティでまた会おう!」

 

 そう言い残し、ヨウザンを乗せた青龍は身体をくねらせて空へと昇っていくのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「イーブイの可能性、か……」

 

 夜、旅のトレーナー向けに無料開放されている宿屋の一室でツムグはイーブイを抱きかかえながら呟いた。

 

「ぶーい?」

 

 不思議そうな顔で見つめるイーブイの豊かな毛並みを存分にモフりつつ、昼間ヨウザンに言われたことを思い返す。

 イーブイの可能性。

 このイーブイの個体としての特徴と言えば恵まれたフィジカルと1.5倍増しの毛量だが、種族としてのイーブイの特徴といえばその進化先の豊富さだろう。

 イーブイは非常に遺伝子が不安定であり、周囲の環境やその他様々な要因によってその進化先は変化するのだ。

 ツムグの知る限りでは水タイプのシャワーズ、炎タイプのブースター、電気タイプのサンダース、エスパータイプのエーフィ、悪タイプのブラッキー、草タイプのリーフィア、氷タイプのグレイシア、そしてフェアリータイプのニンフィアの八種類。

 ファンの間で”ブイズ”という名称で親しまれている彼らはそれぞれ生態や戦い方も異なる。

 

「なあ、イーブイ。お前はどうなりたいんだ?」

 

 そう聞いてもただ「ぶい?」と首を傾げるだけ。

 ツムグとしてはイーブイの望む姿に進化させてあげたいと思っての問い掛けだったが、どうやら何の話だかよくわかっていないらしい。

 

「ほらこれ、見てみろよ」

 

 試しにスマホロトムでイーブイの進化先の画像を調べて、イーブイに見せてみる。

 

「えぼ……!」

 

 やはり進化先に対する憧れがあるのだろう。イーブイは途端にキラキラと目を輝かせ、食い入るように画面を見始めた。

 

「どれか気になるのはあるか?」

「ぶい……?」

 

 再び首を傾げるイーブイ。進化に憧れはあっても、どの進化先になりたいのかはまだわかっていないらしい。進学はしたいと考えてはいるが漠然としすぎていて中々志望校が決まらない学生みたいなものだろうか。

 

「わからないかー。まあ焦るようなことでもないし、一旦保留だな」

 

 まだまだ旅は始まったばかりで試練もあと四つ残っている。先は長いのだ。

 とりあえずはラム、そしてギンジョウ──と、まだ見ぬ街へと思いを馳せかけたその時、ツムグはふと()()()()に気が付いた。

 

「あれ? そういえば……俺、ヨウザンさんに名前教えてなくないか? どうやって会えばいいんだ?」

 

 

 

***

 

 

 

「あれがツムグ君か……。話に聞いていた通りなかなか見どころのある少年だった。わざわざ会いに来た甲斐があるというものだ」

 

 ギャラドスの背の上で空を見上げながらヨウザンは呟く。

 

「まだまだ粗削りだが、磨けば相応に光るだろう。()()()()のもアリかもしれんなァ……」

 

 ヨウザンはニヤリと不敵な笑みを浮かべるとギャラドスの背を軽く叩いて注意を引いた。

 

「ぎゃるら?」

「ギャラドス、コージタウンの賭場まで急げ。運気が向いてきた気がする、今のワシなら勝てるぞ!」

「ぎゃる……」

 

 ギャラドスは呆れたように溜息を吐いたものの、背中から感じる主人の圧に負けて渋々コージタウンへと進路を変えるのだった。

 哀れギャラドス、これもひとえに主人がギャンカスなせいであるが。

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