ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか?   作:いろはす/1roh4su

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第十四話「わかったような顔してるけど」

「ふう、上手くいきましたね」

 

 張りつめていた緊張の糸が解けたのか、少年はゆっくりと息を吐いた。

 

「助かった、君のおかげだ。……ええと」

「僕はルスカ。フタチマルと一緒にアウルムを旅しているさすらいのトレーナーです」

「そっか、ありがとなルスカ。マジで助かったぜ」

「うん、本当にありがとう……死ぬかと思った……」

「いえいえ、お二人が足止めしてくれていなかったらどうなっていたか」

 

 そう言ってルスカはにこりと笑みを浮かべた。

 はたして自分がこのくらいの年齢の時、こんな謙虚な返答ができただろうか。ツムグは心の底から感心した。

 

「ってあれ? 何アレ」

「あん?」

 

 ミノトが指を差しているのは気を失って開きっぱなしのイワークの大きな口──の少し下。

 そこに転がっているのは木漏れ日を受けてキラキラと輝く謎の固形物だった。見る角度によって様々な色に輝きを放っているように見えるそれは何処かで見覚えがある。そう、それはまさしく──

 

 

「”色変わりの石”じゃねえか!!」

 

 

 色変わりの石であった。

 

「なるほど……このイワークがカレイドシフトを使ったのは、地中で偶然色変わりの石を食べてしまったからだったんですね」

「そんなこと──あるのか。イワークだもんな」

 

 初期の頃のアニメだと水晶を食べて全身がクリスタルに変わった”クリスタルのイワーク”が登場したという話をツムグは思い出した。”色変わりの石”はとても希少な鉱石であるが、鉱石である以上はイワークが口にする可能性もゼロではないのだ。

 

「で、これどうするよ。確か希少なんだったよな。俺はもうバングル持ってるから要らねーけど」

「僕ももう持ってるので必要ないですね」

 

 と、いう訳で。

 

「こんな貴重なもの、私が貰って本当によかったの……?」

 

 イワークが吐き出した色変わりの石はミノトのものとなったのだった。

 

「何度も言ってるだろ? 俺達はもう持ってるから要らねーって」

「でもでも、それなら売ってお金にするとか──」

「おいそれと売れるようなものでもありませんから。それに、カレイドシフトは使えるに越したことはないですよ」

 

 売ると簡単に言ってもこれほど希少な鉱石を買取ってくれる店はそうそうない。それに現状手持ちがラルトス一匹だけのミノトにとっては偏った技範囲を補えるカレイドシフトは非常に有用である。

 

「そんなに言うなら……ありがたく貰っておこうかな」

「おう。ラムシティについたらバングルにしてもらおうぜ」

「あれ、お二人もこれからラムシティへ向かうんですか? 奇遇ですね、僕もなんです」

「マジでか。それなら俺達と一緒に行かないか? 毎度こんなんじゃ道中不安でさ」

 

 僥倖である。二人旅とはいっても、メンバーは数日前に旅を始めた異世界人とバトル初心者の記憶喪失の二人。あまりにも想定外の出来事に弱すぎるのだ。

 ”旅は道連れ世は情け”、旅の仲間は多いに越したことはない。

 しかし、肝心のルスカは何やら気まずそうな表情を浮かべていた。

 

「いいんですか? 僕、お邪魔なんじゃ……」

「……? どういうこと?」

 

 言っている意味が分からず、聞き返すミノト。

 ルスカは気まずそうに頬を掻くと──

 

「ゼブライカに蹴られるのはちょっと……遠慮したいかなって……」

「──は」

 

 とんでもない爆弾をぶちかました。

 

「いやいやいや! 俺達別にそんなんじゃねえから! な、ミノト!」

「? 私達と一緒にいたらどうしてゼブライカに蹴られるの?」

「マジかこいつまるで理解(わか)ってねえ!」

 

 

『ゼブライカに蹴られる 他人の恋路を邪魔する者に言う言葉』

 

 

 記憶と共に慣用句まで忘れてしまったのか、それとも元々知らなかったのか。何を言われているのかまるでわかっていない様子のミノトにツムグは思わず頭を抱えるのだった。

 

 

 

「なるほど……記憶喪失のミノトさんのために一緒に旅を……」

「そういうことだ。別に()()()()()()ってわけじゃないから、何も気にすることはねえよ」

「ねえツムグ、そういう関係ってどういう関係?」

「お前はもう少し黙ってようか」

 

 一から十まで事情を説明することでツムグは何とかルスカの誤解を解くことに成功した。

 会話のラリーが一往復するごとにマヨ姫が話の腰を折りにくるというトラブルこそあったがまあ良いだろう。もうしばらく黙っていて欲しい。

 

「そういうことなら、是非僕もご一緒させてください」

「本当か!」

「はい、少しの間かもしれませんけどよろしくお願いします」

 

 そうして二人は固い握手を交わした。

 除け者にされているミノトが不満げにむくれているが、まあ些末なことである。

 

 

 

***

 

 

 

 ツムグ達がケルシュタウンを出てから早三日。

 この間も何度も野生ポケモンに遭遇したが、やはり三人寄らばなんとやら。これといった大きなトラブルもなく、一行はラムシティへと辿り着いた。

 

「わあ……っ!」

「同じ地方でもこんなに違うのか……!」

 

 大河を挟んで東には住宅街が、西には煙突の立ち並ぶ工業地帯が広がっている。そして一際目を引くのは工業地帯に天高くそびえたつ一棟の()()()()()

 アウルム随一の工業都市の名に相応しい近代的な街並みを目の当たりにして、ツムグとミノトは思わず感嘆の溜息を漏らした。

 

 

『ラムシティ──鉄火爆ぜる川沿いの街』

 

 

 ポケモンセンター。傷ついたポケモンを癒す他にも旅のトレーナーの支援も広く行う公営施設である。

 その中に併設されたレストランでツムグ達一行は長旅の疲れを癒していた。

 

「お二人はこれから”祠めぐり”の受付ですか?」

「いやあ、流石に疲れたしな。今日は一日ゆっくりして受付は明日済ませるつもりだ」

 

 今すぐに受付を済ませたい気持ちもあるが、無理に急がなくとも試練は逃げやしないのだ。

 そんなツムグの返答にルスカは「そのほうがいいと思います」と短く首肯した。

 

「僕も数日はこの街に滞在するつもりなので、ツムグさんが試練を受けるときは是非観戦させてください」

「おう。そのときはまた声を掛けるよ」

「ありがとうございます。ところで──」

 

 そう言うと、ルスカは隣でマヨネーズを口に運んでいるミノトに目をやった。

 理解しがたいものを見るかのような怪訝な視線にミノトは首を傾げる。この期に及んで一体どうして首を傾げられるのだろう。

 

「……ミノトさんって、毎日そんな量のマヨネーズを食べて体壊さないんですか?」

「もう、何回も教えたでしょ? マヨネーズは体に良いんだよ! なんてったって”完全栄養食”だからね!」

「ルスカ、コイツはもう手遅れだ。俺らには救えない病気(もの)なんだよ」

 

 数日を共に過ごしたからか、ミノトの食への冒涜としか思えない所業(料理を覆い隠すマヨネーズのヴェール)にもすっかり慣れてしまったツムグであった。本人としては大変不本意ではあるが。

 

「それで、お前はどうするんだよ?」

「私はこの後にでものんびり街中を見て回ってこようかな。記憶の手がかりがあるかもしれないからね」

 

 

 

***

 

 

 

 腹ごしらえを済ませ、街へと出かけて行ったミノトとルスカを見送ったツムグは部屋のベッドに寝転がっていた。

 

「……やることねーなあ」

 

 ポケリフレをするにも手持ち達はセンターに預けているし、惰眠を貪ろうと思ってもやけに目が冴えていて寝付けない。本当に何もすることがないのだ。

 とはいえこのままベッドの上で無為に時間を潰すというのはいかがなものだろうか。

 折角この世界に来たというのに、こうして時間を無駄にするなんてツムグの本意ではない。

 という訳で、遅ればせながらツムグも街へ繰り出すことにしたのであった。

 

 

 

「でっけえ……!」

 

 そうしてやってきたのは住宅街のど真ん中に佇む巨大な建造物、その名も”ラム大聖堂”である。

 元の世界でいうところのゴシック様式の装飾や、壁面に設けられた大きな窓を飾る色鮮やかなステンドグラスが素人目にもとても美しい。

 天を衝かんばかりの二本の尖塔を見上げれば、そのサイズ感に押しつぶされるような錯覚さえ覚えた。

 

「こんな建物が人の手で作れるもんなんだなあ」

「ほっほっほ、いやいや人の手だけではとても」

 

 不意に背後から声を掛けられる。聞き覚えのない声に振り返ると、そこにいたのは黒い修道服を身に着けた一人の老神父だった。

 老神父は柔和な笑みを浮かべるとおもむろに大聖堂を指さす。

 

「この大聖堂は遥か昔、人とポケモンが今ほど親密ではなかった時代に両者の共存を目指して造られたものだと言い伝えられております。とは言っても厳密にいつから存在しているのかは誰にもわからないのですがな」

「わからない?」

 

 ツムグが漏らしたその疑問に、老神父は「ええ」と頷いて答える。

 

「着工当時の記録がどこにも残っていないのです。現在確認できる最古の書物にも『とても古い建造物』であると書かれているだけでしてなあ……」

「その”最古の書物”ってのが書かれたのはどれくらい前なんですか?」

「およそ500年前ですな」

「えっ……え?」

 

(500年前の時点で『とても古い』って……それ、下手したら築千年とかになるんじゃ……)

 

 ツムグが元いた世界では千年遡れば平安時代の真っ只中。それほど前の書物であれば現存していないのも致し方のないことである。

 腐敗や盗難、自然災害や人為的による破壊など、書物は様々な要因をもってして表舞台から姿を消してしまう。古いものが判読のできる形で現代まで残っているという事例は奇跡に等しいのだ。

 

「時に貴方様は旅のお方だとお見受けしますが……もしや”祠めぐり”──試練を受けに来られたのですかな?」

「え、はい。そうですけど……今日到着したばかりなんで受付は明日にしようかなって」

「ああ、それなら好都合でしたな。何せ今この街にキャプテン様はおりませんので」

「え」

 

 唐突に放り込まれた思いがけない情報に、ツムグの脳が一瞬フリーズする。

 老神父の放った一言がぐるぐると脳裏を駆け巡るも思うように思考がまとまらない。

 

(キャプテンがいないってことは、キャプテンに会えないってことで……。キャプテンに会えないってことは……それってつまり、試練を受けられないってコトなんじゃ……)

 

 思考能力を取り戻し、ようやくその言葉の意味に気付いたツムグは、思わず掴みかからんばかりの勢いで老神父に詰め寄った。

 

「な、何で!? どうして居ないんですか!? そんなことリコットは一言も……!」

「ほっほっほ。急に決まったことのようですから、それも致し方ないでしょうな」

 

 それでも尚、老神父は人の好さそうな笑みを浮かべたまま、その理由(ワケ)を口にするのだった。

 

「つい一昨日、緊急で”五傑会議”の開催が決まったのです。何、明日には帰ってこられる手筈ですのでご心配なさらずとも大丈夫ですぞ」

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