ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか?   作:いろはす/1roh4su

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第十七話「さすがだぞ! タイプの相性をばっちり理解しているんだな!」

「あっづ──い!!」

 

 太陽が天頂を少し過ぎた頃。

 ツムグとミノトの二人は、ラムシティから少し離れた場所に位置する『アグリコ山』へやってきていた。

 

「うへえ、暑いよお……暑くて干からびそう……」

「ここまでくるともう”暑い”ってより”熱い”のレベルだな……故郷の夏がかわいく思えてくるぜ……」

 

 アグリコ山は火山であり、同時にアウルム中に張り巡らされた地脈から自然エネルギーが湧き出す”噴出点”の一つでもある。

 火口から噴き出す自然エネルギーには炎タイプの力が特に多く含まれており、その影響もあってアグリコ山は一年中気温が高い。その高温で乾燥した環境と潤沢な炎エネルギーが数多くの炎ポケモンを呼ぶため、近隣に住むトレーナーの間では特訓や仲間(ポケモン)探しに適した場所として知られているのだとか。

 

 旅を始めてしばらく経ったが、ツムグの手持ちは未だにイーブイとゴルバットの二匹だけ。デーツによる”祠めぐり”の試練を受けるために必要な最低数を満たしていないのである。

 「一体どうすりゃいいんだ」と、宿に帰るやいなや奇声を上げてのたうち回っていたツムグは、その醜態を見かねた宿の主人の紹介もあって、新たな仲間を探すためにこの場所へと赴いたのだ。

 

「ところで、今日はどんなポケモンを捕まえるつもりなの?」

「よくぞ聞いてくれた。なんでも、聞いた話によればデーツさんは炎タイプが専門らしいんだよな。つーわけで今日はその弱点をつけるポケモンを探そうと思う」

 

 炎タイプが苦手とするのは水、岩、地面の三タイプ。しかしアグリコ山には水タイプのポケモンは生息していない。そのため必然的に今回ツムグが狙うのはそれ以外の(岩、あるいは地面)タイプのポケモンになる。

 

「ってわけなんで、それ以外のタイプで丁度良さそうなレベルのポケモンが居たら──」

「私とラルトスの特訓相手になってもらうってことだね! りょーかい!」

 

 ミノトは自分の名前以外の記憶を失っており、バトルの経験はほぼ皆無。手持ちはスペックに不安が残るラルトス一匹だけ。オマケにサテラ団に狙われているときた。厳しい言い方をすれば足手まといだ。

 旅を続ける以上、いつもキャプテン達の助けが入るとは限らないし、同行するツムグの実力も未だ心もとない。

 置いていく、という選択肢もないわけではないが、記憶を取り戻すために旅を続ける彼女相手にそれはあまりにも非情である。できることなら避けたい。

 それ故に、ツムグはゲームで言うところの”レベリング”をミノトに課すことにした。「レベルで上げて物理で殴る」、実力不足という問題に対する極めて単純で明快な答えである。

 

「ん? アレは……」

 

 と、噂をすれば何とやら。

 岩陰から顔を出す一匹のポケモンがツムグの目に留まった。

 

 黒を基調とした体色故か、際立って見えるのは背中から尾にかけて走る一筋の赤い模様。

 薄紫の瞳を怪しく煌めかせながら岩の上をコソコソと這いまわるその姿はまさに爬虫類そのものである。

 果たしてそれはツムグがよく知っているポケモンであった。

 

「──ヤトウモリじゃねーか!」

「げへ」

 

 

【ヤトウモリ どくトカゲポケモン タイプ:毒/炎】

 

 

「ま、初回の相手にしては丁度いいんじゃねーか? ラルトスには毒技がかなり痛いから気をつけろよ」

「わ、わかった。やってみる! いくよラルトス!」

「るー!」

 

 ミノトが放り投げたボールから、緑のおかっぱ頭が飛び出した。

 その様子に敵意を感じ取ったのか、ヤトウモリもまた戦闘態勢を取る。

 

「ラルトス、”ねんりき”だよ!」

「ら、るーっ!」

 

 主の命に応えるべく、ラルトスはサイコパワーを解き放つ。

 念力がヤトウモリの周囲の空間を歪め、その矮躯を圧し潰そうとする──が。

 

「げげ!」

「──るっ!?」

 

 

【野生の ヤトウモリの ひのこ!】

 

 

 不意にラルトスの鼻先で火の粉が弾け、それに驚いて集中が乱れたことで”ねんりき”は中断されてしまう。

 

「惜しい! とはいえエスパー技を使う判断をしたのは……さすがだぞ! タイプの相性をばっちり理解しているんだな!

「どしたの急に」

 

 話している途中で唐突に表情を変え、溌剌とした口調で声を張り上げたツムグにミノトは怪訝な目を向ける。

 しかし、野生ポケモンにとってそれは些事。注意を逸らした人間に遠慮して攻撃の手を止める、なんてことはありえない。

 

「げ……へげ!」

 

 

【野生の ヤトウモリは スモッグを つかった!】

 

 

「るらっ!?」

「へ? ってうわあ!? ラルトス!?」

 

 突如としてラルトスの顔面に汚れたガスが吹き付けられる。

 下手人は当然ヤトウモリ。そしてフェアリータイプを備えるラルトスにとって、毒タイプの技は効果抜群。

 威力の低い”わざ”故に”ひんし”にこそならなかったものの、ラルトスの顔色が徐々に青ざめていく。毒状態である。

 

「ごめんラルトス! 私がよそ見したから……」

「る、ら……るぅ!」

 

 足はふらつき苦悶の表情を浮かべてはいるが、闘志の火はまだ消えていない。

 両手でファイティングポーズを取り、「まだやれるよ」と言わんばかりにミノトに目配せをしたのがその証拠である。

 

「そうだね、もう油断はしない! 新技で一気に決めるよ──”サイケこうせん”!」

「らーら──」

 

 ラルトスは気迫に満ちた掛け声とともにサイコパワーを両の掌の間で練り上げる。

 それが己にとって致命の攻撃たり得ることを直感したのか、ヤトウモリは咄嗟に回避を試みて動き出した。

 しかし、時すでに遅し。

 

 

【ラルトスの サイケこうせん!】

 

 

「るーッ!!」

「げげっ!?」

 

 

【効果はバツグンだ!】

 

 

 光線の形で解き放たれたサイコパワーがヤトウモリの矮躯を貫いた。

 弱点タイプの、それもある程度の威力の”わざ”を真正面から受けて、進化前の小トカゲが耐えられるはずもなく。

 

 

【野生の ヤトウモリは たおれた!】

 

 

 ヤトウモリは敢え無く”ひんし”となり、力なくその場に倒れ伏すのであった。

 

「やった! 勝ったよラルトス!」

「ら……るる!」

 

 ミノトとラルトス、二人の掌が音を立ててぶつかりあう。勝利のハイタッチである。

 まだまだ粗削りなものではあったが、それでも彼女らにとっては紛うことなき初勝利。喜びも()()()()であろう。

 しかし、喜ぶにはまだ早い。

 

「ラルトス、腕出してみな」

「る?」

 

 言われるがまま腕を出すラルトス。ツムグはその白く細い肌に無針注射器(どくけし)を押し当て、ボタンを押し込む。

 瞬時に薬液が注入され、みるみるうちにラルトスの顔に血色が戻る。

 ツムグはラルトスの頭を撫でると、その手に一つのきのみを握らせた。

 

「それって……」

「”オボンのみ”だよ。来る前に露店で買ってきたヤツ。ポケモンは俺たちの分まで戦ってくれてるんだから、バトルが終わったらちゃんと回復してやらねーとな」

 

 ポケモンバトルをゲームとして楽しんでいた頃は、キズぐすりやきのみを節約するためにポケモンの回復を後回しにすることもあった。

 しかしここでの彼らはデータの塊などではない。一つの命なのだ。苦痛を感じる時間は短ければ短いほど良いに決まっている。

 

「そっか、そうだよね。ごめんねラルトス、そこまで気が回らなくて……」

「らる」

 

 しゅんとするミノトに「大丈夫だよ」と言うようにラルトスは優しく微笑みかけた。

 その様子にツムグがほっこり和んでいた──その時だった。腰のボールたちが激しく震え始め、ポンと音を立てながらひとりでに開いたのだ。

 

「えぼー?」

「ぎぃぎ?」

 

 飛び出してくるなり、二匹は何かを催促するかのようにツムグの眼前にずいと近寄った。

 そのあまりの”圧”にツムグは思わず狼狽える。

 

「な、なんだよオマエら……わかったって、大丈夫だよオマエらのおやつの分もちゃんと買ってあるから!」

「ぶい」

「ぎぎ」

 

 ならばよし、と二匹は自分からボールへ戻っていった。

 

「ったく、なんだったんだアイツら」

「あはは! きっとツムグに構ってほしくなっちゃったんだよ、二匹とも。ゴルバットは特に”さみしがり”な子だしね」

「……なるほど、そういうことか。それは悪いことしちまったな」

 

 後で必ずおやつ休憩の時間を設けなければ。思い返してみれば、モルトシティを出発してから、一度もまとまった”ポケリフレ”(触れ合い)の時間を取っていない。いっそのこと、今晩しっかり時間を設けたほうがいいのではなかろうか。

 

「よーし! この調子でまだまだいくよ、ラルトス!」

「るらら!」

 

 初勝利をもぎ取り、滑り出しは上々。

 ミノトはツムグと共に意気揚々と先へ進むのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「ラルトス、トドメだよ!」

「らる、るーっ!」

 

 

【野生の ヤクデは たおれた!】

 

 

 ラルトスの放った渾身の”ねんりき”がヤクデの体を吹き飛ばした。

 特訓を始めて既におよそ一時間経過しており、ミノトとラルトスは順調に勝利を積み重ねている。

 二人の動きは特訓を始めた時とは見違えるほどに研ぎ澄まされ、苦戦らしい苦戦も見られなくなった──そんな時だった。

 

「え、ラルトス!? キミ、もしかして──!」

 

 突如としてラルトスが眩い光を放ち、周囲を照らし始める。

 光はだんだんと強さを増し、やがてラルトスの体を完全に覆い隠してしまった。

 十分な経験を積む、特定の”どうぐ”に反応する。ポケモンは様々な要因により、さらに上位の存在へと”進化”を遂げることがある。

 ズバットがツムグの期待に応えるためゴルバットに進化したように。強くなりたいという意思を抱き、それに十分な経験を積んだラルトスは今、己が限界を超えようとしているのだ。

 

「る、ら……らーッ!」

 

 光に包まれ、その身は徐々に形を変えてゆく。

 そして、光が収まり現れたのは。

 

 

「──りりーっ!!」

 

 

【おめでとう! ラルトスは キルリアに 進化した!】

 

 

 特徴的な緑のおかっぱはツインテールを思わせる形状に、サイコパワーを増幅する二本の赤いツノは頭の左右に変化した。

 腰部に備わったスカートを思わせる部位をひらひらと靡かせながら、くるりとバレリーナのように回ってミノトへ微笑みかける。

 

「くるりーっ!」

「──っ! すごいよキルリア! 進化できたんだね!」

 

 ミノトはキルリアを抱きしめながら、思わず目に涙を浮かべる。

 初めてポケモンが進化した時の喜びは想像に難くない。何しろツムグも経験済みである。

 

「良かったな二人とも」

「うん、ツムグのおかげだよ!」

 

 元々とても”おくびょう”な性格でバトルもろくにできなかったラルトスが主を守るために奮起し、ついに進化まで果たした。

 短い間とはいえ旅を共にし、二人を見てきたからかツムグにもどこか感慨深いものがあった。

 

 とはいえ、喜んでばかりもいられない。

 うっかり忘れてしまいそうだが、そもそも今回の第一目的はツムグの手持ち探しである。

 そしてその第一目的の進捗は現状、全くのゼロ。この一時間余り、二人はヤトウモリとヤクデしか見ていないのだ。

 

「にしても、ツムグのお目当てのポケモンはなかなか見つからないね」

「そうなんだよなあ。うーん、ここらには生息してねーのかあ……?」

 

 アグリコ山は火口からエネルギーが湧出している関係上、レベルの高いポケモンや高温の環境を求めるポケモンの生息地は火口付近に集中している。

 それ故に火口から離れた比較的レベルの低いエリアでミノト達の特訓を行っていたのだ。

 しかしこの一時間を経てミノトの指示も随分的確になり、戦力的に不安のあったラルトスもキルリアに進化できた。特訓はそろそろ終えてしまっても問題ないだろう。

 

「ま、ラルトスもキルリアに進化できたことだし、そろそろ火口の方に行ってみるか」

「りょーかい!」




ラルトス→キルリア ♂ 特性:トレース
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