ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか?   作:いろはす/1roh4su

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説明パートなので短めです


第二話「旅は道連れ」

***

 

 

 

「野生のイーブイ……初めて見たよ」

 

 イーブイを抱え、至近距離で観察しながらタドリは言った。

 

「ぶ、ぶい……」

 

 ジロジロと見られて居心地の悪そうなイーブイを横目に見ながら、ツムグは思い切って切り出してみることにした。

 

「初めてってどういうことですか? 確かにイーブイは野生じゃ珍しいポケモンですけど……」

「うん……? ああ、もしかして君、他所の地方から来たのかい?」

 

 ツムグの発言に一瞬怪訝そうな表情を浮かべたタドリだったが、数秒考えこむとすぐに納得したように手を打った。

 その隙をついてイーブイはタドリの腕から逃げ出し、ツムグの肩に飛び乗る。余程居心地が悪かったらしい。

 

「他所の地方っていうか、話すと長いんですけど、実は……」

 

 異世界、それもポケモンが創作物として語られていた世界からやってきただなんて、信じて貰えないかもしれない。そう思いながらも素直に話す以外の選択肢が思いつかなかったツムグは今までの経緯を話すことにした。

 全てを話し終えると、タドリは眉をひそめて難しい顔になった。

 

「ポケモンが創作物として語られている世界から来た……ねえ? 信じがたい話だな。何かそれを証明できるものはあるのかい?」

「それは……」

 

 あるわけがない。そもそも、森の中に転移させられてくるまでは自室で寝ていたのだ。ゲーム機はおろかスマホすら持ってこれていない。本当に着の身着のままの状態である。

 言い淀むツムグに、タドリは首を竦めてため息を吐いた。

 

「その様子じゃ証拠は出てこなさそうだ。……ま、それでも信じるんだけどね」

「えっ?」

「だって実際、その話が本当なら突然森に現れたことにも辻褄が合うし。何より君嘘ついてなさそうだしね」

 

 タドリは「僕の勘は当たるんだ」と言って笑った。

 

「それに、ポケモンの手にかかれば一人の人間を異世界に転移させることだって可能だからね。現に以前、アローラ地方で異世界と繋がる穴が開いたっていう報告もあったぐらいだし」

 

(ウルトラホール、無数の異世界と繋がっている空間……。LEGENDSアルセウスの時空の裂け目っていう可能性もある。両方通った覚えはないけど、劇中に登場する転移者は大体記憶が消えてるんだよなあ……。あれ? もしかして全く手がかり無いのでは?)

 

 自分が置かれた状況の危うさにようやく気付いたツムグだったが、今更気づいてもどうにもならない。

 

「……元の世界に帰りたいかい?」

「え? そりゃあ帰りたくないって言ったら噓になりますけど──」

 

 うんうんと唸りながら考えこむツムグに、タドリは柔らかい声色で語り掛けた。

 元の世界に帰りたい。本来であれば真っ先に思い浮かぶはずの考えである。

 しかし。

 

「でもそれよりも、今は大好きなポケモン達がいるこの世界を旅してみたい……です」

 

 ツムグという男はどこまでも楽観的で、どこまでもポケモンを愛しているのだった。

 夢にまでみたポケモンのいる世界。そこに来たからには、ただで帰るという選択肢はない。

 

(にしても、ここって結局どこの地方なんだ……? 今までのゲームに出てきた地方どれにも当てはまらないってことはリメイク版のイッシュか? 発売前に俺が転移したからわからないだけとかそういう可能性は……)

 

「そっか。じゃあとりあえず、この地方を回ってみなよ。何か発見があるかもだしね」

 

 そう言うと、タドリは突然立ち止まり、ツムグの方へと向き直った。

 

「改めてようこそ! 広大な自然と都市が調和する地、()()()()()()へ!」

 

(知らね~~~~~~~!!!!!! 何処だよアウルムってよぉ!!)

 

 まさかの未知の地方である。というかそもそも、タドリなんて名前の博士を知らないことに気づくべきだったのだ。

 

「その反応を見るに、アウルム地方は知らないみたいだね。ま、そろそろ研究所に到着だ。詳しいことは中で話そうか」

 

 

 

***

 

 

 

「あー、ちょっとゴチャゴチャしてるけど……まあ気にしないで」

「りゅー……」

「ちょっとか……?」

 

 大量の資料や道具、ペットボトルなどが散乱していて、もはや足の踏み場すらない状況を「ちょっとゴチャゴチャ」で済ませていいものだろうか。

 ヘラヘラと笑うタドリを横目に見たカイリューは、ツムグに顔を向けると申し訳なさそうに手を合わせた。どうやらこの博士は自分のポケモンに随分と苦労を掛けているらしい。

 ツムグがタドリに対する好感度を下方修正していると、タドリの腰についているモンスターボールのうち一つが突然音を立てて開いた。

 中から飛び出してきたのは──白く長い体毛をスカーフのように首に巻き付けた一匹のポケモンだった。

 

()()()()()! 勝手に出てきちゃダメだっていつも言ってるだろ!? ってああっ……」

「はふぅん」

 

【チラチーノの おかたづけ!】

 

 チラチーノが物凄い勢いで部屋中を駆け回る。数秒経つと、散らかっていた資料や道具類は全て棚に収納され、散乱していたペットボトルはゴミ袋に纏められていた。見事な手際である。

 

「論文、後で読もうと思って出してたのに……」

「ふぅん」

 

 項垂れるタドリをジト目で見つめながら、チラチーノは自分でスイッチを押してボールの中へと戻っていった。

 

「また読みたいときに出せばいいじゃないですか」

「面倒くさいじゃない……ってそんな話をしようと思ったわけじゃないんだ。とりあえずこれ、君にあげるよ」

 

 ポケットを弄り、取り出したものを軽く放るタドリ。

 受け取って確認してみるとそれは、何の変哲もない、どこにでもありそうな石がついたペンダントだった。

 

「それは”かわらずのいし”。持たせている間、ポケモンが進化しなくなる道具だよ」

「こんな形なのか……。で、なんでこれを俺に?」

 

 そう問われたタドリは「よくぞ聞いてくれました!」と笑みを浮かべた。

 

「アウルムのイーブイは些細な感情の揺らぎでも進化する程に不安定な存在なんだ。アウルム中に張り巡らされている地脈から湧き出す膨大な自然エネルギーの影響だと僕は考えてる」

 

 カイリューがどこからともなく持ってきたホワイトボードに書かれたアウルム地方の地図を指示棒で指しながらタドリは話す。

 

「僕の研究テーマにも関わることだから是非とも調査を進めたいところだけど……如何せんイーブイが希少すぎてまだデータが全然足りてなくてねえ」

 

 「そこでだ」と言うと、タドリは再び白衣のポケットを弄る。

 

「ツムグ君には是非、そのイーブイと一緒にアウルムを巡ってほしいんだ」

「え? いや、そんなこと言われてもこいつは手持ちじゃないですし……」

「そうかい? イーブイはもう一緒に行く気満々みたいだけどねえ」

 

 思わずイーブイを見ると、彼は「当たり前だ!」と言わんばかりの表情で胸を張っていた。

 

「俺と一緒に来てくれるのか……?」

「えぼっ!」

 

 一声鳴き、頭を差し出すイーブイを見つめ、恐る恐るツムグはその首にペンダントをかけた。

 そんな様子を微笑ましそうに見つめながら、タドリはツムグへと語りかける。

 

「ツムグ君、はいこれ」

 

 手渡されたのは一つのモンスターボールだった。

 

「使い方はわかるかい?」

「もちろん」

 

 そう返すと、ツムグはしゃがみ込んでイーブイと目線を合わせる。

 

「これからよろしくな、イーブイ」

「ぶいっ」

 

 ボールを押し当てると、イーブイの体はたちまちボールの中へと吸い込まれていく。

 ぐるんと一度、大きく震えたボールはカチと音を立ててロックされ、動かなくなった。

 

「んじゃあ早速……出てこい、イーブイ! ……のわっ!?」

 

 宙に向かって勢いよくボールを放り投げると、その中からイーブイが飛び出した。

 そのままの勢いで嬉しそうに跳びついてくるイーブイを慌てて受け止める。

 

「あぶねー……。いきなり跳びつくの危ないからやめろよな……」

「えぼ?」

 

 わかっていなさそうである。

 呆れつつも、かわいらしく首を傾げるイーブイをみて思わず笑みを浮かべるツムグ。

 そんな様子に笑みを浮かべながら、タドリは話を切り替えようと手を叩く。

 

「はいはいちゅうも~く。講義を続けるよ」

 

 生徒の視線が自分に向いたことを確認したタドリは、中断した講義の続きを語り始める。

 

「さっきも言った通り、アウルムは自然豊かな土地なんだ。それ自体はとても良いことなんだけど、豊かすぎる自然は時に人間に牙をむくこともある」

 

 その言葉を聞いたツムグはつい先刻の森での出来事を思い出した。

 ゲームでかわいがっていたポケモン達に襲われることなど、ここに来るまでは考えもしなかった。

 ポケモンは人間に寄り添ってくれる頼れる相棒であるが、簡単に人間に危害を加えることができる怖い生き物でもあるのだ。

 

「そんな自然と人間との共存と調和の証として、この地方を治めているのが五匹の”ヌシ”と五人のキャプテンなんだよね」

 

(キャプテンがいるのか。アローラみたいだな)

 

「カロスとか他の地方のトレーナーはポケモンリーグが運営するジムで実力を鍛えるらしいけど、アウルムではその役割をヌシとキャプテンが担ってるんだ。生半可な試練じゃ過酷な自然には適応できないからね」

「ってことはジムないんですかこの地方」

「ないよ」

 

(本格的にアローラみたいだなこの地方。アローラはハワイに該当する場所だったけど、この地方は何処に当たる場所にあるんだろう。……ん?)

 

 そう考え、ふとホワイトボードの地図に目をやったツムグは、数秒の思案の後にあることに気づく。

 

(この形、ドイツじゃないか?)

 

 学校での勉強が役に立った瞬間である。

 今いる研究所があるこの街はエールタウンというらしい。南西には”かくりよの森”と書かれた森林地帯が広がっている。地理的にはこの森の先にフランス──この世界でいうところのカロス地方があるはずだ。

 そう考えたツムグは、手を挙げてタドリに質問する。

 

「タドリ博士、もしかしてあの森ってカロス地方に繋がってたりします?」

 

 すると、タドリは難しい顔を浮かべた。

 

「まあ地理的には繋がってるね。辿り着けるかはともかくとして」

「……? どういうことですか?」

「単純にあの森、結構入り組んでるんだよね。奥まで行くと霧が出てて視界も悪いし」

 

 「そもそも禁足地だしね」とタドリは続ける。

 

(なるほど……。まあでもここがドイツに相当する場所なのは確実そうだな。とはいえドイツのことなんてソーセージが有名ってことくらいしか知らねーけど)

 

 もう少し真面目に地理の授業を受けていればよかったと思ったツムグだったが、後悔は先に立たないものである。

 

「まあ講義はこんなもんかな。今日は取り合えず空いてる部屋を貸すから、ゆっくり休むといいよ。旅支度もしなきゃいけないしね」




イーブイ ♂ 特性:てきおうりょく
かくりよの森で出会ったポケモン。アウルム地方には自然エネルギーが溢れているため、進化していないイーブイはとても珍しいという。他の個体より毛量が多くてもふもふ。
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