ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか? 作:いろはす/1roh4su
──そうして、火口へと向かう道中。
不意に横合いから聞き覚えのある声がして、二人は足を止めた。
「あれ、ツムグさんにミノトさんじゃないですか。奇遇ですね」
「その声……ルスカか?」
「ホントだ。どうしたの? こんなところで」
そこにいたのはつい先日、協力してオヤブンイワークと戦い、短い間だが共に旅をした亜麻色の髪の少年──ルスカであった。
彼は傍らに相棒・フタチマルを侍らせ、額の汗を袖で拭いながら、人好きのする笑顔を浮かべた。
「フタチマルと一緒に特訓してるんです。……そういうお二人は、どうしてここに?」
「私はキルリアと特訓! ツムグは──」
「”試練”を受けるには手持ちが三匹必要だって言われてな……」
その説明だけで合点がいったのか、ルスカは手を打った。
「ああ、なるほど。デーツさんの”試練”はそういう形式でしたね」
「
どこか含みのあるルスカの口ぶりに、ミノトは首を傾げる。
「そうだった」なんて言葉は、それを知っている人間からしか出ないのだ。
しかし、ルスカはおもむろに頭を振って答える。
「いえ、受けたことはないです。以前、おじ──他の人から”試練”の内容を聞いたことがあるってだけで。よければ、説明しましょうか?」
「……いや、遠慮しとくよ。ネタバレは踏みたくないし……なんかこう、ズルした気持ちになりそうだ」
「それなら、僕から話すのはやめておきます。本番をお楽しみに、ということで」
ツムグは数秒逡巡したものの、ハッキリとその申し出を断った。
昔から、初見のゲームは攻略法などの情報を調べずに自力でクリアしたい
そんなツムグの返答に、ルスカはくすりと笑い、頷いた。
彼自身、断られるのは想定内だったらしい。驚くような素振りもなかった。
「それで、ツムグさんはどんなポケモンを探してるんですか?」
「まあ、炎タイプの”試練”だってんで、その弱点をつける地面か岩タイプのポケモンをだな。丁度、今の手持ちにはいないし」
「ああ……それなら、もう少し先に行けば見つかるはずです。丁度僕たちも向かおうと思っていたところなので、よければ案内しましょうか?」
「マジか。そりゃ助かるぜ」
ルスカの提案に、ツムグは迷いなく頷いた。
異世界出身故に”ポケモン”という
道は軽く整備されているとはいえ、ポケモンを追いかけるうちに逸れてしまうことだってあり得る。スマホロトムで地図は確認できるものの、危険なポケモンの生息域に迷い込む可能性もある以上、油断は禁物だ。
その点、この世界で生まれ育ち、そのうえ一人旅を許される程度の実力を持っているルスカには、二人にはない”知識”がある。
自分よりも遥かに年下の少年に
そうして、ルスカの後をついて歩くこと数分。
「お、あれは……」
歩きながら辺りを見渡していたツムグの視界に、一匹のポケモンが映り込んだ。
頭部と一体になった岩塊のような丸い胴体と、その左右から飛び出した二本の腕。頑固な職人のような顔立ちのそのポケモンは──。
「
「ラッシャイ!」
【イシツブテ がんせきポケモン タイプ:岩/地面】
イシツブテ──
「そうと決まれば……!」
「頑張って、ツムグ!」
ざっと砂を蹴り、前に出る。その音でこちらの存在に気が付いたのか、イシツブテは顔を向けた。
それを正面から見据え、ツムグは腰から外したボールを勢いよく放り投げた。
「いくぜイーブイ!
岩/地面タイプのイシツブテにとって水タイプの技は四倍弱点。このイシツブテの特性が”がんじょう”であることを信じ、一撃で体力を限界まで削りきる作戦である。
「”≪水の≫でんこうせっか”!」
「えっぼい!」
ツムグの指示を受け、イーブイは水を噴き出しながらイシツブテの胴体目掛けて突貫する。
元々素早さの高くないイシツブテには、その攻撃を回避するすべがない。故にイーブイの攻撃は、吸い込まれるようにその顔面へと叩きつけられた。
【効果は バツグンだ!】
【野生のイシツブテは 攻撃を こらえた!】
「ラッキー! ”がんじょう”持ちだ!」
ツムグは思わず顔を綻ばせ、空のモンスターボールを手に取り、イシツブテへと投げつけた。
ゲームにおいてイシツブテは極めてゲットしやすいポケモンである。HPを1まで削ることができたのなら、逃げられることはそうない。
──しかし、イシツブテには狙いがあった。
──ミシリ。
軋むような音を立てて、イシツブテの顔に一筋のヒビが入る。
「──へ?」
見る見るうちに広がった無数のヒビの奥からは、赤い光が漏れだし──
「ラ・ッ・シ・ャ・イ──ッ!!」
【野生のイシツブテの じばく!】
瞬間、イシツブテが内から
自分自身を犠牲にして周囲のすべてを巻き込む破滅的なその”わざ”は、至近距離にいたイーブイを容赦なく吹き飛ばす。
「ぶい──ッ!?」
「おわ──ッ!? イーブイ──ッ!!?」
爆風に煽られ、体を宙へと投げ出したイーブイ。
ツムグは慌てて、その軽い体を受け止めんと駆け出すのだった。
──その後しばらくして。
「チクショウ、酷い目にあった……」
「えぼぉ……」
隠しきれない疲労を顔に浮かべながら、ツムグは呟いた。
結果としては惨敗である。ツムグが近づいたイシツブテはその悉くが初手”じばく”を敢行し、近くにいたイシツブテの群れは壊滅してしまったのだ。
捕獲は一度たりとも成功せず、成果らしい成果は未だない。
何度も吹き飛ばされて宙を舞う羽目になったイーブイもまた、不機嫌そうな表情を浮かべている。
ツムグはそんなイーブイを膝の上に乗せ、わしゃわしゃと撫でまわした。もふもふとした首毛の感触が疲れ切った心と体に染み渡る。
「おかしいですね……いきなり”じばく”だなんて、普段ならしないはずなんですが」
「みんなツムグのことが嫌いなんじゃない?」
「ンなバカなこと……」
無いと信じたいものである。
とは言え、どのみち状況は芳しくない。度重なる爆発音が原因で他のポケモン達も一斉に逃げ出してしまったのだ。これではポケモンを捕まえようがない。
試練は明日の昼。時間的な猶予はそれほど残っていない。何とかしてポケモンを捕まえなければ、参加資格がないまま当日を迎えることになってしまう。
「……背に腹ってやつだな。本当はもうちょっと粘りたいとこだけど時間もねーし、戻ってヤトウモリでも捕まえてくしかねーか」
「それが確実かもしれませんね」
そう言って踵を返そうとしたツムグに、ミノトが声を掛ける。
「──ねえ、ちょっと待って! あそこにいるのって……」
「あん?」
ツムグは思わず足を止め、ミノトが指さす先を見る。そこには岩陰に隠れ、じっとこちらを見つめる一匹のポケモンがいた。
トラのような黒い縞が入ったオレンジ色の体。それと対照的に
「おいおいあれって──」
「わふん」
こいぬポケモン・ガーディ。イシツブテと同じく
中でも特に目を引くのは、目元を完全に覆い隠している鬣だろう。毛先は丸みを帯びており、頭頂部は角のように尖っている。即ち、そのポケモンの正体は──
「──ヒスイガーディじゃねえか!!」
【ガーディ(ヒスイのすがた) みはりポケモン タイプ:炎/岩】
「ポケットモンスターダイヤモンド・パール」の舞台シンオウ地方。かつてその場所がヒスイ地方と呼ばれていた時代に生息していた
「でも、なんでこいつが?」
そもそも、ツムグがいるのは
すると、その疑問を見透かしたかのようにルスカが口を開く。
「アウルム地方はエネルギーが豊富な土地柄ですからね。濃密なタイプエネルギーに当てられて、突然変異を起こすポケモンも稀にいるんです」
そう言われて思い返してみれば、イッシュ地方の洋上に浮かぶ”ブルーベリー学園”にもアローラやガラル、ヒスイのすがたのポケモンが生息していた。ポケモンというのは、程度の差はあれど周囲の環境から影響を受けやすい生き物なのだろう。
「ねね、あの子ならちょうどいいんじゃない? 岩タイプみたいだし」
「そうだな。あの姿のガーディなら炎タイプには滅法強いはずだ」
ツムグのスマホロトムを横から覗き込みながら、ミノトはそう言った。
ゲーム的に言えば、炎と岩の複合タイプであるヒスイガーディは炎技を容易に受けることができる。特性が”もらいび”であれば猶更だ。ツムグとしてはガーディを捕まえることに異存はなかった。
「てなわけで、勝負だガーディ! 俺の仲間になってもらうぜ!」
その声に反応したのか、ガーディは勢いよく岩陰から飛び出してきた。バトル開始である。
「ぐぬん!」
【野生のガーディが 現れた!】
「いけ、イーブイ!」
「えぼぉ!」
ツムグが勢いよく投げたボールから、これまた勢いよくイーブイが飛び出す。
何度もイシツブテの”じばく”で吹き飛ばされたからか、少し気が立っているようだ。げしげしと不機嫌そうに地面を蹴りつけている。
さて、何度も述べているようにヒスイのすがたのガーディは岩タイプを備えている。つまりイーブイの得意技である”でんこうせっか”や”スピードスター”といったノーマル技は
それ故に、ツムグが選んだのは──。
「行くぜイーブイ、カレイドシフト──”いわ”!」
「いぶいッ!」
【イーブイ≪カレイドシフト≫ しんかポケモン タイプ:ノーマル/≪岩≫】
煉瓦色の光がイーブイを包み込み、その
これによってイーブイが繰り出すノーマルタイプの技は岩タイプに置き換わる。ガーディに対して幾分か有利に戦闘を進めることができるようになったというわけだ。
(本当は水タイプとか地面タイプにシフトしたほうがダメージの通りは良いけど、そうすると今度はうっかり倒しそうで怖えんだよな……)
本来、四倍弱点というのはそれほどまでに大きいものなのだ。
それにイーブイの気が立っている以上、うっかり力加減を誤る可能性もある。ここは安牌を切るのが最善だろう。
「”≪岩の≫スピードスター”!」
「えっぼい!!」
無数の星の形をした岩塊が、ガーディへと殺到する。
咄嗟に跳び退って回避しようとするガーディだったが、スピードスターは
「ぐぬっ!?」
効果はバツグン──のはずだが、ガーディは少し仰け反った後に激しく首を振り、何事もなかったかのような顔で勇ましく吠えた。
「がるわぉーん!」
【野生のガーディの とおぼえ!】
【野生のガーディの 攻撃が 上がった!】
ただの鳴き声のようだが、その実は己を鼓舞する勇壮の鬨。全身に力を漲らせたガーディは、間髪入れず地を蹴り、イーブイへと迫る。
「がるるおう!!」
「──ぃぶ!?」
【野生のガーディの かみつく!】
”あく”のエネルギーを纏った牙が身体に突き刺さり、イーブイは堪らず悲鳴を上げた。
”とおぼえ”で威力が増した噛みつきはイーブイの体力を容赦なく削る。
「怯むなイーブイ、
「──っ、えぼるぉう!」
負けじとガーディの無防備な首元に牙を突き立てるイーブイ。
牙から流れ込む”あく”エネルギーがガーディを怯ませ、行動を阻害する。
「きゃいん!?」
【野生のガーディは ひるんで 技が だせない!】
怯んだガーディが口を離したその隙にイーブイはすかさず”でんこうせっか”で距離を取る。
「いいぞ、もう一度”≪岩の≫スピードスター”展開!」
イーブイは周囲にいくつもの岩塊を浮かべながら、岩場を縦横無尽に駆け巡る。その動きを目で追おうと、ガーディが足を止めたその瞬間。
「今だ! ”≪岩の≫でんこうせっか”でブチ抜け!」
「い──ぶぃっ!!」
瞬間、残光を残しながら岩塊を従えた
繰り出されるのは、相手に思考する暇すら与えない神速の一撃。それに付随して動く岩塊による時間差の連撃もまた、吸い寄せられるようにガーディの体に突き刺さり──。
「わ、わぬ──!? ぐぬん……」
「──っ! 喰らえ必殺、モンスターボールッ!」
攻撃に耐えきれず、ガーディはよろめいて目を回し始めた。すかさずツムグから放たれた空のモンスターボールがその額に命中し、光とともにその小さな体をボールの中へと格納した。
中にいるガーディが最後の抵抗を見せているのか、ぶるりとボールが揺れた。
しかし、限界ギリギリまで体力を削られたガーディは既に弱り切っている。
揺れが二度、三度と続いた後──
──パチン。
そんな音と共に、ガーディは完全にボールに収まったのだった。
「いやあ、一時はどうなることかと思ったが……なんだかんだでうまくいってよかったぜ」
「本当ですよ」
「イシツブテ達、みーんないなくなっちゃったもんね」
アグリコ山からの帰り道、山道を下りながらツムグは呟いた。
ミノトとルスカの二人も”じばく”騒動を思い返して苦笑した。
「明日の試練が初陣だ。ぶっつけ本番だけど頼りにしてるぜ、ガーディ」
そう呟きながら、腰のホルダーに増えた真新しいボールに手を添える。
「まかせろ!」と言わんばかりにボールが力強く震えるのを指先で感じ、ツムグは思わず笑みを浮かべた。
「……そういや、さっきからずっと気になってたんだけどさ」
「? どうかした?」
唐突に話題を変えたツムグに、ミノトは怪訝な顔でそう尋ねた。
よくよく見れば目線もどこかおかしい。対面しているはずなのに全く目が合わず、何処か違うところを見ているような。
ミノトがその目線を追おうとした時、再びツムグが口を開いた。
「ミノト……オマエの足元にいる
「へ? 足元? ……って、うわあ!?」
ツムグの指さす先に目を向けたミノト。すると、そこにいたのは──。
「ぼうぼう」
人懐っこい笑みを浮かべた小さな人型。
額には三つの穴が開いた装甲を持ち、頭頂部には小さな火が揺らめく。瞳は燃えるような赤色。
小さな火の騎士のようなそのポケモンを見て、ミノトは呟いた。
「この子……カルボウ?」
「ぼうぼ!」
「……にしては、俺の知ってる姿とちょっと違うような。もしかして、リージョンフォームか?」
ツムグは図鑑アプリを起動し、目の前のカルボウをスキャンした。
【カルボウ(アウルムのすがた) ひのこポケモン タイプ:???/???】
【不完全な石炭に命が宿った。主人を守り抜くことに命を燃やす】
「やっぱりな。石炭ってことは──こいつもガーディと同じ、炎と岩の複合タイプか?」
「その通りです。ツムグさん、よくわかりましたね」
【カルボウ(アウルムのすがた) ひのこポケモン タイプ:炎/岩】
「しっかし、何でついて来てたんだ? オマエは」
「ぼぼ」
「……え、私?」
ツムグからの問いかけに、カルボウはミノトの裾を引いて答えた。
しかし、
「ぼうぼ! ぼっぼう!」
「えっと……?」
「……もしかしてこのカルボウ、ミノトさんの仲間になりたいんじゃないですか?」
「え?」
ルスカのその言葉に、ミノトは目を丸くした。
何せ、「仲間になりたい」などと思われる理由にまるで心当たりがないのだ。しかも相手は面識があるわけでもない、ただの野生ポケモンだ。
「そうなの?」
「ぼう!」
カルボウは首を上下に激しく振った。どうやらルスカの推測通りらしい。
燃える炎のような瞳がより一層赤く輝き、ミノトを見つめていた。
「アウルムのカルボウはとても忠誠心の高いポケモンです。きっとミノトさんの力になってくれると思いますよ」
「いつまでもキルリア一匹だけってわけにもいかねーだろうし、捕まえたらどうだ?」
「うん、それもそーだね。……カルボウ、私と一緒に来てくれる?」
ミノトは恐る恐る、空のボールを差し出す。すると。
「ぼうっ!」
カルボウはボタンに手を押し当て、自らボールの中に吸い込まれていった。
ボールは大きく一度だけ揺れ、すぐに音を立ててロックされた。捕獲完了である。
「これからよろしくね、カルボウ」
カルボウの入ったボールを両手で掬い上げ、ミノトは微笑んだ。
【やったー! カルボウを 捕まえたぞ!】
こうしてミノトの特訓とツムグの仲間探しを兼ねたプチハイキングは、二匹のポケモンを仲間に加え、幕を閉じた。
──もっとも、この新しい出会いがどんな騒動を呼ぶことになるのかは、まだ誰も知る由もなかった。
ガーディ(ヒスイのすがた) ♂ 特性:もらいび
度重なる爆発の音を聞いて様子を見に来たら、なんか面白そうなトレーナーがいた。
カルボウ(アウルムのすがた) ♀ 特性:もらいび
ミノトとキルリアの特訓の様子を陰から見ていたらしい。