ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか?   作:いろはす/1roh4su

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第十九話「舌を振るう」

 そして迎えた翌日。

 

 定刻通りにパームスインダストリー本社ビルを訪れたツムグたちは、ロボットボディに入った秘書AI『レーズン』に先導され、デーツの待つバトルフィールドへと向かっていた。

 

「いよいよだね! ツムグ、頑張って!」

「では、僕達はここで。中継で見守ってますから」

「おう。また後でな」

 

 投げかけられた激励の言葉に、ツムグは親指を立てて応えた。

 『それでは行きましょうか』というレーズンに導かれ、辿り着いたのは通路の最奥。

 重厚な金属扉の前までやってくると、レーズンは(タイヤ)を止め、カメラアイを駆動させてツムグを仰ぎ見た。

 

『この先が会場になります。ツムグ様、心の準備はよろしいですか?』

「やっぱ辞ーめた──なんて言えるかよ。ここまで来たんだ、ちゃちゃっとクリアしてやるぜ」

『その意気です、ツムグ様。それでは、扉の向こうでデーツ様がお待ちです。──ご武運を』

 

 レーズンが言い終えるのを合図に、扉が重い音を立てながらひとりでに開き始める。

 開いた隙間から差し込む光に目を細めながら、ツムグはバトルフィールドへと足を踏み入れた。

 

 そして扉を抜け、ツムグを真っ先に出迎えたのは──澄み渡る”青空”だった。

 

「は……? 外……?」

「──やっと来たか。待ちくたびれたぞ、坊や」

 

 足元にはだだっ広いコンクリートの地面。頭上には雲一つない空。周囲を見回しても、他の建物はあまりに小さく、ほとんど視界に入らない。目に入るのは精々、正面で待ち構えている一人の男とその背後に佇む大きなT字のオブジェくらいなものだった。

 

「デーツさん、ここは一体……?」

「ああ、驚いたか? ここはパームスタワーの屋上──”試練”のために用意した特設(ライブ)ステージさ。なかなかイカしてるだろう?」

「特設ステージ……って、こんなところで”試練”やるんですか?」

「その通り! ……というのも、ここが一番都合が良くてね」

「? どういう──」

 

 そうツムグが呟いた、その時だった。

 突如として、空を裂かんばかりの鋭い音が辺りに降り注いだ。

 

「なっ、何だ……この音!? ()()()──!?」

「──さあ、頭上(そら)をご覧あれ! 我らがヌシのご登場だ!」

 

 デーツが高らかに叫ぶと同時に、その背後に一つの影が舞い降りた。

 大人五人が優に乗れるであろう深紅の巨体。その背から、一対の強靭な極彩色の翼が伸びている。()()は両の足でがっしとT字のオブジェ──止まり木を掴み、その巨躯に見合わぬ優雅な仕草で翼を畳んだ。

 

「──”オオスバメ”?」

 

 思わず呟いた途端、そのポケモンがツムグを睥睨した。猛禽類のように鋭い琥珀色の瞳。その視線が言いようもない威圧感となって、ツムグの全身にのしかかる。

 

 

「シュヴァーールッ!!」

 

 

 そのポケモンが雄叫びをあげるだけで、辺りの空気が()()()()。次の瞬間、身を焦がすような熱気がツムグを襲う。

 

「うお(あつ)っ!? なんだこれ……!?」

「コイツは爆炎(ばくえん)のヌシ、”ハゼルツバサ”。遥か昔からこの街(ラムシティ)を守ってきた古株(オールドマン)さ」

 

 

【ハゼルツバサ ばくげきポケモン タイプ:炎/飛行】

 

 

 ”ヌシ”──アウルム地方の生態系の頂点に君臨し、人とポケモンとの共存と調和を象徴する五匹の特別なポケモンの一角である。ならば、肌を刺すような威圧感(プレッシャー)を感じるのも当然のことだろう。

 

「仕来たりに則り、”試練”はヌシの御前にて執り行うこととする。頼んだぞ、爆撃鳥(ボンバード)くん」

「しゅわーる」

 

 ヌシ相手にも変わらないデーツの軽口に、ハゼルツバサは意に介した様子もなく、ただ一声鳴いた。

 そこにあるのは確かな信頼。一見軽薄に見えるデーツだが、ハゼルツバサは彼を己の隣に立つ人間──即ち、キャプテンとして認めているのだ。

 

「さて、と。決まり事はこれくらいにして、さっさと始めようか。──君達の力、存分に見せてくれたまえよ」

「……はい! 絶対に、勝ちます!」

「実にいい、生意気だ」

 

 自身の姿を真っ向から見据え、そう言い放ったツムグに、デーツはニヤリと不敵に笑う。

 その意気や良し。だからこそ、全力で迎え撃つ甲斐があるというものだ。

 

「”試練”の内容は非常に単純(シンプル)だ! 三匹のポケモンを同時に指揮して、すべての()を倒すこと! たったそれだけ!」

 

 デーツは声高らかにそう告げ、耳元に装着されたインカムに手を当てる。

 

「準備はいいな? レーズン、()()()

『承知しました。”ロボパーティ・プロトコル”、実行』

 

 マイクを通して入力された音声コマンドによってプログラムが起動する。

 次の瞬間、ジェットのような轟音を響かせながら、三つの物体がバトルコートに降り立った。

 

 まず目に入るのは、丸々とした胴体を半ばまで隠している太く長い舌。臀部からは尾、頭頂部からはトサカが生えており、手や足にあたる部分はやや短い。──その外見は、なめまわしポケモン・ベロベルトに酷似していた。

 しかし、決定的に異なる部分もある。その最たるものが、鈍く光を反射する赤と金のカラーリング(体色)である。燃える炎のような色でありながら、その質感は冷たく無機質。それがポケモンではなく、その姿を模した”機械”であることを察するのに、左程時間は要さなかった。

 

「え、何ですかこれ。ベロベルト……型のロボット? まさか──」

「その通り! 実は、君達の相手をするのは僕じゃない。君の相手は僕が作った()()()()()()()()()()達──その名も、メカベロベルトMark3だ」

既に三代目かよ

Mark1(試作一号機)綺麗な花火になった(装甲に対して出力が高すぎた)Mark2(試作二号機)逆に肥満気味(鈍重すぎた)。ま、発明なんて大体そんなもんだ。『科学の発展(ブレイクスルー)は、数多の試行錯誤を繰り返した先にのみある』ってね。僕の父の言葉だ」

 

 デーツは楽しげな笑みを浮かべながら、それでいてどこか冷徹な眼差しでツムグを見据えた。

 大仰に両手を広げ、高らかに叫ぶ。

 

「さあ──御託はここまでだ。少年、君の力で僕の最高傑作(マスターピース)をブッ壊して()()()!!」

「……言われなくたって、元からそのつもりですよ!!」

 

 啖呵を切り、ツムグは三つのモンスターボールを同時に引き抜いて天高く放り投げた。

 

 

【爆炎の試練:メカベロベルト軍団を 倒せ!】

 

 

 

***

 

 

 

「えぼう!」

「ギィギーッ!」

「ぐぬんわ!」

 

 一斉に開いたボールから飛び出したるは──イーブイ、ゴルバット、そして新顔(ニュービー)のガーディ。言わずもがな、今現在のツムグのフルメンバーである。

 三匹三様、それぞれが鬨の声を上げながらバトルコートへと降り立った。

 相対するは機械仕掛けのベロベルト。その数は3。即ち──。

 

「実質トリプルバトルか! ならここは──ガーディ、”とおぼえ”!」

「ぐぬわぉーん!!」

 

【ガーディの とおぼえ!】

【ガーディと イーブイと ゴルバットの 攻撃が上がった!】

 

「ゴルバット、遠くの個体に”エアスラッシュ”! イーブイは”でんこうせっか”で辺りを駆け回れ!」

 

 ツムグの指示に従ってガーディは天を仰ぎ、高らかに吠えた。闘争心を奮い立たせる特殊な音の波が辺り一面に広がり、三匹の体には溢れんばかりの力が漲った。

 間髪を入れず、ツムグは次の指示を飛ばす。

 すぐさまゴルバットが、比較的遠くにいるメカべロベルトを”エアスラッシュ”で牽制。その隙にイーブイが”でんこうせっか”で飛び込み、先制の一撃を加えた。が──

 

『……ピィーガガ

「効いてねえ……!?」

 

【メカべロベルトMark3-A(マークスリーエー)に 効果は今ひとつのようだ……】

 

 ──鈍い金属音を響かせ、イーブイの体は無情にも弾き返された。

 まるで痛痒を感じた様子のないメカべロベルトに、ツムグは思わず瞠目する。

 

「そりゃあそうさ! なんてったって、彼らの外装はチタン合金製。強度は鉄のざっと二倍ってところだ。生半可な攻撃じゃあ、傷一つ付けられないぞ!」

 

【メカべロベルトMark3 疑似(モック)タイプ:炎/鋼】

 

 機械故に外装が硬く頑丈。単純な理屈だが、その単純さが今は恐ろしい。

 シンプルな強みはシンプルが故に付け入る隙が少ない。現に、三匹は鋼の装甲を穿つほどの強力な技をまだ習得できていないのだ。

 

「さて、反撃といこうか。レーズン」

『はい、デーツ様。Mark3-A、”かえんほうしゃ”実行します』

 

 メカべロベルトの頭部に据え付けられたスピーカーからレーズンの声が鳴り響き、その口が音を立てて開く。

 その喉奥で集束する炎の光を見たツムグは、咄嗟に──

 

「──イーブイ、口の中に”スピードスター”を!!」

「無駄だ。こっちの方が速い」

 

 星弾を放ち、技の発動を妨害しようとしたイーブイだが、紙一重で先に解き放たれた炎の奔流(”かえんほうしゃ”)が星弾を飲み込み、そして打ち消す。

 それでいて尚、勢いを損なうことのない炎がイーブイに浴びせられた。

 

「イーブイッ!」

「……ぇぼ」

 

 黒煙が晴れ、イーブイが現れる。体中を煤けさせながらも、四足でしかと大地を踏みしめている様子に、ツムグは安堵の息を吐いた。

 

「よし、まだいけるな? イーブイは”スピードスター”展開、走りだせ! ゴルバットは”エアスラッシュ”を溜めて待機! タイミングは俺が言う!」

「レーズン、オマエに任せる。好きにやれ」

『承知いたしました。Mark3-B、”アイアンヘッド”。Mark3-C、”パワーウィップ”実行します』

 

 ボディにBと刻まれたメカべロベルトがジェットを噴射して、ゴルバット目掛け勢いよく突っ込む。

 そしてもう一体、Cと書かれた個体は、駆け回るイーブイに照準を合わせ、蛇腹になった舌を思い切り振り回した。

 直撃を食らった二匹は、共に勢いよく吹き飛ばされ地に転がる。その衝撃で展開していた”スピードスター”や”エアスラッシュ”もまた霧散してしまった。

 

(アイツらは無事──ガーディは今──次はどいつが──まず一体を確実に──どんな技を──カレイドシフトを……くそっ、思考が追い付かねえ!)

 

 同時に三匹のポケモンの様子を確認し、三匹共に適切な指示を出す。それだけのことがどんなに難しいことであるか、ツムグはこの場でひしひしと思い知っていた。

 

『Mark3-A冷却完了。”パワージェム”実行』

(”いわ”技!? ってことは、狙いは多分ゴルバット──右、いや上からか……!?)

 

 視界を激しく動かすたびに、靄がかかったように思考が鈍る。

 対するレーズンは、AI故の並列処理能力を存分に発揮している。三機の感覚モジュールを用いて戦況を正確に把握、その情報を基にノータイムで最適解を導き出すその様は、まさに完璧といえるものだった。

 

「もうキャパオーバーか? だが、君の再起動(リブート)を待ってくれるほど、レーズンは優しくないぞ」

『その通りです。全機(オールユニット)、”かえんほうしゃ”一斉掃射(クロスファイア)、実行します』

「マズ──ッ!?」

 

 三体のメカベロベルトの喉奥で、再び炎が渦を巻く。

 狙いは倒れ伏すイーブイとゴルバット。逃げられない状態で、三方向からの攻撃。その絶望的な光景を前に、ツムグの思考は白く染まりかけた。

 

 三つの”かえんほうしゃ”が二匹に迫り、その姿を飲み込む。──その時だった。

 

「がるるわッ!!」

「ガーディ!?」

 

 突如としてガーディが射線上に割り込んだのだ。

 そして、並みのポケモンであればひとたまりもないその炎を、ガーディはあろうことか大きく開いた口で()()()

 

【ガーディの もらいび】

【ガーディは ほのおの 威力が上がった!】

 

 激しい炎に包まれながらも、ガーディの毛並みは焦げるどころか、マグマのような赤熱を帯びて輝きを増していく。

 

「そうか、”もらいび”! すっかり忘れてたぜ……!」

 

 炎を喰らい尽くし、ガーディが吠える。その咆哮がツムグの脳を震わせ、まとわりついていた思考の靄を強引に吹き飛ばした。

 

「なら──”ほのおのキバ”で相手の装甲を──っておい!?」

 

 冷静さを取り戻したツムグが指示を飛ばそうとした、次の瞬間。

 熱を貯めこんで赤熱したガーディの全身から、それとは違う、視界を焼き切るほどの眩い閃光が迸り始めた。

 

 それは、ガーディの内側に眠る生命の力が、外部から取り込んだ莫大な熱量と共鳴し、新たなカタチを求めて荒れ狂う光。

 溢れ出す白光は、吹き荒れる熱風を伴って見る者の視界を染め上げていく。

 

「オマエまさか、この土壇場で──!?」

 

 それは、紛うことなく。

 

 

【……おや!? ガーディの様子が……!】

 

 

 ──ポケモンの秘める不思議な力、己が身を一段上のステージへと押し上げる”進化”の光であった。




ハゼルツバサ
ばくげきポケモン タイプ:炎/飛行
『ラムシティを守護するヌシポケモン。鮮やかな羽根から振り撒かれる粉は爆発性。飛ぶときにはサイレンのような独特な音を出す』
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