ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか?   作:いろはす/1roh4su

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第三話「冒険の夜明け」

「ぴぴろぴろろぴー!!!!」

 

 けたたましい鳥ポケモンの鳴き声で目が覚めた。

 眠い目を擦り、ベッドから起き上がる。

 窓を開けると、数匹のムックルが驚いて飛び去っていくのが見えた。

 

「夢じゃない……か」

 

 そう呟き、ツムグはベッドに腰掛ける。

 昨日経験したことは全部夢で、このまま眠りに就いたらいつもと変わらない自分の部屋で目が覚めるのではないか。

 昨晩はそんなことを考えていたが杞憂だったようだ。

 とはいえ、しばらく元の世界に帰れないと思うとなんだか寂しく思えてくるものである。

 ツムグは思わず溜息を吐き、そのままごろんとベッドに寝転がった。

 すると突然、机の上に置かれているモンスターボールが激しく震えだした。

 ボールは机から転がり落ちると空中でポンと弾け、中から茶色の毛玉──イーブイが飛び出した。

 

「ぷきゅい!」

「おはようイーブイ。お前は朝から元気だな……」

 

 イーブイは一声鳴くや否や、勢いよくベッドへと飛び込んできた。

 膝の上に乗り、頬ずりするイーブイの頭を撫でる。

 

(なーんでこんなに懐いてるんだろうコイツ。出会ってまだ一日しか経ってないはずなんだけど……。というか、こんなんでよく今まで生きてこれたよなあ)

 

「えぼ?」

 

 もしかするとイーブイは元々誰かの手持ちで、何らかの理由で元のトレーナーの手を離れた個体なのではないか、そんな考えがツムグの脳裏をよぎった。

 思わず手を止めて顔を見つめると、イーブイはこちらを見ると不思議そうに首を傾げた。

 

「……考えすぎか」

 

 ツムグは深く考えるのをやめ、再度イーブイを撫でることにした。

 出会った時から思っていたことではあるが、タドリに聞いてみてもやはりこのイーブイは一般的な個体よりも毛量が多いらしく、撫で心地はバツグンである。

 頬を緩ませながらイーブイの毛を思う存分堪能していると、突然部屋の扉が勢いよく開いた。

 

「ツムグ君おっはよー! 朝だよーってあれ? もう起きてるじゃん」

 

 ノックもせずに部屋に入ってきたのはタドリだった。

 部屋を貸してもらっている立場とはいえ、ノックくらいはして欲しいものである。

 そんなツムグのジトっとした視線を受けたタドリはバツが悪そうにガシガシと頭を搔いた。

 

「朝ごはん用意出来たから起こしに来たんだけど……。ま、早起きなのは良い事か」

「朝ごはんまで……。ありがとうございます」

「ぷっきゅい!」

「もちろんイーブイの分も用意してるよ。……僕じゃなくてカイリューがだけど」

 

 「朝ごはん」という言葉にわかりやすく反応したイーブイを見て、思わず笑みがこぼれる。

 イーブイを抱きかかえ、ツムグはタドリと共にダイニングへと向かうのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「ごちそうさまでした」

「ぶいー……」

 

 朝食を食べ終え、コーヒーを啜る。

 内心少し不安に思っていたが、出てきたのはチーズやハム、レタスを挟んだサンドイッチと元の世界でも食べ慣れたものだった。

 

「いやあ、異世界人の口にも合ったみたいで良かったよ」

「すっごい美味かったです。カイリューが作ってくれたんだって?」

「りゅ~」

 

 カイリューは器用にサムズアップしてみせる。

 元の世界でも外国の料理が口に合わないということはよく言われているためツムグも心配していたのだが、カイリューがサンドイッチという無難な料理を選んでくれたおかげで美味しく食べることができた。

 

「カイリューはうちの料理担当だからねえ。気が付いたら僕よりも料理上手になっちゃったし」

 

 タドリに褒められて、カイリューは照れくさそうに頭を掻いた。

 強大な力を持ち、畏怖される竜もこうしてみると可愛らしいものである。

 そんな様子を微笑ましく思いながら眺めていると、突然がちゃりと扉が開く。

 

「はふぅん」

 

 ダイニングに入ってきたのは、段ボール箱を抱えたチラチーノだった。

 

「持ってきてくれたのか、重かっただろ?」

「はふぅ」

 

 タドリが慌てて駆け寄って箱を受け取ると、チラチーノは溜息を吐いてボールへと戻っていった。

 

「博士、それは?」

「キャンプ道具だよ。僕が昔使ってたやつが残ってたのを思い出してね。チラチーノに探してもらってたんだ」

 

 タドリはそう言うと、箱をひっくり返して中身をぶちまけた。

 道具はガラガラと音を立てて積み重なり、あっという間に机の上には山が出来上がるのだった。

 

「寝袋、テント、調理セットにリュックサック……。うん、全部揃ってるね。僕にしては綺麗に保管できてるし」

 

(ズボラだっていう自覚はあるんだな……)

 

 積み上がった道具を一つずつ確認したタドリはリュックサックにそれらを雑に放り込む。

 道具を詰め終えてリュックのジッパーを閉め、それをツムグに差し出した。

 

「ツムグ君。僕のおさがりで悪いけど、これ使いなよ」

「え……良いんですか?」

「いーのいーの。どうせもう使ってないやつだから」

 

 「要らなくなったら捨ててくれて良いからね」とタドリは続けた。

 ツムグとしては断る理由などなく。

 

「本当にありがとうございます、何から何まで」

「良いってことよ~!」

 

 ありがたく頂戴することにしたのだった。

 これで本格的にタドリに足を向けて寝られなくなってしまったと考えていると、タドリが突然「そうだ」とポケットから何かを取り出す。

 彼は「これも渡しておかないとね」と言い、ツムグにそれを手渡した。

 渡されたのは黒い手のひらサイズの薄い板のような物体。

 

「これ……スマホですか?」

「そ、スマホロトム。今は図鑑もアプリになってるからねえ。旅の必需品だし、アシスタントの給料前払いってことでプレゼントしたげる」

 

 こちらもありがたく受け取ることにし、操作感を確かめてみる。

 中にロトムが入っているとはいえ、使い方は元の世界のスマホと大差ないようだ。

 

「試しに図鑑アプリでイーブイを見てみなよ」

 

 タドリに促され、図鑑アプリを開いてスマホロトムをイーブイにかざす。

 数瞬の後に解析は終わり、画面上にはイーブイの情報が表示される。

 

【イーブイ しんかポケモン タイプ:ノーマル】

 

【極めて不安定な遺伝子を持つポケモン。厳しい環境にすぐに適応することができる】

 

(覚えてる技はなきごえ、たいあたり、すなかけ、でんこうせっか。大体レベル10ってところか?)

 

「スマホロトムがあれば出先でポケモンをボックスに預けたり、技を思い出させたりすることもできるよ」

「科学の力って、すごいですね……」

 

 ツムグはしみじみと呟いた。

 ゲームでは当たり前のように使っていた機能だが、いざ現実のものだとすると一体どういう理屈なのか全く見当もつかない。

 

「ま、とりあえずこれで旅の道具類は揃ったかな。後はバトルが出来ればなんとかなる──ってことで」

 

 サングラスを指で押し上げると、タドリはポケットから一つのボールを取り出した。

 

「バトルの練習、してみよっか!」

 

 

 

***

 

 

 

 数分後、ツムグとタドリの二人はエールタウンの外れにある小さなバトルコートにやってきた。

 理由はもちろん、ポケモンバトルをするためである。

 いきなりの実践になるが、手っ取り早くバトルに慣れることができるためツムグにとっては好都合。

 二人はコートを挟んで向かい合うように立ち、ボールを取り出す。

 

「じゃ、始めよう。ルールは1対1のシングルバトル。先に相手のポケモンを戦闘不能にしたほうが勝ちだ」

「対戦よろしくお願いします! 行くぞイーブイ、初陣だ!」

「ぷきゅうっ!」

 

 イーブイは勢いよくボールから飛び出すと、やる気十分といった様子で高らかに鳴いた。

 それを見たタドリはにやりと笑みを浮かべると、同じようにボールを放り投げる。

 

「それじゃ頼むよ──オタチ!」

「たちょーっ!」

 

 ボールから飛び出したのは尻尾で立っている丸々とした茶色のポケモン──オタチ。

 ツムグは咄嗟にスマホロトムを取り出し、オタチをスキャンする。

 

【オタチ みはりポケモン タイプ:ノーマル】

 

【極めて警戒心が強いポケモン。敵を見つけると尻尾で立ち上がって威嚇する】

 

(オタチ……金銀のポケモンだよな。カロスに生息してた気がするけどアウルムにも居るのか)

 

「開始の合図はカイリュー、お願いね」

「りゅ。──りりゅーっ!!」

 

 カイリューが声をあげながら勢いよく手を振り上げる。バトル開始だ。

 

「イーブイ、まずは”たいあたり”だ!」

「えぼっ!」

 

 イーブイの勢いをつけた体当たりがオタチを襲う。

 しかしタドリは焦ることなくオタチに指示を飛ばす。

 

受け流しちゃって(”まるくなる”)!」

 

 オタチは体を折りたたんで丸くなると、イーブイの攻撃を受け流す。

 

(そんな使い方もできるのか!? いや、ゲームの効果に縛られてちゃダメだ。もっと柔軟に考えないと……)

 

「お返しの”ひっかく”!」

「”でんこうせっか”で避けろ!」

 

 イーブイは俊敏な動きで身を翻すと、爪を出して襲い掛かるオタチを蹴って距離をとる。

 あまりに鮮やかな身のこなしに、指示を出したツムグ自身も思わず目を見開いた。

 

「おまっ……なんだその動き!? それもう”でんこうせっか”じゃないだろ!?」

「……驚いた。その子、フィジカル強すぎない? ……これはちょっと本気を出しても良さそうだね。オタチ、”でんこうせっか”!」

「たちょおっ!」

 

 尻尾に力を込めて勢いよく跳ぶと、オタチはイーブイとの距離を詰めた。

 

「”たいあたり”で迎撃しろ!!」

 

 両者はゴツンと鈍い音を立てて激突し、弾かれて地面に倒れこむ。

 

「なかなかやるねえ! オタチ、まだいけるよね。もう一度”でんこうせっか”!」

 

 オタチはすぐさま立ち上がると、残像が見える程の速さでイーブイに肉薄する。

 起き上がるタイミングで攻撃され、イーブイは回避もままならず吹き飛ばされてしまった。

 

「イーブイ!!」

「……ぶい!」

 

 思わずツムグは叫ぶ。

 イーブイはよろよろと起き上がると「まだいけるよ」と言わんばかりに一声鳴いた。

 とはいえ見るからにイーブイの体力は限界。あと一撃でも技を喰らえば戦闘不能は免れないだろう。

 

「さーてトドメだ。”ひっかく”!」

「たっちょお!!」

 

 再び攻撃しようと、オタチはイーブイに勢いよく接近する。

 

「イーブイ、”すなかけ”!」

 

 くるりと後ろを向いたイーブイは後ろ足で砂埃を起こした。

 いきなり顔に砂をかけられたオタチは思わず技を中断してしまう。

 

「続けて”たいあたり”──からの”でんこうせっか”でトドメだっ!!」

 

 イーブイはいまだ立ち止まるオタチに痛烈な体当たりをした後、続けざまに目にも留まらぬ頭突きも喰らわせる。

 二度の攻撃を立て続けに受けたオタチの体は大きく弾き飛ばされ──目を回して倒れ伏すのだった。

 カイリューが声をあげながらイーブイを指差す。勝負あり。ツムグの辛勝である。

 

「な、何とか勝てた……」

「えぼぉっ!」

 

 さっきまでの疲労は何処へやら、イーブイはぴょん、とツムグの肩に飛び乗ってくる。

 

「ありがとなイーブイ。お前のおかげだ」

 

 ツムグはわしゃわしゃと頭を撫でてからイーブイをボールへ戻した。

 

「あちゃ~……ごめんねオタチ、キミも戻って休んでて」

 

 タドリもまた傷ついたオタチをモンスターポールへ戻し、手を叩きながらツムグに近付いてくる。

 

「いやあ、まさか負けちゃうとはね。技の応用もバッチリだし……キミ、本当に初心者かい?」

「……手加減してもらった上でギリギリでしたけどね」

 

「それでもだよ。初めてのバトルでここまでやるトレーナーはそういない。もちろんまだまだ粗削りだけど、これだけ出来ていれば旅に出るには十分だ」

 

 タドリはニカッと笑みを浮かべる。

 

「出発は明日の朝にすると良い。ポケモンたちも回復させてあげなきゃいけないしね」

 

 彼は「それじゃ帰るよ~」と言うと、カイリューを連れてスタスタと研究所の方へと歩いていく。

 ツムグはタドリの背中を追いかけながら、翌日からの冒険を想像して心を躍らせるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「それじゃ、行ってきます」

「ぶいっ」

 

 ──翌日。

 空は青く澄み渡っており、旅に出るには絶好の日である。

 

「あ、ちょっと待って」

 

 出立の挨拶も終え、ツムグが最初の一歩を踏み出そうとした時、彼を呼び止める声が飛んだ。

 

「なんですか博士。忘れ物でもしました?」

「いや、旅に出るのはキミでしょーが……。そうじゃなくて──ほいっ」

「うわっと」

 

 タドリはガサゴソと白衣のポケットをまさぐると、そこから取り出した()()をツムグへと投げ渡す。

 慌ててそれを受け取ったツムグは首を傾げた。

 

「これ……なんですか?」

 

 ()()は拳大の石だった。石はよく見ると薄っすらと透き通っており、太陽にかざすと角度によって様々な色に輝く。

 

「それは”色変わりの石”。詳しいことはモルトシティのキャプテンに聞けばわかるよ」

 

 モルトシティ。エールタウンから東にある街で最初の試練が待ち受ける場所である。

 タドリ曰く、アウルムの試練は特に順番が決まっているわけではないが、多くの挑戦者はモルトシティから挑戦するのだという。

 

「何だかよくわからないけど……ありがとうございます」

 

 ツムグは石をリュックに詰め込むと、今度こそ出発しようとする。すると背後から「ツムグ君」とまたしても声がかかる。

 今度はなんだと半ばキレ気味で振り返ると、タドリが笑顔で手を振っていた。

 

「行ってらっしゃい」

 

 

 

「──行ってきます!」

 

「ぶいっ!」




ツムグ 男 18歳
ゲーム好きの高校3年生。本作の主人公。ポケモンが創作とされている世界から転移してきた。好きなゲームはもちろんポケットモンスター。
物事を楽観的に考える癖があり、突然異世界に飛ばされたにも関わらず、「考えても仕方がない!」と帰還の目途が立つまでアウルム地方を旅することを決めた。
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