ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか?   作:いろはす/1roh4su

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第五話「小麦畑を見るとナ〇シカを思い出す」

***

 

 

 

「すっげえ……っ!」

 

 

 山道を道なりに進むこと数時間。

 ツムグの目に飛び込んできたのは、辺り一面に広がる小麦畑だった。

 畑は街の周辺を囲うようにぐるりと存在しており、その様はまるで黄金色の海に浮かぶ島のようにも見える。

 創作物の中でしか見たことがないような絶景に、しばらくの間ツムグは見惚れることしかできなかった。

 

 

 

***

 

 

 

 ──モルトシティはアウルム地方随一の農業都市である。

 広大な小麦畑が取り立てて有名だが、作物を育てるだけに留まらず、酪農などの畜産業にも力を入れており、まさにアウルムの食糧庫とも言える場所だ。

 当然、アウルムの五大都市にもカウントされるほどの要所であり、一匹のヌシポケモンとそれを支えるキャプテンによって守護されているのだという。

 

 

『モルトシティ──草木が芽吹き、花が笑う町』

 

 

「試練を受けに来られた方ですね。それではこちらの用紙に名前の記入をお願いします」

「はい。……書けました」

「ありがとうございます。……ツムグさんですね。キャプテンを呼びますのでそちらの椅子に掛けて少々お待ちください」

 

 ツムグは促されるまま待合椅子に腰掛ける。

 受付のスタッフは固定電話の受話器を取り、どこかへと電話を掛け始めた。

 しばらく待っていると、現れたのは一人の少女だった。見た所、ツムグと同年代くらいであろう。

 

「貴方がツムグさんですね? タドリ博士から話は伺ってます」

 

 そう言うと、少女は椅子に腰かけたままのツムグへと手を差し伸べた。

 

「私はリコット。モルトシティのキャプテンを任されています。どうぞよろしくお願いします」

 

 あまりにも丁寧な自己紹介に面食らいながらも立ち上がったツムグは、差し伸べられた手を取った。

 

「ツムグです。こちらこそよろしくお願いします」

「楽に話してもらっても構いませんよ。恐らく私のほうが年下でしょうし」

「そうなのか? それならまあ……お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

 ツムグは、その申し出にホッと胸を撫で下ろした。

 初対面、それもキャプテン相手ということもあって、正直リコットとの距離感を測りかねていたのだ。

 敬語を使い続けるというのは、存外に神経を使う。

 必要があればもちろん使うが、使わなくて済むならそのほうが良い。

 

「それでは、本題に入らせて頂きます」

 

 そう言うと、リコットは語り始めた。

 

「アウルム地方における試練とは、その地を守るヌシとキャプテンによる腕試しのようなものです。ツムグさんもご存じだとは思いますが、この地方にはとても危険が多い」

 

 昨日の事件を思い出し、ツムグは身震いした。

 怒り狂ったリングマに追い回される経験など、出来ればもう二度としたくないものである。

 

「そんな過酷な環境で旅をするには、それ相応の強さが必要です。今の自分たちがどこまで行けるのか、最適な引き際はどこなのか。それを見極める指標となるのが試練なのです」

 

 リコットは一度話を区切ると、理解しているかを確認するようにツムグに目をやった。

 数瞬の間の後に、彼女は再び口を開く。

 

「試練の内容は担当するキャプテンによって異なりますが、私はバトル形式の試練を課すことにしています。とは言っても、()()()()()()()()()()()()()

「どういう事だ?」

「私の試練──いえ、アウルムのバトルではこれを使うのです」

 

 そう言うと、リコットは懐から一つの腕輪を取り出す。そこには、光を反射して色鮮やかに輝く不思議な石が取り付けられていた。

 

「これは、カレイドバングル。アウルムに伝わる秘術──”カレイドシフト”を扱うための道具です」

 

(カレイドシフト……テラスタルやダイマックスみたいなもんか?)

 

「私の試練は、題して”カレイドシフト講習”。挑戦者の方にはこの力を用いて、私と2対2のシングルバトルをして頂きます」

 

 最近のポケモンのゲームでは、いくつかの特殊な戦闘システムが登場する。

 トレーナーとの絆の力でポケモンを更に進化させる”メガシンカ”、ポケモンと心を一つにして放つ大技”Zワザ”、特殊な粒子でポケモンを大きく見せる”ダイマックス”、ポケモンの全身を結晶化させ、タイプを自在に変える”テラスタル”。

 要素によって効果は様々だが、どれも非常に強力であるという点で共通している。

 ”カレイドシフト”がどのような効果を引き起こすのかはわからないが、強力な手札になり得るのだろう。

 気付けばツムグはにやり、と笑みを浮かべていた。

 ここに来て未知の技術を使えるようになるだなんて、なんと心躍る冒険なのだろうか。

 ツムグが期待に胸を膨らませていると、リコットは申し訳なさそうに口を開いた。

 

「喜んでいる所申し訳ないのですが、カレイドバングルは貴重なものですので……今回は試練が終わるまでレンタルという形になります」

 

「マジかよ」

 

 「体験版でプレイ出来るのはここまでです」という文章がツムグの脳裏を過った。

 使いこなせるようになったところで取り上げるなんて、生殺しもいいところである。

 

「そんなに貴重なものなら何でわざわざ講習なんかするんだ? 扱えるようになったところでバングルが無けりゃ意味ないだろ」

「何で、と言われましても……。貴重な素材であるアウルムでも限られた地域でしか産出しない鉱石を最寄りのキャプテンの元まで持ってきてくだされば、バングルに加工してお渡しすることも出来ますし、実際にそうして自前のバングルを所持している方もいらっしゃいますので」

 

 つまり、試練を受ける全員の分を用意する程の素材がないため、レンタル品を使って使い方を覚え、実戦で使いたければ自力で素材を見つけてこいということだろう。

 なんとも理にかなった話である。

 正直かなり残念だが、仕方がない。

 人生、そう上手くはいかないものなのだ。

 

「なるほどな……。ちなみに、それってどんな鉱石なんだ? 試練が終わったら探してみようと思うんだけど」

「そうですね……特徴としては、透き通っていて、光に翳すとそれを反射して様々な色に輝くのです。その性質から、アウルムでは”色変わりの石”という名称で呼ばれています」

 

(”色変わりの石”か。どっかで聞いたような……あっ)

 

 その時、ツムグはタドリとの別れを思い出した。

 タドリが無造作に投げてよこした石。彼はそれのことを”色変わりの石”と呼んでいたはず。

 その後の出来事が強烈すぎて記憶が薄れていたが、彼はこの石について、詳しいことはモルトシティのキャプテンに聞けと言っていた。

 

(これは……ひょっとしたらひょっとするのでは?)

 

「なあ、リコット。その石ってもしかしてこれのことか?」

 

 一抹の希望を胸に、ツムグはリュックから取り出した拳大の石をリコットに見せる。

 

「それは……! そうです。それが”色変わりの石”です。この辺りでは産出しないはずのそれをどうして貴方が……?」

「タドリ博士から貰ったんだよ。餞別にって」

「なるほど、タドリ博士が……。何はともあれ、これでツムグさんのバングルを作ることが出来ます。少々時間がかかりますので、試練は明日の午後からということにしましょう。今日のところは、旅の疲れもあるでしょうし、ゆっくり休んでください」

 

 

 

***

 

 

 

 リコットと別れ、暇を持て余したツムグは街へと繰り出すことにした。

 宿で休むには時間が早すぎるというのもあるが、見知らぬ土地であるモルトシティを思う存分探索してみたくなったのだ。

 

「とはいえ、どこに何があるのか全くわかんねーな……というかここ何処だ?」

 

 農業の街とは言っても”シティ”を冠するだけあって、その面積は広大。

 あてもなく彷徨っているうちに、あっという間に迷子になってしまうのだった。

 

「まあいいか。しばらくその辺をぶらついてれば、面白そうなものの一つや二つ見つかるだろ」

 

 そうして周辺を歩き回ること十分。

 見つかったものといえば、大衆酒場と大衆酒場、それと大衆酒場。

 もちろんそれだけではなく、他にも居酒屋やバー、立ち飲み屋やクラブなど──。

 

 

「飲み屋ばっかじゃねーか!!」

 

 

「おう兄ちゃん、そりゃあこの辺は繁華街なんだから、飲み屋ばっかに決まってんだろ」

 

 不意に後ろから声を掛けられ、振り返るとそこには、酒場のテラス席に座り、ジョッキ片手に()()()()()()男がいた。

 男は楽し気な表情を浮かべながら、空いた腕をツムグの肩に乗せ、半ば強引に隣に座らせる。

 

「ここら辺は初めてなのか?」

「え、ああ。昨日この街に着いたばかりで」

「そうか。モルトはいい街だぞ、ゆっくりしていきな。よし、これも何かの縁だ、オレが一杯奢ってやろう。すいませーん! この兄ちゃんに冷たいのを一杯!」

「いやいや、嬉しいけど俺まだ18歳だから!」

 

 首を傾げ、怪訝そうに男は言った。

 

「それの何が問題なんだ?」

「大問題ですよ! 俺は未成年だし酒は……」

「おいおい兄ちゃん、アンタもしかして他所の地方から来たのか? それじゃあ良い事を教えてやろう、アウルムじゃあ飲酒は18歳から合法だ」

「……マジでか」

「マジもマジ、大マジよ。昔っからアウルムっつったら酒大国で有名だし、そこら辺が他の地方より緩いんだよ。ビールに限って言えば16歳からでも飲めるしな」

 

 ガハハと笑い、男は勢いよくジョッキを呷る。

 ビールがなみなみと注がれたジョッキは瞬く間に空になり、その様を見たツムグは驚いて目を見開いた。

 

「ま、無理強いはしねえよ。酒は飲んでも()()()()()ってな。店員さーん、すいませーん! ビールのおかわりと、この兄ちゃんにキンキンに冷えたサイコソーダを一杯!」

 

 男がそう叫ぶと、しばらくして店員がビールジョッキと瓶入りのサイコソーダを持ってきた。

 「ほらよ」と、男は瓶をツムグの目の前に押しやり、ジョッキを呷る。

 

「ありがとうございます」

「いいってことよ。そういやアンタ、アウルムに何しに来たんだ? 観光か?」

「試練を受けに来たんです。明日までにバトルの練習をしたくてバトルできる場所を探してたんですけど……」

「バトルエリアならそこの通りをずっと南だぜ。今の時間なら相手には困らんだろうし、あとで行ってみるといいさ」

 

 

 

***

 

 

 

 アウルム地方の大きな街には、バトルエリアが備わっていることが多い。

 野生のポケモンに襲われたときに最低限自衛できるだけの力を身に着けるため、というのが理由の一つだ。

 昼間に行けば大抵一人はトレーナーがいるため、気軽にバトルをするのにはうってつけの場所である。

 そんな場所で、ツムグは短パンを履いた一人の少年と相対していた。

 

「ボチ、トドメの”かみつく”だ!」

「気張れよズバット! ”おどろかす”!」

「キキィィィー!!」

 

 跳びかかってきたボチの攻撃が当たるよりも速く、ズバットが裂帛の気合と共に霊気を放出する。

 

「わふん!?」

「ボチ!?」

 

 霊気に怯んだボチは攻撃を止めてしまった。その隙を逃さず、二度目の”おどろかす”がボチに襲い掛かる。

 効果抜群の攻撃を二度も食らったボチは、堪えきれずに大きく仰け反り、そのまま倒れてしまうのだった。

 

「あちゃ~、負けちゃった。にーちゃんのポケモン強いね! にーちゃんならもしかしたらリコットさんにも勝てちゃうかも」

「そうか? 君のボチもなかなか強かったぜ」

「ほんと? えへへ、やったなボチ」

 

 そんなことを話しながら、お互いにポケモンをボールに戻す。

 少年とは、対戦相手を探している時に出会った。ツムグがバトル初心者であるということと、ズバットの初陣だったということを差し引いても、少年は十分に強かった。

 バトルエリアが設置された当初の目的はしっかりと果たされているようだ。

 

(とりあえず、ズバットは技が貧弱すぎるのが課題だな。今覚えてる技は、すいとる、ちょうおんぱ、おどろかす、くろいまなざし……攻撃技が壊滅的だ。せめて技マシンでも手に入ればいいんだが……)

 

「なあ少年、ここら辺に技マシンが売ってる店ってあるか?」

 

 先程の一件で自分に土地勘がないことを改めて実感したツムグは、おとなしく少年に場所を聞くことにした。

 立派な成長である。

 

「フレンドリィショップならあっちにあるポケモンセンターの中だよ」

「お、サンキュー。助かるよ」

「どういたしまして! それじゃ、またね~!」

 

 そう言うと、少年は他のトレーナーの元へと走り去っていくのだった。

 

「元気だなあ……」

 

 ツムグはしみじみと呟いた。彼もまだ高校生、世間的には若者である。

 

「よし、さっさと技マシン買ってこよう。戻ってきたらイーブイも戦わせてやるからな~!」

 

 腰に付けたボールが嬉しそうにぶるりと震えた。

 

 

 

***

 

 

 

「技マシン高ァァァァァァァァァァァイッッッ!!!!!!!」

 

 渾身の叫びであった。

 

「技マシン高ぇぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 魂からの叫びであった。

 

「何で一つ目の街で売ってる技マシンが全部50000円台なんだよ!! 教えはどうなってんだ教えは!?」

 

 道行く人に怪訝な顔で見られていることにも気づかず、ツムグは叫んだ。

 フレンドリィショップに売っている技マシンのラインナップは、ほのおのパンチ、れいとうパンチ、かみなりパンチ、ドレインパンチ、ソーラーブレード。全て50000円の商品である。

 タドリから路銀を貰ったとはいえ、そんな高価なものを買えば残金が一発で消し飛ぶのは明白。

 というかそもそも、ズバットはどの技も覚えられないので買ったところで宝の持ち腐れになってしまう。

 故に、ツムグはポケモンセンターの前で叫ぶことしか出来ないのだった。

 

(うーむ、どうしたものか。バトルしまくってどくどくのキバを覚えるまでレベルを上げるか? つっても毒技はイマイチ通りが悪いし、他のタイプの技も欲しいんだよな……)

 

 覚えている技から推測するに、ズバットのレベルはおよそ10。作品によっても違うが、どくどくのキバを覚えるのはレベル15で、その次に攻撃技を覚えるのはレベル25になった時だ。

 一日でレベルを10以上も上げるなんて、ゲームでならともかく現実では到底不可能である。

 つまり必然的に技マシンに頼るしかないということになるのだが。

 

「どーすっかなあ……ってうおっ!?」

「ふぎゃ!」

 

 物思いに耽っていると、ツムグは突然背中に強い衝撃を受けた。

 危うく転びそうになるも何とか持ちこたえ、振り返るとそこにいたのは、一人の少女だった。

 鼻を抑えながら、少女は勢いよく頭を下げる。

 

「っ、ごめんなさい!」

「大丈夫だ。そっちこそ怪我してないか? 凄い勢いだったけど」

「は、はい。ちょっと鼻を打ったくらいで、怪我とかは全然」

 

 へへへ、と少女は笑った。

 見ると、鼻が少し赤くなってはいるものの、鼻血は出ていない。本当に怪我はないのだろう。

 安堵の溜息を零しながら、ちらりとツムグは少女の髪に目を遣った。

 息を呑むほどに綺麗な銀色だ。毛先に近づくにつれて徐々に青みを増しているようにも見える。

 

(不思議な髪色だな……。この世界に来て奇抜な髪の人は何度も見かけたけど、こんな神秘的な色は初めてだ)

 

「……? どうかしましたか?」

「あー……いや、何であんなに急いでたのかなって思って」

 

 思わず見惚れていると、少女は不思議そうな表情を浮かべた。

 まさか「あなたの髪に見惚れていました」なんて言えるはずもなく、ツムグは誤魔化すように頬を掻く。

 すると、少女の顔が見る見るうちに青くなった。

 

「そうだった! 私今追われてるんです!」

「追われてるだって? 誰に?」

「オレ達に、だ」

 

 ふり返るとそこには、見るからに怪しい二人の男がいた。

 揃って黒づくめの格好をしており、一人は黒のフェルトハット、もう一人はサングラスを身に着けている。

 ツムグは無意識のうちに少女を庇うように前に立った。

 その様子を見た男達は嘲笑うような笑みを浮かべる。

 何者かと問う間もなく、ハットの男が口を開く。

 

 

 

「そこのガキ、悪いことは言わねェ。その女を置いて失せろ。……痛い目を見たくなかったらな」

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