ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか?   作:いろはす/1roh4su

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おまたせ、待った?

追記:ミスを指摘していただいたので当該箇所を修正しました


第六話「”サテラ団”と”仮面”」

「何だ? お前ら……」

 

 明らかに真っ当な人間ではない。

 それは先程の脅迫じみた発言から容易に想像できることだった。

 

「フン、いいだろう教えてやる。オレは”サテラ団”のジュニパー、横にいるのがラカンだ。……自己紹介は済んだぜ、女を渡してもらおうか?」

「嫌だね。何が目的でこの子を追ってる?」

「そこまで教えてやる道理はねェな。ガキに構ってられるほどオレ達も暇じゃねェんだ。とっとと退かねェと、痛い目に遭ってもらうことになるぜ?」

「私のことはいいから、早く逃げてください!」

「この状況で俺だけ逃げるなんて出来るわけねーだろ……。ってな訳で頼んだぞ、イーブイ!」

 

 ツムグが投げたボールからイーブイが飛び出し、男達を見るなり全身の毛を逆立てて威嚇し始める。

 

「聞き分けの悪いガキだ……。ラカン、お前は女が逃げねェように見張ってろ……コイツはオレがやる」

「わかりやした」

 

 ジュニパーは不敵な笑みを浮かべると、手に持ったボールを放り投げた。

 飛び出したのはレパルダス──とはいってもその姿はツムグの知るそれとは大きく異なるものだった。

 原種よりも体毛が長く、その色は褐色を帯びており、原種にあった黄色の斑点模様も黒色に変化している。

 

(なんだこの姿……!? まさかアウルムのリージョンフォームなのか!?)

 

【レパルダス(アウルムのすがた) しゅんそくポケモン タイプ:???/???】

 

(スキャンしてみてもタイプがわからねえ……、見た感じゴーストタイプとかじゃあなさそうだが……)

 

 いくら図鑑アプリといえど、他人の──それも未登録のポケモンの情報は完全には見ることが出来ないのである。

 

「悩んでても仕方ねー! イーブイ、”でんこうせっか”だッ!」

「えっぼおッ!」

 

 地を蹴り、一瞬でトップスピードに乗ったイーブイがレパルダスに肉薄する。

 しかし──。

 

「レパルダス、”ねこだまし”」

 

 機先を制したレパルダスの攻撃により、イーブイは思わず怯んでしまった。

 

「続けて”ゆきげしき”だ」

「にゃぉーんッ!」

 

 その隙をついたレパルダスが天高く吠えると、突如として辺りに雪が降り始める。

 

(雪!? っつーことは氷タイプはほぼ確定か! ……ズバットじゃなくて正解だったな)

 

 飛行タイプを持つズバットに氷タイプの技は効果抜群。レベルも低い現状、効果抜群の攻撃は十分致命傷になりうる。

 つまりこの戦い、イーブイが落とされればその時点で敗北がほぼ確定するというわけだ。

 更に『ゆき』には氷タイプの防御力を高める効果があるため、推定氷タイプのレパルダスを倒し辛くなってしまっている。

 

「──クソ厄介だなッ! イーブイ、”すなかけ”で相手の命中率を下げろッ!」

 

 イーブイは後ろ蹴りで砂埃を巻き起こす。

 正攻法では勝てない相手には搦め手で──というのはどの世界でも同じなのだ。

 

「畳みかけろ、”でんこうせっ──」

「”だましうち”」

 

 ツムグが指示し終えるよりも速く、レパルダスがイーブイに襲い掛かった。

 悲鳴を上げたイーブイはそのまま吹き飛ばされ、力なく地面に落ちてしまう。

 

「速ッ……!? イーブイ!!」

「えぼぉ……」

 

 か細い声を上げながらも何とか立ち上がろうとするイーブイだが、その足は震えており立つのがやっとといった様相である。

 

経験(レベル)の差ってやつだ、諦めるんだなァ。……レパルダス、トドメを刺せ」

 

 ピキピキと音を立て、大気が凍り付いていく。

 宙に浮いたいくつもの小さな氷の粒が徐々に大きな氷柱へと変わる。

 その一つ一つが、今のイーブイにとって致命傷になりうるモノであることは誰の目にも明らかだった。

 

「ッ……! イーブイ、避けろ!」

 

 懸命に声をかけるツムグだったが、イーブイは動かない。

 今のイーブイにこの攻撃を躱すだけの力は残っていないし、避けてしまえばこの攻撃は後ろにいるツムグに当たってしまう。

 

「トレーナーも纏めてあの世に送ってやれ──”つららおとし”」

 

 

 ジュニパーの号令と共に浮遊していた無数の氷柱が射出され、ツムグとイーブイに襲い掛かった。

 

 

【レパルダスの つららおとし!】

 

 

「お兄さんッ!!」

 

 少女の悲痛な叫び声が辺りに響いた。

 目で追えない程のスピードで氷柱が迫り、イーブイの──そしてツムグの体に風穴を開けようとする、その時だった。

 

「焼き尽くせ、”かえんほうしゃ”」

 

 どこかから声が聞こえたかと思うと、突如放たれた炎がツムグ達に襲い掛かる氷柱を溶かし尽くした。

 

「何だ……? 誰が──」

「無様だな、ツムグ」

 

 そんな声と共に現れたのは、顔を狐面で隠した一人の人間だった。

 狐面に変声機でもついているのか、男と女の声が混じり合ったような声色をしていて性別は判断できない。

 しかし今のツムグにはそんなことは気にもならなかった。

 

「何で俺の名前を……? お前は、一体誰だ……?」

 

 会ったことのないはずの人間が何故か自分の名を知っていることにツムグは困惑の表情を浮かべる。

 

「今はまだ、その時ではない。それに、私が貴様を助けるのもこれきりだ」

「……? それってどういう──」

「テメェら、ゴチャゴチャとうるせェんだよ。何者だテメェ? 計画の邪魔をしやがって……ッ!」

 

 ジュニパーは仮面の人物を睨みつけながら歯噛みする。

 

「……まだいたのか。貴様に用はない、見逃してやるから帰っても構わんぞ」

「舐めやがって……ッ! レパルダス、細切れにしてやれ(”つじぎり”)ッ!」

 

 一瞬にして間合いを詰めたレパルダスが、仮面の人物目掛けてその鋭い爪を振るう。

 しかしその攻撃は、間に割り込むように飛び込んできた影にいとも容易く防がれてしまうのだった。

 

「コォン」

 

 影の正体は金色の毛並みと九本の尾を持つ狐のポケモン、キュウコンだった。

 キュウコンは仮面の人物の横に降り立つと、くゆりと尾をくねらせて鳴き声を上げた。

 

「アウルムのレパルダスは氷、悪タイプ。炎は苦手だろう?」

 

【キュウコンの かえんほうしゃ!】

 

 仮面の人物がそう言うと、キュウコンは不意に火を吐いた。

 突然の攻撃に驚くあまり、回避もままならずにまともに炎を受けてしまうレパルダス。

 その様子を見たサテラ団の二人は思わず目を見張る。

 

「技名を伏せて攻撃だと……!?」

「兄貴、加勢しやす! ……何ッ!?」

 

 ラカンが加勢しようと試みるが、ボールが見えない力に弾かれて男の手から滑り落ちてしまう。

 

「させるわけがないだろう?」

「小賢しい真似を……」

 

 仮面がくつくつと笑い、ジュニパーは苦々しい表情を浮かべて拳を握り締めた。

 

「さて、終わりにするとしようか。キュウコン、止めを刺せ(”オーバーヒート”)

「ッ! 回避しろレパルダスッ!」

 

 思わぬ窮地に焦りを隠せずとも、ジュニパーは極めて確実性の高い選択をとった。

 オーバーヒートという技は高い火力と引き換えに弾速がやや遅い。その上、レパルダスとキュウコンの距離はそれほど近くはなかった。非常に素早いポケモンであるアウルムのレパルダスなら回避できる。そのはずだった。

 しかし──レパルダスがその場から飛び退こうとした瞬間、その身体が不自然に硬直した。

 

「ニ……ニ゙ャッ!?」

「バカなッ! ”じんつうりき”はレパルダスには効かないはず……!」

「空気を固めた檻だ。バトルはタイプ相性だけに非ず、常識だろう?」

 

 いくら俊敏なポケモンでも、狭い空間に閉じ込められてしまえば攻撃を避けることはできない。

 身動きが取れないまま、レパルダスはキュウコンの放った巨大な炎に飲まれてしまうのだった。

 その場に残ったのは優雅に尾をくねらせて勝ち誇るキュウコンと、ボロボロになって倒れ伏したまま起き上がろうとしないレパルダス。

 ジュニパーは歯噛みしながら、傷ついた相棒をボールに戻すのだった。

 

「クッ……」

「サテラ団、だったか? もう一度だけ言おう。今退くのなら、今回ばかりは見逃してやる」

「ハッ!! 何言ってやがる、まだ俺が残って──」

「止せ、ラカン! ……ここは一旦退くぞ。騒ぎを大きくしすぎた」

 

 ジュニパーがラカンを引き留めたその時、突如としてけたたましいサイレンが辺りに鳴り響いた。

 

「この音は……」

「チッ、もう嗅ぎつけやがったのか……行くぞラカン、見つかると面倒だ」

 

 ジュニパーは懐から紫色の靄を閉じ込めたような拳大の玉を取り出した。

 

「仮面、テメェのナリは覚えた。次は殺してやる」

 

 そう言い残し、ジュニパーは玉を地面に叩きつける。途端に煙が溢れ出し、それが晴れた時には、既に二人はいなくなっていた。

 

「逃げた……の?」

「そうみたいだ、何はともあれ助かったぜ……」

「フン……」

 

 安堵する二人を横目に、仮面の人物は酷くつまらなさそうに鼻を鳴らしてキュウコンをボールに戻した。

 

「アンタが助けてくれたお陰だよ。ありがとう」

 

 ツムグがそう呟くと仮面の人物は振り返り、仮面越しに怒気を露わにしながらツムグに詰め寄る。

 

「勘違いするな、今貴様に死なれては困るというだけだッ! ……貴様に一つ忠告しておいてやる。()()()()()()()()()()()()。取り返しのつかないことになる前に手を引いておけ」

「? それは──」

 

 どういうことなのか、と続けようとするツムグだったが、仮面の人物は顔を背けると新たなボールを無造作に放り投げた。

 すわ戦闘かと思わず身構える二人の目の前でボールが音を立てて開き、中から大量の砂粒が吐き出された。

 

「何、これ……!?」

「砂……!?」

 

 二人が目を白黒させて驚く中、周囲にまき散らされた砂は独りでに渦を巻き、砂嵐となって仮面の人物を包み込んでいく。

 

「ッ……おい、待ってくれ!」

 

 ツムグの呼び止めに振り向きもせず、仮面の人物は砂塵に飲み込まれ──その場から忽然と姿を消したのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 あの後、駆け付けた警察によってツムグと少女は保護された。

 しばらくするとキャプテンであるリコットも合流し、二人は個別に事情聴取を受けることになった。

 その結果、サテラ団については要注意団体としてアウルム地方のキャプテン全員、及び各町の警察組織に情報が共有されることになったらしい。

 聴取が終わる頃には既に日も暮れていたため、二人は宿舎の空き部屋を一室ずつ貸し与えられ、そこで夜を明かすことになった。

 そして、明くる日の朝。

 

 

「お兄さん、昨日はありがとうございました!」

 

 少女は開口一番にそう言って頭を下げた。

 

「いや、俺は何も。あの”仮面”が来てくれなきゃどうなってたか……」

「それでも、私一人だけだとポケモン相手にはどうしようもないですから。お兄さんとイーブイが守ってくれて本当に助かりました」

 

 そういって少女は再び深々と頭を下げる。

 

「私、ミノトって言います。今はアウルムを旅して回っている最中で──」

「はぁ!? 旅してる!? ポケモンも連れずに!?」

 

 ──ポケモンは恐ろしい生き物だ。

 圧倒的なフィジカルとそこから繰り出される技の数々。そのどれもが脆弱な人間の命を奪うには十分すぎる威力を秘めている。

 旅を初めて僅か数日ではあるが、ツムグは既にそれを十分理解していた。

 正気とは思えない。今まで無事だったのが奇跡である。

 

「あはは……警察の人にも同じこと言われました。でも、ポケモンを連れていないわけじゃないんです」

 

 出ておいで、とミノトは何処からか取り出したボールを放った。

 現れたのはおかっぱ頭のような頭部とそこから生えた角が目を引く人型のポケモン。

 そのポケモンはツムグの姿を見るなり、慌ててミノトの陰に隠れてしまった。

 

「ら……らるぅ」

 

【ラルトス きもちポケモン タイプ:エスパー/フェアリー】

 

「見ての通り、すっごく臆病でバトルも出来なくって……」

「それじゃあ──」

「事情はどうであれ、自衛の手段がない以上は街の外に出すわけにはいきませんね」

 

 突如背後から聞こえた声にツムグは振り返る。

 そこにいたのは仏頂面を浮かべた少女──リコットだった。

 

「そんな、困ります!」

 

「何と言われても、私にはキャプテンとして貴女を止める義務があります」

 

 毅然とした口調で一蹴され、項垂れるミノト。

 それを横目にリコットはツムグの方へと向き直る。

 

「それはそうとツムグさん、試練の準備が整いました。舞台まで案内しますのでついてきてください」

「お、おう!」

 

 そう言って歩き出したリコットを追おうとして、ふとツムグは足を止めた。

 

「ミノト! 良かったら俺の試練、見に来いよ」

「え……?」

「ほら、実際のバトルを見たらラルトスもバトルに興味持つかもしれないしな」

「ふむ……一理ありますね。わかりました、許可しましょう」

「だってよ、行こうぜ」

「え、ちょ、ちょっと待ってくださーい!!」

 

 そう叫ぶミノトは、すたすたと歩き去る二人に置いて行かれないように慌てて駆け出すのだった。




レパルダス(アウルムのすがた)
しゅんそくポケモン タイプ:氷/悪
『長い体毛で足音を極限まで殺し、目にも留まらぬスピードで獲物を狩る。条件さえ整えば最高速度は時速100キロにも及ぶという』
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