ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか? 作:いろはす/1roh4su
リコットの案内に従って歩くこと数分。
連れてこられたのは街のはずれにある大きなバトルコートだった。
森を切り開いて作られたのか、大小様々の木々が周囲を取り囲んでいる。
ミノトとラルトスは既に観客席に移動しており、ツムグはコートの真ん中で試練の説明を受けていた。
「──とまあこんな感じです。何か不明な点はありますか?」
「いや、大丈夫。大体わかった」
「上出来ですね。それではこちらがツムグさんのバングルになります」
【ツムグは カレイドバングルを 手に入れた!】
説明も終わったところで、渡されたのは以前にも見た木製の腕輪。木製のパーツで挟み込むようにして石のダイヤルが組み込まれており、ダイヤルの表面には18個のレリーフが刻まれている。
「使い方は先程教えた通りです。詳しいあれこれは後ほど、試練中にお教えしますね」
「りょーかい。じゃあ早速始めようぜ」
「わかりました。それではヌシ様をお呼びします」
そう言うとリコットは懐からおもむろに笛を取り出した。
アウルム地方で行われる試練は、その街のヌシポケモンの御前で執り行うのがしきたりとなっている。
昔はヌシが直々にトレーナー達に試練を課していたことが由来だとされているが、そもそも試練というシステムができたのが大昔のことで記録もロクに残っておらず、本当のことは誰もわからないのだそう。
リコットが笛を吹き始めると、心安らぐゆるやかな旋律が辺りに響き渡った。
それに伴うように風が渦巻き、木々が騒めき始め──。
「……何も、来ない?」
「いえ、ヌシ様は
「え──うわぁ!?」
一体何処に──そう思った次の瞬間、眼前に聳え立つ一本の大きな
古木の三又に分かれた太い枝の先には桃色の花が咲き乱れ、樹冠の辺りにある洞には緑の光が灯った。
「ウロロロロロロロッ……!!」
それが吼えるだけで、森の木々が共鳴するようにうなりを上げた。
目の前の古木こそがヌシポケモンだったのだ。
そのポケモンはオーロットによく似ていた。
しかしそのポケモンは──。
「で、でけえええぇぇぇぇッ!?」
──オーロットと言うにはあまりにも大きすぎた。
高さは目測でおよそ20メートル。当然幹や根もそれ相応に太い。あれを叩きつけられたら、人間など一撃でトマトケチャップに成り果てるだろう。
樹冠と腕に咲き誇る桃色の花は見ているだけで心が吸い寄せられてしまいそうなほど妖しく、そして美しかった。
あれはオーロットと似た姿をしているだけの別物だ。誰に説明されずともツムグは直感的にそう理解した。
【ワラウコボク まんかいポケモン タイプ:草/フェアリー】
「ポケモン……なんだよな? オーロットに似てるけど、コイツは一体……?」
「森林のヌシ、”ワラウコボク”。記録があまり残っていないので定かではありませんが、少なくとも500年以上前からこの地を守っているポケモンです」
「バケモンじゃねーか」
つまりは500年以上この土地の生態系の頂点に君臨し続けているということだ。
寿命が長いポケモンなら他にもたくさんいるが、数百年もの間強さを保ち続けているポケモンなんてそれこそ伝説のポケモンくらいなものである。
そうこうしていると、不意にワラウコボクがじろりとツムグに目をやり、品定めするように眺め始めた。
たらり、とツムグの背筋を汗が伝った。押しつぶすような威圧感を全身に感じ、思わず身震いする。
しばらくすると、ワラウコボクは顔をぐいっとツムグへと近づけ──。
「ウロロロ……♪」
ニコーッ、と満面の笑顔を浮かべた。
「気に入られたようですね」
「マジでか」
(見た目はアレだけど、案外人懐っこいのか……?)
「さて、いい加減そろそろ始めましょうか。……ヌシ様、もう少し離れていてくださいね」
「ウロ……」
(なんか可愛く思えてきたな……ヌシなのに)
先程までの威圧感はどこへやら、どこかしょんぼりとした顔で後ろに下がるワラウコボク。素直である。
「おほん……っ! ツムグさん、準備はよろしいですか?」
「ああ、悪い。いつでも大丈夫だぜ」
呆けている場合ではない。ツムグは頬を叩いて気合を入れなおし、ボールを構える。
それを確認し、リコットは高らかに声を上げた。
「それでは、試練開始です!」
「クルミル、あなたの出番です」
「頼んだぜ、ズバット!」
二人が投げたボールが同時に弾け、中から二匹のポケモンが飛び出した。
先手を取ったのはズバット。ボールから出るなりひらりと舞いあがり、クルミル目掛けて飛びかかった。
「先手必勝、”どくどくのキバ”!」
レベルが上がって覚えた新技だ。
毒を帯びた牙での噛みつきは虫/草タイプであるクルミルには効果抜群。追加効果で毒も狙えるこの技は現状とれる中では最善の手──のはずだった。
「クルミル、カレイドシフト──”ゴースト”」
突如──ズバットの攻撃が当たるよりも早く──リコットの手首に嵌められたバングルが強い光を放った。
光はバラバラな帯になって拡散したかと思うと、弧のような軌道を描いてクルミルの体へと吸い込まれていく。
「開始早々に特攻……。相手の不意をつける良い策ですが、これが
クルミルが放たれた光を全て吸収した次の瞬間、その体にズバットの牙が突き刺さる。
しかし──
【ズバットの どくどくのキバ!】
【効果は いまひとつのようだ……】
──怪しげな紫色のオーラを立ち上らせたクルミルは、表情一つ変えずに攻撃を受け止めた。
「な……効いてない!?」
【クルミル≪カレイドシフト≫ さいほうポケモン タイプ:???/???】
「ツムグさんもご存じのように、ポケモンはそれぞれ最大二つのタイプをその身に宿しています」
指を立て、リコットは語り始める。
「カレイドシフトはポケモンが保有するタイプのうち、
「つまり、今のクルミルは虫/ゴーストタイプってことか?」
「その通りです。ちなみに、単タイプのポケモンの場合は指定したタイプが追加されて一時的に複合タイプになります」
【クルミル≪カレイドシフト≫ さいほうポケモン タイプ:虫/≪ゴースト≫】
道理でどくどくのキバが効かなかった訳である。
要は一時的なタイプの変更。これだけ聞けばテラスタルと非常によく似ているが、テラスタルはポケモンのタイプを予め決められたテラスタイプ一つに変更するのに対し、カレイドシフトで変更されるのは第二タイプのみ。それもその場その場で任意のタイプを選べるという。
テラスタルよりも自由度は高いが、その分扱いが難しい力だと言えるだろう。
任意ということは適切な判断が都度求められるということでもあるのだ。
「ですがそれだけではありません。カレイドシフト、そのもう一つの恩恵をお見せしましょう。クルミル、”≪霊の≫はっぱカッター”」
「くるーん」
放たれた無数の鋭い葉っぱがズバットを切り裂く。
よく見れば、ズバットを切り裂いたその葉は怪しく揺らめく霊気を帯びていた。
「キィッ!?」
「ズバットに草技が効いた!? ……いや、もしかして技のタイプも変更できるのか?」
「ご明察。変更前のタイプの技を変更後のタイプの技として使うことができる。これがカレイドシフトのもう一つの恩恵です。元が単タイプだった場合はノーマルタイプの技が対象になります」
つまりはどのタイプにカレイドシフトしても、元のタイプの技さえ覚えていればタイプ一致技が使えるということだ。
加えて、特性やタイプ相性によって無効化される技を無理やり通すことも可能である。
(ということは、”そうしょく”で無効化できない”キノコのほうし”を後攻にならずに出せるポケモンが爆誕する……ってコト!?)
【パラセクト きのこポケモン タイプ:虫/草】
「わァ……ぁ……」
「えっ、急にどうしたんですか……?」
ツムグは激怒した。必ず、かの邪知暴虐のパラセクトをアウルムから除かねばならぬと決意した。(※パラセクトはアウルムには生息していません)
閑話休題。
「要するに、今ならこれが効くってことだろ! ズバット、”おどろかす”ッ!」
「キキーッ!!」
音もなく近づき、霊気を帯びた絶叫を響かせる。
弱点となる攻撃を受け、クルミルは少し体勢を崩すも未だ健在。
「もう一回
「”≪霊の≫はっぱカッター”で迎撃を」
互いが放った霊気がぶつかり合い、そして爆ぜた。
至近距離で攻撃をしたためか、両者共に爆発に巻き込まれ大きく吹き飛ばされる。
一瞬の静寂の後、身体を起こしたのはズバットだった。
クルミルは目を回して倒れ伏している。ズバットの勝利だ。
「戻ってください、クルミル。よく頑張りましたね」
リコットは戦闘不能のクルミルをボールに戻し、別のボールを取り出した。
「チュートリアルは以上です。次に行うのは認定試験。今教えたその力を使いこなし、私に打ち勝ってください」
そう言い、繰り出されたのは頭頂部に花を生やした小鹿のようなポケモン、シキジカである。
【シキジカ きせつポケモン タイプ:ノーマル/草】
「ズバットは戻って休んでてくれ。──お前の出番だ、イーブイ!」
「えっぼぉ!」
勇ましい鳴き声と共に、イーブイが現れる。
シキジカはクルミルと同じく二つ目のタイプに草が割り当てられているポケモン。カレイドシフトで草タイプを他のタイプに変えられる恐れがある以上、体力の残り少ないズバットをこれ以上戦わせる意味は薄いという判断である。
「今度はこちらから行くとしましょう、”にどげり”」
力強い後ろ足での攻撃。格闘タイプであるこの技はイーブイに効果抜群である。
そんな攻撃を立て続けに食らったイーブイは大きく仰け反り、蹴り飛ばされてしまった。
「えぼ!?」
「イーブイ!」
しかし、この程度で目を回すほどイーブイもヤワではない。
空中で身を翻し、四本の足でしっかりと着地を決めた。
「近づいてもう一度”にどげり”です」
「”スピードスター”で牽制しろ、相手を近づけるな!」
連続で射出される星形の弾幕がシキジカに迫る。
ひらりひらりと光弾を躱し距離を詰めようとするシキジカだったが、生憎スピードスターは必中技である。避けられた光弾はシキジカを追尾し、その全てが命中したのだった。
「きょん!?」
シキジカは思わずよろめき、体勢を崩してしまう。
その隙を逃すまいとツムグはすかさずイーブイに指示を飛ばした。
「”でんこうせっか”で追撃しろ!」
四肢に力を込め、一気に解放して跳び出す。だがその攻撃が命中するよりも早く、シキジカが体勢を整えなおした。
「”とっしん”で迎え撃つのです」
シキジカは全身に力を漲らせ、でんこうせっかで接近するイーブイ目掛けて突っ込もうとする。
高速の”でんこうせっか”と捨て身覚悟の”とっしん”、当然後者の方が威力は高い。このまま衝突すれば押し負けるのはイーブイだろう。しかし、ツムグはイーブイを止めなかった。
二匹の距離は瞬く間に縮まり、残り10メートル……5メートル……3メートル……。
その瞬間、ツムグはにやりと笑みを浮かべて叫んだ。
「今だ、シキジカを踏み台にして空へ跳べ!」
寸前で飛び跳ね、シキジカを踏みつけて更に高く跳躍。一瞬にしてシキジカの頭上を取ることに成功する。
「いくぜイーブイ、カレイドシフト──”こおり”ッ!」
すかさずツムグはバングルのダイヤルを回し、氷のレリーフに目盛りを合わせる。
するとバングルから水色の光の帯が放たれ、空中のイーブイに吸い込まれていく。
イーブイが一際眩い光を放つと、周囲の空気が急激に冷え始めた。
【イーブイ≪カレイドシフト≫ しんかポケモン タイプ:ノーマル/≪氷≫】
「いけない、カレイド──」
「先制技だ、間に合いっこねえよ! 決めろイーブイ、”≪氷の≫でんこうせっか”ッ!!」
「えぼぉッ!!」
空中に出現した氷の足場を踏みつけ、地面目掛けて急降下する。
その身体に冷気を纏ったイーブイは彗星の如き勢いでシキジカに突っ込んだ。
弱点を突き、特性”てきおうりょく”によるタイプ一致ボーナスも乗っている。更に落下の勢いも加わったことで、その威力は控えめに言っても倍増し。
必然──シキジカは地に伏し、力尽きるのであった。
「お見事でした。これにて森林の試練は終了になります。……ではヌシ様、よろしくお願いします」
「ウロロロ……!」
ワラウコボクが身体を揺すると、頭上から一枚の花弁がひらりひらりと舞い落ちてきた。
花弁はツムグの目の前まで下りてくると宙に浮いたまま静止した。形状は花弁というよりは葉に近く、淡い光を放っている。
「これは?」
「”あかしのはなびら”、森林の試練を突破した証です。どうぞ受け取ってください」
ツムグが手を差し伸べると、花弁はゆっくりと掌の上に落ちた。
「ツムグさんはこれが初めての試練ですので、これもお渡ししておきますね」
そう言ってリコットは一枚の布製の袋を差し出した。
特殊な素材で作られているのだろうか。袋は光を反射して不思議にきらめいている。
「集めた”あかし”はこのお守り袋に入れて保管しておいてください」
「わかった」
言われた通りに花弁を袋に入れ、それを鞄に仕舞い込む。そうこうしていると観覧席からミノトとその腕に抱えられたラルトスがやってきた。
「ツムグさんお疲れ様です! リコットさんも!」
「らるー♪」
興奮した様子で両手をブンブンと振り回しているラルトスを見てツムグは目を丸くした。
先程まで人見知りしてミノトの後ろに隠れていたとは思えない。
「あはは……。ラルトス、バトルを見るのが楽しかったみたいで。さっきからずっとこの調子なんです」
「マジかよ」
「ふむ……。この調子でバトルに慣れさせていけば、近いうちにバトルに出せるようになりそうですね」
ツムグとしては正直こんなに上手くいくとは思っていなかったわけだが、何はともあれ初めの一歩が踏み出せたようで何よりである。
「まあ、その話は後に──」
「ウロロッ!?」
リコットがそう言いかけた時だった。
突然、ワラウコボクが森の方を向き、驚きの声を上げた。
「ヌシ様? どうしたんですか?」
リコットのその問いかけに、ワラウコボクは答えなかった。
「ウロロロロロロォッ……!!」
突然怒りの表情を浮かべて吼え、一目散に見つめていた方向へと駆け出したのだ。
「な、何ですか!?」
「あちらは祠の方角、一体何が……?」
急なヌシの暴走に一同が困惑していると、一人のトレーナーがリコットの元へと駆け寄ってきた。
顔にはじっとりと汗を掻いており、慌てて走ってきたことが見て取れる。
トレーナーがリコットに何やら耳打ちをすると、リコットの表情が強張る。
「マズいですね……」
「おい、一体何が起こってるんだ?」
「……今は説明している暇が惜しい、詳細は向かいながら話します。お二人ともついてきて下さい」
ワラウコボク
まんかいポケモン タイプ:草/フェアリー
『モルトシティを守護するヌシポケモン。樹冠と両腕に生えている桃色の花弁のようなモノの正体は葉っぱである』