ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか?   作:いろはす/1roh4su

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第八話「森林のヌシ”ワラウコボク”」

「お二人とも乗ってください。森は迷いやすい、空路で向かいましょう」

 

 そう言ってリコットが繰り出したのは熱帯植物の葉のような翼と、首元に生ったバナナのような果物が特徴的な恐竜に似たポケモン──トロピウスだった。

 

(トロピウス……! いざ実物を見るとやっぱりデカ……いや、にしてもデカ過ぎるな……!?)

 

【トロピウス(最大サイズ) フルーツポケモン タイプ:草/飛行】

 

 背中には複数人乗り用のライドギアが取り付けられており、三人程度なら問題なく乗ることができる。

 ツムグ達三人はそれぞれ座席に乗り込み、安全ベルトを締めた。

 

「しっかり捕まっててください」

 

 翼をはばたかせ、トロピウスはふわりと宙へ舞い上がる。

 三人を乗せているとは思えないほど力強く飛行するトロピウスを運転しながら、リコットは口を開いた。

 

「今から向かうのは”森林の祠”。そもそも前提として、アウルムのヌシの縄張りの中心には必ず祠があるのです」

「祠?」

「はい。どの街にある祠も総じて扉が開かないので一体何を祀っているものなのかは定かではありませんが、アウルムのヌシポケモンが基本的にその祠の周辺から離れることはありません。ヌシポケモンにとって余程大切なものなのでしょう」

「で、今その祠に何らかの異変が起きている……ってことか」

「でも、それに何で私達が? ツムグさんはともかく、私は戦えませんけど……」

 

 リコットは頷いた。

 

「実は先程、祠の森に入っていく黒づくめの二人組が目撃されたのです」

「それって……」

「はい、恐らくサテラ団でしょう。ですが昨日の今日ということもあって情報が足りず、本当に彼らであるという確証が持てません。そこで彼らを直接見たお二人に確認していただきたいのです」

 

 勿論、お二人の安全は私が確保します、とリコットは続けた。

 五百年以上生きているヌシが守っている祠。その周辺で目撃された不審な組織の構成員。

 

(これってどう考えても厄ネタだよなあ……。いや協力はするけども、正直嫌な予感しかしねーよ)

 

 サテラ団の目的は未だわかっていないが、ロクでもないことを企んでいるのは間違いない。

 とはいえ、相手はたった二人。戦えないミノトがいることを差し引いても、リコットとワラウコボクがいれば対処に問題はないだろう。

 ツムグは怪しい二人組がジュニパーとラカンであることを確認した後は、流れ弾が自分とミノトに当たらないように注意していればそれで良いのだ。

 

「そういうことなら任せてください! バトルはお任せしちゃいますけど……」

「俺も協力するよ。乗り掛かった舟だしな」

「助かります。飛ばしますのでしっかり掴まっててくださいね」

 

 

 

***

 

 

 

「んだコレ……!?」

「酷い……」

 

 しばらくして目的地に到着した三人は言葉を失った。

 ある意味予想していた通りの光景だ。

 広場のあちこちには抉れたような痕が残っており、その中心には元は祠だったのだろう瓦礫が積みあがっている。

 瓦礫のそばには見覚えのある黒づくめの二人と、彼らを見つめて微動だにしないワラウコボクがいた。

 

「貴方達、その祠を壊したんですか!?」

「ん? ああ、ようやく来たのか。無能なキャプテンサマよォ。……隣にいるのは昨日のガキ共じゃねェか。足手まといが何しにきやがったんだ?」

「サテラ団、お前ら何企んでやがる……!」

「お前に教える義理があるかよ」

 

 そう言ってにやりと笑うジュニパーの手には木製の弓のようなものが握られている。

 長い間放置されていたのか所々が汚れており、持ち手付近には無色透明の石が埋め込まれている。一見するとただの骨董品のようだが、ツムグには不思議とただならぬ品のように見えた。

 

「貴方の手に持っているそれは一体?」

「知ったこっちゃねェな。ただ、うちのボスは祠の中身を所望だ。これは貰っていくぜ」

「それが祠の中に……? それが本当なら渡すわけにはいきませんね。そもそも祠を破壊した貴方達を逃がすという選択肢は無い訳ですが」

 

 リコットはそう言ってボールを構える。

 しかしジュニパーは大仰に手を挙げるだけでボールを取り出そうとしない。

 

「……抵抗しないのですか?」

「いくら新米の無能なキャプテンサマとは言えど、一対一で勝てると思えるほど馬鹿じゃあないんで。尻尾巻いて逃げさせてもらおうかと」

「逃がさないと言ったはずです」

「いいや、断然逃げさせてもらうぜ。……ラカン!」

「へい、兄貴。丁度()()()()()()()()()()()ですぜ」

 

 ジュニパーが名を呼ぶとワラウコボクの陰からラカンと一匹のポケモンが現れた。

 

「シュラフフ」

 

【スリーパー(アウルムのすがた) さいみんポケモン タイプ:???/???】

 

 それは長い鼻と合わせてペストマスクのように見える黒い模様、そして首から生えた色とりどりのケープのような体毛が特徴的な怪人だった。

 手には縦笛を持っており、にたにたと怪しげな笑みを浮かべてこちらを見ている。

 十中八九アウルムのリージョンフォームだろう。

 どう出るのか、リコットは構えたボールを握りしめた。

 

「おっと、そう警戒することはねえ。()()()()お前らと戦うつもりはねえよ」

「何を……ッ!?」

 

 最初に異変に気付いたのはリコットだった。

 手に持ったボールを素早く放り投げ、現れたポケモンがツムグとミノトを引き寄せた。

 

「きゃあっ!?」

「うおっ!?」

 

 地面が揺れた。

 見れば、数秒前まで二人が居た場所に木の幹が突き刺さっている。

 否、それは幹と見紛うほど太い枝──即ちワラウコボクの腕だった。

 それを見たツムグは心の底からゾッとした。リコットが気付いていなければ、二人は熟したトマトのように叩き潰されていただろう。

 

「……助かったぜ、フシギバナ。こんな所で会えるとはな」

「バーナァ」

 

【フシギバナ たねポケモン タイプ:草/毒】

 

 このフシギバナというポケモンはある意味、「ポケットモンスター」という世界の原点だといえる。

 初代「赤緑」の舞台、カントー地方で新米トレーナーである主人公が受け取る最初のポケモンの一角。全国図鑑番号001──フシギダネ。その最終進化形のポケモンである。

 

(バーチャルコンソール版をやったときはヒトカゲを選んだけど……こうして見るとやっぱり超カッコいいぜ)

 

「ヌシ様がお二人を攻撃するなんて……! 貴方達、ヌシ様に何をしたのですか!?」

「ククク、酷い言われようだぜ。俺達はただ夢を見せてやってるだけだってのによォ」

「夢だって?」

 

 言われて見れば、先程まで目に灯っていた光が消えている。

 眠り状態だ。スリーパーはもとより”さいみんじゅつ”を扱うポケモンであるため、ワラウコボクが眠っていること自体は何ら不思議ではない。

 しかしポケモンというゲームにおいて、眠りという状態異常は「数ターンの間行動不能になる」というものであり、決して敵味方の判別ができなくなるようなものではない。

 だとすると推測できる原因はアウルム固有のリージョンフォームであるスリーパーの特性、あるいは技のどちらかであろう。

 

「クク……自分のトコのヌシに潰されねェよう、精々頑張るんだなァ。──帰るぞ、ラカン」

「へい兄貴」

「行かせませ──ッ!? フシギバナ!!」

 

 リコットが逃亡を図るサテラ団を捕えようとしたその時、彼女の立っている場所を目掛けてワラウコボクがその腕を振るった。

 間一髪でフシギバナの蔓による離脱が間に合ったものの、その隙をついてサテラ団の二人はその場から消え失せていたのだった。

 

「逃げられた!? 追いかけ──いえ、まずはヌシ様を何とかしなくては……!」

「何とかってどうやってだよ!? 逃げたほうがいいんじゃないのか!?」

 

 ツムグの言葉にリコットはかぶりを振る。

 

「キャプテンは皆、ヌシ様の暴走を想定して鍛えています。そのための秘密兵器だってあります。そして何より──キャプテンが逃げるわけにはいかないんですッ!!」

 

 動揺、恐怖、緊張、そして責任。それら全てがない交ぜとなった表情を浮かべ、リコットは叫んだ。

 ツムグは一瞬でも「逃げよう」などと考えた自分を恥じた。

 キャプテンとはいえ、自分より年下の少女が戦う、守る覚悟を決めているのだ。

 それに対して自分はどうだ。勝てないと思えばすぐに逃げようとするような人間なのか。

 

(そうじゃないだろ!? よく考えろ加賀美紬久(カガミツムグ)! お前の憧れたトレーナー達ならどうする!?)

 

 覚悟は案外、すんなりと決まった。

 

「俺も戦う。いや、戦わせてくれ! とは言っても今の俺の力量じゃサポートくらいしかできねーけど……」

「いえ、とても助かります。キャプテンとは言っても私はまだ就任したばかりの新米。こんな経験は初めてですので」

 

 そうと決まれば。ツムグは二つのボールを宙へ放った。

 

「草とフェアリーの複合タイプが相手なら──ズバット、お前の出番だ!」

「キィーッ!」

「イーブイは下がってミノトを守れ、頼んだぞ!」

「ぶいっ!」

「二人共、お気をつけて!」

 

 前線で戦うフシギバナをサポートする役割はズバットに、そして戦う手段を持たないミノトの護衛にはイーブイを宛がう。

 数日を共にして改めてわかったことだが、ポケモンという生き物は非常に賢い。トレーナーの指示を正確に理解することができる上、防衛に徹すれば指示がなくても自分で考えて戦うことができる程に。

 故にツムグは遠距離技と近距離技を併せ持ち、フィジカルにも優れるイーブイを戦えないミノトの護衛に宛てたのだ。

 ボールから飛び出した二匹が鬨の声を上げると、腕を振り切った姿勢で固まっていたワラウコボクが再び動き出した……!

 

 

 

「ウロロロロロロッ……!!」

 

 

 

【ヌシのワラウコボクが 勝負を仕掛けてきた!】

 

 

 

「能力を高める技は使わないようにしてください! ワラウコボクは能力変化を吸い取ることができます!」

「それマジで言ってる!? いくら何でもチートすぎるだろ! とりあえずズバット、ヤツを絶対に逃がすな(”くろいまなざし”)ッ!」

 

 相手がとんでもない能力を秘めていることを知らされて驚くツムグだったが、今更どうにかなるものでもない。

 というより、ズバットはそもそもそのような技を持ち合わせていないため関係ないのである。

 一先ずツムグは、ワラウコボクが街の方へと逃げて被害が拡大するという最悪のシナリオを未然に防いでおくことにした。

 

 

【ズバットの くろいまなざし!】

 

【ヌシのワラウコボクは もう逃げられない!】

 

 

 ズバットの瞳が黒く輝き、ワラウコボクから逃走という選択肢を奪った。

 ……尤も、ズバットに目はない。つまり先程黒く輝いて見えたのは厳密には目ではないナニカだということになるのだが、一体何だったのだろうか……。まあ、技が成功したのでとりあえず良しとする。

 世の中には知らないほうが良いコトもあるのだ。

 

「流石の判断です。これで心置きなく戦える」

 

 そう言うとリコットは袖を捲る。

 露わになった細い手首には七色に光る宝珠が埋め込まれた腕輪が嵌められていた。

 

「それは──!」

「対ヌシ様を想定した秘密兵器です。さあ、咲き誇りなさい──フシギバナ、メガシンカッ!!

 

 リコットの指が宝珠に触れた。

 

 

【フシギバナのフシギバナイトと リコットのメガリングが 反応した!】

 

 

 眩い光がフシギバナを包み込む。

 膨大なエネルギーが吸い寄せられ、フシギバナの周囲に繭のような外殻を形成した。

 その殻が破られたとき、そこから現れるのはもはやただのフシギバナではない。

 

 

「バァナァアアッ!!」

 

 

【フシギバナは メガフシギバナに メガシンカした!】

 

【メガフシギバナ たねポケモン タイプ:草/毒】

 

 

 額と尻に咲いた二つの花。

 そして巨大化した背中の花。

 そこから伸びた蔓と大きな葉。

 よりがっちりと発達した筋肉質な脚。

 

 その名もメガフシギバナ。

 キーストーンとメガストーンという二つの石を介して、トレーナーとポケモンの心が共鳴することで起こる「進化を超えたシンカ」──メガシンカを遂げたポケモンである。

 メガシンカしたポケモンは伝説のポケモンと遜色ない──下手をすれば上回るほどの強さを手に入れる。

 トレーナーとポケモンとの間に強い絆があれば暴走する危険性も少ないとくれば、荒ぶるヌシに対抗する手段としては最適であると言えるだろう。

 

「メガシンカ、とんだ秘密兵器だぜ……! これならヌシ相手でもやり合える!」

「油断は禁物ですよ。ヌシ様はただメガシンカした程度で倒せるようなポケモンではありません。フシギバナ、”パワーウィップ”で拘束を!」

 

 鞭のようにしなる太い蔓がワラウコボクの両腕を縛り上げる。

 何とか抜け出そうと藻掻くも、あまりの頑丈さになかなか上手くいかない様子だ。

 

驚かして怯ませるんだ(”おどろかす”)!」

 

 不気味な絶叫と共に放たれた霊気がワラウコボクに襲い掛かる。

 驚いて一瞬、藻掻く力が緩んだ隙をリコットは逃さなかった。

 

「”ヘドロばくだん”ッ!」

 

 毒タイプの技は、草/フェアリータイプのワラウコボクに対して効果は抜群(4倍弱点)

 相手が伝説のポケモンであってもヌシポケモンであっても、タイプ相性というものは平等に牙を剥く。

 特攻種族値122から放たれる威力90の技。それにタイプ一致ボーナスが乗った上で4倍弱点、流石のワラウコボクも無視できないダメージを負うはずだった。

 しかし、ヘドロばくだんが命中した場所にワラウコボクの姿は無く、あるのは半ばから断ち切られた蔓の残骸だけ。

 慌てて辺りを見回すと、着弾地点から少し離れた場所、ズバットの近くでワラウコボクは地面に手をつけ──。

 

「ッ!? ズバット、避けろ!」

「キキッ! ……キィ!?」

 

【ヌシのワラウコボクの──】

 

 ツムグの声を聞き、ズバットは慌てて身を翻して回避を試みるが──遅かった。

 

 

【──ニードルランス!】

 

 

 急成長した植物が槍の形に編まれ、ズバットに突き刺さる。

 幸いなことに毒/飛行タイプであるズバットに大したダメージは入らなかったが、ワラウコボクの力にあてられた辺りの植物が鬱蒼と茂ったまま残ってしまっている。

 

【足下に 草が生い茂った!】

 

「グラスフィールドを展開した!? なんて厄介な技なんだ……」

「それでも、まだ通常の技の範疇を出ません。ヌシ様に大業(おおわざ)を使われる前に早く何とかしなければ……」

「大業? 何だよそれ」

 

 ”力業”や”早業”ならともかく、”大業”は聞いたことがない。

 ゲームやアニメには登場しない、アウルム地方特有の概念だろうか。

 

「4つの通常の技とは別に、ヌシポケモンだけが使える必殺技のようなものです。その威力も規模も、通常の技とは格が違う」

「そんなモンまであるのか……」

 

 Z技やダイマックス技のようなものだろう。幸い、予備動作の間に攻撃を畳みかければ発動は止められるらしいが、やはり大業を使う前に何とかするのが良いだろう。

 

「隙を作るぞズバット! ”ちょうおんぱ”ッ!」

 

 聞いた者の感覚を狂わせる超音波がズバットの体から放たれる。

 技を受けたワラウコボクは思わず苦悶の表情を浮かべる。

 これでワラウコボクは混乱状態に陥り、まともに技が使えなくなった。攻めるなら、今が好機。

 

「すぐさま”どくどくのキバ”ッ!」

「合わせます! フシギバナ、”ヘドロばくだ──ッ!?」

 

 だが。

 

【しかし うまく 決まらなかった!!】

 

「なっ……!?」

 

 ──振るわれたワラウコボクの剛腕が、二匹を容赦なく吹き飛ばした。

 

 間違いなく、超音波は当たった。それは疑いようのない事実である。

 では何故ワラウコボクは混乱していないのか。

 否、そうではない。

 そもそも、何故ワラウコボクは暴走しているのか。

 

「まさか……!」

()()()()()()()()()()ってのか!?」

 

 想定外の出来事に対する動揺。

 一瞬、たった一瞬の思考の隙だった。しかし戦場ではそれが死に直結する。

 

 ワラウコボクの二本の剛腕が絡み合い、急成長していく。

 ──大業が、来る。

 

「──いけない! フシギバナ、”ヘドロばくだん”で阻止を!!」

 

 我に返ったリコットが大業の発生を妨害しようと試みるも、放たれたヘドロはワラウコボクの足元から伸びる草木のバリケードで防がれてしまった。

 大業は、簡単には破られないから大業なのだ。

 一つの巨大なハンマーを思わせる形状へと変貌した両腕を振りかぶり、ワラウコボクが高く跳びあがる。

 

 

 

【ヌシのワラウコボクの──】

 

 

 

「──ッ! 伏せてください!!」

 

 

 

【──大業”連理木の大槌(れんりぎのおおつち)”!

 

 

 

 ワラウコボクが落下の勢いと共に振り下ろした両腕は──大地を割った。




スリーパー(アウルムのすがた)
さいみんポケモン タイプ:エスパー/悪
特性:ゆめみのくぐつ(眠らせた相手を、攻撃対象を選べなくなる特殊な混乱状態にする)
『常に持ち歩いている笛を使った怪しげな音色で人やポケモンを操る。特に強い超能力を持つスリープがこの姿に進化する』
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