ポケモンの世界に転移したっぽいけど、ここは何処なんですか?   作:いろはす/1roh4su

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第九話「ウエイクアップ」

***

 

 

 

 轟音。そして揺れ。

 ワラウコボクが放った大業の着弾地点には土煙が舞い、遠く離れたこの場所から二人の安否を確認することはできない。

 だが、そんなことに思考を巡らせる暇もなく、ミノトの元に衝撃波に巻き上げられた瓦礫が次々と飛んできた。

 

「きゃあっ!?」

「えぼぉっ──!」

 

 すぐさまイーブイは”スピードスター”や”でんこうせっか”を駆使して瓦礫を撃ち落としにかかる。

 一つ、また一つと飛来する瓦礫の軌道を逸らし、時には砕く。

 しかし、いくらイーブイのフィジカルが高いとはいっても、小さな身体でいくつもの飛来物からミノトを守り切るのは不可能に近い。

 限界はすぐに訪れた。

 瓦礫が一つ、イーブイの防衛の網を潜り抜けた。

 その瓦礫は容易に頭蓋を砕きかねない程の速度でミノトに迫る。

 

 ──絶体絶命。

 

 そう悟ったミノトは思わず目を瞑る。

 回避は間に合わない。

 己の旅はこんな所で終わってしまうのか、そう考えたその時だった。

 

 

「るーっ!!」

 

 

 聞き覚えのある鈴を転がしたような鳴き声と共に、ミノトの頭を砕こうとしていた瓦礫が不自然に静止した。

 いつまで経っても来ない衝撃に、ミノトは恐る恐る目を開ける。

 そこにいた、臆病でバトルなんてできなかったはずのそのポケモンは。

 目を赤く輝かせながら両手を広げ、サイコパワーを発揮して瓦礫を受け止めていた。

 

「ラルトス!? ど、どうして……!」

 

 

 

***

 

 

 

 戦うことは怖い。

 技を受けたらケガをするかもしれないし、当たり所が悪かったら死んでしまうかもしれない。

 でも、試練で戦うポケモン達は皆楽しそうだった。喜びの感情がツノを通してひしひしと伝わってきた。

 ポケモンもニンゲンも、互いのことを信頼している様子がとても眩しく見えた。

 いつかあんな風に(ミノト)と一緒に戦えたら楽しいのかなと思った。

 

 大きな木のヌシが暴れて、ニンゲンとポケモン達が戦っているのをボールの中から見た。

 さっきとは違って、ポケモン達からは覚悟と恐怖が伝わってきた。

 でも、彼らは僕みたいに戦いを恐れているワケじゃなさそうだった。

 

 大きな石の塊が飛んできたとき、僕は主が死んでしまうんじゃないかと考えて恐ろしくなった。

 向こうで戦っているニンゲンと一緒にいたポケモンが一匹、主を守るために戦ってくれていたけれど、とても守り切れるとは思えなくて。

 主がピンチなのにも関わらず、他人任せで何もしていない僕自身に腹が立った。

 

 そして案の定、ポケモン一匹では石の塊を防ぎきることはできなかった。

 主の怯えが強くなった。そして飛んでくる石の塊が主にぶつかるその瞬間。

 僕は堪らなくなって思わずボールから飛び出した。

 

 不思議と恐怖は感じなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「らるーっ!」

 

 瓦礫を地面に落として振り返るラルトス。その顔を見て、彼が何故飛び出してきたのかをミノトは悟った。

 誰よりも戦いを恐れていたはずの彼は、自分より遥かに強い相手を前にして今まで見たことのないような笑みを浮かべていた。

 感情が昂っているのか、サイコパワーを使っていないのにも関わらず目は爛々と赤く光ったまま。

 その目を見ていると、ラルトスが言いたいことがわかったような気がしてミノトは思わず問いかけた。

 

「もしかして……私と一緒に戦ってくれるの?」

「るーらるーっ!」

 

 その通りだ、と言わんばかりにラルトスは頷いた。

 

 

 

***

 

 

 

「……クッソ痛え」

 

 身体のあちこちがズキズキと痛む。

 瓦礫か何かで切ったのだろうか、生暖かい液体が顔を伝って滴り落ちるのがわかった。

 周囲の様子も酷いもので、地面は罅割れ、土煙が舞っている。更にはそこら中に吹き飛ばされた瓦礫が散乱しており、祠のあった場所は見るも無残な姿に変わり果てていた。

 大業が放たれる寸前にワラウコボクの真下に移動したフシギバナが攻撃を受け止めていなければ、被害はもっと深刻だったはずだ。

 だが流石に大業を一匹で受け止めるのには無理があったのだろう。フシギバナは罅割れの中心で倒れ伏したまま動かず、メガシンカも解けてしまっている。

 

「アイツらは……何処だ……?」

 

 周囲を見渡すと、木にもたれかかってぐったりとしているリコットの姿が見えた。

 ゆっくりと肩が上下しているのを見るに、息はあるようだ。

 ズバットはツムグのすぐ近くで身体を起こそうと藻掻いている。フシギバナが壁になったこととタイプ相性のおかげで辛うじて瀕死は免れたのだろう。

 

(って言っても、フシギバナがいないと火力が足りねえ……。くそッ、どうすりゃいいんだ……)

 

 かと言ってここで食い止めることに失敗すれば、最悪の場合街一つが地図から消えることになる。

 ここで折れるわけにはいかない、と痛む身体に鞭打ってツムグはふらつきながらも立ち上がった。

 すると後方からこちらに接近する複数の足音が聞こえてきた。

 

「ツムグさん!」

「えぼぼーっ!」

 

 振り返ると、そこにいたのはイーブイとミノト、そしてその腕に抱えられたラルトスだった。

 

「お前ら、どうして……」

「戦いましょう、皆で!」

 

 自信の籠った笑みを浮かべてミノトはそう言った。

 目線を下にやれば、ラルトスも全く同じ表情を浮かべている。

 

「とは言っても、アイデアとかは何もないんですけどね……」

 

 たはー、とミノトは苦笑を漏らした。

 一応、考えがないわけでもない。だがそのためには色々と準備が足りない。

 

「なあミノト、”なんでもなおし”って持ってないか?」

「持ってますけど……これでどうするんですか?」

「いや何、夢見が悪くて暴れてるなら、いっそ起こしてやればいいんじゃないかと思ってな」

 

 ジュニパーが言っていた、「夢を見せてやってるだけだ」という言葉。

 それが本当だとすれば、この暴走は眠り状態が原因で起こっている可能性が高い。

 万が一予想が外れたとしても、原因が”状態異常”にあるのならばなんでもなおしで治すことができる。

 

「あとはこれをどうやって使うかだよな……。俺が特攻するのは確定として、遠距離から援護して欲しいんだが……」

「遠距離技なら”ねんりき”があります。それとこれ、良かったら使ってください」

 

 ミノトは背負っていたカバンから一枚の記録ディスクを取り出した。

 CDやDVDのようにも見えるが、ゲームで何度も使ったことがあるツムグにはそのアイテムの正体が何なのかすぐに察しがついた。

 

「これ、技マシンじゃねーか、こんなの何処で?」

「前、道端に落ちてたのを拾ったんです。中身は”エアカッター”。ズバットになら使えると思うんですけど……」

 

 エアカッター、鋭い風の刃を飛ばして攻撃する飛行タイプの特殊技だ。この技があれば援護射撃は十二分にこなせるだろう。

 本来ズバットは25レベルにならなければこの技を習得することはできないが、技マシンを使えばその限りではないのだ。

 

「ありがたく使わせてもらうぜ。──ズバット、まだ戦えるよな?」

「キキィーッ!」

 

 ズバットは勢いよく地面から飛び上がり、猛々しく吠える。

 実の所、ズバットの体力はかなり限界に近い。いくらフシギバナとタイプ相性に助けられたとしても、ヌシの大業を受けて平気でいられる道理はない。

 しかし、限界とは打ち破るためにあるものだ。

 そして何より、(ツムグ)に期待された以上、応えないわけにはいかない。

 

 その瞬間、ズバットがカッと全身から眩い光を放った。

 光に包まれたズバットのシルエットが徐々に変化していく。

 限界を超えた身体は、次のステージへと押し上げられる。

 

「この光は──!?」

 

 光が収まった時、そこにいたのはズバットではなく。

 

 

「ギギィーッ!!」

 

 

【ゴルバット こうもりポケモン タイプ:毒/飛行】

 

 

「お前、進化したのか……ゴルバットに……!」

 

 大きな翼はより大きく、細長く退化していた足は太く力強いものに。小さかった口もまた大きく発達したものへと変化した。

 そして何より目を引くのは、ズバットの時にはなかった一対の目である。

 

(確か種族値も一気に200くらい上がるんだったよな、超頼もしいぜ……!)

 

 ツムグは先程受け取った”エアカッター”の技マシンをゴルバットに触れさせる。こうすることでポケモンは技マシンに記録された技を覚えることができるのだ。

 

「よし……お前ら、気張っていくぞッ!」

「私達も行くよ、ラルトス!」

 

 気合は十分。三匹の鬨の声を聞いて相手が生きているとわかったのか、それまで沈黙を保っていたワラウコボクが再び動き出す──!

 

 

「ウロロロロロッ……!!」

 

 

 第二ラウンド開始だ。

 

「まずは動きを止める! イーブイ、”でんこうせっか”で翻弄しろ! ゴルバットは援護の”エアカッター”!」

 

 イーブイが素早い動きでワラウコボクの周囲を跳び回り、ヘイトを稼ぐ。ゴルバットの援護射撃もあってか、ワラウコボクは手も足も出せない様子だ。

 

「ウロロロォ──ッ!!」

 

 痺れを切らしたのか、ワラウコボクは再び両腕を頭上に振り上げる大業の構えを取った。

 

 

【ワラウコボクの──】

 

 

 発動前の隙を殺すため、ワラウコボクは周囲に茨のバリケードを生成した。

 これで誰もワラウコボクの大業を止めることはできない。

 既にバリケードの中に侵入している者がいなければ、の話ではあるが。

 

「そうはさせない! ラルトス、”かなしばり”!」

 

 バリケードの中で、ラルトスの目が妖しく光る。

 イーブイとゴルバットが注意を引きつけている間に懐に潜り込んだのだ。

 ”かなしばり”は相手が最後に使った技を封じ込める技。その呪縛からは大業であろうと逃れることはできない。

 

「ウロッ……!?」

 

【ヌシのワラウコボクは かなしばりで れんりぎのおおつちが だせない!】

 

 技を無効化されたことで集中を乱されたのか、茨の壁がひとりでに崩れる。

 

(あれだけ絶大な威力を発揮する大業だ、発動が止められたなら必ず隙が生まれるはず……!)

 

「畳みかけるぞ!」

 

 すぐさまツムグはカレイドバングルのダイヤルを回し、アウルムの秘術を解き放った。

 

「イーブイ、カレイドシフト──”どく”ッ!」

 

 バングルから放たれた光は、毒々しい紫色。

 その光を吸収したイーブイの身体からは毒液が滴り落ち、辺りの草を枯らし始めた。

 

 

【イーブイ≪カレイドシフト≫ しんかポケモン タイプ:ノーマル/≪毒≫】

 

 

「”≪毒の≫スピードスター”と”エアカッター”で弾幕を張れッ!」

「ギィギィーッ!!」

「えっぼおッ!!」

 

 立て続けに放たれた星弾と風刃が硬直して動けないワラウコボクに襲い掛かる。

 それと同時にツムグはワラウコボク目掛けて駆け出した。

 

(この世界に来てから、ずっと考えてたことがある)

 

 全力で走りながら、ツムグはこの世界に来てからの出来事を思い返す。

 ポケモンと出会い、トラブルに巻き込まれる。

 その体験はあまりにも刺激的かつ非日常的で。

 この世界での出来事もまた現実なのだと実感させられた。

 

(きっと、俺は何処かで夢の中にいる気分だったんだろうな)

 

 幼いころから憧れた世界にやってきて、憧れの存在に出会う夢。

 だからこそ「ポケモンは怖い生き物だ」と頭ではわかっていても、理解できていなかった。

 人間よりも遥かに強く、危険な能力を秘めた生物、それがポケモンだ。

 そんなこの世界の人々にとっては極めて初歩的なことに、稀人であるツムグは今の今まで気が付いていなかった。

 それと同時に、彼らがただのデータではなく、心を持っている”生き物”であるということにも。

 

 ──だからこそ。

 

 

(絶対に止めてやる──ワラウコボク(お前)には誰も殺させないッ!!)

 

 

 その手になんでもなおしを握りしめ、ツムグは走った。

 人間が作った回復アイテムはポケモンには扱うことができない。

 とは言え、ワラウコボクの腕の届く範囲全てが必殺の領域。そう簡単には近づくことができない。

 そのためにイーブイとゴルバットの二匹には弾幕を張ってもらう。二匹がヘイトを稼いでいる間に、その隙に接近する作戦。

 だが、数百年以上の時を生きてきたヌシポケモンを相手にそう上手くいくはずもなく。

 

 

「ウロロロロッ──!!」

 

 

 ワラウコボクは駆け寄ってくるツムグを睥睨すると、両腕を地面につけた。

 つい先程にも見た技、”ニードルランス”の構えだ。

 狙いは当然視線の先──ツムグである。

 

「ツムグさんッ、危ない!!」

「マズッ──!?」

 

 元インドアゲーマーの身体能力では咄嗟の回避などできるはずもない。

 足元の草が槍状に伸び、ツムグの心臓を刺し貫く──はずだった。

 

 

「ウロッ……!?」

 

 

 しかし、草の成長は止まり、途中で萎びて枯れ落ちる。

 

 ”ニードルランス”は、発動しなかった。

 

 

「な、何だ……?」

「もふふーん」

 

 聞き覚えのない鳴き声を耳にし、ツムグは咄嗟に振り返った。

 そこにいたのはふわふわの綿毛に覆われた羊の妖精のようなポケモン。その後方には頭を押さえてふらつきながらも指示を出すリコットの姿も見える。

 

(リコット、無事だったのか! で、あそこにいるのはエルフーン……ってことは今のは”アンコール”か……!)

 

 エルフーン、第五世代「ブラックホワイト」で追加された草フェアリータイプの木綿のポケモンだ。

 羊を思わせる可愛らしい見た目なのだが、対戦を嗜むプレイヤーからつけられたあだ名は”緑の悪魔”。

 その由来はエルフーンの持つ特性にある。

 ”いたずらごころ”、ゲーム的に言えば変化技の優先度──これが高い技は使うポケモンの素早さに関係なく先に出すことができる──が+1される特性である。

 ありとあらゆる変化技を先制で出せるというのは、こと対戦において非常に強力な効果だ。

 今回使ったであろう”アンコール”は相手が最後に使用した技を繰り返し使わせる技。つまりワラウコボクは最後に使った”れんりぎのおおつち”以外の技を使うことができなくなったということ。

 しかし、”れんりぎのおおつち”は既にラルトスの”かなしばり”によって封じられている。

 この二つの効果が重複したとき、そのポケモンは”わるあがき”をすることしかできない状態に陥り、事前に指示していた技は失敗してしまうのだ。

 

 そうこうしていると、リコットがこちらの視線に気が付いたのか声を張り上げる。

 

「ヌシ様は私達が! ツムグさん、後は貴方に託しました! さあ走ってッ!!」

 

 その声が届いた瞬間、ツムグは弾かれるように走り出した。

 手持ち達が、ミノトが、リコットが繋いだこのバトンを取り落とすわけにはいかない。

 

 

「ウロルルロ──ッ!!」

 

【ヌシのワラウコボクは わるあがきをした!】

 

 

 技を出すことができなくなったワラウコボクは、いよいよすぐそばに近づいてきたツムグを目掛けて無我夢中で腕を振るう。

 しかし、所詮は破れかぶれの攻撃。ツムグに当たることなく勢いあまって周囲の地面を大きく抉り、ただただ反動がワラウコボクに帰ってくるのみだった。

 直後、ワラウコボクに遠距離から星弾や風刃、音波や月光のビームなどの多種多様な技が襲い掛かる。

 

「ロッ……!?」

 

 反動で硬直した隙に叩き込まれたいくつもの攻撃に怯んだその瞬間。

 ツムグがワラウコボクの身体に無針注射器を突き付けた。

 

 

「昼寝の時間は終わりだぜ! 起きろ、ワラウコボクッ!!」

 

 

 間髪入れずに、ツムグは注射器のボタンを押し込んだ。

 高圧で体内に注入することで、薬液は速やかに体の隅々にまで浸透し、その効果を発揮する。

 

 

【ツムグは なんでもなおしを使った!】

 

 

【ヌシのワラウコボクは 目を覚ました!】

 

 




ラルトス ♂ 特性:トレース
ミノトの恐怖心を取り除きたかった。

ズバット→ゴルバット ♀ 特性:せいしんりょく
ツムグの期待に応えたかった。
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