バレンタインにもらったチョコが爆弾だったんだが。   作:佐藤特佐

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少年の視点



チョコレート大爆発

 

 

 僕はトボトボと商店街を歩いていた。街並みは鮮やかに彩られ、多くのカップルが楽しそうに歩き去っていく。

 

 僕は……今年もチョコをもらえなかった。

 

 17年連続でチョコ保有量ゼロ。本命はおろか、義理チョコも友チョコももらえない。でも、まぁ当たり前か。こんな暗くてクズな人間にチョコあげる人なんていないよなぁ。

 

 僕は深いため息を吐くと、気晴らしに公園に足を進めた。公園のベンチで静かに読書をする、それが僕にとって1番気が休まる時間なんだ。

 

 …が、今日の公園は居心地の良い場所ではなかった。見渡す限りカップルカップルカップル…。カップルじゃない人も、嬉しそうに歩いている者ばかり。人生充実してんだろなぁ、くっそ。

「あーーあ、爆発しちまえよ。」

 そう呟いて、隅の方のベンチに腰を下ろした。小説を開き、読み始める。

 

 

「あの……これ…。」

 突然声をかけられ、僕はびっくりして顔を上げる。そこにいたのは、黒いコートに黒い帽子、黒いマスクをつけた黒ずくめの女性だった。あ、別に黒ずくめの組織の一員みたいって言いたいわけじゃないぞ。

 彼女は右手で紙袋を渡してきた。これは……え!?チョコレートの店の紙袋だ!

「ちょっ……チョコレート…!?僕に!?」

 女性の顔は全く見えないが、それでも彼女が少し恥ずかしそうに微笑んでいるのが、僕にはわかった。

「えっ……ありがとう…」

 僕はそれだけ言うのに精一杯だった。マジか、ついにチョコもらう日が来たのか…!義理チョコ、だよな?本命ではないはずだよ…?

 

 そんなことを思案しているうちに、彼女は浅くお辞儀して踵を返した。僕は止めたかったが、あまりの出来事に我を忘れて立ち尽くしていた。

 

 何分立ち尽くしていただろうか。高鳴る胸を押さえつつ、僕はベンチに戻った。顔も名前もわからない、なんでくれたのかもわからない。でも、純粋に嬉しかった。

 中身、どんなチョコだろう。彼女が選んでくれたんだ、どんなのかなぁ。僕はそっと紙袋を開き、上から覗き込んでみた。

 

 その時、僕の心拍数は頂点に達した。心臓の音がうるさい。汗が一気に噴き出す。あまりの光景に、僕は声も出なかった。

 なぜなら、紙袋の中に入っていたのは爆弾だったから。

 

 

 僕は袋を閉じて、深呼吸した。いくらなんでも幻覚はヤバすぎる。チョコもらっただけで幻覚なんて、医者に笑われるぞ。では改めて……オープン!

 袋の中には、相変わらず爆弾があった。テープで巻きつけられた筒が3本束になっていて、そこに数本の動線が接続。その先には電子機器が付けられていて、その液晶にはカウントダウン…05:13、05:12、05:11、05:10…。

 

 え、これあと5分で爆発すんの?やばくね!?

 公園の皆に知れせないと…!でも、僕は声が出なかった。腰を抜かしていたから、だけではない。僕には勇気がなかったんだ。こんな大人数を前に叫ぶなんて、無理ぃ!

 

 もういちど紙袋を覗く。04:59、04:58……着々と進んでゆくカウントダウン!

「むむっ!!」

 その時、僕の目に映ってしまった。3本まとめられた筒状の真ん中の隙間に…お菓子の個包装のような袋がある!あれは……有名チョコレート菓子、ポッキッキーじゃないか!?

 

 なるほど、あの黒ずくめの女は僕に爆弾を解除してチョコをゲットしてほしいんだな。爆弾解除が試練といったところか。なら、やってやるのみ!!人生初のチョコ、見捨ててたまるかぁ!

 僕は懐からスマホを取り出すと、数少ない親友に電話をかけた。

 

04:33、04:32、04:31…。

 

 電話の相手は杉山くんだ。彼はミリタリーオタクで、さまざまな銃器類の模型を買い集めているほどだ。お気に入りはライフル銃だが、爆弾も好きって言ってたな。……こう書くとやばい人っぽいけど、犯罪者ではないぞ。

『うっす、どうした?』

 彼が電話に出た。僕はすぐさま状況を説明する。

「知らない人にチョコもらったんだけど、爆弾がくっついてんだよ!解除の方法を教えてくれ!」

『何言ってんだお前。今日はバレンタイン、嘘つくのはエイプリル・フールだぞ。違いわかるか?俺はわからん。』

「いやほんとなんだって!タイマーあと3分半だけど…。」

『マジ?』

 やっとほんとだってわかってくれたみたいだ。

『爆弾の特徴を詳しく教えてくれ。腕がしなるぜ』

 杉山くんは愛読書の「世界の爆弾大百科」で調べてくれるんだろう、助かる。持つべきものは友とはよく言ったものだ。まぁ「腕がしなる」じゃなくて「腕がなる」だけど。

 

03:01、03:00、02:59…

 

 僕は紙袋を覗き、爆弾の特徴を話し始めた。

「四角い、黒い時計みたいなのからコードが出てる…。時計みたいなのは液晶画面でけっこうしっかりしてるよ。」

『「けっこう」なんて曖昧な表現じゃわからんし!コードはどんなだ?」

 僕はコードに目をやる。3本のコードがそれぞれ筒につながっていた。

『それぞれの起爆線が爆薬につながってるか?』

「うん。」

『じゃぁ爆薬はどんなだ?筒みたいになってるとこだ。』

「封筒みたいな色した筒が3本。」

 

02:24、02:23、02:22…

 

『そりゃ多分ダイナマイトだな。』

 電話の向こうでページをパラパラとめくる音がする。ガサゴソと本を出し入れする音も。今調べてるんだな。

 

02:02、02:01、02:00、01:59……

 

『ごめん、今、ママから数学のテスト隠してた。』

「おまっ、僕のチョコが爆散してもいいんか!?」

『自分が爆死するかもしれんのにチョコの心配とはなぁ』

 正論だ。でも今はチョコ!チョコ!チョコ!チョコのことしか頭にない僕にはノーダメージだ!

 

01:19、01:18、01:17……

 

『よしわかったぞ!コードを全部切れ!』

「OK!ありがとな。」

 それだけ言って僕はスマホをしまうと、急いでコードを切ろうとする。額に汗をかいていた。よく映画とかでもこういうシーンで汗をかくが、僕の場合はチョコを手に入れられることへの興奮の汗だ!グヒヒヒ

 

 ……ん?あ、ハサミ持ってないぞ。どうやって切りゃいいんだ!?興奮の汗は一気に冷たい汗に変わった。

 

 考えろ…考えろ…なんか突破口があるはずだ!the突破○ァイルだったらいいアイデアを思いつくじゃねぇか!僕も突破してやるぅ!!

 

01:03、01:02、01:01、01:00、00:59……

 

 起爆まで1分を切ってしまった。なのにコードを切る方法はいまだ思いつかない。……これは相当マズいんじゃないか?あ、チョコが不味いんじゃないからな。

 

「あっ!!!」

 思いついた。ふふふふふふ、やっぱ僕天才。

 僕はそこら辺に落ちてた石を拾うと、コンクリートの地面に擦り付け始めた。石を研いでナイフみたいにして、それでコードを切るんだ!

 

ゴリゴリゴリゴリ…

 

00:45、00:44、00:43……

 

 僕は原始人に戻ったつもりになって石を研ぎ続ける。原始人の本能よ、甦れ。

 

ゴリゴリゴリゴリ…

 

00:39、00:38、00:37……

 

 ダメだ、とても間に合わん!やっぱり僕は現代人だ、原始人には敵わない。

 僕の額に冷や汗が流れる。このままだと、多くの人を巻き添えに…!と思って周囲を見ると……あれ?誰もいないじゃないか!17時を過ぎたから子供達はみんな帰って、カップル共もディナーにでも行ったんだろう。それとも僕が不審者に見えただけか。

 いずれにせよこれはラッキーだ。僕1人の被害で済むなら、ギリギリまで粘ってやる。人生初のバレンタインチョコを台無しになんてできるかぁ!命に変えてでも食べてやる。

 

00:27、00:26、00:25…

 

「よし、こんくらいなら!」

 僕は研いだ石をコードにあてがった。若干だけど石の切れ味は上がっただろう。若干だけど。

 前後に激しく動かす。コードよ、切れろ切れろ切れろ!!……ダメだっ、導線のカバーのせいで切れない!小学生の頃は指で剥がして遊んでた、あの導線カバーに邪魔されるとは!

 

00:14、00:13、00:12……

 

 もうダメだ。これはもう間に合わない。なら、僕は……僕は…。

 

「チョコと運命を共にしよう。」

 僕は独り言を呟いた。思えば今まで生きてきて、嫌なことばっかりだった。勉強もスポーツもできない、容姿もダメ。人付き合いも下手くそ。こんな僕に生きている資格なんてないんだ。

 

00:10、00:09、00:08…

 

 でも、人生の最後の最後に、夢を見させてもらえた。もう悔いはない。ありがとう神様。

 

00:07、00:06、00:05…

 

 夢と一緒に散れるなんて、なんて幸せな最期なんだろう…

 

00:04、00:03…

 

 僕は爆弾…いや、チョコの入った紙袋を抱き抱えて目を閉じた。

 

00:02、00:01

 

 

 

 身体に強い衝撃が走った。あぁ、これで僕は死ぬんだ。思ったほど痛くなくてよかったな。

 

 

00:00

 

 次の瞬間、強い爆発が僕を襲った。爆風で飛ばされ、その熱を感じる。今度こそ死んだのかな。

 

 

 

 

 身体がズキズキと痛い。あれ、生き延びた……?

 周囲を見渡し、状況を確認する。どうやら僕は誰かに庇われているようだ。でも誰に…?視界いっぱいに広がる黒いコート。

「うっ…助…」

 僕は聞こえるか聞こえないか微妙なくらいの声しか出なかったが、相手には伝わったようだ。その人の、僕の右肩を支える握力が強くなったのをきっかけに、僕は我に帰った。

 

「あっ…ああっ!!僕の初チョコがぁぁぁあぁぁーーーーーーッ!!!」

 ふらふらと立ち上がり、爆発が起きた方を見る。紙袋もチョコもそこにはなく、ただ真っ赤な炎が燃え盛るだけであった。炎の中に消えていく夢に向かって、僕は必死に手を伸ばす。

 

「チョコォォォォォォォォ……」

 

ザッ!

 

 突然、強い力で肩を引き戻された。大きくふらついた僕は、引っ張った人物…黒いコートの…に衝突してしまう。そしてその人物は僕の耳元で囁いた。

 

「またチョコあげるからさ。……本命の。」

 

 綺麗で、透き通った声。僕はコートの人物を初めて直視した。あれ…?爆弾をくれた女性か…?

 意味がわからなかったが、そんなことどうでもよかった。僕は彼女に釘付けになっていた。ショートの黒髪、まっすぐで美しい目。背丈は自分と同じくらいだろうか。服装がよく似合う、カッコいい。一目惚れだった。

 

 近くの自動車に引火し、大炎上する炎をバックに僕たちは見つめあった。炎の照り返しのせいだろうか、彼女の顔が少し赤らんで見えた。

 

 意味わかんないけど、なんか……よかった気がする。

 





次の話は…黒いコートの女性の視点から。
この後すぐ公開。
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