バレンタインにもらったチョコが爆弾だったんだが。   作:佐藤特佐

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なんでこんなことになったんだろう。これは私から見た物語だ。



チョコが爆弾にすり替わった話

 

 私には片想いしている人がいる。高校2年になって同じクラスになった男の子だ。彼はいつも笑顔で、真面目で、頑張り屋さんで……。でも、さすがに疲れちゃったんだろうか、この頃は学校も休みがちだ。

 

 寂しい。以前も別に喋る関係じゃなかったけど、彼を眺めることができなくて寂しい。私はいつのまにかそう感じるようになっていた。この時、初めて自分の気持ちを自覚した。

 

 

 2月14日。バレンタインの日、彼はちゃんと学校に来ていた。私は自然と彼を目で追っていた…。話しかける勇気もないから、こうするしかないんだ。目で追っていたから、私にはわかった。彼は全くモテないってことが。

 

 クラスの女子たちは、気になる男子や仲のいい友達に盛んにチョコを渡していた。でも、私が見た限り彼には誰も渡していない。そして、それにがっかりしているようにも見える。

 一段と暗さを増していく彼を見て決意した。私がチョコをあげよう、と。

 

 

 帰り道で大手のチョコレート店に行くことにした。私には友達がいない。だから1人で。一旦家に帰って、私服に着替えた。街中でクラスメイトに出会したら気まずいから…。自分のお気に入りの黒いコートを着て、黒い帽子とマスクで完全ガードし出発した。

 

 店に入ると、多種多様なチョコレート菓子が陳列されていた。うーん、何がいいかなぁ。話したこともない片思いの相手に、何をあげりゃいいんだろうか。

 ふと、一つの板チョコが目に留まった。『濃厚チョコレート カカオ72%』。濃いめのチョコって美味しいよなぁ。こういうの、好きかな。

 

「お会計は2230円です。」

「現金で…。」

「ご利用ありがとうございました。」

 店を出る。結局板チョコ以外にも色々買ってしまった…。でも、彼が喜んでくれるならいいか。

 片想いの彼が放課後行くところは知っている、近くの公園だ。そこに行って彼を見つけて、そしてこのチョコを……。考えるだけで胸が高鳴る。知らぬ間に早歩きになっていた。

 

 正面から男の人が走ってきた。その手には私のと同じチョコレート店の紙袋が…。珍しいな。

 次の瞬間、私は転んでしまった。慣れない早歩きが災いしたんだ。注意不足だった。さらに不幸なことに、正面から来ていた男の人も、私につまずいて転んでしまった!お、重い!失礼だけど!

 

「すっ、すみません!」

 男の人は私に深々と頭を下げる。

「い、いえいえ私が悪いんです…。私大丈夫ですよ。」

「無事ならよかった。…ちょっと急いでるので、行きますね。すみません。」

 男の人はそう言って去っていってしまった。私は地面に落ちたチョコの紙袋を拾い上げ…何事もなかったかのように公園への歩みを進めた。

 

 

 彼がいる。いつものベンチで小説を読んでいる。なんて小説だ…?『大妖獣江戸を襲撃!』だってさ、なんじゃそりゃ。なるほど、これだからモテないのか。失礼だけど。

 いかんいかん。小説を覗き見しに来たわけじゃない。このチョコを…。

 

 2度、3度ためらった後、私は意を決して彼の目の前に歩み出た。

 

 

「あの、これ……。」

 声を掛けた途端、彼がこちらの想定以上にビクッとした。こっちまでびっくりしちゃうじゃん、やめてよね。まぁ、そういうとこがかわいいんだけどさ。

「ちょっ……チョコレート…!?僕に!?」

 彼は案の定の反応だ。まさか一回も話したことない私からチョコをもらうことになるなんてね。

「えっ……ありがとう…。」

 かわいい!可愛すぎるよっ!戸惑いながら恥ずかしそうに言わないでくれ、チョコじゃなくて私がとろけちゃうよ。私は微笑していたと思う。

 

 彼が固まったのを確認し、ここで次のフェーズへ移行する。長居は無用だ、撤退!あんまり長く立ち話しても好感度下がるだろうから。

 彼が私を呼び止めようとしているのはわかっていたが、あえてそのまま立ち去った。

 

 

 ミッションコンプリート。私はマスクを外し、深呼吸する。やった。彼にチョコレートを渡せたんだ。……そして私も、初めて人にチョコを渡すことができた。

 私は…作り物の私だ。本当はなんというか…もっと自由に生きたい。好きに過ごしたい。でも、今まで家族にも、周囲にも、それを許されなかった。いつも良い子でいることを求められ、模範生徒であることを求められた。だから私は、本当の私を見失っていたんだと思う。頑張り続ける彼を目で追うようになったのも、自分と違うその姿勢によるところだったのかもしれないな。

 

 

 あ。

 

 ちょっと待てよ。彼にチョコ渡す時、私どうしてた?

 黒いコート、黒マスク。一見誰だかわかんないよな。名乗りもせず目的も告げず、袋をただ突きだして…。

 完全に不審者じゃん。そもそも彼は私を知ってるかも怪しいのに、これじゃ誰から貰ったのかわかってない可能性も……!

 

 完全に詰めが甘かった。今からでも彼の元に戻ろう!

 私は来た道をダッシュで引き返した。

 

 

 息を切らして公園に戻ってきた。彼は…まだいる!………何やってんだあれは。チョコの紙袋の中でなんか削ってるような動き…。私はそっと彼の背後5メートルくらいの位置にある植木の後ろに身を隠し、様子を見てみた。

 

「チョコと運命を共にしよう。」

 そんな独り言が聞こえてきた。なんのことじゃい!そう思って目を凝らして見ると……あれれ?

 

 紙袋の中に、爆弾が入っている。

 

 私はなんのことだかさっぱりわからなかった。わからなかったけど…どうやらあと4秒で爆発するらしいということだけはわかった。マジでどんな状況?ヤバいやん。

 

 私は反射的に飛び出して、紙袋を抱く彼に体当たりを喰らわせた。不意打ちで、彼が袋を取り落とす。中を舞う袋の口から、爆弾のタイマーがあと1秒だってのが確認できた。

 咄嗟に彼に覆い被さる。まさか、こんな形で彼に初めて触れることになるとはなぁ。

 

ボォン!!!!

 

 炸裂。彼を抱えたまま、私は爆風で吹き飛ばされた。地面を転がる。痛い…けど、彼だけは、大切な彼だけは傷つけたくない。その一心で、私は彼を離さなかったんだ。

 

「うぅ…助…」

 彼の声。よし、守り切ったぞ。彼の肩を掴んでいる手をより強く握りしめた。

 と、彼がいきなり立ち上がる。そして錯乱したように叫び始めた。

「あっ…ああっ!!僕の初チョコがぁぁぁあぁぁーーーーーーッ!!!」

 いやいや、なぜか知らんけどあれ爆弾だから。どー見ても私があげたチョコじゃないから。彼は炎に向かって手を伸ばしている。危ないから引き止めることにした。

 

 彼の肩を掴み、引き戻すと…力入れすぎちゃったか、彼がよろけて私にぶつかってきた。その顔は、本当に残念がっているように見えて…私は言ってしまった。

「またチョコあげるからさ。本命の。」

 こんな時に何言ってんだろ私。3秒後に自分でも恥ずかしくなってきた。顔が熱い。彼の前で、赤くなってないといいんだけど…。

 

 





次回、3話目はあの人物の視点から。事件の全容が明らかになる…。
2月15日夜に投稿予定。
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