「おお、珍しい」
コモンリープして降り立った場所は、喜びのエリアだった。
一面が草原と花畑に覆われた、高原を思わせる景色。魔物の姿さえなければピクニックでもしてみたいほどの美しい世界である。
感情を暴走させる人は圧倒的に負の想いが多く、こうした前向きな形で発露するパターンは稀だ。
『楽しい。永遠に戦っていたい』
「声漏れてるし。ジナさんの想いの強さが伝わるわ……」
ジナさんの歓喜の声を辿って歩いてゆくと、泉の中央にフラグメントが浮かんでいるのが見えた。
ジナさんのフラグメントは強い波動を放っており、周囲の魔物はそれを壊そうとしているようなのだが、フラグメントそのものがあまりにも強い力を放っているせいで近付けないでいるようだった。
なかなか見ないような光景や現象ばかりでちょっと笑っちゃうんすよね。
「オラ、どいたどいた。フラグメントを壊されたら危ないからな」
ちなみにコモンに存在するフラグメントを壊すと、その人に対してちょっとだけ悪影響が出てしまう。感情を司るフラグメントの本体をポッキリやっちゃうと一発で廃人になりかけるが、ここにあるような末端のフラグメントを一つ失った程度では危急の問題にはならない。
それでも一部とはいえ感情の喪失はよろしくない。なるべく全てのフラグメントを守るべきだというのが、私の持論である。
なので周囲にいる魔物は全部ぶっ殺す! 掃除だ掃除!
「……よし、片付いた」
『セイラ、もっと戦おう! セイラ!』
「はいはい、今やりますんでね。もうちょい待っててね」
ジナさんのフラグメントに触れ、彼女の内から溢れる想いが流れ込んできた。
『全力で戦える。全力で挑んでゆける。私は今、最高に生きている。なんて楽しいんだろう』
「……はは、本当にもう、ジナさんは……」
『セイラ、あんたも少しは楽しめているか?』
「え?」
『私は楽しい。けど、あんたはどうなんだ。少しは、楽しめているといいな。あんたは、セイラは。私たちといても、あまり楽しくない顔をしていることが多いから』
「……そうなのか」
ジナさんにはどうやら、私の内心がちょっとバレているらしい。
隠しているってほどではないが……わかるもんなんだな。
『でも、戦っている時のあんたは楽しそうだ。私との模擬戦でも、魔物との戦いでも。……わかるよ。私たちはきっと、同じなんだろうさ。戦いの中にしか楽しみを見つけられなかった、獣みたいな人間なんだよ』
「……ジナさん」
『良いじゃないか、獣で。今はそれで良いんだ。だって、こんなにも楽しいなら……獣になったって、構いやしないだろう?』
戦うことでしか楽しみを見出せない獣。……ま、そうかもしれない。
内心、それでもいいのだと……思っちゃってるとこはあるしね。
『さあ、剣を構えな。私を見なよ。戦いを始めよう。夜が明けて、朝日が昇るまで……私と一緒に、踊ろうよ。セイラ』
「……こいつ、すっげぇ変態だぜ」
フラグメントにエーテルを注ぎ、暴走を固定化させる。
「けど、そのお誘い……良いじゃないの。テンションバリ上がるわ」
コモンから戻ると、ジナさんはハッとした顔で起き上がった。
槍を再び手の中に生み出して、戦闘態勢を整えている。起き抜けにその構えができるとは、さすがの戦闘狂だな。
「休憩は終わりで良いですね」
「……! はは! わりぃ、ちょっと寝てたみたいだ! 退屈させちまったかな!?」
「まだまだ、付き合ってくれるんでしょう。ジナさん」
「当然……だあっ!」
フラグメントの暴走は収まった。
それでも私たちは再び武器を手に取って、長い長い模擬戦を再開する。
刃を打ち合わせ、蹴り、防ぎ、避け……物騒な戦いの舞いに明け暮れる。
「はぁ、はぁっ……! 楽しいなっ! セイラ!」
「ああ……すっげぇ楽しい」
「今は退屈、してないか?」
「……結構、気に入ってる」
「……そうか!」
ボロボロに傷付いたジナさんは、私の返答を聞いてにっこりと笑った。
「だったら……私、すごく嬉しいよ……」
「おっとっと」
それを最後に、ジナさんの槍は消滅し、倒れ込んでしまった。
思わず駆け寄って支えてやると……彼女は静かな寝息をたてている。疲労もダメージも限界がきてしまったようだ。
暴れるだけ暴れて、あとはぐっすり。わんぱく小僧そのまんまだな……。
「……ありがとう、ジナさん。ちょっとだけ元気もらったよ」
「ん……」
ジナさん自身も戦いたかったのだろうけど、この模擬戦はジナさんなりに私を元気付けたかったのだろう。
その気遣いをもらえたことが、私はかなり嬉しかった。
「今日と明日はゆっくり休んで、傷を癒してくれよ。そんで、また魔物が出てきた時はみんなを頼んだぜ、ジナさん」
戦士長ジナさん。前線に立つ彼女たちを生かすためにも、私自身がもっともっと強くならなくちゃいけないな。
それから数日後。
集落の人々と交流しつつ、魔物を狩るなどして練度を高めていた時のことだった。
ホルダーに入れておいたスマホが鳴り、ダアトさんからの着信を知らせてくれた。経験上、ダアトさんからの発信が退屈な世間話だった試しはない。
「はい、もしもしセイラです」
『ゲブラーとビナーがマルクトによって倒された』
「……ついに、ですか」
『残るはマルクトとネツァク。そして……気をつけるが良い。ネツァクは今、お前たちの特異点を狙っているぞ』
「!」
原種の頂上決戦もいよいよ大詰めだ。
残る敵は二体のみ。マルクトとネツァク。そのうちのネツァクが、今まさに私たちのいる場所を狙っている……。
「了解です。お任せください、ダアトさん」
『勝利を手にしてみせよ』
言われずとも。
……私の肩に全人類の未来がかかっているんだ。どんな手を使ってでも勝ってやるさ。
:セイラ
戦いを娯楽の一つとして楽しんでいる系リフレクター。
根っこの方はインドアな人間なものの、体を動かすバトルは好き。
:ジナ
戦いの中で喜びを見出す系戦闘狂原始人少女。
セイラが普段退屈そうにしているのを知っており、常々なんとかしてやりたいと思っていた。