オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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ネツァク戦

 

 ネツァクという原種はさほど大型ではないらしい。

 イェソドやコクマーのサイズ感にはびっくりしたしそれもあって内心覚悟はしてたけど、そうでもないのであればちょっと安心だ。

 まあ、この世界はエーテルの量や質が大事だから、サイズで強さが決まるわけではないんだろうけどね。現に私はこれまでの原種を倒しているし。ネツァクだって、小さいから弱いなんてことはないのだろう。

 

『みんなで安全な海蝕洞まで避難してるけど……魔物が多い気がする。いつもの枯れ木道が中型に塞がれてて使えないから、爛れ果実の裏道を通って急いでる。セイラ、そっちはどう?』

「私の方は問題なく。原種の到来まではまだもう少しかかりそうです。ミッテナさんの方は、怪我人などは」

『一人足を挫いたくらい。ジナが背負ってるから平気だよ。……っ、うるさいなぁ……はいはい……セイラ、ジナが勝ってこいだって。……あと、アイーダも怪我に気をつけてって』

「ははは……ありがとうとお伝えください」

 

 ネツァクの到来を前に、集落のみんなの避難が始まっている。

 今回の戦いも荒れることが予想されるので、念の為に被害が及び難い場所で隠れることになっていた。もちろん、私は一人だけ迎撃要員だけど。

 

『集落が壊されないといいけど……大丈夫かしら』

「ああ、その辺りは大丈夫だそうです。原種を退けるか倒すなりすれば、影響は確定せず巻戻るらしいので」

『……そう、良かった。頑張ってね、セイラ』

 

 通話が終わる。……まだネツァクは来ないな。

 どうすっかなー、やることねーなー……暇だよー……。

 

「ダアトさんにかけちゃお」

 

 戦いの前だけど、雑談したいからダアトさんに発信する。

 とぅるるるるる……。

 

『どうした、想いを束ねし者よ』

「あ、どうもおはようございます、ダアトさん。いえ、まだネツァクは来ていないのですが、戦いの前にダアトさんとお話したくてですね」

『……ふむ。その扱いにも慣れたようだな』

「スマホですか? ええ、便利ですよね。……ああ、話というのは原種との戦いに関してなのですが。今までの原種もそうでしたけど、終わった後は戦いの跡は綺麗に消え去りましたよね。あれって、仮に私が負けていたらどうなるのでしょう」

『特異点が原種に占領され、奪われる。破壊痕は残り、連中の支配下に置かれたまま、最初からそうであったかのように万人の記憶からも消えるだろう』

「ヒェッ」

 

 思ってたより酷いことになるみたいだった。負けらんねえ……。

 

『だが、それも原種毎の趣向により変わる。ケセドであれば見た目上の変化は少ないが、全てのエーテルが静止し生も死もない空間となるだろう。ティファレトであれば全てが光に包まれたまま、溶かされ一つに混ざり合うこととなる』

「ろくなもんじゃねぇ……え、ちなみにダアトさん、これから来るネツァクは……?」

『奴は簡単だ。滅ぼす。ただそれだけであろう』

 

 滅ぼす。それだけ。……いやそれだけって言われましてもね。十分に大事ですよそれは。励ましになんねぇなこれ。

 

『ネツァクの反応が近い。速度を上げ始めたぞ。……戦いの時だ』

「……ろくなもんじゃない奴が来ましたか。ダアトさん、お話に付き合ってくれてありがとうございます。……じゃあ、仕事に移りますね」

 

 スマホをホルダーに仕舞い、指輪を掲げる。

 

「人の想いよ、私と共に……」

 

 変身。

 肌の色が美白に染まり、盾と剣が手元に現れる。……うん。最近まで特訓を続けていたから、よく手に馴染むな。

 調子は良い。……指輪が激しく明滅し、原種の到来を警告している。

 

 ……来るか、ネツァク。

 

『……!』

 

 空を切り裂く一条の輝きが、ジェット機のような音を立ててやってきた。

 それは私の上空で停止し……この世ならざる威容を、私に見せつけるようにして浮かんでいた。

 

「これが、ネツァク……」

 

 大きさは10m近くだろうか。原種としては今まで見たものの中でも一番小さい。

 だが、その姿はサイズ以上に、美しいものだった。

 

 例えるなら白銀の鎧騎士。真っ当な人型というだけでかなり驚きだったのだが、グロ系統ではなく普通に神々しい姿をしているものだから目を疑ってしまった。

 巨大な翼。高貴なランス。そして美しい盾……。すげぇ。まるでエンジェル・コマンドみてぇだ……。

 

「でもそれさ……ちょっと私とキャラ被ってない?」

 

 美しい。それはいい。私も美しい物は好きだ。

 自分を着飾るのも、飾り付けられるのも結構楽しいと思っている。

 

 だが、お前のその槍と盾のスタイル。ちょっと私と被ってんだよなぁ! 

 

「美しい戦士は一人だけで良い。そうは思わないか、ネツァク」

『……』

 

 私が盾と剣を構えると、ネツァクも同じようにして武器を構えた。

 ダアトさんの話では戦闘狂とのことだ。人型で美しいからといって、話し合いは無理だろう。

 

『ッ!』

 

 それを証明するようにネツァクは空中から槍を突き出し、その先端から結晶を射出してみせた。

 

「ふんっ!」

 

 私はそれを盾で弾き飛ばし、空へ跳躍する。

 エーテルを込めた脚は空中戦も可能にするんだなこれが。相手は有翼、今回の舞台は空で決まりか。

 

「ファースト・ピアッサー!」

『……』

「ま、効かんわな」

 

 ネツァクと同高度に上がって挨拶がわりの遠距離攻撃を放ったが、悠々と盾に塞がれた。まぁこれが当たるようだったら何のための盾だよって感じではある。

 

「! っとと……良い攻撃だ! いいねぇテンション上がっちゃう……!」

 

 ネツァクもまた攻撃を仕掛けてきた。

 背部の翼からエネルギーを噴出させ、槍の乱撃。一発一発が重く、真正面から受けようとすればダメージが貫通しかねないほどだ。

 そして技の冴えも良い。大型だからと雑な力押しはせず、油断なく全力で私を潰そうとしてくる……! 

 

「プリズム・クライシス!」

『!?』

 

 相手を切り裂くことを放棄することで、代わりに対象に輝きの罅割れをもたらす剣技。

 ネツァクのランスチャージに合わせて放ったそれは、ランスにまとわりついたエーテルの結晶を一撃で砕き、剥がしてみせた。

 

「武装に結晶を纏い、威力や防御力を底上げしているな。だがそのくらいじゃ……おっと」

『!』

 

 ネツァクの背部から結晶の追尾弾が射出され、襲いかかってきた。

 追尾性能が高すぎてだるい。剣で払い落とすしかない。

 

「! 器用なやつめ」

 

 で、そんなものを相手してる間にランスの結晶が修復されていた。

 立て直しが早いな。……けど、ネツァクの手札はだいたいわかった。

 

「カレイド・ピテカント!」

『……!』

 

 剣で盾をコツンと叩いてやると、あら不思議。

 私の姿が三体に増えましたとさ。

 

「さあ」

「どれが本物か」

「わかるかな!?」

 

 三体に分かれた私はそれぞれ別の方向からネツァクに襲いかかり、剣を振るう。

 ネツァクは唐突な分裂に一瞬戸惑ったようだが、数の多い相手には同じく数撃てる結晶による攻撃が良いと判断したのだろう。翼をはためかせると、私たち全員に輝く破片をばら撒いてきた。

 

「同じ攻撃が通用するかよ! スパンコール・チャフ!」

『!?』

「三人に勝てるわけないだろ!」

「やっちまえ!」

 

 だが適当なバラマキ攻撃など私のおやつみたいなものだ。

 多少誘導性能があろうとも、宙にばら撒かれたスパンコール・チャフはそれを撹乱してくれる。お前の攻撃なんか当たるわけねぇだろ!

 

『!』

 

 だがチャフをばら撒いた瞬間、銀の破片を撒き散らした個体を見破ったネツァクの動きに迷いはなかった。

 ただ一人だけチャフをばら撒き撹乱した個体。それが本体なのだとして、目にも留まらぬ速さで槍を突き出してきたのだ。

 

「やめッ──」

 

 ランスが私の腹部を貫いた。

 パキッと嫌な音が響き、私の全身に亀裂が入り……砕け散った。

 

「ナイスゥ」

『……!!』

 

 チャフを撒いた奴を狙う。それは賢いと思うぜ。

 けど悪いな、そいつは分身なんだ。分身であっても、チャフ程度の小技は使えるんだよ。さすがにまともな攻撃はできないけどな。

 

 攻撃は……お前の後ろに回り込んだ本体、私のお仕事だ! 

 

「プリズム・クライシス!」

『ガッ……!?』

 

 厄介な結晶射出と飛行性能を持つ翼にまずは一撃! 

 

「かーらーの、ディスコネクト・ボール!」

『……ッ!』

「ありゃ、決まらなかった」

 

 追い討ちで銀ピカボールをぶち当てようとしたのだが、そちらはネツァクの盾に塞がれてしまった。

 しかし弾け散ったディスコネクト・ボールの欠片は周囲にばら撒かれている。

 

 輝く銀片が舞い散る世界。この中でこそ、私は一番強くなれるんだぜ! 

 

「アリュール・アリス! セルフィ・ミラー!」

 

 バフ付与! カウンター付与! 

 

『ォオオオッ!』

「くるか!? そんなんじゃ甘いよ! ファースト・ピアッサー!」

『!?』

 

 通常一直線に伸びる私の突きが、辺りの破片によって軌道を曲げ、ネツァクの盾を迂回しながら胴体に命中した。

 

「プリズム・クライシス!」

『ギッ……!』

「はいそれカウンター、オラァ!」

『ガッ!?』

 

 鏡の舞う世界において、私は無敵だ。

 相手の攻撃は明後日の方向へ飛び、私の攻撃は予期せぬ軌道に曲がって必中する。

 相手の身体を包む力場は減衰し、私の力ばかりが増大し続ける。

 

「カレイド・ピテカント……百八人!」

『ッ……』

 

 分身を作れば馬鹿らしいほどの数になり、それぞれが致命の刃を持って襲いかかる。

 そうなれば、もはやネツァクも技の冴えなど関係なく、暴れ回る他に手段はない。

 近づいてくる私を無差別に槍で突き、盾で殴り、……それでも全ての分身が幻影の剣で切り掛かってくるのを防げるはずもなく……。

 

「幻かい? NO! こっちが本物だァ! プリズム・クライシス!」

『……!!』

 

 容易く本命の一発をぶち当てられる。

 

 翼、槍、胴体、そして頭部……ネツァクの身体に無数の輝くひび割れが走り、脈動している。終わりの時は近い。

 ネツァク、お前はなかなか強かった。けど、私の方が強かったな。

 

『ォオオッ……ォオオオオッ!』

「来るか! セルフィ・ミラー!」

 

 劣勢を悟っても尚、ネツァクは敗走を選ぶことはなかった。いや、敗走は無理だと悟っているのだろう。ならば前のめりに……良いだろう。そういう武人タイプのキャラは嫌いじゃない。

 

『──!!』

 

 ネツァクと盾と槍が合体し、槍に全エネルギーが注がれ、射出される。

 かなりの高エネルギーだが、アリュール・アリスで力を増した今の私であれば十分に盾で捉え切れる! 

 

「その力、お返しするぞ」

『……』

 

 セルフィ・ミラーが鏡の破片となって砕け散り、光弾を取り込みながらネツァクの眼前へと押し寄せる。

 渾身の力で凝集したネツァクの光弾は、既に私の剣身に宿っていた。

 

「リフレクト・カウンター……フラグメント・ミラージュ!」

『ガ……ッ……!』

 

 ネツァクの喉元に突き刺さった銀の剣が砕け散る。

 同時に、ネツァクの身体に走っていた罅割れが光量を増し、派手に爆散した。

 

 

 

「げほっ、げほっ……やりすぎたわ」

 

 あまりにも強い爆発のせいで最後は私も吹き飛ばされてしまったが、跡形も残らずってやつだ。ネツァクはド派手に消滅してしまった。

 

 わりと余裕の撃破である。

 いやー、人型でちゃんとした戦術を練って動く相手って珍しいから結構楽しかったな。ちょいゲーム感覚だったけど、リフレクターの技ありで全力出せるとやっぱ面白いわ。

 

「……てか私、普通に強くなってるな。これが想いの力か……」

 

 正直もうちょっと苦戦すると思っていたので、この楽勝ぶりは意外だった。いや、ある意味でダアトさんの予想通りではあるのだが……ま、勝てるならなんでも良いか。

 

「……次が最後、かぁ」

 

 ネツァクを倒し、残る原種はマルクトのみ。

 

 いや……マルクトと、ダアトさん、か。

 

 ……最後の戦い。マルクトとの決戦の前……多分もうこのタイミングしかねぇよな。

 

 ダアトさんと、腹を割って話すには……。

 

 

 




:セイラ
成長曲線がわりかしバグってる系リフレクター。
ゲームじゃないから仕方ないね。天才のダアトさんが楽勝で勝てるように設計したんだから当然だよなぁ?
けどさすがにそろそろダアトさんの目論見をしっかり確認しなきゃいけないとは思っている。

:ネツァク
第七番目のセフィラ『勝利』を司る原種。
ブルーリフレクション初代における看板モンスターであり、アニメ版である澪でも散々に活躍してくれた。
ビジュアルが良過ぎるのでしょうがないね。

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