オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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アプリが入ってないやん!

 

 スマホに機能を追加したい。

 タイムリープ耐性というか……なんか、そんな感じのやつ……。

 

 が、簡単には言うものの、私の持っているこの赤いスマホ、未だに仕様がよくわかっていない。

 画面をタップして出てくるアプリが通話しかないんよ。その通話も、自動で追加される相手に発信するか、応答するかのみ。相手はダアトさんかミッテナさんの二人しかいない。らくらくスマホだってもうちょっと機能あるだろ! いい加減にしろ! 

 あとは、時々……本当に時々、変なアプリが出てきたり消えたりする。

 数十秒だけ機能するメモ帳とか、短時間だけ機能するアシストライトとか……短い時間で自然消滅してしまう儚いアプリだ。ファイル名も文字化けしているし、明らかに真っ当なものではない。一応、私がこんなのほしいなーって思った時に現れたものたちではあるので、私の想いが反映されているのだとは思う。

 

 だからまあ、私の想いと連動してるスマホ……で、間違いはないんだよな、これ。

 強く念じてやれば、きっと応えてくれるはずなんだ。

 

「うおおお! お願いします! お願いします! ループ耐性ください! 時間の巻き戻しに対抗する機能ください! お願いします! お願いします!」

「……セイラがなんか転がってるんだけど。ジナ、どうしたの、あれ」

「ようミッテナ。私は知らん。セイラは時々ああなってるだろ」

「まぁ時々変なこと口走る人ではあるけど……」

 

 ダアトさんとの話し合いから一日明けた。

 が、まだスマホに機能は追加されていない。昨晩スマホを籾殻枕の下に敷いて寝たにも関わらずだ。

 

「どうしようマルクトきちゃうぅ……! マルクトまだ来ないでぇえ……!」

「……あの、セイラ。どうしたの、さっきから。いや、アイーダは朝からずっとそんな調子だって言ってたけど」

「ああ、ミッテナさん……」

「これでも私は司祭よ。悩みがあるなら、言ってみなさいよ」

 

 ミッテナさんか……正直、この世界の人達に相談してもスマホなんてちんぷんかんぷんだろうから、あえて言ってこなかったけども……現状手詰まりだし、時間もない。相談してみるか。

 

「あの、実はですね……このスマホ、私の想いに応じて新たな力を生み出してくれる……と思ってるんですけど、なかなかその新しいのが出てこなくてですね……参っているんですよ」

「想いに応じて力、か。エーテルのようなものね」

「はい。原理は近いものだとは思うのです」

「へえ、なんだい。セイラもエーテルの扱いに困ることなんてあるんだな。意外だ」

「ふーん……けど、この板からはエーテルは感じないわ。もっと何か別の力とかで、動いているんじゃない」

「エーテルじゃない?」

 

 ミッテナさんは私のスマホを触りながらそう言った。

 彼女が画面をタップしても、特に画面が変わることはない。完全に私専用のタブレットであるらしい。

 

「もしくは、セイラにしか感知できない力で動いてるのかも。これはセイラにしか扱えない道具だし、その方が有力かな」

「私ら戦士でいうところの、主従武器だな。他の奴には扱えない専用武器だ。多分それだろ」

「え、お二人ともなんか詳しいですね……」

「司祭と戦士長よ、エーテルの扱いくらい詳しいに決まってるでしょ。……そりゃ、戦いになったらセイラの力には全然なれないけど」

 

 ミッテナさんが拗ねた。ごめんって。いや、何を怒ってるのかわかってないけど。

 

「主従武器と似たようなものなら、自分の望む扱いを続けていくうちに、武器がその想い通りの力に覚醒してくれるぞ。もちろん、想像できないような力や、身の丈に合わない強大な力なんかは無理だけどな」

「……だとすると、私の想像力が足りていないのでしょうか……」

 

 時間の巻き戻し。まあ、全然わからんよ。今まで原種を倒して何度か巻き戻しを経験してきたことはあるが、まだピンとくるほどではない。

 どうすっかなー私はなー……。

 

「……ま! 落ち込んでたら想いの力も鈍るってもんだ! そんな時は飯食えば良いんだよ、飯! ルーヤンが今朝獲った雄の鎧牛を昼頃捌くって言ってたし、そろそろ行ってみろよ!」

「食事ですか……」

「セイラだったら言えばどの部位でも出してくれるだろ。肝、心臓、胃袋、それに金玉まであるからな」

「金玉まで!? それは貴重だ。行ってこなくちゃ」

 

 悩みは尽きなかったし問題も解決してないが、腹が減ってきた。

 ひとまず腹ごなしすることにしよう。

 

 

 

「あら、セイラじゃない。ちょうど今焼き終わったところよ、好きなの取っていって」

「ウッヒョー。ありがとうございます、ルーヤンさん」

 

 この時代の食事は、規則正しい三食ではない。というより、朝昼夜と決まっているわけではない。言うなれば常に調理し、常に食う。そんな感じでやっている。

 みんなで揃って飯を囲んでいただきますをするのなんて祭りの時くらいのもので、それ以外は料理をする人が焼いて、腹が減った人らが用意された飯を好き勝手食っていくスタイルである。

 基本は肉なので、ケバブを各々削って食っていくようなイメージだろうか。それ以外のものは自然から勝手に拾って食えというフリーダムさだ。私はもう慣れたけど、最初は違和感だらけだったもんだ。

 

「うめ……うめ……」

「おかわりもあるわよー」

 

 私みたいな戦える人間に対しては、こういう料理が結構融通される。好きな部位をくれる感じだ。

 別に私が仕留めた獲物でもないのだが、戦士特権とでもいうのだろうか。掟のように厳格に決まっているルールではないので、緩く受け継がれてきた風習なのだとは思う。これも最初は思うところはあったが、皆嫌な顔せず譲ってくれるのでありがたく頂戴している。

 金玉うめ……うめ……。

 

「ふふ、良い食べっぷり。セイラはお肉だったら美味しそうに食べてくれるから、嬉しいわ」

「もが? ……はい。美味しいです。いつもありがとうございます、ルーヤンさん」

「たくさん食べて、また原種との戦い頑張ってね。……ミッテナが言うには、もう最後になるのでしょう?」

「はい」

 

 原種との戦い。それは集落の人々も理解している。

 ミッテナさんが交信する神、ダアトさんの勝利こそが平和への唯一の道だ。そのために彼らは尖兵たる魔物を倒し、勝ち筋である私のサポートに徹してくれている。……こうして美味い部位を食えるのも、皆の力があってこそだ。

 最後の原種マルクト……絶対に倒さなくちゃな。

 

 あっ、でもマルクト来るのもうちょっとだけ待ってほしいな……まだスマホがね……アプリが手に入ってからじゃないと私が消滅しちゃうから……。

 

「大変だー!」

 

 そんなことを考えていると、村の外から男の声が聞こえてきた。

 斥候だ。何を見つけたのだろう。中型か大型の魔物なら、私が出張った方が早いかな。

 

「みんな、空を……向こうの空を見てくれ! なんだ、あれは……!」

「空……」

「お、おいあれ……なんだあの、輝きは……」

「美しい……けど、不吉な……」

 

 食事を中断して皆の集まる広場に出てみると……私からも見えた。

 遠くの空、真昼だというのに青空を侵食するように広がった紺色の夜空。そして……そこにたなびく、無数のオーロラが。

 

「怖い……とても嫌なエーテルを感じるぞ……」

「原種だ、原種がいるんだ」

「……最後の原種だ……!」

 

 明らかに不自然な天候の変化。

 強大なエーテル反応。ビンビンに輝いて警鐘を鳴らしてくる私の指輪……。

 

 うん……間違いない。

 

 あれこそ私の最後の敵……原種、マルクトであろう。

 

「あらあら……セイラも休む暇がないわね。けど、貴女なら今回の相手も勝てるって、私信じてるから……」

「ちょっ……ちょっと待ってください……! 待って……! ほんともうちょい、あと数日くらいでいいからほんと……!」

「……え、なにその狼狽え方……見ててちょっと不安になるんだけど……」

「いや、勝つには勝てますっ! 勝てますけど、勝ち方が問題といいますか……! いえ、はい、お任せください! マルクトなんてね、私がぶっ殺してやりますよ!」

「あら頼もしい」

 

 スマホをバシバシタップしても全く反応がない。

 参ったすぎる……どうしよう、このままだと……いや、まぁうん、けどな、まぁ……。

 

「……いざとなれば、消えるだけか」

 

 深呼吸し、夜空に向かって歩き始める。

 局所的夜空にはためくオーロラは虹色に輝き、荘厳な気配を漂わせていた。

 

 ……時間がないなら、仕方ない。

 世界が巻き戻って私が消滅するのも、まあ……しょうがない。

 

 私がやらなきゃ誰がやる。誰もやらない。

 だから私がやるしかない。人類が滅亡するより遥かにマシだ。

 

 ……消えたくはねーけどさぁ! ほんっと選択肢がねーんだわ! 

 

「消滅がなんだ。苦しんで死なないだけ百億倍マシだろ。舐めるんじゃねーぞマルクト。てめぇなんざ怖くねぇ」

 

 覚悟完了した。私は消滅を恐れない。

 

 やってやる。

 この人類最強のリフレクター、セイラちゃんが最後の原種もバチボコにしてやるからよ。

 




:セイラ
原種に対抗できる唯一の存在系リフレクター。
自分がやるしかないのはわかりきっているので悩んでもいられない。
金玉料理が好き。こいつ玉とか食べ始めましたよ。
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