オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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記憶リープ! 原種と化した先輩


マルクト戦 2

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 

 

 世界に巨大な鐘の音が鳴り響く。

 それはまるで、戦闘開始のゴングのようだった。

 

『潰します』

「セルフィ・ミラー……ぐッ!?」

 

 マルクトが動き、戦鎚を叩きつけてくる。

 盾で防御。そしてまずは軽く反撃……と思って背後に回ると、それを予期していたかのように戦鎚が振り戻され、私の剣は止められた。驚きだ。セルフィ・ミラーが読まれている。

 

「カレイド・ピテカント……!?」

『見えています』

 

 ならばまずは分身を二体使って様子見、と思ったが、マルクトは分身体など眼中にもない様子で私本体を狙ってくる。

 搦手が効かねぇ。どういうこったよ。

 

「! ッくそ、なんだ、やりにくい」

 

 ならば突きを、と動けばそれを潰すように光弾がやってきたり。

 チャフを撒いて場を整えようとすれば、その隙を狙っていたかのように戦鎚で詰めてくる。

 まるでこちらのコントローラーの入力を読んでいるかのような超速で最善手を打ってきやがる。控えめに言って恐ろしい。

 

 話が違うよダアトさん。マルクトめっちゃつええじゃん。やべぇよやべぇよ……。

 

「……」

『仕切り直しですか。良いでしょう。休憩ついでに、少しお話をしませんか』

 

 格ゲーの天才相手にいいようにやられすぎている。今はそんな状況だ。

 距離を取って作戦を練り直したかったので、マルクトの提案は悪くはなかった。新たな戦術を考える時間が欲しい。

 

 ……けど、なんだ。この違和感は。すげぇ嫌な予感がする。

 

『私はあなたの戦い方を熟知しています。あなたは非常に強力な存在です』

「……どうも」

『ですが、あなたの肉体がさほど頑丈でないことも知っています。私の軽い攻撃が直撃するだけでも、簡単に深手を負う』

「……」

『しかし、そうなってもあなたは諦めない。厄介な切り札を持っていますね』

 

 なんだこの語り口。未来の話のようだ。見てきたかのような言い方をする……。

 いや、まさか。そうか、わかったぞ。

 

『お前、タイムリープしてね?』

「!?」

『あなたは私にそう訊ねました。タイムリープとはなんですか?』

 

 わかった。完全にわかったぞ。

 マルクト。この野郎……どうやってかはわからないが、時間を巻き戻してやがる。

 

 時間停止ではない。もっと凶悪なやつだ。時間を巻き戻して……自分の意識だけを過去に飛ばして、コンティニューしてやがるんだ。そしてTASさんじみたチャートを構築して、私に最善手ばかりを叩きつけていたと。

 く……クソゲーすぎる……! 頭フラウィーかよ……! 

 

『由来はわかりませんが、単語の意味するところは理解できます。あなたは私の力について、正しい推測を立てているでしょう』

「……どうすっかなー……」

『これは百万年前に獲得した私の力です。私は世界の機構に介入し、一部の力と融合を果たしました。原種でもあり、世界の一部でもある。それこそが、あなたの目の前にいる私なのです』

 

 厄介なことになった。このマルクト、過去に意識を飛ばせるからこそ私の動きを読めている。そして、今こうして私との会話に興じているのもただの雑談というわけではない。私との戦いのために、情報収集をしているのだ。

 軽口の一つも叩いてやりたいが、どんな情報を漏らしたら凶と出るか、まるでわかんねぇ……。

 

『深手を負わせた後のあなたの動きは統一性がなく、またエーテルの出力も上がるため、対処が困難になります。なので、この試行方法は見直すことになりました。あなたは一撃で絶命させるしかありません』

「……」

『その方法は現在模索中です。しかし、遠からず手法は確立されるでしょう。結果として、私は百手以内にあなたを追い詰め、一撃で葬ることになります』

「……」

『何故私がこのようなお話をしているか、わかりますか』

「……強者の余裕、ってやつか?」

『違います。提案です』

 

 マルクトは戦鎚を地面に手放し、無防備に両腕を広げた。

 

『改めて、自死を選んでください』

「……」

『いずれあなたは敗北します。これは避けられない確定した未来です。しかし、そのための模索は無駄な過程です。あなたが自死することが最も有意義なのです』

「……はぁー……どうせ自分が勝つんだから、私にさっさと死んでくれってか?」

『その通りです』

 

 マルクトは既に戦いを消化試合だと認識している。だから、面倒だからさっさと諦めて死んでくれと言ってるわけだ。……身勝手もここまでくると腹も立たねぇな。いや、腹は立つわ。普通にムカつく……(静かな怒り)

 今マルクトがこうして無防備な体勢でいるのも、私が仕留めようとしたところで無駄だからなのだろう。時間の巻き戻しは、それだけ即座に発動するのだ。阻止は……難しいんだろうな。

 

 ……舐めプ、か。

 いや、待てよ。時間の巻き戻し……ってことは、私のスマホがあれば……。

 

「ちょいと失礼」

『それは、散逸した欠片ですね。ダアト。手癖の悪い原種です。しかし、問題にはなりません。その欠片を含め、私は再び全ての欠片を収拾し、根幹を修繕します。私そのものを始原の力に組み込んだ上で亀裂を封じ、真に世界を管理する存在となるのです』

「もう勝った気でいるのかよ……言ってろ」

 

 電波な演説を始めたマルクトをよそに、赤いスマホをいじる。

 ……もし私がマルクトに勝てるとしたら、これしかない。

 

 時間の巻き戻しへの耐性。マルクト戦に至るまで身につけることのできなかった機能を目覚めさせる……それだけが、私の勝ち筋だ。

 

 まさか自分が消滅するかどうかの悩みが、そもそもマルクトに勝てるかどうかの悩みに変わるなんてな……けど、どちらも解決方法は同じだった。

 

「頼むよ。どうか……力に目覚めてくれ。マルクトを倒すだけの力を、私に与えてくれ」

『欠片に願っているのですか。無意味です』

 

 耳に当てたスマホから、マルクトの声が返ってくる。割り込みやがって。私が声を届けたい相手はお前じゃないんだよ。

 

「……世界の根幹だかなんだか知らねぇけどさ。世界ってのはそれで良いのかよ。あんな老いぼれた野郎に乗っ取られたままで、お前はまともだって言えるのか」

『無駄な試みを』

「これからもマルクトは世界に侵食していくつもりだろ。許して良いのか、あんたは。いや、世界とやらに意志があるかどうかは知らんけどさ。あの野郎はバグだろ。それでいいのかよ」

『世界の機構に意志はありません。機構を動かせるのは、歯車に対する瞬間的な大流量のエーテルのみ』

「私がバグ取りしてやるって言ってんだよ! 聞いてんならさっさと力をよこしやがれ! このクソ運営!」

『世界はそのような──』

 

 

 ピロン。

 

 私のスマホが鳴り、新たなアプリがインストールされた。

 

 

『……何の音ですか?』

「……はは、言ってみるもんだな」

『今の音は何だったのかと聞いています』

 

 画面を見ると、通話アプリの横に新たなアイコンが表示されていた。

 時計のマーク。……時計アプリだ。

 

「アラーム、セット。……おお、良いね。音声認識とはありがたい。サンキュー世界。ちょっと見直したわ。キスしてあげる。んーっ、チュッ」

『まさか。人間ごときが。コモンに群がるただの駒ごときが。世界の機構を動かしたとでもいうのですか』

「よう、マルクト。セーブ&ロードを繰り返すオワタ式バトルは億劫だったろ。もうその必要もないぞ」

『あってはならない。あり得てはならない。生ける駒でしかない人間が、原種を超えるなど』

 

 マルクトは額を押さえてふらふらとよろめき、私から距離を取った。

 ……ああ、それか。額についたサークレットに見えるソレ。

 

 しかし注視すれば、それが歯車でできていることがわかる。

 マルクトの歯車が動き出し、ガチャリと音を立てた。

 

『阻止しなければ。やり直さなければ。この流れは、あってはならない』

「そうかい」

 

 世界に赤い光が溢れ、景色が巻き戻されてゆく。

 

 

 

 

 

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 

 

 世界に巨大な鐘の音が鳴り響く。

 それはまるで、戦闘開始のゴングのようだった。

 

『……長い戦いに、なるでしょう。その上で、あなたは確実に抹消します』

 

 

 ジリリリリリリ。

 

 私のスマホから、ベルの音が鳴り響く。

 それはまさに、目覚まし時計そのものだった。

 

「さて、それはどうかな」

 

 私はスマホのアラームを止め……マルクトを見て、笑ってやった。

 

「私のオワタ式バトルは、そう長引かないと思うぜ?」

『……!』

「さあ……マルクト君解体ショーの始まりや」

『下等生物め』

 

 

 行くぞ。ここからが、真の戦闘開始だ。

 

 

 




:セイラ
時間操作耐性を獲得した最強リフレクター。
時間停止、時間遡行の影響に強く抵抗することができる。

:マルクト
意識を過去に戻すことのできる原種。
TASで地道に追記しまくってたのに途中でルールがマストダイRTAに切り替わった。
かわいそう(小並感)
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