マルクトは時を巻き戻せる。おそらく、奴が指を鳴らして鐘のような音が響いたあのタイミングだろう。感覚としてはセーブとロードに近い。
セーブとロードの能力があったら、格上の相手とどう戦っていくか? それはもう、パターンの構築一択だろう。同じ動きをしてくる相手に対し、何度も試行を繰り返して最善手を積み上げ、圧倒する。それが堅実な道のりだ。
だがもはや、私が同じパターンを繰り返すことはない。私もマルクト同様に意識を過去に巻き戻すことができるようになったからだ。奴が何を試行錯誤しようとも、こちらも同じように試行錯誤できる。マルクトの優位性は完全に潰えたと言って良い。
「今までの私は、多分あれだな。随分と堅実に、お行儀良く戦っていたんだろう」
『……』
「ま、ラストバトルだし本気にもなるさ。……けどお前はそんな戦法は見飽きただろ」
私が何回、このマルクトと戦ってきたのかは知らない。だが本気ではあったはずだ。最後の原種だし、真面目に戦ってきたと思う。
だから既にマルクトは、私の真っ当な戦法を完璧に知り尽くしている……そう考えていいはずだ。
だから今から私は、ふざけ倒してやる。
「見せてやるよ。幻想に舞う私の剣を」
『勝機は残っています。あなたに致命打を与える。その決着法に変わりはありません』
「私の幻想を見破れるかな」
私は盾と剣を打ち鳴らした。
「カレイド・ピテカント」
「まずは三人」
「本物はどれかな」
分身を生成。さて、始めるか。
『私には見えています』
直後、急接近したマルクトが戦鎚を叩き下ろした。
一体の私が砕け散り、消滅する。そう、それは偽物だ。
『……!』
「私の分身の癖を覚えていたわけだ。ま、ある程度は私好みの潜伏の仕方もあるからな。パターンを覚えられたらちょっと弱い」
『この程度で……』
「カレイド・ピテカント」
再び分身。今度は残ったもう片方の分身体も使っての発動だ。
合計六体……さあ、もうわからないだろう?
「スパンコール・チャフ!」
「カレイド・ピテカント!」
『っ……』
「まだまだ、ほらこっちだよ。スパンコール・チャフ!」
「カレイド・ピテカント!」
『こ、これは』
分身体と共にマルクトの周囲を跳び回りながら、分身とチャフのバラマキを繰り返していく。
銀色に煌めく空間の中で、私の幻影が増え続ける。だが、攻撃は仕掛けない。ただマルクトを小馬鹿にするように、ただただ増殖と翻弄を続ける。
『全てを潰せば、それで終わりでしょう』
「うおっ」
やがてマルクトは戦鎚を大振りにすることで、手当たり次第に私の幻影を潰すことを選んだ。
細かなガラスが砕ける音と共に私の幻影が消えていくが、些細なものだ。減ったら減っただけ作ればいい。
「プリズム・クライシス!」
『……!? なに、これは』
「素振りだよ。この技もまあ見てるか」
「本体はこっちだ! プリズム・クライシス!」
『!』
「嘘だよ。キラリティ・キラー!」
「本当はこっちだ! ファースト・ピアッサー!」
「スパンコール・チャフ!」
「おいおいバフ積んじゃうよ? アリュール・アリス!」
「カレイド・ピテカント!」
「プリズム・クライシス!」
「邪剣“夜”!」
「スパンコール・チャフ!」
技名の虚偽宣言と、力も何も込めていないただの空振り。
その中にごくごく僅かな本物の発動を織り交ぜつつ、マルクトを翻弄してゆく。
マルクトも慌ただしく私の幻影を叩いているが、見るからに動きにキレがない。何を優先すべきかわからないのだ。
「もらった! プリズム・クライシス!」
『……!』
「お」
真正面から一人、マルクトの額目掛けて剣を振りかぶった分身が迎撃された。
剣が届く前に戦鎚の一撃を受けた私は、呆気なく砕けて消滅してしまう。
だが。
「必死すぎワロタ」
『……』
「わかってはいたけど、弱点はそこか」
「額の歯車」
「それを壊したら、どうなるんだろうな」
『くっ』
「全員で狙っちまえ!」
『これは、形勢が……』
それぞれが好き勝手に動いていた分身達が、今度は一つの意志を持ってマルクトに襲いかかる。
狙いは額の歯車ただ一点!
九十九人で翻弄し、一人の本命でケリをつける!
『させるものか』
「お?」
マルクトの歯車が回る。おいおい。
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
そして鐘が鳴る。
ジリリリリリリ。
アラームが響く。
時間の巻き戻しだ。まさか一撃すら貰わずにロードするなんてな。リセマラか?
『もはや、早期決着しかない』
「はは! そんなに分身が嫌いかよ! 逃げ腰が過ぎるんじゃねぇのか!? マルクトさんよ!」
『なんとでも言えばいいでしょう。私は勝利し、次の百万年を手に入れる』
私に好き勝手やらせることの不利を理解したマルクトは、巻き戻し直後から激しい攻勢に出た。
戦鎚を振るい、私が何かする前に真正面から決着をつける。そんな戦い方だ。
『ここは私の世界。私こそが管理者。負けるわけにはいかない。力を手放すわけにはいかない』
「お前は負けるんだよ、マルクト。次の神はお前じゃない」
盾でマルクトの戦鎚を防ぎ、弾く。
覚悟さえ決まっていれば、剣や盾で受けることも無理ではないな。やはりマルクトはそこまで強くはない。
『私が唯一絶対の神です』
「!」
強大なエーテル反応。マルクトの持つほぼ全てのエーテルが凝集し、戦鎚に込められ……振り下ろされた。
「あっぶぇ」
直撃はしなかった。サッと回避し、空中に飛んでやればそれだけで避けられる一撃だった。……だが大地には、巨大なクレーターができている。当たったら盾で防いでも死んでたな。
だが、額がガラ空きだぜ!
「プリズム・クライシス……!」
『遅いです』
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
ジリリリリリリ。
「全身全霊の一撃を放ってすぐに巻き戻しかよ。お祈りブッパ戦法とは恐れ入るわ」
『どんな手を使ってでも、あなたを倒す』
「汚いですね……これは汚い」
『勝てばいい。それが、我々の戦いです』
「矜持を失った神は神ではないな」
『勝つためならば、どのような誹りでも』
再び戦鎚を手に、マルクトが襲いかかってくる。
今度は最初からエーテルの消耗など気にしないような全力の急襲だ。原種とはいえ三分も持たないであろう、乱暴なエーテルの出力。マルクトはもはやそこにしか勝機がないと悟っているのだ。
『潰れてください』
だが、巨大な力はリフレクターにとって反撃のチャンス。
相手が力を込めて攻撃してくるとわかっているのであれば、それを利用してやればいい。
「リフレクト・カウンター!」
『な──』
プラチナの盾が巨大なバリアを生み、戦鎚を受け止める。
「パリィ」
『馬鹿な』
強大な反撃のエーテルは、そのまま戦鎚を吹き飛ばし、消滅させた。
全身全霊の一撃は、簡単には防げない。
ならばどうするか。私も全身全霊の力を込めて跳ね返してやればいいのだ。
私は最強のリフレクター。全力を出せば、マルクトに敵わないはずもない。
私にセーブやロードはできない。だからこんな戦法はリスクしかないが……だからこそ、相手の意表は突ける。
『何故そんな捨て身の防御を、』
「プリズム・クライシス」
『ガッ……!?』
「命懸けだからさ。人間は、いつだって」
白銀の剣がマルクトの額の歯車に直撃し、輝くヒビを入れた。
マルクトは時を巻き戻そうと動かすが……クラックの入った歯車はもはや、動くことはなかった。
「限りある命だからこそ、人は強い想いを抱き、そして立ち向かえる」
『時が、私の時が!』
「人の想いの輝きよ。空をも穿つ橋となれ……」
頭を抱え悶えるマルクトに、白銀の剣を構える。
さあ、終焉の時だ。
百万年続いたお前の王国は、今日ここで幻想に消える。
「フラグメント・ミラージュ!」
『あああああ!』
白銀の剣は一閃と共に砕け散り、マルクトの頭部に根差した歯車は鮮やかに炸裂した。
『ダアトォオオオオッ!』
マルクトは輝きの中に呑まれ……粒子となって消えていった。
「……終わった」
戦いの場を包んでいたオーロラは消滅し、夜空も見えなくなった。
長い間戦っていたような気もするが……空は昼。考えてみれば、巻き戻した直後は一瞬で決着をつけたのだから、時間としては数分しか経っていないのだろう。
周りから見たら、最終戦だというのに呆気ない終わりに感じるのかもしれない。……実際は結構やばかったんだけどさ。
でも、勝った。私の、私達人類の勝利だ。
「やっと……戦いが、終わったんやな……」
マルクト撃破。もう他に敵は無し!
終わり! 平定!
:セイラ
ダアト、そしてコモンを勝利に導いた最初のリフレクター。
セーブ&ロードを駆使するひでをも討伐し、地球上にはもはや彼女の敵はいない。
:マルクト
マルクトマルクト敗北者