オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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時空の狭間

 

『見事であった。セイラよ』

「ダアトさん」

 

 暫しスマホを眺めながらぼんやりしていたら、青空に暗雲が立ち込め、そこからダアトさんが舞い降りてきた。

 どう見てもラスボスである。既に私はダアトさんを疑ってはいないが、頭の中に連戦という言葉が浮かんでしまう。完全にビジュアルが悪い。

 

『マルクトをも瞬時に仕留めるその力……やはり、人間の想いの力は素晴らしい』

「いやぁ、マルクトは強敵でしたね……ダアトさんが思っている以上に、奴は厄介でしたよ」

『その厄介な原種を、セイラ。お前は容易く退けてみせたのだ』

 

 いやだから容易くはないって。と言っても、ダアトさんには見えていなかったのだろう。

 時を巻き戻してやり直す。そんなマルクトの能力すらも、ダアトさんは把握していなかったのかもしれない。

 

『残る原種は我のみ。さて……強大な力を持つお前であれば、最後の原種たる我さえも退けることは可能だが?』

「いやいや、何言ってるんですか……私がダアトさんを? やるわけないでしょう、そんなこと。その後どうしろっていうんですか」

『勝者なき世界がどう変遷するのか。その一点においては我も興味がある』

「興味本位でヤベェ提案しないでくださいよ……これから百万年、人類の守護者として頑張ってください」

『……ふ、そうか』

 

 相変わらず好奇心旺盛な神様だ。

 けどそんな軽い気持ちで人類の未来を不安定にしてもらっちゃ困る。

 百万年後の世界がどうなっているのかは知らないが、良い未来を築き上げてくれよなー。頼むよー。

 

「あっそうだ。ダアトさん、実は私、時間操作耐性を身に付けたみたいなんですよ」

『ほう』

「戦いの最中に覚醒しましてね。だから上手くすれば多分……また、皆さんと一緒にいられるかも。まあ、成功率は五割あるかないかくらいですけど」

 

 スマホに追加された時計機能。

 今の所こいつはアラームによって私の意識に巻き戻り耐性を与えてくれたが、それ以上のロールバックに耐えられるかどうかがまだわかっていない。

 

 ひょっとすると、この時計機能ではダメなのかもしれん。けど、それはそれでよかった。

 マルクトを倒した私は、今ここで消えてもまぁいいかというくらいには、満足していたから。

 

『時の流れにすら耐える、か。我ながら、最高傑作を生み出してしまったものだ』

「あはは、お褒めに預かり光栄です。……いや、実際どうなんだろな。耐えられなかったらこの流れ、ちょっと恥ずかしいな」

 

 辺りの景色が震え、歪む。

 砂嵐のようにノイズが走り……世界の輪郭があやふやになり始めた。

 これは……。

 

『勝者は決定した。管理者を定める戦いは終わり、時は戦いの前にまで遡る』

「……いよいよですか。ではダアトさん、お疲れ様でした。そしてこれからの百万年、どうぞよろしくお願い致します」

『承った。セイラよ。想いを束ねし者よ。お前を創り出せたことに、感謝しよう』

「こちらこそですよ。ありがとうございます、本当に」

 

 世界の形が崩れ、動き、激しい濁流となって流れてゆく。

 

 ……時の逆行が始まったようだ。

 

 さて、これで私が消滅せずに耐えられるかどうかは……賭けになるな。

 

「こえー……」

 

 さっきはちょっと格好良いことを言ったが、いざとなると不安だ。

 このまま消滅してしまうのか、それとも永遠にこういう感じの空間に囚われてしまうのか……最悪を考え出すと止まらない。

 どうせ消えたりするのであれば、痛くないのが良いな……いや、やっぱ生きてぇな……。

 

『とぅるるるるるる』

「……ん?」

 

 流れゆくノイズの世界でぼーっとしていると、スマホが鳴った。いや、鳴ったというより着信音っぽい感じで鳴いた。

 

『ガチャ。……よう、レズの姉ちゃん』

「……別にレズではないけど。誰だ、お前」

 

 通話だ。しかもこの声は……どういうわけか、私の声だった。

 

『セイラだよ。セイラ。未来の私、いや、未来のお前だ』

「……未来からの電話ね。果たして本当かな。さっきマルクトと戦ったばかりで、時間を操るタイプの敵は警戒しているんだ。本当にお前は私なのか。信用できないな」

『話が進まないだろ。どうすれば信用してもらえるんだよ。言ってみな』

「……この辺に」

『ラーメン屋の屋台』

「まずウチさぁ」

『屋上あんだけど』

「スズメバチには」

『気を付けよう』

「……わかった。どうやらお前は本当に未来から来た私のようだな」

『信じてもらえて何よりだよ』

 

 間違いない。この口振りは紛れもなく未来の私だ。

 少なくとも未来の知識を持っていることは間違いない。

 

『これは案内の通話だ。今まさに道に迷っているお前を正しいルートに進ませるのが私の役目』

「正しいルートねぇ。ここはどこなんだ?」

『時空の狭間かなぁ。いや、私も詳しくはないんだよ。今のお前はその赤いスマホのおかげで時空の狭間に留まれているのは確かだけどさ。そいつの時計機能が無かったら多分、そのまま流されて消滅してただろうな』

「こっわ」

『そっちのスマホ、マップアプリが追加されてると思うから、それ開いてみ。その青いルートを歩いていけば、正しいルートで来れると思う』

「……建物も何もないくせにルートがグチャグチャなんですがそれは」

 

 追加アプリがあった。マップ……GPS機能付きの地図アプリっぽくはあるのだが、周囲がノイズだらけなせいか何もない。ただ画面のあちこちに進行指示の矢印が走っている。

 

『まあ一応それ通りに来いよ。私もそうしたし。変な動きしてよくわからない現象が起きたら嫌だろ』

「それはそう。あーめんどくせーマジで」

『歩いてる間に一通り疑問に思っているだろうことを説明しとくな』

「お、助かる」

 

 ナビの指示通りに虚空を歩きながら、もう一人の私の声に耳を傾ける。

 

『これから向かうのは世界の機構だ。マルクトが手を出して、時間操作能力を手に入れたやつな。その大元がある場所に向かってる』

「え、なんで」

『知らん。けど多分、スマホに願ったからじゃない? マルクトと戦ってる時に力よこせって言ったじゃん。で実際にもらえたわけだけど、世界の機構はその対価を要求してる……気がする』

「……曖昧だなぁ」

『憶測だからなー。世界の機構っつっても何か喋るわけでもないし。ああ、こっちに来たらちょっとした仕事をすることになるから。歯車にこびり付いたマルクトっぽい植物片の掃除な。それが終わらないと出してもらえないんだよ』

「ええ……私掃除のために呼ばれたの?」

『ぽいよ。まぁ頑張れ。ちょい面倒なだけで辛くはないから』

「これから裏ダン始まりますよみたいな雰囲気してんのに」

『わかる』

 

 マルクトは世界の根幹に近づき、手に入れようとした。

 だがそれは不完全なもので、時間操作という部分的な力こそ手に入れたものの、世界の機構を悪戯に傷つけてしまったという……まあ、あまりスマートじゃない結果に終わったわけだ。

 私はその尻拭いをしにいくと。マルクトてめぇ……。いやまあ、おかげでこうしてギリ消滅してないから私としては感謝の気持ちはあるんだが。

 

「でさ」

『うん、なに』

「私って、元の時間に戻れるの?」

『……』

「戻れ……ないのか」

 

 ダメなのか。マジか。

 

 ……アイーダさん、ミッテナさん、ジナさん……もうみんなと会えないのか。

 

『いや、理論上は……戻れるっぽい……』

「えっまじで!? なにさっきの駄目そうなタメは!?」

『いや理論上! 理論上な! ……いや説明が難しいなこれ……うーん……』

「歯切れ悪っ」

『あーっとね……ほら、掃除が終わるとさ。アプリに変化が出てくるのよ。時計に項目が増えてさ、アラームが追加されるんだけど。それを設定すると、元の地球に戻れるらしいんだよね』

「おお、戻れるんじゃん」

『しかも年月とか日付とか時間を入力してさ、その時間通りに戻れるんよ』

「おお……おおお……?」

『ミッテナさんたちの居た時代……何年かなんてわかんないじゃん?』

 

 ……任意の時間に戻れはする。

 しかし……肝心のいつなのかがわからない……! 

 

 私は今まで何時代にいたんだ……。いや、ざっくりわかったとしても細かい年月なんざ調べようもないぞこんなの。

 

 悲報。私、もう戻れない。

 

『だから、まぁ……元いた時代には戻れないってこと』

「……みんなと、もう会えないなんて……そんな……そんなことって……」

『けど西暦2000年以降には戻れるよ』

「よっしゃ! だったらまぁいいか!」

『ですよねー』

 

 朗報。私、情報化社会に帰れる! やったね! 

 

『私も掃除終わってさ、今からまさにその西暦時代に行っちゃうわけなんですよ。この電話はその前の引き継ぎってわけ』

「あっ、ずるいぞ」

『働いたから良いんだよ。お先に失礼しまーす』

「くそ、羨ましい……あ、ちなみにこれ掃除ってどのくらいかかる?」

『えー? 数日くらい? 場所が面倒なのもあるからなー。けど、やる場所は案内してくれる魔物みたいなのがいるから、そいつらに従えば大丈夫だから。お前は掃除してればいいよ』

「案外すぐに終わるのか……ラスボス倒した後に掃除してエンドロールってなんか斬新だな」

『わかる』

 

 やがてマップに表示された矢印も最後まで歩き尽くし、ノイズの世界の目的地へと辿り着いた。

 砂嵐の中にぽっかりと穴が空いている。ここが入り口なのだろう。

 

「入り口についたよ。……入り口だよな?」

『よし。じゃあもう通話は終わりでいいな。……最後、出る時にはちゃんと私みたいに引き継ぎするんだぞ』

「わかってるよ」

『しっかり頼むよ。最初の私はノーヒントでだいぶ苦労したって噂だからな』

「ウケる」

『それな』

 

 自分との通話というのも不思議だが、波長は合う。なかなか楽しかった。

 

『じゃ』

「はいよ、じゃ」

 

 そうして私は通話を切り……目の前の穴を見据えた。

 

「……しかし、掃除かぁ。マルクトも完全にバグ扱いだったんだな……」

 

 とりあえず、作業に入りますかね……。

 

 




:セイラ
ダアト、そしてコモンを勝利に導いたリフレクター。
世界の機構により招待され、時計アプリをもらった報酬として施設内のバグ取りを要求される。
消滅するよりは……ままええか……。
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