オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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一章終わりでスゥウウウ…


百万年後の世界にて

 

 世界の管理者を決める原種の戦いが終わり、世界の時は巻き戻された。

 本来なら私はその時の流れによって消滅するはずだったのだが……どうにかあと一歩のところで留まることができたらしい。

 アイーダさん。ミッテナさん。ジナさん。集落のみんなに会えないのは悲しいけれど……私が存在したという記憶も彼女たちの中から消え去るのであれば、むしろその方が良いのかもしれない。

 最初から私はいなかった。うん、それでいい。……きっとそれが、一番悲しくない終わり方だと思うから。

 

 ……しんみりしちゃったな。

 

「今は感傷に浸っていられるほど、落ち着いていられる状況でもないか」

 

 さて。正直内心ではまだまだ整理のつかない部分があるけれども……今は、眼の前に広がるこの景色をどうにかしないとな。

 

「世界の機構なんて呼び方をしていたから、ある程度はイメージしてたけども……まさかスチームパンク寄りだとは」

 

 時空の狭間から穴を抜けてたどり着いた先は、広大な機械仕掛けの空間だった。

 施設……と呼ぶには果てがない。人工的なタイルの床と、シャフト、歯車、パイプ……それらが無数に組み合わさった、無限に続いているかのように思える異空間。

 どうやらここが、世界を司る機構らしい。

 

「シミュレーション仮説的なやつか……? それか機械仕掛けの神的な……まぁいいや。私のやることは掃除だけだ」

 

 雰囲気はまさにラスダンのそれだが、敵の姿は見えない。

 私一人だけの足音がカツカツと虚しく響いている。

 

 これじゃあまりにも寂しいな……と思っていたのだが。

 

「お」

『……』

 

 広大な機械仕掛けの世界の上の方から、一体の魔物が舞い降りてきた。

 黄銅や宝石をあしらったような質感の、彫像めいた美しさのある、人型の魔物だ。

 マネキンのように表情のないそいつは私の前で停止すると、恭しく手を差し伸べてきた。……攻撃ではないようだが。

 

「……これは……指輪?」

『……』

 

 マネキンの魔物から手渡されたのは、赤銅色の指輪だった。私が身につけているリフレクターの指輪と同じようなデザインである。

 

「ひょっとしてこれ着けてないと危なかったりしますか?」

『……』

 

 頷いた。どうやらそうらしい。

 世界の機構の中では私は異物扱いなのだろう。暫くの間掃除をするにしても、こういった入館証のようなものがないと駄目なのかもしれない。

 

「ありがたくいただいていきますね。電話の話ではあなたが道案内をしてくれるとのことでしたが……」

『……』

「こっちについてこいと。なるほど」

 

 それからは特筆すべきことは何もない。

 浮遊しながら道案内するマネキンの後を追い、この無限に続くかのような広い世界を進んでいくだけ。

 

 まあ、無口な案内人についていくだけではあるんだけども、巨大な箱型の床が動いてエレベーターのような役割を果たしていたり、あるいはシャフトに乗って遠く離れた場所にまで運ばれたりと、ちょっとしたアトラクションのような地形が多くて飽きは来ない。

 この空間で数日ほど掃除に勤しむらしいけど、そこまで退屈はしなさそうだ。

 

 ……というかさっきから大分下の方に降りていってるけど、大丈夫なのかこれ。

 

『……』

「あ、ひょっとしてこれか……? いや、完全にこれっぽいな……」

 

 やがて案内人が行き着いた先は、空間の中でもかなり下に降りていった先の壁面にあった。

 銅のような色合いの壁面には枯れた樹木のような組織が張り付いており、蔦のように長く伸びている。

 ……よく見ると、壁面の一部に穴を開けてそこから侵入してきたものらしい。

 

 枯れ木の質感からしてマルクト由来の物で間違いはないだろう。

 マルクトがどうやって時間停止の力を手に入れたのかはわからないが、これを見る限り……すっげぇ力技だったのかもしれない。

 

 まぁそれはそれとして、さっさと掃除だ。

 と、普通に蔦に手をかけてみたのだがビクともしない。……硬い。私の怪力で殴ってみても傷一つつかないあたり、ただの枯れ木ではないな。マルクトの影響下から離れても尚、原種の力を持っているということなのだろう。

 

 やはり、変身するしかないか。

 

「爆砕かけますね」

 

 リフレクターに変身し、剣を振るう。

 

「プリズム・クライシス」

 

 蔦に向かって打撃を一発。すると、蔦全体に白く輝くひび割れが走り……粉々になって消滅した。

 よしよし、これなら楽に掃除できそうだな。

 

『……』

「あ。おーい、ここマルクトの蔦どけて穴開いてますけど、塞いだりは……」

 

 “じゃあ次”と言わんばかりに再び動き始めた案内人のマネキンに声をかけてみたが、反応はない。

 蔦をどかした後の壁面、穴がそのまんまなんだけど……どうやらこいつらはそういう部分にはこだわらないようだ。いいのか? それで……。

 

「気になるんだけどなぁ……うーん……」

 

 試しに穴の部分を覗き込んでみた。

 

「……」

 

 向こう側には、どこまでも濃紺色の空が続いていた。

 

 ……あまりこの空間については、深く考えない方がいいのかもしれない。

 考察したって仕方ないし、掃除に集中しておくか。

 

 

 

 一度やり方を理解したら、後は完全に作業だった。

 ノロノロと道案内してくれるマネキンに追従し、壁面にこびりついたマルクトの破片を片付けるだけ。穴は放置。完全に撤去する専門の業者である。

 

「うわぉ」

 

 中には人一人が通れそうなほどの大穴が空いてしまった部分もあった。

 そこから見下ろす世界はやはりどこまでも空が広がっていて、無いはずの金玉がヒュンヒュンする。やだ怖い……。

 

 そして、時々足場が無いような壁面オンリーの場所の掃除までやらされた。これが結構きつい。

 リフレクターとして飛行や浮遊能力があるからできてるけど、私が空を飛べない系の魔法少女だったら普通に詰んでるポイントだった。

 

「おのれマルクト……死して尚私の手を煩わせるか……」

 

 まぁ、作業そのものは楽だから良いんだけどさ。

 自分でこの蔦を探しながら掃除しろって言われたらマジで気が狂う……けど、案内人がいてくれたのでなんとかなっている。本当にありがたさしかない。

 

 元々、私は睡眠をほとんど取らない人間だ。空腹も、エーテルでかなり誤魔化すことができる。

 なので飲まず食わずにぶっ続けの掃除をしていたのだが、三日目ともなるとさすがに少々しんどくなってきた。

 そのしんどさを感じた辺りで、ちょうど作業は終わったらしい。

 

『……』

「お、もう終わり?」

 

 マネキンは相変わらず無口だったが、最後っぽい蔦を消滅させた後にほんの少し、わずかにだが雰囲気が変わった。

 どこか満足そうに頷いて、それまで下降するばかりだった移動をやめ、空間の上部を目指すシャフトに乗ったのである。

 

「ふむふむ……なるほど。これで私の役目は終わりですね。時計機能には助けられたので、このくらいだったらお安い御用ですよ。なんだったらまた何かあれば、呼んでもらっても良いくらいです」

『……』

「私のスマホが何か? およ」

 

 マネキンが私のスマホを指差すと、新しい機能が追加された。

 いや、機能というよりは連絡先か。……通話相手はセイラ。過去の自分のようだった。

 これが、時空の狭間の私へと通じるものなのだろう。こうしてみると、意外なほどちょっと先の自分から電話が来たんだなぁ。未来の自分っていうほど未来でもない。

 

「そして……ここが。この扉の先が、私の望む時間に繋がっていると?」

『……』

 

 延々と上昇を続けるシャフトがたどり着いた先は、広い部屋だった。

 部屋には一つだけ扉があり、その先は赤い靄で包まれている。

 

「……アラームに新しい項目が増えた。年月と時間を入力できるわけか……お、数字変えると靄がちょっと震えるな。へえ、なるほどねぇ……うん、やっぱ私の元居た年代はわかんねーや。いつ頃だよ……紀元前数千ってレベルじゃないのはわかるが……数万年前? 百年でもズレてたら大惨事だってのに、万年単位で目安がわからん……うん……こりゃ確かに無理だわ……」

 

 どうやら、後はもう時間を設定して扉を潜るだけで良いようだ。

 そうすればこの世界の機構から脱出し、後は……自由になるのだろう。

 

「……先に自分に電話かけておくか」

 

 考えを整理するために、過去の自分に発信する。

 やり取りは私の記憶と同じようなものだ。これからすべきことの引き継ぎをして、軽めの注意事項を伝えるだけ。

 

 通話が終われば、いよいよである。

 

 いよいよ……ではあるが……さて。

 

「西暦……何年くらいに飛ぶ……?」

 

 問題はそれだった。

 ……私の気分次第で結構先の未来も選べるんだよな……それこそ西暦3000年とか……。

 けど自分の全く知らない世界に飛ぶのは嫌だな……便利ではあるんだろうけど。いや、そもそも文明崩壊後の世界になっちゃってる可能性もあるのか。嫌すぎる……。

 

「つーか私の知ってるサブカルがねーと生きていけねーよ。過去過ぎても未来すぎても駄目だろ。2020年くらいが丁度良いか……?」

 

 いや待てよ。そもそもこの世界って私の知ってる世界と同じなのか?

 原種とか魔物とかリフレクターとかいる世界でしょ? ……並行世界の可能性は普通に高いぞこれ。

 知ってるゲームとかアニメとか無かったらどうしよう……それは困るな……語録で会話できないの……? いや、だとしてもだ。

 

「ここで考えたってどうしようもない。さっさと飛んでから考えよう」

 

 考える余地なんて無いんだ。2020年で決まり! よーし、飛ぶぞ飛ぶぞ飛ぶぞ!

 

「アラームセット……完了」

 

 時刻は2020年の7月7日、7時7分。

 夏に設定したのは、その方が私の今の格好でも不自然ではないからだ。

 ファッションがレザーや毛皮ばかりの黒ギャルだからね……肌の露出面積も結構あるから、夏じゃないと不自然なんだ……いや、多分私の格好は夏でも目立つだろうけど。冬よりは良い。

 

「……世界を救い終わって、ようやく一息って感じか」

 

 もう私に使命はない。リフレクターとしての仕事も無くなるだろう。

 人類の危機も……守らなきゃいけない人もいない。ただ平和な世界がそこに広がっているのだろう。私はそこに紛れ込んで、一人の人間に戻るのだ。

 

「いざ!」

 

 私は赤い靄の中へ踏み出していった。

 

 

 

 

 ジリリリリ、と電子音が鳴っている。

 スマホのアラーム音だ。

 

「ん……」

 

 私が目を開けると、そこはどこかの公園だった。

 自然はあるけれど、公園として道や柵が整備されている……人の文明を感じさせる、人工物。

 

 私は芝の上で横になっていたらしい。

 ……褐色の肌。レザーや毛皮の衣服……赤銅色の指輪に……アイーダさんからもらったいくつものアクセサリー……そして、リフレクターの指輪。

 

 夢ではない。幻ではない。都合よくこの世界に合わせた形に転生したってわけでもない。私はどうやら、これまで親しんできたセイラという存在のまま、この世界にやってきたようだ。

 

 2020年の、この地球に。

 

「……ふぁあ……今日も良い天気」

 

 私の居た時代から、どれくらい離れているのかはわからない。

 けど、太陽は変わらないな。暖かくて、どこか安心できる。

 

 鳥たちが騒がしく歌っている。

 少し離れた場所に目を向ければ、朝のランニングをしているらしい人の姿が見える。

 ……私が横になっていたすぐ側には看板が設置されていて、どうやらここは古墳をできるだけそのままの形で残しているらしい。

 

 そう、読める看板。ご丁寧に、私が降り立った場所は日本だったのである。

 

 ああ、我が愛しの故郷。私は戻ってきたぞ。

 

 戻ってきたけども……。

 

「……さて」

 

 私セイラちゃん。

 外見年齢だいたい17歳のちょっとおませな女の子。

 趣味はスマホっぽい謎タブレットいじりとお洋服作りと狩猟と採取と人類の守護。

 

 何万年か前は数少ない人類を守るため、頑張って魔法少女に変身して戦ってたけど……ここでは戸籍も仕事も無い完全な根無し草である。

 

「これからどうしよう……全然考えてなかったな……」

 

 目的はおおよそ達成したものの……ここから先は完全にノープランだぜ!

 

「……あ、スマホがネットに繋がってる」

 

 色々とやべぇ状況ではあるが……ひとまず動画サイトで淫夢本編でも見て落ち着くとしよう……。

 

「お、淫夢あるじゃん。勝ったわ」

 

 まあ、なんとかなるだろ! ヘーキヘーキ、大丈夫だから!

 




:セイラ
百万年前の世界から時空を越えてやってきた褐色ギャル系リフレクター。
趣味は動画漁りなどサブカルの接種。古代ではできなかった娯楽がドバーッっと来たので早くも没頭しつつある。
マルクトの後始末をする際に世界の機構の案内人さんから入館証をもらった。やったぜ。


ちなみにこれまでに出てきたブルリフ原作キャラはイェソド、コクマー、ネツァク、ダアトだけらしいよ。
ああもう顔中原種まみれや。

次の章からは原作キャラもぼちぼち出してぇなぁ……。
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