オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

26 / 55
お花ちゃ~ん 時が来たわよ~


過積載さいだぁ

 

 下僕を手に入れた。

 運悪く私に手を出そうとして男としての尊厳を半分くらい奪われたおマヌケ達……山中、本栖、河口のチンピラおばかトリオである。

 もちろん私だって悪魔じゃない。人間を奴隷のように扱うことはしないし、連中が改心して正しい道に進むのであれば応援したいと思う。だがそれまでは、人々の役に立つ仕事を手伝わせていこうと思っている。もちろん、何よりも私の都合の良いように。

 今日の遠征目的もそれだ。

 

「ドライブウェイに春が来りゃ、あそれイェイイェイイェイイェイ」

「……なんすか星藍の姐さん、その変な歌……」

「当然、文化の極みですよ。……クソ、また落ちコン失敗したわ、ふっざけ……あ、山中さんその先の中央で落石転がってます」

「うおっ!? あっぶねぇ……いつも良く見えますねぇ、ゲームやりながらだってのに……けど星藍の姐さん……本当にこっちで合ってるんすか……? こんな山深いというか、田舎に……」

「道は合ってますよ。しばらく道なりに走って、山を越えたら見えてくるでしょう。通る人が少ないからこそ、絶好の場所なんでしょうから」

 

 私は今日、山中の運転する軽トラに乗って目的地を目指している。本栖と河口はもう一台で後ろから付いてきていた。……向こうはなんか私がいないからって楽しそうにしてるな。後で圧かけておくか。

 

 今日の仕事は、ここらの道の途中で不法投棄された家電などの粗大ゴミの回収である。

 不法投棄自体は何年も前から行われていて、犯人が見つからずに周りも手を焼いていたのだが、最近になって設置したカメラで犯人と車を特定。悪質な事業者の仕業であることが判明し、それはまぁそれで解決した。

 だが不法投棄されたゴミの後始末をどうするかと考えた時、困ってしまった。投棄された場所は崖下と呼んでいいくらいの厄介な場所で、かといって大掛かりな回収作業もコスト面で難しい。悪徳事業者以外にもこれ幸いにとゴミ捨て場にした連中もいくらかいたのも話をややこしくさせている。

 このままゴミを放置しておくのも、割れ窓理論的にあまりよろしくない……そこで、私達に話が回ってきたのである。

 

「……色々と俺たちの仕事が増えたのはいいっすけど……こんなちまちました稼ぎじゃなくて、星藍の姐さんだったらもっとデカい仕事狙えるんじゃないすか? せっかくすげぇパワーがあるんすから」

「大いなる力には大いなる責任が伴うものです。金さえ稼げれば良いってものじゃないんですよ」

「そんな、ヒーローじゃないんすから……」

「さすがにヒーローほど真面目じゃないですけどね。けど、こうしてちまちまとでも人の想いを守っていくのは、最低限の義務ですよ」

「人の想い? ……よくわかんねっす」

 

 仕事の幅が広がったことで、私好みの仕事を選べるようになったのは嬉しいことだ。

 この時代の日本にやってきてから、もう一年になる。色々とやっていくうちに現代に馴染んで、好きなことができるようになったのは私の成長だろう。

 パワーがあって色々できるとはいえ、金のために人の迷惑になるような仕事はしたくない。そこで、金にはならないけど困っている人を助けられるような仕事を選ぶようになった。

 格安で受けることによって誰かが割を食うでもなく、純粋に人助けになる仕事。チンピラのこいつらにとっては何言ってんだって感じだろうが、まぁ、その辺りのことはゆっくりわかっていけば良い。

 実際、私のパワーがないと破綻するような人助けだ。それと同じ真似をしろとは言えない。ただ、精神性だけでもわかってもらえたら。そう思うのだ。

 

 

 

「よーし、引き上げますよー」

「……うわ、マジで持ち上がってる」

「この動画撮ってサイトに上げる方が儲かるだろ」

「マジでなんなんだろうな姐さん」

 

 引き上げ作業は主に私が行う。

 場所によって方法は色々あるが、今回は特に崩れる心配のない斜面だったのでやや強引にワイヤーで引っ張っている。

 下に降りて引っ掛けて、上に戻って引っ張る。もちろん人力だ。

 難しそうなものは下で自分の身体にグッと結びつけて、背負ったままロープクライミングすることもある。

 重機を持ち出す必要がないのがこの作業最大の利点だ。もちろん、三馬鹿には色々と手伝ってもらっているけどね。

 

「冷蔵庫、洗濯機……どれも古い型ばっかりっすね。スクラップにしても鉄の量がショボそうだ」

「中に破片とか詰められるだけ詰めちまえ。空洞にしとくよりは良いだろ」

「ウゲッ、気持ち悪いソファーだ……姐さん、これも持っていくんすか!?」

「当然だよなぁ?」

「容赦ねえなぁ……」

「よくやるぜこんなこと……まぁ、姐さんがいるだけでやれちまう仕事だから稼ぎにはなるけど……」

 

 軽トラに満載して、何往復かして指定された場所に移したら作業は終わりだ。案外散らばっているだけで、分解したり上手く重ねたりすれば十分に車に積載できた。

 依頼人も喜んでくれるだろう。あとは今後同じような不法投棄が起こらないことを祈るしかないな。

 

 

 

 仕事を終えた後は、着替えて再びのドライブだ。

 今回の仕事でジャージがひどく汚れてしまったから一緒に捨ててしまうことにした。今はセイラちゃん黒ギャルフォームである。田舎を走る軽トラの中に黒ギャル。シュールだな……。

 けど、こうして田舎の道を走るのも新鮮だ。たまには良いよな。たまには。あと自分が運転するのでなければ。

 

「お?」

「……? どうかしたんすか、星藍の姐さん」

「帰り道、ちょっとばかし寄り道していきましょうかね。向こうに良い花畑が見えました」

「ええまじすか、こんなところで?」

「後ろ走ってる二人は先に戻らせましょう。山中さんは運転お願いしますね」

「……了解っす」

「こんな美人と二人きりでドライブするんですからもうちょっと嬉しそうな顔してほしいもんですね」

「……はい、嬉しいっす」

「心を込めてもう一回!」

「超嬉しいっす!」

 

 当然、三馬鹿たちにはしっかり教育を施している。

 数ヶ月にもなる付き合いで慣れた頃、気が緩んだのかまたこっちに手を出しそうになったことがあったので、今のところはまだその痛い教訓が効いているようである。

 抱けばメス堕ちするとか大人しくなるとか考えていたのだろうか。エロ本かAVの見過ぎなのかもしれない。

 

 

 

「おお、すげー。ひまわり畑だ」

「……珍しいっすね。花屋にでも出荷してるんすかね」

「ひまわりを? 聞いたことないですけどね、そういうのは」

 

 やがて田舎道を走っていくと、ひまわりだらけの畑が見えてきた。

 最盛期なのだろう。背の高いひまわりたちが一様に太陽を向いて、大輪の花を広げている。なかなか圧巻の光景だ。

 別にここらへんは観光地ってわけでもないだろうに、どうしてこんなにひまわりがあるのだろう。ちょっとググってみるか。

 

「……へえ、ひまわりって緑肥とか土壌改良とかに向いてるらしいですよ」

「ドジョー改良ってなんすか」

「つまり、ひまわりを植えておくと畑の状態がよくなるってことだそうです。次に植える作物の出来が良くなるんでしょう」

「へえ……そうなんすか」

 

 山中はあからさまに関心がなさそうだった。まぁ花が好きそうなツラしてねえもんなコイツ。

 やだねぇ、雅を理解しない男ってやつは。

 

「あ、星藍の姐さん。ちょっと向こうの店停まっていいっすか。煙草屋あるんでちょっと一服」

 

 山中の指差す先には、これまた田舎にぴったりの古臭い駄菓子屋があった。

 年季の入った古い看板がいくつも掲げられており、その中の一つには確かに煙草もあるが……。

 

「あれの本体は駄菓子屋でしょう」

「煙草って書いてありゃ煙草屋っすよ」

 

 私がいる時は車内禁煙にしているので仕方ない。こういう時くらいは煙草休憩を許してやろう。

 駄菓子屋の近くに車を停めて、二人で降りる。……ああ、やっぱ外は暑いな。

 

「煙草、ウエストひとつちょうだい」

「はいよ」

「私はこのサイダーと飴とガムください」

「はい、150円ね」

「……星藍の姐さん、そんなの子供が食うような菓子じゃないすか」

「いや私永遠の17歳ですから」

「……冗談っすよね? いや、本気そうだなぁ……」

 

 せっかく駄菓子屋に入ったのだから、駄菓子を買うのは当然だろう。こういう時じゃないとなかなか買いたいって気分にならんしね。

 

「俺、こっちのベンチで吸ってるんで。ひまわりでも見てきたらどっすか」

「そのつもりです。しばらくゆっくり吸っててください」

「ういーっす」

 

 

 

 一人になり、私は気になっていたひまわり畑の方へと足を延ばした。

 ひまわり畑は面積が広く、中には人が入って歩いていけそうな小道のようなものもあった。

 畑の中に不自然に通っているので、わざとつくったのだろう。左右をひまわりに挟まれながら歩くのは、なかなか楽しそうだ。

 

「なんかめっちゃエモい景色じゃんここ。写真撮っとこ」

 

 なんだったら山中に撮影させたい場所だったな。着てるものによってはなかなか絵になる一枚が撮れそうだ。

 今の私じゃ田舎のひまわり畑の黒ギャルとかいうなんかよくわからん食い合わせの写真になってしまうけども。いや、逆にそういうのもアリか?

 ひまわりモチーフの小物とか買ってなかったから今度集めてみようかな。

 

「こっちの道、気になるのかい?」

「あ、どうも」

 

 私がひまわり畑の前でサイダーを飲んでいると、すぐそばにお婆さんがやってきていた。

 さっきまで農作業をやってましたというような装いだ。この暑い中ご苦労である。

 

「この畑は私のものでね。入りたかったら、入って見ても良いよ」

「え、そうなんですか。ありがとうございます。あ、スマホで撮影してもいいですか?」

「ええもちろん」

 

 どうやらこのお婆さんがひまわり畑の持ち主だったらしい。

 持ち主の許可が出たならありがたい。中を散歩させてもらうことにしよう。

 

「前までは、坂の上でたまに植えるくらいだったんだけどねぇ。最近じゃあ、畑で作物を育てるのも大変だから、ひまわりを増やしたんだよ」

「へえ、そうだったんですか。ひまわりは簡単なんですか?」

「野菜よりは、だね。もちろん、綺麗に咲かせるには、それなりに手をかけてあげなくちゃ駄目だけど」

 

 背の高いひまわりに挟まれながら歩くと、ちょっとした圧迫感がある。けれどいつまで歩いても大輪の花が視界に入るというのは、なかなか豪華な散歩道だ。

 地面も躓かないようにしっかりと均されていて、お婆さんの心遣いを感じた。

 

「ひまわりの種を収穫したりとかはしないんですか」

「種? ああ……このひまわりは、そのために植えているわけではないから。種ができる前に、刈り取ってしまうんだよ」

「あ、そうなんですね。緑肥っていうやつですか」

「種が残っていると、土に混ぜ込む時に邪魔になるんだ。だから花が咲いてしばらくしたら、種ができる前に刈り取ってしまう。……ギリギリまで、咲かせてやってはいるけれどね」

「はーなるほど……大変そうな作業ですね」

「そりゃあね」

「あ、お婆さん一枚撮っていいですか」

「……ん? 私なんて撮ってどうするんだい。ピースでいいのかい」

「はい、そういう感じで。あ、ピースを裏向きにしても可ですよ」

「最近の子はこういう感じなのかねぇ」

「ギャルの間ではそんな感じです」

 

 ひまわり畑に佇むお婆さんが穏やかに微笑みながら裏ピしてる写真を取りつつ、更に奥まで進んでいく。

 

「ところであなた、ここらへんの子じゃないようだけど……」

「私ですか。はい、仕事で近くを通りまして……山の公道脇の不法投棄、あれの撤去作業をやっていたんです」

「まあ。何年も残ってたあれを? それはありがたいねぇ……なんだか不潔だし、不気味だったから」

「今日でもう撤去は済んだので、安心してください。綺麗になってますよ」

「それは助かるわ。ありがとうねぇ……あなた、お名前は?」

「各務原 星藍です。力仕事を中心に、比較的なんでも請け負っています。あ、こちら名刺になります」

「まあ、名刺だなんて久しぶりに貰うねぇ。どうもご丁寧に。まだ若いのに立派な……すごい名刺だねぇ。近頃のってこういうものなのかしら」

 

 お婆さんはラメでやたらとギラついたデコられまくった名刺を怪訝そうに眺めている。

 まぁそこらへんは私の趣味だから……普通のビジネス用のはもっと落ち着いてるんじゃないの。知らんけど。

 

「私は名刺なんて作ったこともないからねぇ……私は駒川っていうの。よろしくね」

「はい、よろしくおねがいします。駒川さん。何かお仕事ありましたら、気兼ねなくご相談ください」

「ええ。歳を取って段々とできることも減ったから……何かあったら、お願いしようかしらね」

 

 こうして仕事で立ち寄った場所で知り合いを増やしていくのも、営業のひとつだ。

 それに私の趣味でもある。別に、仕事として次に繋がるような出会いでなくとも構わない。

 どこか見知らぬ場所で誰かと話せるだけでも、結構楽しいからね。

 

 

 

 駄菓子屋のそばまで戻ってくると、エアコンを効かせた車内で山中が煙草を吸っていた。

 

「これから乗る車内を煙草臭くするたぁいい度胸だな山中……」

「あっヤッベ!? さっ、サーセンしたぁ!」

「……まぁ、暑い外で待ってろってのも酷か。良いですよ、さっさと帰りましょう」

「ウッス……」

 

 さらば田舎の美しい景色よ。私達は穢れた都会に戻る。いつか仕事で再びやってくるその日まで……。

 

「……くっせぇ車内だな。サイダー味の煙草ってないもんですかね」

「ああ、電子だったらありますよ。吸ったことないっすけど」

「あるんだ……」

 




:各務原 星藍
働く時はジャージ着ることも多い系黒ギャルリフレクター。
人のためになる仕事をしていないとなんとなく落ち着かない性分。
運転手付きの車が手に入ったことで行動範囲が広がり、日本各地に顔を出せるようになった。

:山中
三馬鹿の一人。よく星藍にこき使われている下僕一号。
しかしこき使われているといっても仕事は仕事で雀の涙程度に金が入るので生活はできている。
何より雇い主が顔だけは良いのでなんだかんだ言って今の立場を気に入っている。
以前ワンチャンあるかと思って手を出しかけたら痛い目にあった。

:駒川さん
広大なひまわり畑を育てているお婆さん。
星藍に変なピースの仕方を教わって、それが今のトレンドだと思いこんでいる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。