ドレスを着て『Alice』として撮影した私の画像は、私が思っていた以上の反響があった。
正直数枚の画像をあげた程度ならちょっと話題になるくらいで終わるかなと思ってたんだけど、中にはガチのトーンで“このモデルの子は誰?”と探し回る人達もいるようで、しばらく星ノ宮を歩けそうになかった。
まあ、髪型もだいぶアレンジ強くしてたし、メイクもキツめの目元が柔らかくなるように頑張っていただいたので、一見すると私と『Alice』は繋がらないんじゃないかと思うのだが……。
少し前に子役の麻央さんから「Aliceって各務原さんでしょう」とメッセージが来たので、楽観視するのはやめた。しばらく星ノ宮を歩かないと心に決めた瞬間である。
だからまぁ、ここ最近は活動圏を変えて色々やっている。
都会も都会で仕事は掃いて捨てるほどにあるけど、田舎の限界集落なんかだと切実に労働力を欲しがっていたりするので、わりと感謝されることは多い。
とはいえ私たちは一見すると黒ギャルとチンピラの集団だ。飛び込みで営業しても“ふーん、よくわからんけど反社の何かじゃん”としかならないので、基本は口コミとか、人伝の紹介で新たなお客さんと出会うことが多い。
今回使う場所も、色々とな出会いや縁が重なって生まれた仕事であった。
「おう河口さん、久しぶり。急な呼び出しで悪いね、よく来てくれた。おお、各務原さんもどうも」
「うっす! お久しぶりです竹中さん! よろしくお願いします!」
「おはようございます」
山道を走ること数時間。
人気の薄いグネグネした道を軽トラ二台で進んでいくと、竹中さんの家がある。
かなり敷地の広い家で、家と同じくらいの広いガレージが特徴的だ。車とバイクがいくつかあるが、それらの趣味はここしばらく下火なのだそう。歳も歳だから、ということらしい。悲しいかな……。
竹中さんは猟友会の元会長で、数年前までは猟銃を手にバンバン鹿や猪を獲っていたお人である。しかし段々と視力も落ち、猟銃免許を返納するとともに会長職からも退いた。
今では猟友会の手伝いや場所貸しなどをメインに行なっているそうだ。
以前、この竹中さんから山奥の古びた狩猟小屋を直すのに手を貸して貰えないかという、資材の搬入業務を請け負ったことがある。歩荷繋がりで入ってきた依頼だ。
その際に三馬鹿らを連れて行って建材運びでヒィヒィ言わせたところ、男たちのそんな姿が一生懸命にでも映ったのだろうか、それ以来竹中さんはやけに三馬鹿たちを気に入っている。
……竹中さんは良い人だけど、ちょっと人を見る目がないのでは?
まあ、酒の飲みっぷりも良いからそういうのも気に入られたのかもしれないが。
「猟友会の若いのが鹿を大量に仕留めたんだが、デカいし場所も悪いしで困ってるんだ。かといって俺らも年齢的に厳しい奴らが多いしな……来てくれて助かったよ」
「鹿っすか!? すごいっすね!」
「数が数でなぁ、すごいんだが……正直獲れたはいいが、場所が悪い上に肉も持て余すし……だからよければ前足とか、その辺り遠慮なく持って行ってくれ」
「是非お手伝いさせてください。私たちは今回、肉目的で来たところもありますからね」
そう、今回の仕事は狩猟のお手伝いである。
銃を持ってどうこうするという段階ではないしその資格もないが、仕留めた後こそ面倒が多いのは私も古代の世界で嫌というほど体験している。お年寄りに代わって運搬したり、ひょっとしたら解体の手伝いをするかもしれない。何より終わったら肉がもらえる。ありがたいお仕事だ。
「河口さんと本栖さんは若いけど、鹿食べたことあるかい」
「ないっす。馬肉はありますけど」
「美味いんすか?」
「んーまあ、食べてみりゃわかるさ。好きな人は好きな味だよ。おっと、すまんがこっちの道具一式、そっちの車に積んでもらえるかい」
「うっす! 俺やります!」
「俺も!」
みんなで車に乗り込み、現場へと向かった。
山道を車で進んでしばらくすると、車を停めて山へと入っていく。
三馬鹿も私も山装備だ。私もジャージとスカジャンで身を固め、髪をローポニーに纏めている。靴はブーツだけど、これにクロックスを合わせればヤンママスタイルが完成するかもしれない。
「ひい、ひい……山歩きも慣れたつもりだけど、ここの山道ヤベェ……!」
「竹中さんめっちゃ歩くの速い……!」
「三人とも、タラタラ歩いてると置いていきますよ」
目的の沢までは徒歩だ。道路も何もないので、これはもう根性で歩くしかない。
三馬鹿たちは私がこき使って色々な場所を歩き回らせたり走らせたりしたので体力も付いているはずだが、まだまだ足りなかったようだ。これからも徹底的に調教していくからなぁ……。
「向こうの方が多分……ああ居た、
沢に辿り着くと、しばらく下っていった先で猟友会のメンバー、靭さんが手を振っているのが見えた。別にウツボっぽい顔はしていない、タレ目に渋い雰囲気が漂うごく普通の男性である。
傍の沢には五頭ほどの鹿が沈められている。なるほどこりゃ確かに持ち運びを考えたくなくなる数だわな……。
「すみません竹中さん、お手伝いいただいて。後ろの方々が……?」
「はい、今回の狩猟のお手伝いをさせていただく各務原です。こっちは山中と、本栖と、河口です」
「おお、ありがとう。皆さんお若いですね……力もありそうだ」
どちらかといえば私よりも三馬鹿に向けられた言葉だったのだろう。まあ、初対面で私に力仕事を振ってきたらそれはそれで間違いなくヤバい人になってしまうので仕方ない。
「こちらで冷やしている鹿を運び出せば良いのですね」
「ええ。サイズは大きいけど、二人でなら山道も歩けるだろうから……うおっ」
「じゃあ私は一頭持って行きますから、山中は力があるからそこの若い一頭を。本栖と河口は無理せず二人で一頭お願いします」
「……各務原さん、本当に力あるんだね……山中さんの冗談だと思ってたのに」
「な?」
私だけさらにもう一往復してデカい鹿を軽トラに乗せ、積み込みは完了だ。
その時に聞いた話だが、実は靭さんの車にも一頭、鹿が入っているらしい。どちゃクソ鹿獲るやん……そりゃ外注に出したくもなるわ。
山中さんのガレージまで戻ってきた。この広いガレージは解体場としての役割も持っているそうで、吊るしたり横倒しにして獲物を解体することもできるのだという。
肉は冷やしていないとすぐに鮮度がダメになるので、解体はさっさと済ませなければならない。ならないのだが、猟友会に入ってる人たちが揃いも揃って仕事で忙しかったりするものだからなかなか手を貸せる人がいなくて参っていたようだ。
解体するとなってもヘルプで新たにやってきたのは竹中さんと同じくらいの歳のおじさん一人のみ。限界集落の猟友会の世知辛さを感じる。
だから、今回は私もお手伝いすることになった。
鹿くん解体ショーの始まりや。
「え、各務原さん鹿の解体できるの?」
「はい、できますよ。大体なんでも解体できます。魚の捌き方は、そんなに自信ないですけど」
こちとら狩猟採取がメインの古代出身リフレクターなんでね。現代の兼業猟師よりもずっと解体に関しては詳しいぜ。
各種エーテルナイフを出して使えないのがちょっと不便だけど、靭さんからお借りしたナイフでも十分解体はできる。むしろ変に切れ味が鋭くない分、こっちのナイフの方が具合が良いくらいだ。
あと単純に鹿の解体が楽。皮が素直に剥がれてくれるから何も難しいことはない。
「良いかい、刃はこう立てて、脂肪を身に残すように意識しながら……」
「おおー……すげぇ」
「そっち脚を持って広げて、そのまま押さえてて」
「うっす!」
竹中さんのレクチャーを受けながら、三馬鹿も彼らなりに手伝っている。
サボっていないのは良いことだ。できることからやっていくんだな……。
「……ん?」
皮を剥ぎ終えると、ガレージの外から一人の女の子がこちらを見ていることに気がついた。
ランドセルを背負ったツインテールの女の子。小学生だろう。ああ、もう下校の時間か。
「こころ、もう帰りだったのか」
「……うん」
どうやら靭さんのとこの子供だったらしい。言われてみると、確かに目元が似ているかもしれない。
私達のような普段見かけない余所者がいるから、こころさんも何事かと面食らっていたのだろう。父親と話している時も、チラチラと私や三馬鹿のことを気にしていた。
「こころ、鹿の解体は前に少し教えただろう。今回は教材になるお肉も多いから、やってみなさい」
「ええー……」
「向こうの女の子……各務原さんはとても上手だから、見ておくと良い。終わったら良い部位分けてやるから」
「! はいなのです!」
肉で釣られた女の子は、パタパタと小走りで私の方に寄ってきた。
「あ、あの……お手伝い……」
「どうもありがとうございます。では、こちらのロースをこの袋に入るサイズに切ってから入れて、クーラーボックスに保管していただけますか。適当でも問題ありませんよ」
「は、はいっ」
女の子は人見知りするタイプなのだろう。しかし仕事となると手際は良く、解体された鹿に怯えた様子なんかも全く見せない。慣れた手つきで肉を切って袋に詰めていく姿は、なかなかワイルドだった。
「私は猟友会の皆さんのお手伝いでやってきました、各務原 星藍と申します」
「セイラさん……? あ、私、靭 こころっていいます……」
「こころさんですね。私のことは、各務原でも星藍でもどちらでも構いませんよ」
「は、はい……じゃあ、星藍さんで……」
それが、私と靭こころさんとの出会いだった。
:各務原 星藍
サバイバル適性がものすごく高い系リフレクター。
ジビエを狩ったり調理しているとものすごく落ち着くタイプ。
麻央さんにギャルピしてる『Alice』の写真を送ったら変なスタンプで返事が来たことにちょっとウケている。
:竹中さん
猟友会の元会長。視力や体の節々の不調もあって現役は引退した。
それでもまだちょくちょく会の手伝いをしている。
山中、本栖、河口の三人に親身に色々と教えてくれている。
:靭さん
大量の鹿を仕留めた地元の(コミュニティ内では)若手猟師。
設置しまくった自作罠がフィーバーをかまして解体が追いつかず、昨日からあまり寝ていない。
:靭 こころ
ブルーリフレクション帝で登場したキャラクター。(澪でも少し出た)
地元の小学校に通う小学生。ご飯が好き。
都会に憧れている。そんなこともあり、なんとなく垢抜けた雰囲気のある星藍が気になっている。