オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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重くないのです


だいたい百万年後の君へ

 

 翌日の早朝。

 私たちは肉のお土産を持たされて帰路につくことになった。

 

「すみません。こんなにもらってしまって」

「いやいや、猪肉ならともかく鹿はなかなか減らんからね。腐らせるのも気分が悪いし、受け取ってもらえるなら嬉しいよ」

 

 魔法を利用したインチキクーラーボックスの中にはジップロックに入れた鹿肉がぎっちり納められている。お手伝い料がわりにいただいたものだ。肉食系ギャルにはありがたいお土産である。

 

「それとこっちの箱には舌と心臓、それと金玉もあるから、これだけは早めに食べときな」

「き、金玉まで!?!? 金玉好きです。ありがとうございます」

「清々しいくらい恥ずかしげもなく金玉って言うねぇ……」

「……つっても普段から星藍の姐さん、下品なこと言ってるよな」

「たまに変な動画のセリフ朗読してるしな……」

 

 私語を慎めない男どものケツを無言で蹴りつけ、車に入れる。

 うるせえぞオラッ、さっさと乗り込めって言ってんの! 

 

「それでは、また何かありましたらご連絡ください。仕事が入っていなければヘルプに伺いますので」

「ありがとう、助かるよ」

「いえいえ……うちの馬鹿な男どもが昨日はご迷惑を……」

「ははは、素直で良い男たちじゃないか。久々に楽しかったよ。また来るなら大歓迎さ」

 

 竹中さん、本当にいい人なんだけどなぁ。騙されないか心配になるわ。

 けどまあ今回のは馬鹿な奴ほど可愛いって感じなのかな。わからんけど。

 

「……星藍さん、また会えるかな?」

「こころさん。ええ、もちろんです。またいつかお会いすることもあるでしょう」

「本当?」

「本当に本当。いつか一緒にスイパラでも行きましょう。私の興味ある作品がコラボしてる時に」

「ふふっ……楽しみなのです!」

 

 こころさんともお別れだ。とてもいい子なので、これからも真っ直ぐ強く育ってほしいものである。

 

「またね! 星藍さん!」

「アディオスアミーゴ」

 

 こんなに美しい別れだというのに、帰り道はしけた男連中と一緒だ。やれやれ。

 山中は昨日遅くまで飲んでいたせいで後ろの車の助手席でダウン。今日の私の隣、運転手は河口だった。

 

「安全運転でお願いしますよ」

「ウッス」

 

 さて、帰ったら何をしよう。今のところ立て込んでいる仕事もないし、暇な時期に入る頃か。

 ……私から始まったこの何でも屋も、今では山中を中心にちゃんとした会社が出来ている。いつものこのメンバーの他にも、色々訳ありそうな若手メンバーが入って賑やかにやっているらしい。

 ま、会社になったところで私は存在しない扱いになっているままなんですけどね。戸籍無いので。

 

「……星藍の姐さん」

「ん、なんですか」

「……俺、勉強したいっす」

「勉強」

 

 珍しく殊勝なことを言うものだなと思った。河口のくせに。

 

「変なのはわかってるんすけどね……へへ」

「変ではないです。素晴らしいことですよ」

「……俺、昨日竹中さんたちと話してて……あの人たち、色々知ってて。なんでも話せて……でも俺マジで馬鹿なんで、何言ってるかよくわかんなくて」

 

 運転しながら語る河口は、悲しそうな目をしていた。

 

「別に馬鹿なのは知ってたんだけど……このままじゃ駄目だろって、思ったんすよ」

「なるほど」

「変すよね」

「変じゃねえよ。誰かに変って言われたのか。連れてこいよそいつぶん殴ってやるから」

「……や、いないっす。自分で、変かなって思っただけで」

「おめえかよ」

「いてッ」

 

 河口の頭を引っ叩いてやった。おい、ハンドルしっかり握れ。

 

「人生を変えたい。変わりたい。良くしたい。……そう思って努力を始めることの何が変ですか。格好良いですよ。まぁ、どん底から這い上がってくる分、ヤンキーが良いことしてるフィルターで物見てる部分はありますけどね。けど、あなたの変わりたいという想いは本物なのでしょう」

「……あの人たちみたいに、もっと……俺、こう、真っ当に……ちゃんと、地に足ついた暮らしがしたくて。だから……ええと……」

 

 喋るのが下手な男である。けど、言いたいことはなんとなくわかる。

 

「真面目にやっていくなら、どこ行くでも好きにすれば良いですよ。何事も大変でしょうがね。引き止めはしません」

「……あざっす」

「河口さんも色々、出先で“働かないか”って声をかけられていますからね。そういう場所に飛び込んで……本気で仕事に打ち込んでいれば、見えてくるものもあるんじゃないですか。応援してますよ」

「……星藍の姐さん……」

「人に迷惑をかけず、誰かのために生き、自分なりに世の中を守っていってください。あなたがそんな生き方をするのであれば、私は同僚として誇らしく思います」

 

 鼻を啜る河口を無視し、窓の外を見る。

 山から上ってきた遅めの朝日が、綺麗に輝いていた。

 

「やるって決めたなら本気でやれよ」

「……はいっ」

「次馬鹿な真似したら、全裸亀甲縛りで警察署の前に放置してくからな」

「……う、ウッス!」

 

 私はやると言ったらやる女だぞ。シャバで生きていけないなら豚箱まで送迎してやるから安心しな。

 

「……」

 

 なんとなくスマホを眺めると、改造した天気予報アプリに表示されているエーテル指数が普段よりやや高くなっていた。

 ……世間に溶け込んで仕事をするのも楽しいけれど、そろそろこっちの方も無視できなくなってきたな。

 

 日に日に変化してゆく環境エーテル。

 さすがにこれはもう、気のせいって感じでもないだろう。

 

 一旦仕事は休みにして、ダアトさんから話を聞いた方が良いかもしれない。

 

 

 

 星ノ宮に帰ってきた私は、雑居ビルの屋上で電話をかけていた。もちろんお相手はダアトさんである。

 この街がなんとなく一番ダアトさんとの電波が一番良い気がするんだよな。高い場所だとなお良しだ。

 

「もしもし、ダアトさんでしょうか」

『セイラか』

「お久しぶりです、セイラです。あの、ちょっとお伺いしたいことがあるのですが、今お時間大丈夫でしょうか」

『聞きたいことがあるなら、聞くといい。答えてやろう』

 

 七輪の中の炭に火をつけ、よく扇ぐ。

 

「最近、本当にごくわずかにではあるのですが、環境のエーテル濃度が上がっているように思います。私は最初、この現状を特異点の性質かとも思ったのですが、どうも他の地域を観測してみても似たようなもののようで」

『ふむ、変化を感じ取っていたか』

「ええまあ、結構わかりやすくはありましたからね」

 

 七輪の上に乗せた網に、鹿肉を乗せてゆく。もちろん金玉も。

 やはり炭火が一番だ。

 

「この現象、一体なぜ起こっているのでしょうか。ダアトさんは何かご存知なのですよね?」

『当然だ。もうじきあれから百万年が経つ。エーテルの変化は、その前触れであろう』

「はー、百万年……えっ!? 百万年!?」

 

 びっくりしすぎて金玉が網から転がり落ちていった。

 

 いや。いやいやいや……え? 百万年っておま……。

 さすがに百万年はなくない!? ウッソだろお前……。

 

「えっあのダアトさん? 百万年が経つって……一体何から百万年が経過したっていうんです?」

『当然、セイラよ。お前のいたあの時代から百万年ということだ』

「うっ……嘘でしょ!? そんな前ってことなくない!? もっとこう、せいぜい数十万年くらいじゃないの!?」

 

 私も現代に来てからというもの、色々と過去の時代が気になったので調べたことがある。もちろんネットとかそういうので軽くだけど。

 そうしたらなんでも知ってる人類の叡智が載ってるサイトでは、ホモ・サピエンスが二十万年前と出てくるのだ。じゃあ二十万年前かあって思うじゃんかよ。

 百万年前となるとポールシフトすら起こってないかもしれないくらい昔である。北京原人ですら五十万年前なのに! 

 私の使う分身技のカレイド・ピテカントの語源たるピテカントロプス(ジャワ原人)が百三十万年前になるとのことで、調べた時には遡り過ぎちゃったか〜なんてテヘペロしたものだが、案外良いコースに入ってるネーミングだったってことになるな……。

 

『科学のみで考える人間の推理など、この世界で当てになるものではあるまい』

「ぐっ……ダアトさんが言うと説得力が違う……!」

『そもそも、セイラよ。お前はわかった上でこの時代にやってきたものと思っていたが』

「偶然です……」

『偶然。面白い』

 

 何が? というか、なんかあまり信じてる感じじゃないのか? 

 私がわざとこの時代に来たと思ってる感じ? いやいや……別に狙ったわけではないんだが……。

 

「あっ。わかりましたよダアトさん。神様は時間のスケールがガバガバですからねぇ。百万年という長大なスケールで見ると、実は数千年くらいの誤差があるのでしょう。百万年ごとの戦いまであと残り千年とか、そんなオチなんじゃないですか?」

『お前たちの扱う西暦で言えば、2027年が戦いの始まりとなるだろう』

「そうでもなかった……!」

 

 数年後にまた無差別級原種バトル始まっちまうやんけぇ……! 

 やべぇよやべぇよ…………うん? いや、けどまぁ前勝てたしな……。

 それに、よく考えたら勝った後に時間だって巻き戻ってくれる。……ふー、そこまで焦る必要もなかったか。

 あっぶねー、肉食べよう肉。肉うめぇ〜ちょっと焦げてるけど。

 

『セイラよ。お前の出現により再びの勝利は確約されたようなものだ』

「はい、そうですよね。私も今ちょっと考えて安心しました。原種たちもまぁ、強かったですが……今再び戦っても、負ける気はしません」

『そうだ。万が一にも我の敗北はあり得ない。そして、今回はお前以外にもリフレクターの候補が存在する』

「えっ、そうなんですか」

『各地の特異点を守護するリフレクターだ。今回の戦いでは、数を増した人間らの想いの強さを測る良い機会となるだろう。それらの強さを観測するためにも、セイラよ。お前にはあくまでも、最後の砦として控えてもらいたい』

 

 複数存在する、現代のリフレクター……か。

 なるほど、ダアトさんもよく考えて次の戦いに臨んでいるわけだ。まぁ、案の定実験的な手法が強くはあるけども……。

 

 それに、最後の最後までは手を出すな、ねえ。

 確かに、私が戦場に出ると一方的に勝つに決まっているからな。つまらんってなるのもわからないではない。私の時よりも安全に勝つ方法を模索しているとなれば批判もしづらいところだ。ダアトさんの勝利は人類の勝利だしね。

 

『それでも、環境の変動によって想いを暴走させる者や、あるいは実体化した魔物も現れるかもしれぬ。そういった細かなものへの対処は、セイラ。お前に任せよう』

「ええ、是非任せてください。人々が苦しんでいるのに、完全に見ているだけというのは歯がゆいですからね」

 

 あれから百万年後の世界。現代の日本。

 

 まさかこの土地で、この時代で。また原種との戦いが始まろうとしているとは……。

 本職のリフレクターも、まだまだ辞めるわけにはいかないようだ。

 

 

 




:各務原 星藍
実は百万年前に生きてた系初代リフレクター。
さすがの本人もそんな昔だとは思わなかったので驚いている。
なんでも屋の仕事も少し離れて、リフレクター活動を増やしていくべきかと考えている。
金玉はちゃんと焼いて食べた。

:靭 こころ
実は大量の鹿を獲った罠を作ったのはこころである。
父から教わってホムセンの道具で罠を作ってみたらめっちゃ掛かったというのが真相だった。
田舎から出たいこころだが、父は猟についてもっと教えようかと考えている。

:河口
星藍たちと共に各地で働いているうちに、自分の将来や人生について考え始めた。
たまに黒ギャルのAVを漁っている。

:ダアト
百万年、この世界を支配してきた原種。コモンの化身。
星藍を高く評価しているが、強い人間をもっと自作したいという向上心もある神様。

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