「スノウ・ライ」
右手にエーテルを込め、自らの頬を撫ぜる。
煌めく白いエーテルが私の肌に取り付いて、反射する光を変容させる。
雪明かりが映し出す偽りの像。それは全身にまで伝播し……私の姿を、全く異なる物へと変えた。
「各務原 星藍……JKモード」
肌色は日本人らしく、髪は明るめの茶。何より顔の作りも変えてある。ひと目見ただけでは当然のこと、じっくり見つめたとしても私が星藍だとは思わないだろう。完全に日本人だ。しかも黒縁メガネまで装備している。ハハァ、マジメだなぁ……。
スノウ・ライ。見た目を変えるだけの魔法だけど、これがなかなか日常生活では使い勝手が良い。特に、特定の施設に侵入する時なんかは重宝する。
「星ノ宮女子高校……さぁて。ちっとばかし、入ってみようか」
私の眼の前にそびえ立つのは、星ノ宮でもかなり有名な女子校である。
芸術系の分野に関して特に秀でており……それはまあどうでもいいのだが、この学校から発せられているエーテルの流れを確認するのが今回の仕事だ。
共学だったらちょっと違和感持たれたりなんかもするかもしれないが、女子校なら在校生とは女だけ。気付かれにくさは倍になるだろう。であれば、一人見知らぬ顔が混じっていてもなんとかなるはずだ。
「おはよ。朝練じゃないんだ」
「数学やだね」
「ねー」
「今日の学食でさぁ……」
「おはよー、一緒に行こうよ」
「うん」
通学する女子高生に混じりながら、校舎へと入る。校舎そのものは古めで新しくはないが、生徒たちの着用しているセーラー服は結構デザインも新しめで可愛い。
セーラー服というと古臭いイメージがあったけど、この学校の制服はなかなか良い。スカートが野暮ったい長さじゃないのも良いね。まあ、その辺りは個人の好みもあるだろうけども……私個人としては結構好きだな。
「ちょっと、そこのあなた」
なんてことを考えながら校門を通り抜けると、女の子に声をかけられた。
オイオイオイ、さっき心のなかでスノウ・ライさんを褒めたばっかなんですけどぉ? さすがに校門通っただけでセキュリティに引っかかったらどうしようもないんですけどぉ?
「……そのソックス、ダボダボにしないでちゃんと履きなさい」
「え……ああ、はい」
あっ、よく見たら風紀員の子だった。別に見知らぬ顔だからとかそういうのではなく、どうやら私の着こなしが駄目だったらしい。
なんだよ、ルーズソックス駄目なのかよ。いいじゃん別に。
「それとピアス! うちはピアスは禁止よ!」
「えぇ……? しょーがねーなぁ」
「態度悪っ、こんな子居たかしら……?」
「あ、はい取ります取ります。取ってますよピアス、ほら」
「……取ったなら良しです。そういうお洒落は、学外でやってくださいね。学校は勉学のための場所なんですから」
「大丈夫です、眼鏡かけてますから」
「眼鏡かけてたら許されるというわけじゃ……もういいですから、ほら、さっさと行きなさい! 授業始まりますよ!」
「はい。お手数かけてすみませんでした。それでは」
というわけで、難なくチェックポイント通過である。余裕過ぎて笑っちゃうんすよね。……いや、余裕ではないか……。
けど学生の一人として見られたのは何より。これなら校内を歩き回っていても大丈夫そうだ。
「……やっぱりエーテルが強いな。この学校が星ノ宮における特異点の中心と思って間違いなし……かな」
特異点。それは、この地球上に存在する22箇所のエーテル激つよスポットである。
俗に言うパワースポットはそのほぼ全てがガセか根拠のないオカルトだが、特異点だけは紛れもなく完全にパワースポットと呼べる場所であろう。
特異点は原種たちの戦いにおいて非常に重要なスポットであり、ここを奪取・支配することを中心に争いが起こるようだ。
環境エーテルが豊富なので、この特異点をホームとすることができれば戦いを有利に進められるのは間違いない。
世界に二十二個ある特異点……実に多い。多いのだが、どうしてか日本の狭い国土にこの特異点が三つも存在する。ウッソだろお前……偏りすぎてるんとちゃう?
海外にも特異点は存在するのだが、まだまだそちらへは行けそうもない。というより、行ったところで私外国語喋れないからまともにリフレクター活動も出来ない気がする……。
ま、まぁでもその辺りはダアトさんがリフレクターを増やすことでなんとかするだろうから大丈夫だろう。海外の特異点もほぼ全て押さえてあるって話だし、そちらはそちらで海外支部に頑張ってもらえばよかろう……。むしろ、日本に集中している三つの特異点を守るのが私の使命だと思ったほうが良いだろう。そうだ、そうに違いない。私は自分にできることをしっかりと決め打ちするタイプなんだ……。
「うーん……校舎内は綺麗だけど、新しいってほどではないな」
授業中、さすがに閑散とした校内を堂々と歩き回っていては普通に怪しいというか何やってんだお前ェってなるので、チャイムが鳴るまでの間は屋上で時間を潰している。屋上が開放されている学校というのもなかなか珍しい気がする。しかしその割に柵がなくてすごい危ない。事故が起きないかどうかが心配だ。全体的に校舎の作りは名門校というほどではなく、古くて時代遅れ……というのが私の抱いた感想だった。
「けどそのおかげで忍び込む余地が多いのは助かったな。要所の警備員はしっかりいるけど、越えられる塀はいくらでもある……定期的に顔を売っておけば外部の人間だと思われることもなさそうだ」
今朝は風紀員っぽい子に呼び止められて怒られてしまったけど、逆にああいうイベントがある方が顔を覚えられやすい。先生を呼ばれるところまでいくとさすがに詰みだが、ある程度学校に溶け込むにはアリっちゃアリだ。
それと、昼休み中に校内を歩き回ってみて知ったのは、この学校には特待科と普通科で分かれているということ。これがなかなか私にとってはありがたいもので、普通科と特待科の間にはそれなりの隔たりがある。なので、私のようなちょっと見たことないタイプの人がいても結構怪しまれないようだった。科の見分け方は制服の装飾で可能。私がスノウ・ライで真似たのは普通科の制服だったので助かった。特待科の制服にしてたらさすがに怪しまれていたかもしれない。
特異点の位置は学校の中央。一応細かな位置も特定はして、スマホのマップ機能にも位置を保存はしておいた。活用する機会があるかは謎だけど一応ね。一応。
「チョココロネひとつください」
「はーい」
放課後は購買でちょっとした菓子パンを買って、自販機では謎味ジュースとかいうのを買ってみた。某力水を思わせるパッケージに思わず惹かれてしまったぜ。
「……マッズ、なにこれ。罰ゲーム用……?」
味は……ちょっと不味すぎる。3点。
「ねえねえ見た? 新しいSNS。H♡―KAG♡っていうやつ」
「見た。インフルエンサーのマリさんがやり始めたんでしょ?」
「女子高生限定だしマジで男子もいないから快適だよ」
「えーそうなん? 私も入れとこっかな」
ほうほう、ホーカゴっていうアプリですか。なるほどねぇ……。
おじさんもちょっとその女子高生限定のSNS登録しちゃおっかなー……永遠の女子高生だし、ままえあろ。
始まったばかりのSNSかぁ。サービス開始特典とかついてこないかな。こないか。
「SNSねぇ……こういうもので個人単位の情報集めをするのも、必要になってくるのかな」
フラグメントの暴走を察知するにはリフレクターの指輪で反応を探るのが基本だけど、SNSを使えば人の心の暴走をある程度予期できるかもしれない。まあ、確度はともかく……無いよりはマシってことで、一応入れておくとしよう。どうせこのスマホの容量なんて無限みたいなもんなんだ。バンバン突っ込んじゃえ。
……うん。女子校潜入。
わりと新たな気付きも得られるし、悪くはないな。
星ノ宮だけでなく、他の学校にも足を運んでおくのもありかもしれない。
それに、リフレクターの適性を持つのは年若い女性だ。ひょっとすると私以外の、ダアトさんに選ばれたリフレクターと出会えちゃったりするかもだ。
別にリフレクターとして先輩風を吹かせたいわけではないけど、他のリフレクターに会えたら会えたで色々話してみたいものだ。
:各務原 星藍
変装しててもギャルっぽいせいで目立ってしまう系リフレクター。
得意の欺瞞系魔法で変装も難なくこなせる。
色々な女子校に潜入しては学食を食べたり校内を探索したり、暇なときはコモンに飛んで魔物を退治している。
普通の甘いジュースが好き。