オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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こ、これはただのストラプルじゃ…


踊らない夜を知らないリフレクター

 

 月ノ宮の治安が悪すぎる。

 

 月ノ宮は日本に存在する特異点のひとつを内包する都市であり、まぁ特異点なこともあり、近年は人の感情の揺らぎが強くなっている。

 それは星ノ宮や他の特異点でも同じなのだが、月ノ宮はなんというかこう……それに加えて、ナチュラルに治安が悪いのだ。

 

 治安が悪い都市+特異点。相乗効果で人の負の感情が暴発しまくっている。

 夜になると女はウリを始め男はそれを買い、痴情が縺れたり刺したり刺されたり。そんな事が起きている間に別の場所ではカルト教団がこのご時世に優生思想をばら撒こうとしてたり、閑静な道路ではバイクに乗ったレディースがブイブイ言わせてたり……あーもうめちゃくちゃだよ。

 

 そんな神室町一歩手前の世紀末な街。コモンに飛びまくって不安定な人のフラグメントを早期に固定化させたり、魔物を張っ倒しまくったりしているのだが……してもキリがない。百万年前はこのくらいでも充分やれたが、人口がドチャクソ増えたこの時代では個々人の心を救うなんて簡単にできることではないのだ。ぬわぁああああん疲れるもぉおおおおん……。

 

「……こりゃもう、原因そのものをなんとかしてくしかないな……」

 

 とりあえず一週間ほど不眠不休で月ノ宮の地盤を安定化させようとしてみたが、私のたどり着いた結論はそれだった。

 対症療法じゃ駄目だ。根本的な部分をズバッとやっちゃわないとマジで無理。根治して♡ しろ(豹変)

 

「何より、あれ。さすがに目障りすぎる」

 

 それに加えて、リフレクターとしてはどうしても見過ごしてはおけない物もこの街に存在していた。

 そいつを根絶やしにするためにも、動いておこうと思う。

 

 

 

 私は正義の味方だ。人類の守護者、ヒーロー……言い表し方は色々あると思う。どうしても大袈裟な肩書きが多くなってしまうけど、それらは事実なのだから仕方ない。

 

 しかし、だからといって私は警察ではないのだ。

 まして裁判官でもない。

 人の善悪を裁くだとか、世直しするだとか、そういう理念があってリフレクターをやっているわけではないのである。まぁ、自分に降りかかってきた火の粉を払って踏みつけてやるくらいのことはするけども。

 

 そもそも私は根っからの正義の人間ってわけでもない。正義の味方ではあるけど、悪をしばいて回るタイプじゃない。どうしようもない巨悪が来た時だけ重役出勤してファイトするタイプの正義の味方だ。人間社会の細々とした悪事なんかはそこまで興味がないのである。

 

 だけど、例外がある。

 それは駄目だろって思わず手が出てしまうような存在は、あるのだ。

 

 これからそれをぶっ潰しにいきます。

 

 目標は……月ノ宮の繁華街に存在する、とあるナイトクラブである。

 

 

 

「すまん、忘れ物を取りに来た」

「ああ、先ほどの。大丈夫ですよ、どうぞ中へ」

「悪いね」

 

 クラブに入るには身分証や、会員証など、店によって様々なものが必要になる。

 ここは会員証が必要なタイプのなかなかセキュリティの高い店だったが、侵入するのは簡単だ。

 

 店の前で待機して、クラブから出てきた客の見た目をスノウ・ライで自分にコピーしてやれば良い。すると、さっきの客が店内の忘れ物を取りに来たというシチュエーションが完成する。こうなると身分証なんて改められないし、向こうは気持ちよく扉を開けてくれる。

 

 店内に入ったらトイレや物陰などでスノウ・ライを解除する。いつもの各務原 星藍ちゃん黒ギャルモードだ。

 クラブ内は薄暗いし着飾った女の子の姿はいくらでもいるので、こんなゴタゴタした装飾だらけの格好でも何も問題ない。

 

「ダイヤモンドフィズひとつください」

「はーい」

 

 問題ないついでに酒を一杯いただいていく。ついでだついで。

 未成年飲酒+不法侵入+飲み逃げ。うるせぇ、正義の味方だから良いんだよ! (暴論)

 

「……反応はこっちか」

 

 酒を片手に、リフレクターの指輪の反応を見ながら店内を進んでいく。

 爆音の音楽、グラスが震えそうなほどの重低音。ギラギラとした照明、踊り狂う男と女……それだけならただのクラブだが、私の下調べと、何よりもこのリフレクターの指輪が示す特徴的すぎる明滅が、ここには“ある”と示していた。

 

「VIP席か」

 

 クラブのVIP席。他より高級なソファやテーブル、そして良い感じの酒が提供される場所だ。詳しくは知らない。まともに利用したことなんてないのでね……。

 だけど今日は、この席にたむろしてる連中に用事がある。

 

「俺の兄貴はガチガチの硬派ってか、馬鹿でさ。“女は殴らないと言うこと聞かない”って常々言ってたのよ。地元ではデカい顔して頭張ってたけどさ。結局女に刺されて頭からひきずりおろされた。馬鹿だよなぁ」

 

 ジョイントを咥える男が、ソファーの下で蹲る女の頭に脚を乗せた。

 女は倒れたまま呻くだけで、抵抗もしない。

 

「鞭だけじゃ駄目なんだよな。やっぱり女には甘い飴がなくちゃあさ」

「ううう、うー……っ……」

「あははは! ヒロトのは飴っていうか薬だろ!」

「いやいやちゃんと甘いからこれ! 味も色々あるしね! バリエーション豊富だし形も拘ってるし! 人気の秘訣なのよ、これが」

 

 女は違法薬物によって正気を無くしていた。

 口元からは涎が流れ、自らの半裸姿に羞恥心もない。そして、そんな彼女の異様な姿はフロアからも見られるのだが、このナイトクラブにいる誰もがそれを気にかけていなかった。

 どころか、フロアには彼女以外にも違法な薬物を楽しんでいる連中が多い。

 

 そう。ここは違法薬物を楽しむための会員制ナイトクラブ。

 街の闇を煮詰めたかのような、真っ黒な場所だ。

 

「なー、ミキちゃん。あれ、ミカちゃんだっけ。まあいいや。ミキちゃんもこれ好きだよな。チョコ味のやつ」

「あ、ああ、ください……それ、ください……」

「ミキちゃんこれ欲しいかー。じゃあもうちょっと俺らのこと楽しませてくれないとなー」

「は、はいっ!」

 

 薬物中毒になった年若い少女。

 男に飼われ、薬を対価に愛玩動物のような扱いを受けている。

 そして、一度薬を口にすれば……。

 

「ぁあああ……!」

「ははは、すげー声」

「お前もいる?」

「嫌だよ。俺は草だけで良い。こうはなりたくねえからな」

 

 少女のフラグメントが荒れ狂っている。

 興奮と、絶望と、快楽とが入り混じり、心に強い負荷が生まれる。

 フラグメントにヒビが入る。崩れ、形が壊れてゆく。

 

 薬物はオカルトではない。極めて科学的な物質であり、そこにエーテルは関わらない。

 だが薬物が及ぼす影響は、人間の魂を、フラグメントを壊すには充分な力を持っていた。

 

 普段決して見られることのない、指輪の激しい明滅。

 人間の心を破壊する悪魔の薬。……正直、リフレクターになるまで薬物がこれほど悍ましいものだとは思っていなかったのだが。

 

 今の私にはわかる。

 これは、撲滅しなければならない存在なのだと。

 

「お? 君かわいいね! 名前なんていうの?」

「すげぇ可愛い黒ギャルじゃん。あの女の紹介かな? あいつもうババアだけど結構使えるな。ねえ、こっち座りなよ」

 

 撲滅。実に難しいことではあるが……一歩一歩、地道にやっていくしかない。

 まずはその一歩から始めなくちゃな。

 

「最高の夜をお届けに参りました」

「なにそれ? あははは、面白いね君」

「もしかして誘ってる? いいぜ、ヤるなら……」

「一生の記憶に残る、激しい夜にしましょうか」

「え……」

 

 白銀の剣を取り出して、掲げる。

 唐突に出現した業物に、男達が呆然と固まる。

 

 だよな。ナイフや銃なら現実感もあるだろうけど、剣だもんな。

 

「スパンコール・チャフ」

「ぶわっ」

「なに……!?」

 

 フロア中に撹乱の銀箔が舞い踊り、レーザーを受けてギラギラと輝きを増す。

 これより数分間、全ての電子機器は使えなくなった。

 

 さあ、野暮なことは抜きに、パーティーを楽しもうじゃないか。

 

「みんな踊れええええええッ!」

「なっ、なんだこいつ!?」

「剣!? くそっ、どこのグループの……!」

 

 

 

 その晩、あるナイトクラブが壊滅した。文字通り全てがズタボロになり、物理的に壊滅したのである。

 店を根城にしていたグループは全員ボコボコにされ、顔面に大きく「ヤクの売人」の書かれたタトゥーが刻まれた。

 あまりの派手な騒ぎに事態はどう足掻いても鎮静化させることはできず、怪我と顔面タトゥーがあっては逃げることもできなかったので、翌日にはかなり多くの逮捕者が発生した。

 

 逮捕された売人たちは口を揃えてこう供述している。

 

「剣を持った黒ギャルが全てを滅茶苦茶にしていった」と。

 

 精神鑑定と薬物鑑定が行われて、案の定半数以上の逮捕者から薬物反応が検出されたという。

 

 怖いね。

 

 




:各務原 星藍
ナイトクラブにカチコミかける系世直しリフレクター。
フラグメントの反応がエグすぎるので薬物を忌み嫌っている。
夜な夜な月ノ宮に現れては違法組織を壊滅させる黒ギャルの都市伝説が生まれた。
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