オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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すっきりさっぱりだな!


黒ギャルVSスケバン少女

 

 世直しというには暴れ回っている比率の方が高い気はするものの、反社会的勢力に対するお礼参りは一定の効果を上げていた。

 とはいえ、狙っているのは薬物関係のマジで人の道を外れている連中に限っているので、それ以外は放置している。基本的に自分にかかる火の粉だけを払うスタンスは変わっていない。

 いやほんとね、薬物使用者のフラグメントの反応が強くてね。いざって時にその信号が邪魔になるから困るのよ。薬物ダメ、絶対。

 

「う、うう……勘弁してくれ……」

「勘弁はしたことねぇなぁ」

「ぐえッ」

 

 今日も人気のない高架下で一人の売人をボコボコにした。

 SNSで販売情報を発信するような奴だ。末端も末端だろうけど、繋がりを辿って元締めを探すにはこういう連中を辿るのがなんだかんだ一番早い。

 あとは売人のスマホを警察に発信して放置してやればそれだけで通報は完了だ。

 ボコして情報抜いて警察に売る。この各務原星藍、容赦せん。

 

 

 

「おい、そこのヤマンバ!」

 

 高架下沿いに歩いていると、背後から威勢のいい女の声が聞こえた。

 つか山姥じゃねーし。そんな黒くもケバくもねーし。けどどうせ私のことだろうから振り返った。

 

「そう、お前だよお前」

「……山姥じゃないですけど。スケバンさん」

「あたしはスケバンじゃねーし!」

「いやそっちは普通にスケバンですよ」

「古いんだよその言い方!」

 

 振り向くとそこにはスケバン女がいた。

 一言で表すなら金髪に染めた女学生だ。しかしその長い金髪、長いスカート、そしてギラついた目付き。威圧的な全ての要素が、スケバン感を後押ししている。完全にスケバンだ。鞄がペチャンコでないのだけが唯一まともだった。

 

「お前だろ。うちの美紀をやったっつうヤマンバってのは」

「知らねーよ、そんなの。あとせめて黒ギャルって言え」

「知らねえとは言わせねえ。美紀はな、ちょっとアホで気も弱いけど、優しい良い奴だったんだ」

 

 美紀って人は知らないけど、目の前のスケバン女が本気でキレているのはわかる。

 

「最近見ねーなと思ったら、誰かにボコボコにされて……ひでえ目に遭って、今は入院している。あたしじゃ、家族じゃないから面会もできねぇ……」

「美紀ねぇ……どこの誰なんだか」

「しらばっくれんじゃねぇよ! 色々調べて、ネタは上がってんだ! 美紀にヤキ入れたのはあんただってな!」

 

 スケバン女が鞄を放り捨て、拳を握る。

 

「月ノ宮で夜な夜な人を襲う褐色金髪革コートの暴力女……人違いとは言わせねえ!」

「あー、そこまで絞られてたらさすがにそれは私ですね」

 

 私がぽつりと言うと、スケバン女から表情が消えた。

 そのまま女はこちらへと突っ込んできて、喧嘩慣れした動きで拳を叩きつけ……それは私の手に掴まれた。

 

「……!」

「けど、美紀って誰ですかね。最近、滅茶苦茶にした場所や人が多すぎてわからないんですよ」

「テメェ!」

「おっと」

 

 ローキック。前蹴り。そして距離が開いたら再び拳……本当に慣れている動きだ。こりゃ本当にスケバンだ。令和にもいるんだ、スケバンって。

 

「よくも美紀を! 許さねえッ!」

「許しは、請わぬ」

「くそっ、ふざけた格好してるくせに、当たらねッ」

 

 見たところスケバン女は高校生。子供だ。さすがの私もJK相手に暴力は気が引けるのだが……それも、場合による。

 

「あなた、スケバン……いや、ヤンキーなのは見てわかりますけど。変な薬とかやってるんじゃないでしょうね」

「ぁあ!? やらねぇよそんなのッ!」

 

 おっと顔面パンチ。額で受けても良いけど相手の手を壊しかねないので、手のひらでキャッチ。そのまま流して放り投げる。

 

「うおっ……! くっそ、体格のわりに……何か格闘技やってやがるな……!」

「大麻は? シンナーなどは?」

「そんなもんやるかぁッ!」

 

 前蹴りを膝で受け、引き下がる。ああ、膝が汚れた。

 

「では酒や煙草は?」

「……そ、それが関係あるかよッ!」

「いやまぁ酒と煙草くらいは別に良いんですけど」

「さっきからなんなんだてめぇ! 先公やマッポみてーな質問ばっかしやがって!」

 

 このスケバン少女は私に復讐しに来た。

 彼女のヤンキー仲間の……おそらく、今までに潰したさまざまな連中の中にいた誰かなんだろうけど……数が多いものでちょっと思い出せそうにない。けど、その仲間が道を踏み外した人物であろうことはわかる。

 対してこのスケバン少女はまだ温い方だ。酒と煙草くらいだったら可愛いもんだろう。口篭るあたり、嘘を吐き慣れているわけでもない。真っ直ぐに生きてきた光のヤンキーみを感じる。

 

「失礼、私は各務原 星藍。スケバンさん、あなたは?」

「スケバンじゃねえ! 私は田辺(たなべ) (もも)だ!」

 

 百さんね。見た目によらず可愛らしい名前してるじゃないの。

 

「百さん。私のことを“夜な夜な人を襲う”とおっしゃっていましたが、その話は誰から?」

「ぁあ!? 知らねーよ、みんなしてる噂話だろうが!」

 

 みんな、か。広まってるんだな。けど、それにしては悪意のある広まり方だ。さてはやられた方が私を貶めるために流してるな? 

 けどそんなのは私に通用しない。私をどれだけ貶そうとも、私には元々後ろ盾も社会基盤もないからだ。最初から何も持ってない無敵の人が全力で反社会勢力をボコボコにしてるだけだ。これはもうアメコミヒーロー以上の厄介さだ。

 

 けど、そんな噂も流れればこうして、純粋に信じてしまう子も現れてしまう、と。

 

「あんたみたいな極悪人は、あたしがここで──!」

「教育的指導ッ!」

「いッ!?」

 

 パンチが届く前に、強めの蹴りを脛に当てる。

 

「ぐぉおおお……!」

 

 強烈な脛蹴りだ。弁慶すら泣いて謝る一撃に、百さんはその場に崩れ落ちて脚を押さえて転がった。痛そう(小並感)

 

 悪いな百さん。私は黒ギャル……マックだろうとストリートだろうと男女平等にズバッと物申すのがギャルなのだ。

 なんとなく性根が悪い人じゃなさそうなのはわかったけど、それはそれ。悪そうな人とつるんでいるのは良くないぞ! 

 

「百さん。大切な友人が悪の道に染まっているなら、引き戻してあげるのが本当の友達というものです」

「いっでぇ……! あ、悪……!? なにが悪だよ、クソッ……! 美紀は、美紀は悪人なんかじゃ……!」

「さあ。私の中では薬物販売や使用は悪カテゴリに入るので、なんとも」

「薬……!? そんな、わけねぇ……あいつはそんなもん、使うわけがねえ……! 適当なことばっか言いやがって……! この嘘つき!」

 

 私も美紀さんに関しては詳しく知らない。終わった後のことだ。面会どうこう言ってる段階なら、もはやどうすることもできないだろう。

 後味は悪いしどこかもんにょりするが、こういうことも込みの覚悟で私はやっている。ダークヒーローを気取るつもりはないが、必要経費だ。人の心が薬に汚染されるよりはずっと良い。

 

「それではさようなら、百さん。お大事に」

「ま、待て……! くっそぉ、次あったらてめぇボコボコにしてやるからな! 覚えてろ……!」

「再戦くらいならいつでもしてあげますよ。ただ、この時間は学校でしょう。次は放課後にしてください」

「てめぇもサボりだろうがぁああ……!」

 

 黒ギャルVSスケバン少女。この異種JK格闘技は私の勝利で終わった。

 旧時代の遺物がギャルに勝てるわけないんだよなぁ……。

 

 しかしあの田辺 百という少女……なかなかガッツのある子だったな。

 脛を強打されて長時間蹲るほどの痛みがあってもなお、あの反骨精神だ。また私を探し出して喧嘩を売ってきそうな予感がする。

 

 私の方では戦う理由もないけど、もしもう一度出会うようなことがあれば……。

 その時は、今度は太ももに強烈なキックをお見舞いするとしよう。

 この各務原 星藍、容赦せん! 

 

 




:各務原 星藍
身バレしても特にダメージのない無敵のリフレクター。
美紀という少女をボコボコにしたことはないが、救助をしたわけでもない。一人の薬物使用者として冷たくスルーしている。

:田辺 百
ブルーリフレクション澪で登場した元ヤン少女。今はまだ現役ヤンキーとして荒れに荒れている真っ最中。
友人だった美紀がある日突然謎の黒ギャルの暴威に巻き込まれて入院したりパクられたりした。
百は身内ではないので詳しい事情を聞かされることがなく、色々と勘違いしている。そもそも、美紀が薬物に手を出したことも知らない。
それでも彼女は彼女なりに、友達のためにがむしゃらに動いているのだった。

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