面白そうなバイトがあったので参加してみることにした。
今回のは私の何でも屋絡みではない、本当にただのバイトである。
別にお金には困ってないんだけど、ティーン向けのファッション雑誌を読んでいたら変な求人があったのでついつい惹かれてしまったのだ。
お賃金は一時間で……1100円! んーまぁ……普通だな!
内容は発掘調査の手伝い。化石採取とかそういうタイプのバイトだろう。意外とこういうバイトはそこそこあるのだが、求人を出しているのが超古代遺物研究機関とかいう胡散臭すぎる研究機関だったのでついつい厨二心が疼いてしまった。
正式名称はAncient Ark Solving Agencyなんだとか。ムーかな? と思って調べてみたら意外と国際的にやっている組織らしくてちょっと驚いた。
けど、大元の組織がデカかろうと現地調査は大概地味なものだ。実際、ティーン向けの雑誌に求人を出すくらいなのだから、やりたいことは人海戦術による地道な調査に違いない。
まあ、色々言ったけど……私としては古代という言葉に惹かれるわけで。
「古代人の残した遺跡……みんなの遺したものが見つかるかな、なんて。さすがにそんなピンポイントでは出てこないか」
百万年前の人類は私を含めて百人程度だった。けど、それからずっと時は流れ、いくつもの人類の集落や文明が築き上げられてきた。今回私が赴く場所も、そんな後進の人類による遺跡なのだろう。あまり期待すべきじゃないだろうなぁ。
「やったぜ」
幸い、ほぼ嘘しか書いてない私の履歴書は無事に通過した。発掘調査できるってよ。
私の経歴の何を見てOK出したんですかね……。
「各務原 星藍です。本日はどうぞよろしくお願い致します」
「お、おお……また随分若い子が来たね。よろしく、各務原さん……」
現場にやってきた。
意外なことに、場所は都内。月ノ宮近くの住宅街の真っ只中であった。
周りを見回せば普通に民家があるし、自然はほとんどない。発掘調査を行うこの現場も何らかの予定地のような広さだし、そこを掘って遺物を探そうっていうのがなんだかおかしく感じられた。
案内役のおじさんは私を見て少し驚いていたが、すぐに仕事モードに切り替えた。
「前はここに古い屋敷があってね。代々続いたこの辺りじゃ有名な家だったんだが、色々あって土地ごと手放すことにしたんだよ」
「はえー」
「で、お屋敷を解体してちょっと掘ってみたら古代の石器が見つかって……という感じなわけさ。価値の低い遺物なんかだとたまに“見なかった”ことにされて工事が続行されるんだが、ここは運良く発掘調査にまで漕ぎつけた。何より、全体的に出土品がかなり古い。価値のある現場だよ」
長袖長ズボンの作業服に着替え、帽子と軍手を装備。イケてない黒ギャルが完成した。まぁこの場にいるほとんどの人は同じようなイケてない格好をしているから問題ないんやけどなブヘヘ。
せめてもの抵抗にアクセサリーの類は身につけている。昔のみんなからもらった大切な装飾品たちだ。できればいつでもこれで着飾っていたいっすからねぇ〜。
「試掘は済んで表土も取り除いた。後は丁寧に掘り進めつつ……場所によっては大胆に掘り進めるだけ。各務原さんにはこのスコップで大胆にやる方の作業をお願いしたい。なに、大丈夫だよ。歴史がわかっていなくてもできる作業だからね」
「結構普通のスコップを使うんですね。もっとこう、ハケみたいなのでやるのかと思ってました」
「遺物や遺構が出てからはそうなるね。ただ、ああしてチョークで印が付けられた区画はほら、土の色が違うでしょ」
「はい、違いますね。あれは?」
「あの土はもっと新しい年代の土なんだ。今回の調査では特に調べる必要がないから、雑に取り除いてしまうわけ。地層は基本的に真っ平に重なってゆくものだが、場所によっては多少の偏りも出るからね。大雑把には重機を使って取り除くんだが、ここまでくると人力でやる他ないから。女の子には少し辛いかもだけど、まぁ無理しない程度に頼んだよ」
「なるほど。かしこまり」
どちらかといえば発掘というよりも土方に近いが、まぁそれでも発掘調査の手伝いには違いない。珍しい仕事だし、頑張るとしよう。
土は固めだが、リフレクターの手に掛かればサクサクと切り崩してゆける。
ちょいダサな格好は個人的にアレだけど、深めに掘られた現場なのもあって、端っこで作業していると通行人に見られるということもない。
古代の生活を思い出すなぁ……昔はこうやって土を掘って、集落の一時避難場所を作ったりしたもんよ。
「線量計準備完了よ」
「レベルおっけー。あーいや、ちょっと待ってくださーい。計器不良っす」
「また? 高いくせに仕事しない道具ねぇ」
「いや、しょうがねーっす。AASAもこんな末端の現場まで最新の道具は配備できないっすから」
「そうね……ま、道具の分まで私たちでしっかりやりましょうか」
私が掘削しているすぐ近くでは、研究員らしい雰囲気の人達が大袈裟な機械を使って何やら色々と調べていた。
なるほど、ああやって地層とかなんかこう……そういうのを見てるんですかねぇ……。
「タカキも頑張ってるし……私も頑張らないと」
とはいえ黙々と単純作業だけやるのはしんどいので、イヤホンを装着。
周囲の大きな音には多少配慮する感じで音量は押さえつつも、声優のWEBラジオを聴きながら作業しようと思う。
ストックは結構あるからな。最近消化してなかったから無限に溜まってんぜ。
「……試作エーテルレベル観測機、やっぱ調子悪いっすね……」
「まだ直らない?」
「ええ、まあ最近はどこも数値が上がっているとは聞いてるんすけど、それにしても数値が高いというか……」
「……昔のだから、少し出来が悪いっていうのもあるわ。最近のものは斎木システムが入って精度が上がったんだけど」
「んー、これは本格的にどっかまずったんすかねえ……針が右側に振れまくってる……これじゃまるですぐ近くにエーテルまみれの遺物が転がってるかのような……」
「こんな都会の表層で出土してくれるなら、オーパーツだなんて言葉は生まれていないわよ」
「っすよねぇ……」
ある程度土を掘削したら、一輪車に乗せて運び出す。
こればかりは何度も往復するしかないな。
「すんませーん、ちょっと土通りまーす」
「あ、はーい」
「……お、線量が上がっ……いや下がった」
「数値がブレる? そんなことあるかしら」
「壊れてるにしても動くなんてことはあまり考えられないっすよね……これは一体……?」
「……ちょっと今日見つかった遺物を確認しにいきましょう。万が一ということもあるかもしれないわ」
「うっす」
土を所定の場所に廃棄したら、再び掘削作業の再開だ。
なんかケーキをひたすら削ってるみたいでちょっと楽しくなってきたわ。いや嘘、WEBラジオ聞いてないとさすがに退屈で死ぬ。
とはいえ仕事だ仕事。はぁ〜、私もハケ使ってなんかよくわからない壺とかサラサラするやつやりてぇなぁ〜。
「……遺物に変わったものは出土していない」
「石器の欠片かもしれないものだけっすからね。……あ、また数値が上がってる」
「また変動? これは……偶然なの? それとも……」
「……この現場の地下に、何かとんでもない古代の遺物が埋まってるんじゃ。それこそ、本部が見つけたんじゃないかって言われてる遺跡とか……」
「あり得ない……と言うには、この数値の変動は不可思議ね……まるで、何かの生き物が発しているかのよう……」
「おーい、各務原さーん」
作業を続けていると、私を案内してくれたおじさんが声をかけてくれた。
「はい、なんでしょうか」
「そろそろお昼にしよう。……っておお? 随分と掘り進めたね!?」
「慣れたものですよ」
「いや重労働なんだけどね……ともかく、真面目にやってくれているのはありがたいよ。さあ、とにかく食事にしよう。働いたならその分のカロリーを補給しないと大変だ。うちで出るお弁当は結構いい奴だから、美味しいよ」
「マジですか。やった」
休憩時間は結構長めに取っているらしい。しかもご飯も出てくる。ありがてぇ……。あ、コーヒーもらえるんですか。じゃあ微糖でミルク入りのやつでオナシャス!
「ま、また数値が下がったわ……機器はどこもいじってない。やっぱりこの地層には、何かがある!」
「まじっすか……! お、俺たちとんでもない発見をしたんじゃ……!」
「そうね、これはひょっとすると……本当に遺跡かも……!?」
「いや、それでもまだ故障の線もあるんじゃないすか。もう少し色々と調査してからにしましょう!」
「……わかったわ。焦っても良いことないものね。慎重にいきましょう……!」
弁当を平らげてからは再び現場に戻る。
さて、採掘作業やるぞやるぞやるぞ〜。
「……一定の範囲に入ると大きく針が振り切れる……これは……かなり端の方ね」
「こっち側の地下に大量の何かが眠ってるってことっすかね」
「反応の強さから言って間違いないわ。古代の神秘の道具が大量に眠っているのか、それとも遺跡があるのか……」
「……反応が薄くなったり、強くなったりすることはあるけど……やっぱ間違いなく何かはあるみたいっす。故障でもない……」
「……よし。決めた。本部にデータを送ってみるわ。本部からの増援を呼んで、より詳細な調査に入ってもらう!」
「マジですか……はは、こりゃすげぇや。まさかこんな場所から、デカいお宝が現れるなんて」
「退屈な仕事かと思っていたけれど……手広くやってみるものね」
「ほんとっすね」
とまあ、そんな感じでこの日の採掘作業は終わったのである。
地味な土木作業オンリーだったけど、まぁノルマらしいノルマはないし急かされることもないから、結構楽な部類だったと思う。同じくバイトで来てたお兄さんに聞いてみたところ、なかなか人気の仕事であるらしい。雑誌から応募して受かった私はかなり運が良かったようだ。
この発掘作業はまだまだ何日も続くらしいので、朝九時から夜十七時まで、フルタイムで何度も何度も入ることになるだろうとのこと。
はえー、結構やるんすねぇ。……さすがに発掘を全て見届けるつもりはないけど、ハケで何か遺物をパタパタやるやつだけは一度やってみたいな。真面目にやっていれば、そんな作業もやらせてもらえるだろうか。よし、それまでは続けることにしよう。
「えっ、発掘作業中止ですか」
『申し訳ない……上の方から指示があってねぇ。より大規模な調査をするからというので、我々は立ち入れないことになってしまったんだよ……私も聞いたばかりで、何が何やら』
しかし二度目の採掘に行こうとしたその寸前、現場監督のおじさんから中止のお知らせが来た。
何か貴重なデータが見つかったらしく、あの現場はしばらく専門家が立ち入るから一般の作業員はダメなんで、とのこと。なんじゃそりゃ〜〜〜。
『一応、他の現場もあるから各務原さんはそっちに移ってもらうこともできるけど……どうする?』
「えー他の現場ってどこですか」
『それが……広島の方なんだけどねぇ』
「うーん、さすがに遠い!」
『ははは、だよねぇ……』
こうして私の遺跡調査バイトはよくわからんまま、一日だけやって終わってしまった。
は〜……あほくさ……。
まぁ、どうせ長く続ける気はなかったし……自分から飽きたんで辞めますって言うよりはマシか……。
「……エーテル指数低くない?」
「低いですね……」
「送られてきたデータでは高かったのだが……」
「……少しだけ掘り進めてみますか?」
「うーむ……まあ、少しだけ……」
「何も出土しなければ、この機器は交換すべきだろうな……」
増員された研究員たちは、特に何の成果も得られないまますごすごと帰っていったという。
:各務原 星藍
発掘作業初心者な美少女黒ギャルリフレクター。
気付かないうちにAASAの観測機に干渉してしまい、研究員を困惑させてしまった。
結局採掘現場からはめぼしいオーパーツは出土しなかったという。