オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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アイーダさんの悩み

 

 切り出した石の物見台の上で、熟して酒っぽくなった果実を齧り、ほろ酔い気分を楽しんでいた時のことだ。

 

「おぉん?」

 

 右手の指輪が輝き、異常の発生を知らせてきた。

 魔物の接近ではない。光り方からして、集落の人の異常を知らせるものだろう。

 

「この方向は……アイーダさんか」

 

 現場に急行すると、寝静まった夜の集落の端に目的の人を見つけた。

 採集した資材を貯め置きする広場で、アイーダさんは膝をついて項垂れている。

 

「はあ……はあ……」

「アイーダさん! これは……病気とかではないな」

 

 苦しそうに喘ぐアイーダさんの周囲にはエーテルの靄が立ち込めている。彼女の内側から想いの力が暴走し、溢れているのだ。

 

 想い、フラグメントの暴走。この現象は集落内で度々発生している。特異点に拠点を構えていることによる反動だと、ダアトさんは言っていたが……今はそんなことより、アイーダさんをなんとかすることの方が先決だな。

 

「コモンリープ!」

 

 アイーダさんの胸に手を翳し、私は集合無意識の世界へと転移した。

 

 

 

 集合無意識。コモンの世界。

 ここはダアトさんの管理下にある人間達の心の世界であり、様々な感情によって構成された異世界だ。

 

 私が降り立ったのは、冷たい青色の石や水辺がどこまでも広がる寒々しい景色……悲しみのエリアだった。

 アイーダさんの暴走した感情は、この悲しみに関わるものなのだろう。

 

「アイーダさん、何か思い詰めてたのかな」

 

 コモンの中には人の想いから生まれた小さな魔物が徘徊しているが、それらは無視してアイーダさんの想い……フラグメントを探す。

 私のリフレクターとしての役目のひとつに、このコモンでの仕事がある。暴走したフラグメントをコモンで捜索し、鎮めて落ち着かせるのだ。

 カウンセラー(物理)って感じだろうか。まあ、魔物退治と一緒でさほど難しいものではない。

 

「見つけた。あれだな」

 

 コモンは無限に広がっていると言って過言ではないものの、対象の近くでコモンリープすれば大抵はフラグメントの近くに降り立てるので、捜索は容易だ。

 水辺の近くにふわふわと浮かぶ輝きを見つけた私は、その周りでゆらゆら揺れている魔物を軽く斬り飛ばしてから光に手を翳した。

 

『私……情けないな。どうして私は、こんなに弱いんだろう』

 

 アイーダさんのフラグメントに触ると同時に、彼女の心が流れ込んでくる。

 

『エーテルの道具を作る力も、戦う力も弱い。戦いは女の役目なのに、私はちっとも役に立ててない。自分が……情けないよ』

 

 ……どうやらアイーダさんは、エーテルを扱う力の弱い自分が嫌らしい。

 確かに、アイーダさんが狩りや製作で活躍したって話はあまり聞かなかったな。それについて深く考えたこともなかったけども、彼女はずっと思い悩んでいたようだ。

 

『セイラはあんなに頑張ってるのに……私は……』

 

 あっ、これってもしかして私も関係ある感じっすか。

 いやいや、チート持ちの私と比べちゃ駄目でしょうよ。そりゃ心折れそうにもなるわ。

 

「どうしても周りと比べちゃうんだよなぁ、こういうのは」

 

 アイーダさんのフラグメントに触れ、暴走を鎮める。

 すると輝きは収束し、辺りに立ち込める悲しみの気配も消え去った。

 これで仕事は大方終了である。あとはここから脱出するだけだ。

 

 

 

「う……んん……あれ、私……?」

「大丈夫ですか、アイーダさん」

「セイラ……? あれ、もしかして、私なんか……迷惑かけちゃってたかな……?」

 

 現実世界に戻ると、アイーダさんは落ち着いた様子で辺りを見回していた。

 相変わらず自信無さげな表情で眉を下げているが……まあ、フラグメントの暴走を抑えたからといって現実の問題が解決するわけでもないのでね。ここからは普通のカウンセリングに移行しなくちゃいけない。

 どしたん? 話聞こか? 

 

「迷惑だなんてことはないですよ。それより、何か悩んでいることがあるんじゃないですか」

「……セイラにはわかっちゃう?」

「わかっちゃいますよ。アイーダさん、悲しそうな顔をしてましたから」

「あはは、そっか……」

「話してくださいよ。眠れなくて、話し相手が欲しかったんです」

「うん。じゃあ、聞いてくれるかな……」

 

 それから、アイーダさんは自分の心のうちを話してくれた。

 内容はコモンの世界で見た心情と同じものだったが、自分の口から話すことで気は楽になるらしい。

 吐露するうちに、アイーダさんの表情は段々と和らいでいったように思える。

 

「……はぁ、話してたら少し楽になったよ。ありがと、セイラ」

「いえいえ、私は聞いてるだけでしたから。……それにしても、エーテルの扱いが苦手、ですか。アイーダさんがそんな悩みを抱えていたとは、初めて知りましたね」

「うん……ほら、エーテルナイフを作ろうとしても、こんな風に」

 

 アイーダさんは手のひらを掲げ、仄かな輝きを掴んでみせた。

 これだけでも十分にミラクルな行為であるが……。

 

「ね? 私の生み出す道具って小さいから……こんなのしか実体化できないの」

「これは……針ですね」

「これじゃあ革作りもできないし、狩りもできないよ……」

 

 アイーダさんの手の中に生み出されたのは、太めの裁縫針のようなエーテル装備だった。確かにこれは戦闘には不向きかもしれない。だが……。

 

「細かい細工物だったら、むしろそっちの方が使いやすそうですけどね」

「えっ?」

「いえ。大雑把な加工ならナイフの方が良いですけど……ここに置いてあるような貝殻とか、魔物の部位なんかを細かく彫ったり穴を開けたりするのだったら、きっとアイーダさんの出したような針の方が便利だと思いまして」

 

 物資を溜め込んだこの場所には様々な部品や小物が乱雑に置かれている。中には討伐した魔物が遺していった欠片なんかもある。アイーダさんの針は、そういった細々とした材料の加工に適しているように感じた。

 

「そ、そうなの……かな」

「そうですよ。アイーダさんは手先が不器用というわけではないですよね? その綺麗な髪だって、自分で編んでいるのでしょう」

「うん……」

 

 アイーダさんの三つ編みは綺麗に編まれている。

 地味な彼女だが、結構なオシャレさんであることは私でも知っていた。

 

「だったら、いかがですか。小物作りに挑戦してみては」

「……できるかな、私に」

「できますよ。アイーダさんなら。……アイーダさんの使った小物、私は着けてみたいですよ?」

「! ほ、ほんと?」

「本当に本当」

 

 良かった。ようやくアイーダさんの顔に元気が戻ってきた。

 

「……わかった。私、セイラのために何か作ってみるね」

「うん。できたら是非見せてください。楽しみにしてますからね」

 

 これでもう、アイーダさんの悲しみが暴走することはないだろう。

 めでたしめでたしである。

 

 

 

 それから数日後。

 

「見て見てセイラ! またセイラのためにアクセサリー作ってみたの!」

「えっ……ま、また……い、いえ、ありがとうございます」

「えへへ。今度のはブレスレット。キラキラしててセイラにぴったりだと思うの!」

「わぁ〜……」

 

 アイーダさんはすっかり小物作りにハマったらしい。毎日毎日、とてつもない熱意でたくさんの装飾品を量産するほどだ。

 今では集落のみんなもアイーダさんの作る装飾品を欲しがり、ちょっとした売れっ子デザイナーのようになっている。

 私はそんな売れっ子デザイナーであるアイーダさんから、特別に色々なものを贈られているのだが……。

 

「……ギラギラしたアクセをゴテゴテに全身に飾り付けて……これマジで着実にギャルに近付いてんな……」

 

 なんかこう、エキゾチックなアクセサリーをたくさん身に付けてるとね……自分のギャルっぽさにさらに磨きが掛かるというか……。

 いやアクセサリーは綺麗だし好きだけども……清楚系のギャルからどんどん離れてケバい感じのギャルに近づきつつあるっつーか……。

 

「やーんセイラかわいい! 今度は腰に巻く何か、作ってみるね!」

「は、はい。ありがとうございます……アイーダさん……」

 

 まあ……アイーダさんが楽しそうだから別にええか……。

 

 




:セイラ
黒ギャルみたいな見た目をしてるけど丁寧な物腰のリフレクター。
ゴテゴテのアクセサリーが増えたせいで見た目のギャルっぽさが増した。
地味に魔物の素材を使ったりしているので装備品としての性能には優れているらしいことに気付いてからは外すに外せなくなった。

:アイーダ
手先が器用な装飾品作り専門の原始人女の子。
戦いや力仕事は苦手だが、細かな作業や製作は大得意。
小物作りを始めてからは集落のみんなから色々なものを頼まれるようになり、忙しくも嬉しい日々を過ごしている。
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