オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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YUK「」


やってきた二人

 

『宮内さんって結構性格キツいよねぇ』

 

 忘れ物を取りに教室の前までやってきた時、そんな声を耳にした。

 

『あーわかる。真面目すぎるっていうか』

『冗談も通じないしねぇ』

『悪いことする人じゃないけど、一緒に遊ぶ相手としてはちょっとね』

『空気が……』

 

 クラスメイトの女の子たちだ。

 話しているのは、私のことに間違いない。この学校に宮内なんて苗字の人は、宮内 伶那しかいないから。

 

 それに、私も自覚はある。クラスでは少し浮いてると思っているし。性格がキツいっていうのも……まぁ、そう思う人もいるんじゃない。

 

『それに、一緒にいられると私のスタイル悪く見えそうで』

『あーわかる、宮内さん足長いからね』

『ていうか、勉強と部活ばかりで遊ぶ暇もないんじゃ……』

『何の話?』

『えっ』

『あっ……!』

 

 事実ではある。私はそう、多分。キツい性格なんだと思う。

 きっと普通だったら、こうして陰口叩かれている時に教室に入って行ったりもしないだろうから。

 

『いや今のは違くてさ……』

『別に。私、忘れ物取りに来ただけだから』

 

 いじめられているわけではない。こういう陰口も、頻繁にあるわけではない。

 私の生活に支障は出ていない。だから、私はあまり気にしていないんだ。

 友達付き合いがあまり得意でない私には、むしろ都合が良かったし。

 

『そのっ、あの……ご、ごめんね?』

『……もう行こっか』

『うん、じゃ、じゃあね宮内さん』

 

 けど、人付き合いが下手でも、学校にいれば嫌でも人と関わることがある。

 避けられるものばかりではない。

 そんなタイミングで、「ああ、失敗したな」って実感しちゃうと……どうしても私は、気落ちしてしまう。

 

 ……けど、それだけ。すごく辛いわけでも、苦しいわけでもない。

 きっと私よりも生きづらい人は多いだろうし、悩みを抱えている人も多いと思う。その点、私は学業も優秀だったし、部活でも良い成績を出せていた。

 

 ただ、人よりもちょっと孤独なだけ。それが私、宮内 伶那だった。

 

 

 

 ある時、アニメにハマった。

 以前は興味なんて少しもなかった。アニメなんて子供が見るものくらいに思っていたし。それこそ、一桁の年齢で見なくなったくらい、私の中では過去のものでしかなくて。

 ある日、なんとなくつけたテレビから流れるアニメの一話を偶然目にした時……私は目覚めてしまったのである。

 

 ある趣味を長年抑圧されていた人が後から趣味に触れた時、その反動が大きくなる。そんな話を聞いたことがある。

 私の場合は誰かに抑圧されていたわけではなかったけれど、一気にのめり込んでしまった。

 

 少女達の織りなす繊細な物語。彼女達の可愛く綺麗な姿。……当時無趣味に近かった私は、その世界にズブズブと入れ込んだ。

 最終回が終わった後はその大きすぎる喪失感を埋めるために、イラストや二次創作にも手を出した。私が創作すれば、彼女たちはまだ生き続ける……彼女たちが動く様を見ていられる。そう思ったから。

 

 スマートフォン向けのゲームが発表されたのは、私がそれなりにイラストを描けるようになってからだ。

 原作アニメが終わり、供給のなかった私はすぐに飛びついた。……ゲームそのものは難しいし、単調なわりにまともにできるようになるまでには時間がかかるしで、ちょっとだけ「うーん」となる時はあるけど、彼女たちの物語の続きを見られて、心は満たされた。

 

 

 

 SIRや漬桃石さん、香織さんと出会ったのは、そのゲーム内のコミュニティでのことだ。

 ゲームの中にある難しい要素を攻略するためには、孤独のままでいることは難しかった。どうしても、サポートしてくれる他人が必要になる。……だから仕方なく、けど自分に合ってそうな条件のコミュニティを選んで所属した。

 

 コミュニティの名前は「DAT IS GOD」。……点描は神? 名前はよくわからないけど、無課金でまったりプレイする人でも入れる場所だったから、とりあえずここを選んで所属した。

 で、まあ……ちょっと風変わりなSIRとか、ぶっきらぼうだけど良い人そうな漬桃石さんとか、サバサバしてる香織さんとか、私にもちょっとした知り合いというか、色々なゲーム友達ができて。

 ゲーム攻略について話し合ったり、原作の話をしたり、時には何気ない世間話なんかもして、私にしては珍しく、それなりに仲良くなって……。

 

 今日、そんなゲーム友達と会うことになっている。

 

 

 

「オフ会なんて初めてだからわからない……緊張する」

 

 鏡の前で髪をセットする。

 ……初対面なんだ。適当な格好では会えない。キッチリさせて、第一印象だけでも良くなるよう、整えないと。

 

「二人とも、女の子って話だけど……どんな子なんだろう。やっぱりオタクっぽい感じなのかな……」

 

 思い出すのは教室にいたオタク趣味の子たちのグループだ。

 彼女達はクラスでも目立たないところで固まって、自分達の派閥からはあまり外に出たがらないタイプだった。けれどそれはそれで楽しそうだった。……私から見て、羨ましいほどに。

 私はオタク趣味をひた隠しにしていて、リアルでは誰とも話せていない。だから実際に会って作品語りをするなんて……どういう感じになるのか、今でもよくわかってない。

 

 どうしよう。私、大丈夫かな。

 オタクっぽい子が相手だと、私は会話が続かないというか……クラスでは結構、遠慮されてた気がするし……。

 

「……もっと、相手に合わせた方が良いのかな」

 

 鏡に映る自分を見る。

 

 強気そうな目。自然に流したセミロングの髪。……自分のことなんてよくわからないけど、鏡に映ってるこの姿がオタクっぽくないことだけはよくわかる。

 どちらかといえば、もっとカーストが上のグループのファッションだ。……この時期の夏の装いを合わせれば、どことなくギャルっぽくすら見えるかもしれない。

 

 私のこの姿が、威圧的にならないかな。二人の前に出しても大丈夫なのかな。

 

 ……いや、そんなことはいい。気にしない。私は私だ。

 

「受け入れるかどうかなんて、二人が決めることでしょ」

 

 少し悩んでしまったけど、結局私は私らしく、いつもの格好で二人に会うことに決めた。

 もし二人に引かれても、それは仕方ない。私が変に自分を曲げたって意味なんかないんだ。私は私らしい姿で二人と会うことにする。

 ……オタク趣味を曝け出せる初めての相手。……どうなるんだろう。

 

 

 

「……二人はもうクリーン活動終わったみたいだけど、もうすぐ来るかな」

 

 待ち合わせ場所の灯台前に佇み、海水浴場の方を眺めている。

 この灯台は私のお父さんが整備している灯台で、近くの退息所(という名の記念館)と掛け持ちの職場になっている。家からは少し距離があるけれど、何度も来ているからほとんど自分の庭のようなものだ。

 

 夏の陽は高く、まだ沈むまでには時間がかかる。けれど、海水浴場で蠢いていた人影も減ってきた。清掃活動は終わったと思うんだけど……。まだ二人は来ないのかな。

 

 ……というか、本当に女の人なのかな。

 こういうオフ会って、実際に会うと全然話と違う人が来るっていうし。二人は女の子だって言ってたけど……いざ会ってみたら男だったりとか……そういうこともあり得るんじゃ。

 

 いや、むしろその方があり得る。だってセイラなんてあんな小汚い話し方するし、漬桃石さんだってなんか男っぽいし。……やっていたあのゲームだって、どちらかといえば男ユーザーの方が多いものだ。

 

 ……まさか、ほんとに。

 あの二人は、男だったり……。

 

「おーいそこの子、何してんの?」

「!」

 

 声をかけられた。近づいてくる人影が二つ……先ほどまで海水浴場にいたらしい、男たちだった。

 

「君この近くの子? 一人?」

「高校生くらい? スタイルいいね。暇してるなら俺たちと一緒に晩御飯食べに行かない? 奢るよ?」

「……行かない。私、人待ってるし」

「すごいスタイル良いね!?」

「可愛いじゃん」

 

 この二人? この二人がそうなの? ……なんか、チャラチャラした男達。馬鹿っぽくて、私の一番嫌いなタイプ……。

 

「名前は?」

「ていうか君くらいスタイル良ければ学生でも全然大丈夫でしょ」

「やめて、近づかないで」

「いやいや、近づかないでって、話してるだけじゃん」

「それにこんな人気のない場所で一人でいたら危ないよ。それにその格好、誰かに誘われるの待ってたんでしょ?」

 

 どうしよう。男が近付いてくる。

 ……周りに誰もいない。どうしよう……。

 

 怖いよ……誰か……。

 

 誰か助けて……。

 

「オイてめぇ! 女一人になに絡んでんだ!」

 

 バイクが急停車する音と、ガラの悪そうな怒鳴り声が聞こえた。

 ……ノーヘルの金髪頭の女がバイクから降りて、ものすごい形相でこちらに歩いてくる。

 

「おめぇらだよおめぇら。ぁあ? あたしのダチに手を出そうってのか?」

「や、いや、それは……」

「……つーか、誰? 何こいつ。ここらのレディース?」

「知らねーよ。てめーらこそどこの誰だよ」

「いや俺らはこの子に用があるだけだけど……君こそ何。この子の友達なわけ?」

「ぁあ!?」

 

 怖い女の子だ。ガラは悪いし、いきなり喧嘩腰だし、そこにいる二人の男よりも頭悪そうだし。

 けど……なんとなくわかる。

 

「漬桃石……さん?」

 

 私が呆然とそう呟くと、見るからにヤンキーそうな彼女はこちらを見て、フッと笑った。

 

「そう、あたしは田辺(たなべ) (もも)。そいつのダチだよ」

 

 少し遅れて、漬桃石さん……いや、百さんの停めたバイクの横に、自動車が停まる。

 そこから降りてきたのは、きっと…………って、ええ……? 

 

「法定速度は守りましょうよ、百さん」

「うるせぇ。遠目にこいつが絡まれてるのが見えたんだよ。こういう時にカッ飛ばさねえでどうするんだよ」

「120は出てましたよ。やりすぎです。私の車は借り物で無茶できないんですから、お手柔らかにお願いしますよ」

 

 車から現れたのは、褐色の肌に金髪の女の子。

 裾を縛ったラフなシャツに、ショートパンツ。全身にゴテゴテのアクセサリーを身につけた、私よりも背が高い……どう見てもオタクっぽくはない、完全にギャルな見た目の子。

 

「……で、お二人はなんです。私達は彼女と用があるので、ナンパなら別の人にお願いできますか」

 

 あまりにも存在感の強い彼女達の登場で、二人の男は一気に気圧されたようだった。

 二人は口の中でモゴモゴと何かを言って、さっさとこの場を離れてしまった。

 

「けっ、二度と来るんじゃねえ」

「ナンパならもっと食い下がっても良いと思うんですけどね」

「テメーは何目線だよ」

 

 ……女の子二人。そうだ。間違いない。この二人だ。この二人が私の……。

 

「……ありがとう、漬桃石さん。セイラ。……さっきの、正直、すごい助かった」

「へっ。お安い御用だよ。フレネル」

「フレネルネキ、オッスオッス」

「……あはは、やっぱりセイラだ。本当にそのまんまなんだね」

「だろ?」

 

 この日、私はネットで知り合った友達と会えた。

 

 

 




:各務原 星藍
緊急時でも道交法は怖いので法定速度は守る系リフレクター。
平凡な百のスクーターがエグい加速を見せてビビった。
フレネルの姿が意外とオタクっぽくなくて驚いている。

:田辺 百
改造したバイクでメーターを振り切った速度を出せるスケバン少女。
フレネルに偏見はなかったので灯台の下にいる一人きりの少女を見てすぐに誰だかわかった。

:宮内 伶那
理系新体操好き隠れオタク。フレネル。
年齢の割にはかなりの高身長で、大人びた装いをしている。
軽薄な男が嫌い。
セイラと百がかなりイメージと違ってびっくりした。



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