オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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心配性のサイエンティスト

 

 現代ファンタジーというか、魔法少女ものというか。ブルークリスタリアはそんなジャンルのアニメだ。

 首が取れたりしないタイプの、どちらかといえばマイルドな作品と言えよう。深夜帯のアニメにしては刺激は少なめである。

 その分、女の子と女の子の友情の描写に重きを置いているというか、まぁ結構百合っぽい感じが強い作品だ。男向けか女向けかで言うと男向けだが、お色気はほぼないので、そういうのが苦手な女でも忌避感なく楽しめる。と、思う。

 

「こういうアニメって、杖とかステッキみたいなの使わないんだなぁ。あたしが昔見てたやつとは結構違う感じだ」

「少女たちの想いが武器になってるから。この子は空手の道場に通ってるから、素手だしね」

「めっちゃ気合い入ってんなぁ」

 

 が、鑑賞慣れしているかどうかが楽しさに関わってくるパターンは多い。

 百さんはどちらかというとアニメなどに馴染みがないので、ストーリーの繊細な部分を追いかけるというよりは、シーンごとの戦闘や見せ場を単体で摘むように楽しんでいた。

 流しっぱなしにしているアニメ一挙放送の楽しみ方としては、まぁ、こういうのもありだと思う。

 伶那さんはというと、百さんにもう少し集中して楽しんで欲しそうにしていたけど。

 

「それにしても、すみません。突然お邪魔してしまって」

「ううん、大丈夫。お父さんも良いって言ってるし」

 

 今私達は伶那さんの部屋にいる。

 今日は予定を変更して伶那さんの部屋でお泊まりすることになったのだ。初対面の女子高生二人を泊まらせてくれるなんてありがたい。

 

「いや、二人とも車中泊するなんて無茶なこと言うから……それ聞いたらお父さんも放っておけなかったみたいだし……」

「今の時期は余裕ですけどねぇ」

「あたしホテル泊まる金なんてねーし」

「ホテル代も馬鹿にならないですからね」

「無防備すぎるでしょ……今日二人に助けてもらった私が言うのも変かもしれないけど」

 

 そういうわけで、アニメの上映会ができるようになったというわけだ。

 まあ、モニターは伶那さんのパソコン用のもので小さいし、いまいち百さんは集中していないけれども。

 こうして友達の家でダラダラと過ごすのも楽しいよな。

 

「砂浜の清掃は明日くらいには終わるそうですよ。近くの大学が有志を集め、頑張ってやるそうです」

「しんどかったなー、腐りかけの魚は特に。明日は今日よりもっとひでぇんだろ? あたし今日の仕事でほんと良かったよ」

「そんなに酷かったんだ……まあ、臭いも酷いしね。ビーチもお客さんが減って大変みたい」

「岩場の方ではサーファーがいましたね。そちらはまだ綺麗だったのですが」

「向こうは立ち入り禁止なんだけど……」

「やっぱか。絶対あそこあぶねーだろうなって思ったんだよ」

 

 大皿に盛られたお菓子をつまみ、雑談を交わし、時々アニメを見て、たまーに伶那さんが勉強道具を引っ張り出してきては百さんが渋い顔をして。

 なんだか本当に夏休みのような心持ちで、どこか懐かしい時間を過ごすことができた。

 

 

 

「各務原さん……?」

「ん?」

「どうしたの……? 眠れない……?」

 

 深夜。百さんたちがすやすやと寝静まった頃。

 窓辺でスマホを弄っていると、目を覚ましたらしい伶那さんが眠たげな顔で私を見つめていた。起こしてしまったか。

 

「いえ、日課のネットサーフィンをしていただけですよ」

「寝ておかないと、明日大変でしょ……車とか運転するんだし……」

「はい。心配してくださってありがとうございます、伶那さん」

「別に、心配っていうか……」

 

 伶那さんが何か言いたげに口をモゴモゴ動かし、やがて息を吐いた。

 

「……なんだか、目が覚めちゃった」

「お話でもしますか」

「うん」

 

 伶那さんは私のそばに寄ってきて、向かい側のクッションに座った。

 女の子にしてはややカッチリしている内装の伶那さんの部屋で、特に女子力の高そうなふわふわしたクッションである。

 

「オフ会、初めてだったけど……二人に会えて良かった」

「私も楽しかったです。今度はまた、香織さんも交えてお会いしたいですね」

「うん、そうだね。今回は、まあ香織の反応がなかったからとはいえ、結果的に仲間外れにするような感じになっちゃったから」

「急に決まったことですし、しょうがないですよ。次は香織さんの予定もしっかり確認しておきましょう。なんだったら、私が車で送迎しますしね」

「頼もしい。車持ちってやっぱり良いね」

「伶那さんは免許は? この辺りだと、生活するにも車は必須なように見えますが」

「んー……私、車はそこまで。そういうのが必要ない学校に行くつもりだから」

 

 なるほど。まあ、車が必要な地域に住んでいるからって車好きになるわけではないもんな。

 進学先を選べば車のいらない生活は送れるだろう。

 

「……今日二人が来て、海で仕事したって言ってて……驚いた。そういう働き方もありなんだって」

「私たちの場合、結構特殊な一例ですけどね。……伶那さんの場合、進学からの就職を強くお勧めしますよ」

「うん。わかってる。私はきっとそっちのが向いてるから」

 

 伶那さんはとても賢く、要領もいい。それに部屋の中を見てみると、非常に理系的な趣味の多い子であることが見て取れる。天体観察用の道具だとか、各種図鑑だとか、壁に貼られた周期表だとか。リケジョってやつだろう。

 

「けど、ちょっと不安だったの。このまま勉強して、大学を出て……そうしていく未来は見えるけど、それから先、私は何をしていくのかなって。ずっと悩んでたんだ」

「将来の悩みですね」

「うん。でも、私の学校にいる人たちって、そういう不安なんて誰も感じてなさそうでさ。私だけが、こうして悩んでいるのかなって……けど、違うんだね。私だけじゃなくて、みんな悩んでるんだ」

 

 すやすやと眠っている百さんの寝顔を見て、伶那さんはくすくすと笑った。

 

「今日、ちょっとだけ勉強した田辺さんを見てたらさ。思っちゃったんだ。私、ちょっと気にしすぎてたのかなって。急ぎすぎてたのかなって」

「そうかもしれませんね。早いうちに備えるのも目標を立てるのも大事ですし、とても偉いことだと思います。けど、まだ伶那さんはお若いですから。自分の可能性を最初から定めきらず、広く持っておくのもいいと思いますよ。確固たるビジョンを前もって準備しておかないと不安になる気持ちは、わからなくもないですけど」

「……うん。よく心配性って言われる。家族からも」

「良い見本とまでは口が裂けても言えませんけど、私や百さんのように大らかに構えるのも良いと思います。何より、気楽ですからね」

 

 百さんは勉強の意欲こそあるが、何か的確なやりたいことがあるわけではない。必要そうだからなんとなくやっておきたいという、ぼんやりした意志によるものだ。

 もちろんとても偉いことだ。がむしゃらだけど、非常に前向きな傾向だと言える。

 

「ま、将来やりたいことなんて進路希望調査の紙が目の前に来たら考えれば良いんですよ。それまでは、肩の力を抜いて日々を過ごしていけば良いんじゃないですか。伶那さんはなんだか、いつも肩に余分な力が入ってそうですし」

「……そういうの、わかる?」

「わかります。とてもよく」

「……なんか恥ずい」

 

 伶那さんのフラグメントは、眠そうな今であっても非常に安定した緊張感を保っている。

 緊張感とは言うが、強いストレスに晒されて限界、と言うわけではない。自らに課した高めの要求により、常にストレスを溜め込んでいるのだ。

 暴走とは関係ないけど、見ていて健気だなと思ってしまうようなフラグメントだ。こんな子供が、とも感じてしまう。

 

「けど、勉強が若い身を助けるのは間違いありません。安易にやりたいことだけやれば良いんだなんて言えませんし……先行きに不安を覚えるのはわかりますから、ただ一つ。伶那さんの今の努力は間違っていない。それだけわかっていれば良いんじゃないでしょうか」

「……間違ってない、か」

「もっと自信を持って良いんじゃね、ということです」

「……そっか」

 

 眠そうに目を擦り、伶那さんが私用の毛布の上で横になった。

 

「自信、持っても良いんだ」

「はい」

「……」

 

 伶那さんはそのままうとうとし始め、眠りについた。

 どうやら今まで会話していたのもかなり夢見心地の中でのことだったようだ。

 ちょっと無理をさせてしまったかもしれない。

 

「おやすみなさい」

 

 私は伶奈さんにもう一枚毛布をかけて、再びスマホ弄りを再開した。

 夜はまだ長い。が、私は眠らない。

 

 少女たちのか細い寝息を聞きながら、静かな夜の時間は過ぎていった。

 

 




:各務原 星藍
睡眠があまり必要ないから常に夜更かしばかりしている不健全なリフレクター。
急遽伶那の家に泊まることになって、親御さんにペコペコと頭を下げた。
テーブルに残ったお菓子を綺麗に食べ切った。

:宮内 伶那
心配性でマイナス思考な理系女子中学生。
将来について言いようのない不安を抱えている。
久々に家に友達を招いてかなり新鮮な気持ちになっている。

:田辺 百
スケバンっぽい見た目のヤンキー少女。
魔法少女ものアニメを見させられたけど、案外見れるなという感想を抱いた。
けどちょっと作中の女の子と女の子の距離感が近すぎるんじゃないかと思った。
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