あと一ヶ月で燦が終わってしまうとしたら
あなたは
残った1700円分の有償石をどうしますか?
翌日、私と百さんは東京へ帰ることになった。
出会いもあれば別れもある……と感傷に浸るほど濃密な時間を過ごしたわけではなかったけれど、一晩一緒に遊んだだけにしては、かなり仲を深められたのではないかと思っている。
「次に会うときは香織さんも一緒ですね」
「うん。……また二人に会えるの、楽しみにしてる」
「泊めてくれてサンキューな、伶那。朝ごはんもご馳走になっちまって」
「気にしないで。それに、糠漬けも美味しかったし。こちらこそありがとう」
「ブルークリスタリアのアニメも、なかなか面白かったぜ」
「今度はちゃんと見なよ」
「はいはい」
今生の別れではない。どうせ東京に戻ればまたゲームにログインして一緒に遊べるのだ。
フリスペも交換したし、私たちの距離はこれまでより一層近付いたと言っても良いだろう。
「じゃあ、また」
「またなー」
「はい。いずれまたお会いしましょう」
私と百さんはそんな感じで、伶那さんと別れたのである。
バックミラーに映る伶那さんの寂しげな笑顔は、こう言ってはなんだけど、ちょっと可愛かった。
「海、なかなか楽しかったですね。結局泳がず仕舞いでしたけど」
『あー。あの海はあたしもまだ泳ぐ気にはなれないなー。近くの海の家で飯食う気にもなれねーよ』
「臭いもそうですけど、虫もいそうですもんね」
『ほんとだよ。ま、けど灯台からの景色は良かったな! あんなとこの近くで暮らせるのも、ちょっと羨ましいよ。道もなかなか、走ってて気分良いしさ』
「海沿いは車やバイクがものすごい勢いで錆びていきますよ」
『うげっ……それは嫌だなぁ』
帰り道は百さんと通話しながらだ。
百さんはインカムで、私は車内のスピーカーで悠々と喋らせてもらっている。
『……フレネル。伶那。すげー真面目な奴だったな』
「どうしました急に」
『感想だよ、感想。実際に会ってみた感想』
「本人に言ってあげたら良いのに」
『ハズいじゃん』
「……まあ、そうですね。とても真面目で、努力家な感じがしました」
『だよな。あたしより歳下だってのに』
「発育も良くて美人でしたしね」
『うげっ。なにそれ、あんたそういう目で見てたの』
「美しい子が嫌いな人間なんていませんよ」
『……』
「あっ、百さんももちろんお綺麗ですよ。セクシー、エロい」
『いや別にそういう言葉が欲しかったわけじゃねーって』
割高な海鮮丼の店を通り過ぎ、トンネルに差し掛かる。
『伶那は、あたしなんかよりずっと色々考えて生きてたんだなって、そう思ってよ』
「考えて、ですか」
『勉強もゲームも、上手くやることをきっちり考えてるっていうかさ。あたしみたいにぼんやり適当にやってねえんだよな。……昨日は伶那にちょっとだけ数学も教えてもらったけどさ、やっぱあれだよな。あたしはただほんの少し早く生まれただけで……そんでもって、それより多くの時間、ぼーっとしてきたんだなって。気付かされちまったんだよ』
カーナビに表示されたトンネル内の暗い地図が、ゆっくりと移り変わってゆく。
『ちょっと前までは開き直ってさ、学校なんて辞めて、バイクのことだけ考えて生きていくかとか、そんな風にも思ってたんだ。半端は駄目だからさ。だったら学校辞めて、本気出すかってさ』
「うん」
『けどそれもやっぱ、逃げなんだよな。あたしは今学校に通ってんだから、今本気でやらなきゃいけねーんだよ。クッソ辛くても大変でも、先公から馬鹿にされてもさ。……そうだろ』
「百さん」
『柄でもねえよな』
「百さんは綺麗で、格好良いですよ」
『……』
トンネルを抜けると、百さんが一気に速度を上げて私の車の前に躍り出た。そのままどんどん加速して、前へ前へと突き放してゆく。
『うぉおおおおおッ!』
ヘルメットの中に籠ったような叫び声を聞いて、私は思わず笑ってしまった。
「……ここから向こうの小島が見えるところまで、オービスは無いみたいですよ」
『おっ』
「車もないし、スピード出していきましょうか」
『おいおい。星藍あんた、正義の味方やってんじゃないのかよ』
「正義の味方ですよ。けど、法律の味方ではありませんから。百さんもそういう気分でしょう」
『……』
「走ろうぜ。そういう気分だ」
『……次はあんたもバイクで来いよ』
「また今度な」
『よし』
アクセルを踏み、メーターがグンと動く。
古ぼけたレガシィが目を見開いて、先を走る百さんの後ろを追いかけた。
月ノ宮に戻ってしばらくして、百さんはちょっとだけ真面目になったらしい。
相変わらずスケバンでヤンキーな雰囲気を身にまとっているが、ちゃんと毎日学校に通い、勉強もやっているのだとか。
フリスペで色々と勉強の質問もしてくるし、意欲は高そうだ。……伶那さんの存在が、何か彼女の起爆剤になったのだと思う。
ゲームの方にログインする時間は減ってしまったけど、私も伶那さんも香織さんも、責めることはしなかった。
「……頑張る若者の姿ってのは、いつ見てもいいなぁ」
喫茶店のテレビの中で、天才バレエ少女が鮮やかな踊りを披露している。
長い黒髪の、まだまだ幼い年頃であるにも関わらず華麗に舞う若き天才少女。
踊りの後、その少女、
「相変わらずすごいねぇ、白井日菜子。俺バレエなんてわからんないけど、海外からも注目を浴びてるんだから相当なんでしょ。マスターの子も、あの子くらいの歳なんでしょ?」
「ええ、そうですよ。……バレエは私も良くわかりませんけどね。それでもやっぱり、彼女は天才と呼ばれるだけあって、凄い子らしいです。うちの詩帆もバレエをやってたので、わかるみたいですよ」
「あら、そうだったのか。じゃあ、可愛いだけじゃないってことなんだねえ」
世の中、向き不向きがある。天才や凡人、努力家や怠け者、色々な物事に対してさまざまな適性を持った人がいる。
一握りの成功を収めたスターはテレビに映り、街の片隅の喫茶店にまでその姿を晒し、輝くだろう。けれどそれ以外のほとんどの人は誰かに見られることもなく、決して少ないわけではない量の努力に蓋をして、ひっそりと舞台から降りるのだ。
自分が向いていないと、劣っていると、そう自覚した上で戦い続けるのはとても辛く、大変なことだ。
理屈をつけて舞台を降り、身の丈にあった場所に緩やかに落ちてゆければどれだけ楽だろう。
けど、百さんはそれを選ばなかった。これからどう気が変わるかはわからないが、少なくとも彼女は今、逆境の中で戦う事を選んでいる。
「……マスター、ブルーマウンテンください」
「はい」
「ただいまー! ……ああ、日菜子の特集終わってる……!」
「おかえり、詩帆」
「ははは、ちょうどさっきインタビューが終わったとこだよ、お嬢ちゃん」
たまに良いことするヤンキーがもてはやされる風潮は私も好きではない。
けど、百さんは私の友達。友達なのだから贔屓にしたって良いだろう。
だから頑張れ、百さん。
私はあなたを応援してますよ。
:各務原 星藍
法律? 知らねーよ、そんなの。な正義のリフレクター。
自分の中に車をかっ飛ばしたい人格が現れることもあるらしい。
おしゃれな喫茶店で充電の必要のないスマホを見るのが楽しみのひとつ。
:田辺 百
グレることをちょっとだけやめたスケバンっぽいヤンキー少女。
急に真面目になったのでおばあちゃんが驚いていた。
相変わらず先生の当たりが厳しいが、まだへこたれる様子はない。
:宮内 伶那
海辺に暮らす真面目で属性の多い少女。
ネットの友人ができて毎日が少し楽しくなった。
泊まりにきた百に話の流れで180度の開脚を見せたら一周回って引かれてしまったのに納得できていない。
:白井 日菜子
天才バレエ少女。
初代ブルーリフレクション 幻に舞う少女の剣の主人公。
まだ現時点ではバレエマシーンかつ髪もロング。
:春日 詩帆
喫茶ラタンの娘。
ブルーリフレクション帝で初登場。燦でも主人公級のメインキャラクターとして登場する。
天才バレエ少女、白井 日菜子とは幼馴染。