オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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それではHSZKさん、私の後頭部をフライパンで強打してくれますか?


私だけを見つめて

 

 夏の終わりが近づいている。それとともに、私のリフレクターとしての仕事も忙しくなってきた。

 来年からはもう、何でも屋を名乗ってあちこち遊び回ってもいられなくなるかもしれない。少なくともバイトしてあちこち飛び回ってばかりもいられないだろう。あーめんどくせーマジで。

 

「無免許だけど……一人乗りなら逃げ切ってしまえば……バレへんか」

 

 リフレクターとして頑張るか~と言った口でアレなんだけど、バイクが納車されました。

 まぁ個人的なツテというか、ナンバーも付いてない上に車検も通ってないような非常にピュアなバイクなんですけどもね。リフレクターも現実世界を移動しないわけにはいかないですからね。そのための足として、私はバイクを選んだわけですよ。

 車だと警察に追われた時に詰みが発生し得るんだけど、バイクならまだ逃走にも自由度が出てくる。だからバイクにしたわけです。

 

 ……いやね、私だって本当はやりたくないよ無免許運転なんて。

 けどしょーがねーだろ戸籍がねーんだから。むしろ他人のバイクに乗ってるわけじゃないからその人に迷惑かけないだけマシまである。

 大丈夫、ナンバープレートは偽装すれば良いし、交通ルールを守ってさえいれば停められることもないから……。

 

「百さんとのツーリングにも使えるし……うん、よし。とりあえずこれで、試運転と行きますか」

 

 VRX400 ロードスター。

 ひとまずこいつに乗って、今季最後の仕事に出かけるとしよう。

 

 

 

「フゥー! 気持ち良い~」

 

 夏のバイクは実に快適だ。風が気持ちええんじゃ。

 まぁその代わりに虫が多くてたまにヘルメットに謎の虫が衝突してきてそれが少し嫌だけど、地肌にぶつかってこなければセーフだセーフ。

 

「駒川さんのとこ、久しぶりだなー」

 

 今回の目的地は以前仕事でやってきたド田舎である。

 道路脇の斜面に山積していた粗大ゴミを回収したり、ひまわり畑を見て回ったあの地域だ。

 

 今日はゴミ回収ではなく、ひまわり畑の駒川さんのとこが目的地となっている。以前駒川さんから電話があって、夏の終わりにどうにか手伝って欲しい仕事があるということでやってきたわけだ。

 これがまた結構大変そうな仕事なんだけども、それなりのお金もまとめてもらってしまったので、やらないわけにもいかない。電話口で駒川さんも具合が優れていない様子だったし、誰かに頼まないと難しい状態なのだろうと思う。

 百さんも巻き込んでツーリング兼バイトみたいな感じでも良かったんだけど、最近は百さんも真面目に補習してるみたいだから、一人でやらせてもらうぜ。

 

 

 

「着いた……いやぁ、相変わらずひまわり畑は目立つなぁ。良いねぇわかりやすいねぇ」

 

 声優ラジオを聴きながら長々と走り続けていると、見覚えのある黄色い花畑が見えてきた。

 駒川さんちのひまわり畑である。土地も高い場所にあるし背が高いから非常に目立つ。

 

「あっちー、喉乾いた……サイダー飲みたいなサイダー。うわっ、髪めっちゃ癖ついてんじゃん最悪……」

 

 バイクから降りてヘルメットを脱いで髪をファサァッてやるのが理想ではあるんだけど、現実はそう上手くはいかない。私の髪は相当癖に強かったはずだけど、長時間のヘルメット着用はさすがに厳しかったようだ。あー落ち着かない。

 

 駄菓子屋でサイダーを買ってそのまま飲み干したら、さっさと現地に移動しておこう。

 

「……向こうの家が駒川さんちだな」

 

 人がいないのを良いことにノーヘルでトロトロと田舎道を走り、住所が示す民家へと到着。田舎はバイクでも車でもいくらでも停められるスペースがあっていいなぁ。

 

「すみませーん」

「はーい」

 

 古いボタン式のインターホンを押すと、男性の声が返ってくる、

 玄関の扉が開くと、駒川さんの家族らしき中年の人が出てきた。なんとなく顔が似ている気がする。

 

「えっ……ど、どなたですか?」

「ああはい、私こういう者でして」

「……あっ、これあれかぁ。母さんがたまに言ってた人の……各務原さんですね、はい。聞き及んでます」

 

 一瞬どこの誰だよみたいな顔をされたが、話は通っているらしい。この人は駒川さんのご子息のようだ。

 

「駒川紘子さんはご在宅でしょうか?」

「いえ、それが……うちの母はついこの間亡くなったばかりでして」

「えっ、そうなんですか。それは……お悔やみ申し上げます」

「葬儀もちょうど昨日済ませたところでして」

 

 悲報、駒川のお婆さん亡くなってた。

 マジかよ。ご老体とはいえちょっとショックだな。どうすんだこれ。つい数日前に電話で話したばかりなのに。

 

「……とりあえず、中へ上がってください。暑かったでしょう。冷たいもの、出しますんで」

 

 

 

 立派な仏壇に線香を添え、手を合わせる。

 仏教的な価値観はもはやコモンなどの世界を知っている私にとっては実態に則していないものだったが、祈りは生者のためのものでもある。少なくともご家族の前で軽んじるべきものではない。

 

「すみませんね、家の中が少しごちゃごちゃしてまして。母が倒れてから色々忙しくて……今は東京の方からうちの妹家族も来てまして」

「それは……お忙しい時にすみません」

「いえいえ。母さんもきっと喜んでますよ。各務原さんの話は楽しそうにされてましたから。……それで、母から頼まれごとをしたとかで……」

「はい。駒川紘子さんは近頃体調が優れないということでしたから、きっとそれでだと思うのですが。ひまわり畑の収穫を手伝ってもらえないかという話が、私の方に来たのです」

「ああ……あのひまわり畑ですか……」

 

 ご子息はどうも難しい顔をしている。

 ……ひまわり畑にあまり良い思いがないのだろうか。

 

「あの畑もですね、本当はもっと別の作物を植えた方がいいんじゃないかと我々も言ったのですがね……結局母が亡くなるまでずっと、頑として譲らないままでした。年々、ひまわりを植える範囲を広げるもんですから、正直困っていたんですよ」

「はぁ」

 

 どうやら駒川さんのひまわり畑は、ご家族にはあまり好評ではなかったらしい。

 ……まぁ一銭にもならないお花畑を増やされたら家族としてはあまり良い思いもないかもしれない。特に農家なら。

 

「収穫と言わず、根っこごと引っこ抜いてもらいたいとこですよ」

「ひまわり畑を継続していくご予定は……」

「いやぁ、ないですね。まあ、畑は綺麗でしたがね。けど、あれは母が趣味でやってたもんですから。地元の子供達や主婦の方々には好評だったみたいですがね。本業の片手間に世話をするには、ちょっとばかし範囲が広いのですよ」

「なるほど……」

「……ところで各務原さん、こういった農作業の経験はおありで?」

「はい。ひまわりはないですが、他のものならば多少は」

 

 私の雑多な記憶にあるものでよければあるっちゃある。ただひまわりはさすがにピンポイントでは無かった。

 

「そうですか、随分と綺麗でお若いのに……おっといかん。え、えーと、それでは各務原さん。畑の場所はメモに描いときますので、とにかくその範囲内のひまわりは全部刈り取っちゃってください」

「あ、はい」

 

 御子息は台所の方から妻らしき女性に睨まれ、話が急にまとまった。

 

 ……駒川のお婆さんは亡くなってしまったが、仕事はなんとか継続か。けど、これがここでの最後の仕事になるだろう。

 

 はー……。マジかぁ。駒川さん亡くなってるとか……マジつら……仕事しよ……。

 

 

 

 ひまわり畑は以前来た時よりも広がっていた。

 坂を登った先ではまだこぢんまりとしていた区画も、今ではさらにエリアを拡大して咲き誇っている。

 こうしてバイクでトロトロ走っていてもそこそこ広いなーと感じる程なので、駒川さんは相当に頑張って植えたに違いない。

 

「そんなひまわり畑も、収穫したら……もう終わりか。寂しいねんな……」

 

 ひまわりは美しい。だが、それだけでは飯の種になってくれないのだろう。この美しい景色を引き継ぐ人がいないのは、ちょっと悲しかった。

 

「さて、ここが畑の端っこか。ここから刈っていけば良いわけか……うーん……」

 

 咲き誇る大輪の花。それをサクサク刈っていくことに色々と思うことはあるが、仕事だ。

 バイクのボックスの中に入れておいた折りたたみ式のナタを取り出し、素振りする。

 ……まぁこんなもの使わなくても、人目がなければリフレクターの武器を使ってさっさとやっちゃえるんだけどね。人目がある所でいきなりクソ長ソードを振り回すわけにもいかない。

 

 というのも、この人気の薄いひまわり畑にいるのは、私だけではなかったのだ。

 

「……」

 

 一人の少女がひまわり畑の前に立ち、静かに花を眺めていた。

 制服姿の、ボブカットの女の子である。中学生くらいだろうか。いや、それはまぁ別に良いんだけども……。

 

「こんにちは」

「……こんにちは」

「私、こういう者です。名刺どうぞ」

「はあ……」

「失礼ですが、駒川さんのご親族でいらっしゃる……? 駒川 紘子さんの」

「はい。私の祖母です」

 

 ああ、そうなのか。やっぱり。なんとなく目元が駒川のお婆さんに似てると思った。

 どうやらこの子はお婆さんの葬式に出席した、お孫さんらしい。多分それは本当だ。けども……うーん……。

 

「紘子さんがご存命の間、こちらのひまわり畑の収穫をお願いされましてね」

「ああ、それで……」

 

 この物静かな女の子、出会ったときからずっと、なんというか……感情が沈んでいる。

 複雑な揺れ方をしてはいるものの、動きは鈍く、低調というか、重苦しいというか。……正直言って、想いの専門家たる私にとってもあまり見たことのないタイプの不安定さを持った子のようだった。

 けど、それは祖母が亡くなったとなれば不思議ではない。親しい家族を喪ったのであれば尚更だ。

 そんなお祖母ちゃんの大切にしていたひまわりを眺め、暗い思いに耽るのは当然とも言える。

 

 しかし。

 

「それでは、私がここ立っていたら邪魔でしたね。どうぞ、刈り取ってしまってください」

 

 彼女は朗らかに笑みを浮かべて、そう言うのだった。

 

 ……やっぱりこの子は、一般的な人とは異なる想いを抱いているらしい。

 




:各務原 星藍
無免許運転上等系リフレクター。
色々とやり残した仕事を整理し、本格的なリフレクター活動に集中しようとしている。
一般的な乗り物は大体全て運転でき、大体の職能を持ち合わせている

:駒川 紘子
駒川さんちのおばあちゃん。名前はオリジナル。
毎年綺麗なひまわり畑を整えていた。

:駒川 詩
駒川さんちのお孫さん。
ブルーリフレクション澪で初登場。帝と燦でも重要なキャラクターとして登場した。
人と話を合わせるのが得意。
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