昼時のファミレス内は賑やかだ。家族連れや学生も多く、ともすれば居酒屋のように騒がしい。
こういう環境だからこそ、気兼ねなく秘密の話もできるというものだ。
「まず、世界に11体の原種と呼ばれる神様がいます。セフィロトの樹って知ってますかね? 旧約聖書の……まぁ私もググってウィキっただけの知識なので偉そうなことは言えないんですけど。とにかく11体の原種がいて、百万年に一度、その原種達が一体の勝者を決めるためにバトルするわけなんです」
「……おう? なんだ、よくわかんねえ話が始まったけど、そういうストーリーな」
いまいち何の話が始まったのかわかってなさそうな百さんの前に、紙ナプキンを広げて絵を描いていく。
「で、この11体の原種のうちの一体がダアトさんといいまして、人間を生み出した神様なんですね」
「おいこれ本当に神様かよ。魔王とかじゃねーの? てか絵上手いなあんたも」
「ありがとうございます。まぁビジュアルはマジでほんとそれなって感じなんですけど、こんなナリしてて実は神的に良い人でですね、ダアトさんは人間の生きる世界を存続させるために色々と頑張っているわけなんです。11体の原種による戦いに勝って、人間の暮らす世界を守ろう。それが、ダアトさんの目的ですね」
「デザインがすげーキモいんだけど……」
「まあ多少はね?」
「多少ってレベルか……?」
新たに紙ナプキンを取り出して、追加でイラストを描いていく。
人の心の中にあるフラグメントとか、そのフラグメントの根幹部分たる花を模したデザインの一例とか、あとはコモンとかに出現する魔物とか。
「んで、まあダアトさんだけだと戦いに勝つのは厳しいらしいので、私達人間も協力しなければならないんですよ。ほら、ブルークリスタリアみたいに変身して、こういう魔物と戦って」
「おー……」
「かくいう私も魔法少女でしてね。あ、正確には魔法少女ではなくリフレクターっていう役職名なんですけど」
「いや、いやいや。そろそろ聞いていい? 手伝ってほしいってのは、そのゲームを一緒にやってくれってこと?」
「ゲームではないですね」
「あ、なんだ。良かったよ、さすがに最近はゲームに集中できる時間が取れるかは怪しいからさ……」
「ゲームじゃなくて現実の話です」
「現実ねぇ」
多分、話は通じているのだと思う。細部を流しているところはあるだろうが、説明そのものは真面目に聞いてくれた。けど、それはゲームやフィクションとしてなのだろう。実際にそういう世界なんですと言われているとは夢にも思っていないような顔だ。
そんなことを話している間に、料理のプレートが運ばれてきた。
「とりあえず、食べちゃいましょうか」
「ん、そうだな。冷めないうちに」
やっぱり最初にいきなりトラブルにぶち込んでから後で説明するメソッドって優秀なんやなって……。
食後はドリンクバーをお代わりしつつ、ポテトをつまみながら話を続けることにした。
「まあ、非現実的な話というか、ファンタジーやメルヘンすぎる話をしているなという自覚はあります」
「あー……なんだ。要するに……あたしをからかっているわけじゃないって?」
「いやいや、百さんをからかったりなんてしてないですよ。私は本気です」
「マジな話だとして、何をどう信じろってんだよ。実際に魔法を見せてくれるなら話ははえーけどさ」
「やっぱりそれが手っ取り早いでしょうか」
「あたしはゴチャゴチャ説明されたってよくわかんないタイプだからさ。論より証拠ってやつだよ。なんかあるなら見せてくれよ」
あまり期待してなさそうな顔で百さんが言っている。
そこまで言うなら確かに、見せた方が早いか。
「店内なのであまり派手なものが使えないのと、驚いて大声とかあげないでくださいね」
「大丈夫。あたしは手品を見破るのはそこそこ得意なんだ。昔うちの親父が親指を消すマジックを見せた時も一発で見破ったしな」
それ得意の範疇に入るか? まぁいいや……えーと。
「私の魔法だと、ガラスとか鏡を生み出すのが得意なんですよね。だからそれをやってみせます」
「……袖は捲ってあるな?」
「手品を見破るノリですね」
「そりゃそうさ。魔法なんて信じてないしさ」
上着を脱いだ私はアメスク風に袖を捲っている。なので、こういう場所から物を出せはしないのは見ての通りだ。
まあそもそも、何かで隠しながら出すような真似はしないんだけども。
「ほい」
「……え?」
私は表向きにした手のひらの上に、一枚の鏡の欠片を生み出した。
魔法で作った物なので時間と共に消滅していくが、短時間であればその場に残り続ける、しっかりと質量を持った鏡の欠片だ。
「あれ? 嘘、さっきまで何も乗ってなかったよな。マジでいきなり現れた……ように見えた」
「そうですよ、実際何もないところから生み出しましたから。ほら」
「お、おおお……」
ポコポコと鏡の欠片を増やしていくと、さすがの百さんも姿勢が変わった。
手品にしてはあまりにも目の前で事が起こりすぎていて、非現実的なものであることが肌に伝わっているのだろう。
「……けど、星藍だしなぁ」
「え?」
「いや、超スピードでこの手の上にどっかに隠し持った破片を積み重ねてんじゃねーかなって……」
「いやさすがにそんなん無法すぎるでしょ。何でもありじゃないですか」
「だってあたしの中で星藍ってそういうイメージだし……」
んな力技を受け入れられるのならさっさと魔法も飲み込んでくれよなー……頼むよー。
しょうがねえもういっちょ別の魔法を見せてやるか。
「じゃあこれ、この紙ナプキン見ててください。今からこれに魔法で写真を投影してみせますから」
「えーなんだよそんなこともできるの?」
「私が超高速描画で絵を描いてるとか言われたくないので、百さんが何か描くもの指定してくださいよ。私はそれをこの紙ナプキンに綺麗に貼り付けてやりますから」
「えー……うーん……投影ってなんだよ。なんでも写せるってこと?」
「はい、なんでも。ほぼほぼドッキリテクスチャーです」
「なんだそれ。んー。じゃあこれ。このメニューに描いてある季節限定いちごチョコレートパフェ。この絵を写してみてよ。そうしたら信じるから」
「お安い御用すぎる」
立てかけられたメニュー表の写真を見ながら、私は魔法を発動させた。
「スノウ・ライ」
「……お、ぉ……」
手をかざし、どかすと……そこには、鮮明な写真のように投影されたいちごチョコレートパフェの姿が。
なんなら紙ナプキンの質感も、ツルツルしたメニューのようなものへと変わり、文字や値段まで映り込んでいる。……この雑な写り込みは私の適当さの成せる技だな。
「……ツルツルしてる見た目なのに、触ると紙ナプキンのままだ……なんだ、これ……」
「あまり曲げたりすると効果が消えますよ」
「あ……」
何度も折り曲げたり擦ったりした影響で、ナプキンの魔法が解けた。
百さんの手の中でメニュー表が紙ナプキンに戻る。……この瞬間を見てしまえば、もう疑いようもないだろう。
「……マジ?」
「マジです」
「……わりぃ、さっきの長い話……もっかい聞かせてもらっても良い?」
「あ、良いっすよ」
私は最低限の話を、再び百さんへと伝えたのだった。
「……前々から星藍のことは、普通とはちげーなとは思ってたけどさ。ここまではっきりとファンタジーだったなんて思いもしなかった」
烏龍茶で喉を潤しながら、百さんが呟く。
「魔物、原種、リフレクター……マジでアニメとかゲームみたいな話じゃん。詳しくはないけどさ」
「ところがどっこい、現実なんですね」
「……手伝えって、こういうことか……マジか……」
「大目標は原種の討伐。小目標としては、原種の影響によって特異点周辺で発生するフラグメントの暴走を抑えて回る……という感じになりますね。どちらもリフレクターの仕事ですが、もちろん大切なのは原種の討伐になります」
「……」
「人のフラグメントの暴走を抑えつつ、原種が出現したらそちらを優先して叩く。リフレクターの仕事は、簡単に言ってしまえばそれだけです」
「……一緒にゲームをやるより、遥かにヤベェ話だよな、これ」
「人類の存亡がかかってますからね」
「……スケールがでかいよ」
「だと思います」
けど仕方ない。私もいきなり生まれ変わらされていきなり人類の存亡をかけて戦ったしね。私もやったんだからさ……。
けどまあ、悩むわな。こんな平和な世界で、まだ危ないかどうかも実感すらしてないのにいきなり戦ってくれだなんて言われても困るだろう。
「リフレクターとして活動していただけるのであれば、私の方から個人的にお給料をお渡しします。手渡しのバイト代ですけど」
「! ……やっぱ金は出るのか」
「私も億万長者ではないので際限なくというわけにはいきませんが、かなり気前のいい額を約束しますよ。仕事内容も、一日に何時間も活動してくれとは言いません。片手間で、コモンの世界を中心にやっていただければ良いだけです。コモンでは時間の流れが違いますから、実時間もさほどかからないでしょう」
「……」
「と言っても、実際にどんなことをするのか、どんな相手と戦うのかをわかっていないことには頷きようもないでしょうから……実際に一度、見ていただくことにしましょうか」
幸い、このリフレクターという役職は指輪を持っているかどうかで決まる。
一度リフレクターになったらやめられないとか、引き返せないとか、そういうデメリットがあるわけではないのだ。
「魔法少女体験ツアー、やってみませんか? 百さん」
……あれ? でもなんかこの言葉ちょっと不穏だな。
三話くらいで私が死にそうな気がする。死なんけど。
:各務原 星藍
どちらかといえばテクニカル寄りな能力メインのリフレクター。
夏はアメスクを着てるけどアメスクがなんなのかはいまいちわかっていない。
和風キノコパスタを注文した。
:田辺 百
最近勉強をし始めたおりこうヤンキー。
とはいえバイクの改造などの趣味は捨てておらず、休みの日にはよくメンテナンスをしている。
何かにつけて金がかかるので、バイト代が貰えると聞いてかなり心が揺れている。
ハンバーグ定食を注文した。