オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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アイーダ視点


孤高の美しい彼女

 

 私たちは、激しい水の流れの中で生きている。

 

 凶暴な獣たち。執拗に私たちを狙う魔物。荒れ狂う天候。忍び寄る病。

 様々な苦難が絶え間なく現れては、私たちの家族を一人、また一人と飲み込んで、それでも満たされた様子もなく、新たな犠牲を要求してくる。

 

 かつて、私たち人間はもっと数が多かったのだと、司祭のミッテナは言っていた。

 大勢の人の中には優秀な戦士も多くいたので、恐ろしい魔物が相手でもどうにか倒せていたらしい。

 それが今では人の数も減って、苦しい生活になったのだと語っている。

 正直、私は昔を知らなかったからよくわからないんだけど……セイラが現れてから、変化を実感することができた。

 

 

 

「セイラです。ダアトさんより作られたリフレクターだそうです。皆さん、どうぞよろしくお願いします」

 

 普段は誰もいない、たまに司祭のミッテナがお祈りを捧げたり、啓示を授かるだけの場所であった神殿に、一人の少女が現れた。

 浅黒い肌に金の髪。すらりと長い手足に。凛々しい顔立ち。

 それは神の使いを名乗っても全く不思議とは思えないほどに、力強く、そして美しい少女だった。

 

 セイラは他の人とは全く違う人だった。

 集落に定住することはないし、誰かと家族になろうともしていない。

 それでも彼女は誰よりも力強く、優しく、何よりも賢かった。まるで、私たちとは別の生き物なんじゃないかってほどに。

 エーテルの力は中でもとびきりのもので、白の戦装束に身を包んで魔物たちを討伐してゆく姿は、それこそ人を超えた偉大な存在を想わせてくれる。

 

「はい。はい。ええ、ダアトさん。戦士団の一人が酷い怪我を負ってしまったようでして。それで彼女が強い悲しみの感情に囚われて、想いが暴走してしまったようでして……はい、どうにか固定しました。今後様子を見る必要はあるでしょうけど、はい。要観察ということで……」

 

 セイラは不思議な赤い板を通じて、いつも神の啓示を受け取っている。

 しかも、司祭よりもずっとはっきりと聞き取って、言葉のやり取りまで行えてしまう。すごい能力だ。

 戦う力も私たちなんかよりずっと強大なのもあって、セイラは常にみんなから尊敬されている。

 セイラがいなければもう何十人も仲間がいなくなっていただろうことは、私にも想像できる。本当に、セイラがいてくれて幸せだ。

 セイラが来てくれたおかげで、それまでの生活が苦しかったのだと、初めて知ることができたから。

 

「……ん? アイーダさん、どうされました」

「あっ。えっと……」

 

 赤い板を眺めていたセイラが私の視線に気付いた。

 いつもは夢中になってその、スマホ? とかいうものを弄っているのに。

 

「セイラは、いつも忙しそうだよね」

「? はい、そうですね。やることがたくさんです」

「その、大変じゃないの。もっと休んだ方が良いんじゃないのかな。みんなも休憩してる時だって、セイラは働きっぱなしなんでしょ」

「んー……労働時間の感覚の違い、って言っても今の私の体じゃその説明もちげぇか。……そうですね」

 

 時々、セイラは独り言なんかを呟く時、どこか粗暴な言葉がついて出てくる。それは私たちに向けられるものではなかったけれど、耳にするとどうしてかドキッとしてしまう。

 

「私が長い時間働いているのは、それが皆さんのためになるからです。アイーダさんも、近頃は私や皆さんにアクセサリーを作ってくれているでしょう。それは、やっていて苦しいことですか?」

「ううん。長くやってると疲れるけど……苦しくはない。楽しい。みんなのためになるから。みんなが私の作ったものを、喜んで着けてくれるから……あ、そういうこと?」

「はい」

 

 セイラはにっこりと笑って、手首につけた飾りを見せてくれた。私が彼女のために贈った、最初のやつだった。

 

「私も、皆さんのためになることをするのが楽しいんです。まぁ使命感もあるけど……ですけど、アイーダさんと同じですよ。人の役に立てることが、私は嬉しい」

「……そっか。えへへ、セイラも私と同じ気持ちだったんだね」

「はい、一緒です。魔物を倒して、人類を守り、安全圏を広げ……まだ戦ったことはありませんが、原種とも戦わなければ」

「原種……?」

「ああ、それはこちらの話です。厄介な……強大な魔物が何体かいるとのことですから。まあ、とにかく」

 

 セイラは私の肩に触れて、魅力的に笑った。

 心臓が少し、跳ねた気がした。

 

「これからも私は魔物たちをたくさん討伐していきますから……アイーダさんはその残骸から綺麗なものを集めて、良い作品を作ってみせてください。私にとってはそれが、一番の戦う理由になっていますからね」

「! う……うん!」

 

 肌の色も、振る舞いも、生き方も、何もかも私達と違う女の子。

 みんなの英雄、セイラ。

 

 ……けれど彼女にも、こんな私と同じ想いを胸に秘めている。

 私のことを必要としてくれている。

 

 ……えへへ、なんだか、すごく嬉しいな。

 

「セイラ……これからも、頑張ってねっ」

「ふふ、頑張ってじゃないですよ。貴女も頑張るんですよ」

「えー?」

 

 セイラとよく話すようになってから、なんだか毎日が楽しいや。

 これからもずっと、こうして幸せに暮らしていけたらいいなぁ。

 

 




:セイラ
スマホ中毒系黒ギャル原始人リフレクター。
スマホのような端末をいじいじするのが趣味だが、スマホっぽいだけで中身は全くの別物なので、電子端末らしい機能はほとんど存在しない。
男にも女にもモテる。

:アイーダ
小物作りが大好きな原始人の女の子。
セイラが仕留めた魔物の破片なんかを材料にしてアクセサリーを作ることも多い。
最近セイラを見てるとむずむずするのら
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