日々魔物を討ち滅ぼし、人々の感情が暴走すればそれを鎮め、ダアトさんから貰った謎スマホをいじいじして何か面白い機能無いかなと過ごしている。
そんなルーチンワークじみた日々が、ある時大きく動きはじめた。
「……原種が近付いている?」
『そうだ。この気配はイェソドだろう』
ダアトさんから珍しく着信があり、通話に出てみたところ、伝えられたのはそれだった。
原種。ダアトさんと同じ、この世界の覇権を巡って争っている十体の神々。つまるところ、私が仕留めなくてはならないボス敵達だ。
『原種は、これまでお前が戦ってきた魔物とは比較にならない力を有している。だが、それでもお前の力であれば覆すことも容易い』
「マジですか」
『そのように、お前を創ったのだ。想いを束ねし者よ』
ダアトさんのお墨付きは嬉しい……嬉しいのだが、心強いかというと、うーん……。
色々とサポートしてくれたりするし、陣営としては完全に味方で利害関係も一致してはいるのだが……ダアトさんって、結構目論見が外れるんだよな。
いや、目論見が外れるというよりは、なんでもまず試してみる気質があるというか。やれる前提でひとまずやってみて、駄目ならやり方を工夫して再試行するタイプというかね……どこか研究者っぽい気質があるんだよな。
『充分に引き付けてしまえば、イェソドを逃すことなく撃破できるはずだ。特異点の端で戦うより、内部に引き込んでから戦うが良い』
「え、いやそれだと集落に危険が及びませんか」
『原種の出現による影響は、時空をも歪ませる。戦いが終われば時は巻き戻り、影響も消えて元通りとなる。躊躇はせず、戦うがいい』
「あ、そうなんですか。だったら安心ですね」
いや安心か? まぁけど強い敵相手に選択肢なんて多くはない。私は私のやれることをやるしかないだろう。
というわけで、私は集落から少し離れた小高い丘の上で原種の到来を待っていたのだが……。
「……いや絶対アレだわ。アレ絶対イェソドだろ」
まだ私は原種を見たことがない。ダアトさんからも、見た目について聞いたことはなかった。
けどわかる。遥か遠方、森の奥からズンズンと地響きを鳴らしながらこちらへやってくる巨大な……本当に巨大な影。
同じ原種であるダアトさんが巨人なのだから、当然ではあった。他の原種達も似たようなサイズ感なのは、不自然なことではない。
けど……けども……いやでけーよアイツ! やっぱあいつも20m超えてるよ!
なんかデザインがグロいし! 人間の頭みたいなのが複数あるし! 触手が超ウネってるし!
やべぇよやべぇよ……魔法少女が戦う相手じゃねえよ……。
ダアトさん……助けてダアトさん!
「あ、もしもしダアトさんですか……」
『どうした』
「あ、どうもセイラです。度々すみません。あのですね、今ようやくイェソドらしきものを遠目に確認しまして……黒っぽい、人間の焼死体を複数融合させて触手を出したようなグロい奴なんですが……」
『それがイェソドで間違いないだろう。逃さんようにな』
「いやいやさすがにあれはサイズ感がですね……こう、リフレクターって他になんかないんですか。巨大ロボに乗ったりだとか、巨大化して戦ったりだとか……だってあれ、魔法少女が戦うサイズしてないですよ」
『個体の大きさと力の大きさは比例するものではない。何を躊躇う必要がある』
「……本当にアレに勝てるんですか? ダアトさん」
今まで多くの魔物と戦ってきたが、アレほどのものと剣を交えたことはない。
ハッキリ言って別次元の存在だ。だってあのイェソド、空を見上げてみると悪天候まで引きつれてるもんよ。神やんけそんなの。
『勝てる。お前がこれまで集めてきた想いの力を扱えば、イェソドなど恐れるものでもない。奴は原種の中でも最弱の部類だ』
「そんな四天王の面汚しみたいな……」
『人間の可能性、我に見せてみよ』
戦闘直前のラスボスみたいなセリフを最後に、通話は切れた。後は行動で示せってことだろう。
「……まぁ、私はこの時のために生み出されたわけだし……やるしかないか。ダアトさんを信じよう」
スマホをしまい、指輪を掲げる。
自信は全くないが、臆せば死ぬっていうからな……やるか。
「人の想いよ……私と共に!」
肌が白く染まり、衣服が純白のものへと変ずる。
右手に剣を。左手に盾を。……これでよし。
「セイラ! 何か近づいてきてるけど、大丈夫なの!?」
「私達も加勢した方がいいんじゃ……!?」
集落の方から声が聞こえる。どうやら彼女らもまたイェソドの接近を感知したらしい。今回のは只事ではないと悟っているのだろう。普段以上に彼女らの身にまとうエーテルは尖っていた。
「ここは私に任せてください! 皆さんは、集落に集まって防御を固めて……ッ!?」
遠くから近づいて来るイェソドの目が、光を発した。
あれはまずい。
「スパンコール・チャフ!」
咄嗟に剣を振り抜き、空中に無数の輝く破片を散布する。
それとほぼ同時に、ギラギラと輝く破片の群れに光線が直撃した。
「ぐぅううッ……!? オイオイ使徒かよ……!?」
スパンコール・チャフ。空気中にエネルギーを乱反射させる銀箔を散布し、相手の攻撃を撹乱する技だ。
イェソドの目から放たれたビームにさほど威力はなかったおかげか、チャフの中でエネルギーは損耗し、消えてくれた。よかったわ。使徒っぽい攻撃だけど多分使徒ほどの理不尽さはなさそうだ。
しかし……言い方は悪いけど、お荷物を抱えて戦うには厳しい相手だぞ。
「……皆さんは退避! お願いします! 頼む!」
「わ……わかった! みんな、集落へ! ここはセイラに任せる! ……セイラ、私たちの分まで、頑張って!」
「おうよ! 任せとけ!」
守るべき者は遠くにいるからこそ安心して戦える。
これで邪魔は入らない……さあ、イェソド。ここからは私とお前の一騎打ちだ。
「オラオラ来いよオラァッ!」
私の叫びに応えるように、緩慢に前進していたイェソドが加速を始める。
一度奴の攻撃を防いだおかげで、こちらもただの雑魚ではないと悟ったか。向こうにもある程度の知能はあるものとして戦っておかないとな。
イェソドは接近しながらも、常に遠くから遠距離攻撃を続けてきた。
光線、熱線。気軽に放って来るそれだけで、そこらへんの魔物の全力攻撃より遥かに重い。
だが……。
「スパンコール・チャフ!」
リフレクターはカウンター主体の魔法少女だ。
そして私は、特にこの反射といった性質を扱うのが大の得意だ。
空気中にチャフを散布してやれば大抵の遠距離攻撃は完封できるし、そうでなくても左手の盾で受ければ光線をノーダメで防ぎ切ることも難しくない。
向こうも近づいてきてはいるが、お互いの距離はまだ200mといったところ。
痺れを切らせて接近戦を仕掛けてきたタイミングがこちらの勝機だ。
「ギィイイイイッ!」
「一つ覚えか!? 効かねえっての……セルフィ・ミラー!」
光線を盾で受け、壊れる分身の光子を纏い……空中に踊り出る。
高さはイェソドの一番上の頭部と同じ。さあ、そろそろこっちからも行くぞ!
「カウンター……いっけェッ!」
「!?」
相手の光線エネルギーをそのまま飛ぶ斬撃に変えて撃ち放つ。
勢いよく飛んでいったそれは無防備なイェソドの頭に直撃し、巨大な上体が僅かによろめいた。
「なんだよ、結構当たんじゃ……っとお!?」
イェソドの上半身に立ち込める爆炎の中から、黒い触手が伸びてきた。
私はそれを盾でガードして、さらに複数迫る触手も剣でいなしてゆく。
すごい力強さだが、なんともならないレベルではない。
「一発喰らってようやく戦法を変えたか……! 待ってたぜェ、この瞬間をよォ!」
「!?」
イェソドが伸ばした触手を踏み締め、駆ける。いい足場だ。向こうから伸ばしてくれたのならありがたい。せいぜい利用してやるよ!
「ォオオオッ!」
「インファイトしようぜインファイト! お前サンドバッグな!」
イェソドは複数ある腕を振るい、触手で薙ぎ払い、時には熱線をも交えてきた。
私はそれらを剣と盾で防ぎつつ、時折撹乱技で交わしながら着実に本体を斬りつけていく。
なんか……思ってたよりもやりやすいわ。なるほど、ダアトさんが四天王最弱というだけのことはある。こいつそんなに強くないぞ!
いや強いっちゃ強いが、私との相性は最悪っぽいな!
「そうなるべく、私が創られてるってわけか……!」
イェソドが振り下ろす触手の一撃さえも、盾を掲げれば防げてしまう。
人間の想いを束ねた強大なエーテルエネルギー……なるほど、こいつは確かに勝てるわな……! ダアトさんのこと、楽観主義かと思ってたけど、納得だわ!
「こりゃ私の方が強いわ……!」
「……!」
イェソドが嫌な気配を感じ取ったのか、体の向きはそのままに身を引き始めた。
撤退か。そのビジュアルで逃げを打つとは、意外性だけなら随一だな!
「けどダアトさんから逃すなって言われてるからよ……いくぜ、ディスコネクト・ボール!」
エーテルエネルギーを左手に集中させ、巨大な球体を出現させる。
銀色にギラギラと光を乱反射させる、人間サイズのミラーボールのようなエネルギー体だ。こいつに回転をかけて宙に投げ……剣で、打つ!
「ホームランッ!」
「グ……ォオオオッ!」
カキーンと良い具合にヒットしたミラーボールは逃げ腰になっていたイェソドの土手っ腹に命中し、銀の破片を辺りに撒き散らす。
一つ一つの銀の破片はイェソドが持っていたエネルギーを無数に散らし、反射させ、力を弱めてゆく。
「終わりだ……アリュール・アリス!」
剣を構え、左手で刀身を撫でる。
グラスハープのような澄んだ音が響き渡り、その調べは無数のミラーで散らされたイェソドのエーテルエネルギーをまとめ上げ、私の剣へと引き込んでゆく。
膨大な力を溜め込んだ私の剣……これなら何が相手だろうと負ける気はしない。
「リフレクト・カウンター!」
「ォオオオォオオオッ!」
白銀の一閃が宙を斬る。
私史上最大最強の一撃は、イェソドの胴体を真っ二つに両断してみせた。
イェソドの身体が輝きに包まれ、塵となって消えてゆく。
……討伐完了だ。
「……はーっ……お、終わり……平定っ……! めっちゃ疲れた……! いや体力的にはともかく、気疲れした……!」
イェソドの気配が消え、それまで戦っていた戦場の悲惨な痕が元に戻ったのを見届けると、私はその場にへたり込んでしまうのだった。
工事完了です……。
:セイラ
対原種として作られたのだからそりゃ原種に対して無茶苦茶に強い系リフレクター。
反射や撹乱系の技が多く、必然的にカウンター技に長けている。
けど相手の威圧感強いデザインを見て戦うのが普通にしんどい。
:イェソド
第九番目のセフィラ『基礎』を司る原種。
ブルーリフレクション初代の最初のボス。デザインが迫真すぎる。