原種イェソドを倒した後、私は集落のみんなから揉みくちゃにされ、盛大に祝われた。
イェソドの攻撃の苛烈さは遠目からでもよく見えたらしく、戦士団の子達でさえ身が竦むほど恐ろしかったようだ。
被害なく倒せてよかったわマジで。
集落でちょっとした宴が催され、主役としてわちゃわちゃしたりされたりしたその日の深夜。
私は久々に神殿へと赴き、ダアトさんに祈りを捧げていた。
信仰とかそういう類のものではない。この場所でエーテルを捧げなければ、ダアトさんとの会話が難しいのである。
『イェソドの討伐、よくやった。褒めてやろう、想いを束ねし者よ』
神殿の中央で瞑想を深めていると、やがて空から凶悪なフォルムの巨人が舞い降りてきた。
ラスボスではない。ダアトさんである。いや、場合によってはラスボスになる公算もあるしなんならその可能性も高いと私は見ているんだけども、現時点では人間の守り手であるお方だ。
「はい、ありがとうございますダアトさん。いざ戦ってみたら……案外、勝てました。これまでも散々戦ってはきましたが、いざ原種と戦ってみるとわかりますね。リフレクターとしての力の強さが」
『原種の力を跳ね返すことに特化した人間、それこそがリフレクターだ。今回の闘いは、決して不思議の勝利ではないぞ』
「はい。今日の戦いで、私も自信がつきました」
一体の原種を倒したことで、目標が明確になってきた。
十体いる原種を倒す……まぁダアトさん抜きにすれば、残りは八体。ちょっと数は多く感じるが、工夫して戦えばなんとかなるだろう。少なくとも今日戦った感じでは結構な余裕も感じたし。
「残り八体……頑張っていきましょう、ダアトさん」
『いいや、残りは六体だ』
「はえ?」
なんか……少なくない?
『今日お前が仕留めたイェソドの他、ホドとケセドが既に撃破されている。ホドはケテルに、ケセドはネツァクによって討たれたようだ』
「……あー、なるほど」
そうか。私馬鹿だな。てか普通に考えればわかることじゃないか。
この原種たちによる勝者を決める戦いは、何も一体が他の九体を倒すようなルールではない。みんなで互いに闘りあって、最終的に残った原種が勝者となるのだ。
そりゃ私達以外にもドンパチやってる原種もいるわな。
「……となると、これから私が戦うべき原種はさほど多くない? のでしょうかね?」
『好戦的なネツァクの動きにもよるが、多くとも四回戦うことはあるまい。無益な争いをする必要性は皆無だ。潰し合う原種がいるならば、静観こそ上策』
ダアトさんは大きく広げた翼に浮かぶ目玉をギョロギョロとあちこちに向けながら、厳かに言った。
ひょっとするとあの無数の目玉で、この世界の戦況を監視しているのかもしれない。はえー知将……。
「……私達は今まで通り、ここで待ち構えているだけで問題ないということですね」
『そうだ。既に勝利までの道筋は描かれている。重要なのは敵よりもむしろ……想いを束ねし者。お前が戦いの時までに、どれほど人間たちのフラグメントに触れられるかにかかっている』
「……フラグメントを固定化し、想いの力を得ることこそ勝利に繋がる。ということですか」
『勝利をより盤石するため、これまで以上に気を払うが良い』
そう言って、ダアトさんは空へと帰っていった。
……なるほど。つまり私の基礎能力を上げろって話だ。当然だな。私だってハクスラゲームをやるならまずはそうする。戦略どうこうよりも、まずは強くならなきゃ話にならない。
「……しばらくは集落のみんなと過ごすか」
一人でいるのも嫌いじゃないが、みんなとの触れ合いが力になるのであれば是非もない。
ただの一人の人間、セイラとして過ごすのも悪くはなさそうだ。
「エーテル使わずに倒したから驚いてさぁ」
「石で仕留めるなんて驚きだよね! 真似はしたくないけど!」
「あの倒木に潜んでる虫が結構良い味で……」
交流を楽しもう。そう思ってしばらく集落のみんなと食事を摂ったり、狩りに付き合ったら、お喋りに興じたりしたのだが……うん、なんかこう……やっぱり摩擦を感じるよね……。
死生観、生活観、衛生観……色々なものが現代人ベースの私と食い違っているものだから、話についていくのもなかなか大変だ。
虫食もな……嫌いじゃないんだけどさ、少しは慣れたけどな……ご馳走扱いして話すほどではないっつーか……。
「セイラ? どうしたの?」
「ああいえ、少し考え事を」
「そう? 悩みがあるなら言ってよね」
「はい」
どちらかといえば私がみんなの悩みを聞いてそれを解決する方向に持っていきたいのだが、なんだか逆に気を遣われてしまった。
……フラグメントを強化したいなんて邪な想いを抱きながらみんなと交流するというのも、結構しんどいぜ。
「ふぅ……」
ちょっと気疲れを自覚した私は、一人で神殿の石柱に腰掛けている。
相当に昔から存在していたらしい石造りの神殿は、ダアトさんに由来する施設跡のようだ。しかし今では神殿の大部分は崩れ去り、私が今こうして腰掛けている倒れた石柱などの残骸が名残として残るばかり。神殿というよりも神殿の遺跡だな。
この辺りは集落に近いけど、人があまり来ない場所なので落ち着くのだ。
「想いを束ねし者……ってほど、まとめ役になれてるわけじゃねぇんだけどな……」
ダアトさんは私のことを『想いを束ねし者』と呼ぶ。
人間の想いの力をまとめ上げ、原種を討つ強力な刃にするリフレクターにはぴったりな名前だろう。
しかし実際の私は集落のみんなからは少し距離を置かれているというか、一段上の存在として敬われている存在だ。そしていまいち彼ら彼女らの価値観に溶け込むことができないせいで、集落の一員になりきれずにいる。
それもこれも、私の抱える知識や感覚が未来的過ぎるせいなのだが……はぁ。この文化的な摩擦はどうにもな。ため息が出るわホント……。
「……ん?」
ひっそりと項垂れていると、石階段を登ってくる人の気配を感じた。
小さな歩幅。静かな足音。特徴的な気配だ。これは……司祭のミッテナさんじゃないか。
「……」
ミッテナさんは15歳の小柄な少女だ。
しかし彼女には強いエーテルの力が備わっており、光弾を飛ばして攻撃するのが得意である。彼女の戦闘能力は高く、戦士団さえ一目置くほどなのだとか。
また、神殿でダアトさんと交信することのできる(私以外では)唯一の人間である。そのため、集落の司祭としてみんなから敬われ、まだ年若いというのに村長に近い地位に立っている子でもある。
性格はとにかく真面目だ。はっきりと物を言い、常にテキパキと動き、仕事をする。原始人はよくサボって休憩したり寝たり飲み食いすることが多いのだが、ミッテナさんに限っては全くそんなことがない。
「……っ」
そんな彼女が今、何故か目から涙を溢しながら神殿に向かっている。
ぼやけた視界で歩いているからだろうか。
視界の端には映っているだろう私の姿も見逃して、黙々と通り過ぎて行ってしまった。
「……ミッテナさん、どうしたんだろう」
追いかけるべきか。いやしかしな。こんな場所で涙を流してるってことは、泣いてる姿を見られたくないってことだろ?
うーん……だとしたらすぐさま追いかけて声をかけるってのもどうなんだろうな。泣きたい時には泣かせてやった方がいい気もするし……。
「うげ」
私はそんな風に葛藤していたんだが、指輪が異変を知らせてきた。
神殿に向かっていったミッテナさんからの反応だ。
……気を利かせてそっとしておく、なんて選択肢はリフレクターには無いようだ。
「ごめんよミッテナさん。一人になりたかったのなら申し訳ないけど……想いが暴走したのなら、それを放置はできねぇんだ」
私はミッテナさんの後を追った。
ミッテナさんは神殿の石畳の上に膝をつき、祈りを捧げる体勢のまま、全身から想いのエーテルを迸らせていた。
一見すると強く祈り集中させているかのようだが、私のリフレクターとしての感覚は彼女のフラグメントが暴走していることを示している。
このまま放置していれば、ミッテナさんは祈り続けたまま動くことはないだろう。
「ミッテナさん、今助けるからな」
私はコモンリープし、暴走するミッテナさんのフラグメントを目指した。
:セイラ
原始時代ではちょっとコミュ障なリフレクター。
どうしても集落の人々とは一歩引いた場所で見てしまう。
:ダアト
最強原種チンポバトルの頂点目指して頑張ってる有能上司。
リフレクターに丸投げしてるようだけど実は本人も普通に戦える。
:ミッテナ
真面目系魔法使いロリ原始人の女の子。
セイラが来るまではダアトと交信することでちょっとした生きる知恵を貰っていた。