オリジン・リフレクション   作:ジェームズ・リッチマン

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お気入りと評価ありがとナス!


コクマー戦

 

 世界の覇権を賭けた原種たちの戦い。見た目は完全に怪獣バトルそのものなので勝手にやってろと言ってやりたいのは山々なのだが、私達人間も無関係ではないのが大変つらいところである。

 負けたら人類滅亡ってオイオイ。まぁ既に私も腹は決まってるんだけどさ……。

 

「せめて今をなぁ……今が楽しけりゃ、私自身ももうちょっと……モチベーションが上がるんだけどな……」

 

 スマホをぽちぽちと操作しつつ、それでもやっぱり機能が限定されすぎているせいで文字を打つこともままならないことを再確認し……ため息がこぼれる。

 

「……娯楽が無さすぎて、あーきついっす」

 

 私の記憶というか知識の中では、無数にある現代の娯楽が詰まっていた。

 ゲーム、アニメ、映画、カルチャー、動画サイト、掲示板、淫夢、なんJ、タフ、ビルダー怪文書……どれも私にとって大切だったはずの、文化の宝物ばかりだ。

 そのどれもが、この原始的な世界には存在しない。やることねぇなぁ……暇だよー。

 まぁ、かといって壁画とかそういうものに挑戦しようってなるほど餓えてはいないんだけどね。

 

「戦いだけが私の渇きを癒してくれる……なーんてな。……さて。そろそろ始めるか、コクマーさんよ」

 

 休めていた身体をのんびりと起こし、巨木の梢に立ち上がる。

 地平の彼方に目を向ければ、そこには不吉な暗雲を引き連れる巨大な影が迫っていた。

 

 原種コクマー。

 ダアトさんが言うには、毎回様々な姿を得て戦術を変える手合ではあるものの、一貫して強大なエネルギーによる力押しばかりを好む原種……だ、そうである。

 

「原種にも色々性格があるんだろうなぁ……まぁ、どうせ倒さなきゃいけない相手だから、性格がわかったところで仲良くなろうとは思わんけど」

 

 二体目の原種、コクマーの接近をダアトさんから知らされたのはつい昨日のことだ。

 コクマーは鈍足だが不整地でも容易く一定速度で行軍できるらしく、半端な結界や妨害を受け付けないパワーを持っているそうだが、逆に言えば一定速度でしか動けないのでやってくるタイミングを正確に予測することができる。

 おかげで私も長い時間待ちぼうける必要はなかったし、集落の皆を安全に退避させる余裕もあった。

 ミッテナさんと通話できるようになったおかげで、集落のみんなとのやり取りもスムーズになったのはとてもありがたいことである。

 

「ミッテナさん、聞こえますか?」

『! セイラね、聞こえる。こっちは待避所の魔物と交戦中。ジナがあらかた仕留めてくれたおかげで、苦労は無いわ。……そっち、応援にいく必要は……ないんだっけ』

「流れ弾が来る危険が大きいそうなので、観戦も避けるべきかと思いますよ」

『……私達みんな、セイラの力になりたいの。でも、横に並べないのよね。わかった。悔しいけど、我慢する。みんなにも、我慢させる。だから……セイラ、頑張って』

「もちろんです。プロですから」

 

 スマホを腰のレザーポーチにしまい込み、首を鳴らす。

 

 原種二体目。ダアトさんからの評価はあまり高くないような相手ではあるけれど……油断はしない。けど、過度に恐怖もしない。私が出せる全力で戦ってやろう。

 

 

 

 地平の彼方から迫る巨大な影は、ある程度近づいてくるとその全容がはっきりし始めた。

 それは、複数の生物を組み合わせたような……まるでキメラのような姿をしていた。

 脚部は芋虫。ウゾウゾと蠕動しながら地を這う様は鈍重なようでいて、意外なほど速い。

 胴体から頭部にかけては太いムカデ。蛇腹状のプレートで覆われた身体はいかにも硬そうで、鎌首をもたげている姿は非常に威圧的だ。頭の大きなハサミの顎も、見るからに恐ろしい。

 そして……腕。ムカデ胴体の側面には左右それぞれ十対にもなる大きく長い甲虫の腕が伸びており、それらは先端に長く鋭い槍を携えていた。

 

 総評。槍だらけの巨大な虫キメラ。それが、私が見たコクマーの印象だった。

 

「確かに、見るからにパワータイプって見た目だ。けど……やっぱキモいわデザイン……」

 

 マジなんなん? 原種ってみんなこうなの?

 仮にこのコクマーが勝利したらこの世界はどうなるわけよ。芋虫とムカデっぽい生き物たちが地球を支配しちゃうわけ?

 うおおおおっ、鳥肌立ってきた。

 

「醜悪な化け物め……この高潔なる女騎士セイラちゃんが成敗してくれる……人の想いよ、私と共に!」

 

 指輪に想いを込め、変身する。

 プラチナの盾も白銀の剣も、調子は万全だ。さあ、負けられない戦いだぞ。私は敗北の味を知らないけどなぁ!

 

 遠くにいるコクマーが変身した私の気配を感じ取ったのか、上部のムカデ体が動きを変える。

 手にした全ての槍が輝き始めたのだ。

 明らかに遠距離攻撃をしてくるっつー前触れだな。けど……。

 

「良かったのか、ホイホイ遠距離攻撃なんかして。私はエネルギー攻撃相手だったら無類の強さを誇るリフレクターなんだぜ?」

 

 案の定、コクマーは全ての槍を突き出し、槍先からエネルギー弾を放ってきた。

 レーザーではなく光弾ってのは少し意外だったが、まぁ関係はない。

 

「スパンコール・チャフ」

 

 剣を振り払い、銀色の飛沫を撒き散らす。

 ギラギラと煌めく空中にエネルギー弾が侵入すると、それらはバチバチと光を撒き散らしながら減衰し、私にたどり着く前に消失した。

 エネルギー攻撃を無条件で弱める『スパンコール・チャフ』。相手の強力な攻撃でも省エネルギーで無効化できるので、遠距離の相手を焦らすには最適な技だ。

 

「ゲームじみた戦い方になるけど、怒らないでくれよ。こういう技を作るのも、私の数少ない娯楽みたいなもんでね」

 

 チャフで霧散し仄かな黄金色の塵となったエネルギーに対し、剣を構える。

 込めるのは想いのエーテル。ここに存在するコクマーの光弾の残滓と、私の剣との間に存在する繋がりを強くイメージし……斬る!

 

「キラリティー・キラー!」

 

 鏡の刃は縁を辿る。私が振り抜いた剣は光弾の靄を切り裂き、それは同時に遠く離れたコクマーの槍の一本へと到達した。

 

『!?』

 

 遥か彼方でコクマーの掲げた槍の一本が派手に砕け散る。

 どうやらあの槍がこの光弾を放った主だったらしい。ふーんである。まぁ、どれが壊れても良いんだけどね。

 

「さあ、懲りずに次の弾でも撃ってみるか? またもう一度、同じように槍を圧し折ってやんよ」

 

 なんて相手に聞こえない挑発をしてみるが、これは虚勢に近い。

 確かにあと何回かは『キラリティ・キラー』を使えるけど、この技ってエーテルの燃費が悪いんだよな……威力もあのくらいが精々だし、便利ってほどの技ではない。

 

「お、痺れを切らせたな」

 

 だが、相手にプレッシャーを与えるには十分な技だ。

 いくら遠距離攻撃を放っても無効化され、あまつさえ距離と防御を無視した反撃を受ける。それがわかっていたら、同じような戦法は使えまい。

 だからこそコクマーは搦手の攻撃をやめ、速やかに接近戦を選択した。いいねぇ、頭パワータイプだ。けど、私もそっちの方がやりやすい。

 

「決着はさっさと決めたいタイプか。性格は私と合うかもしれないな、お前!」

 

 コクマーが文字通りのキャタピラで森を轢き潰しながらやってきた。

 イェソドも大型だったが、コクマーはそれ以上だろう。芋虫やムカデなんかよりもずっと太く、腕も大きい。翼のような飾りも背部には展開されているし、視界いっぱいに広がる姿はそれだけで威圧感がある。

 

『ゴォオオオ』

 

 しかもそいつが明らかな武器を手にして襲いかかってくるとなれば、嫌でも多少はビビる。だが。

 

「お前ら原種なんかに負けるわけねぇだろ!」

 

 巨大な虫のグロさにも退かず、剣を振るう。

 コクマーは幾つもの槍を精密な機械のように突き出してくるが、私はその攻撃全てを盾と剣でいなしてゆく。

 元々ターゲットの小さな私だ、そんなデカい槍であっても同時には狙えまい。

 

「セルフィ・ミラー! かーらーの、プリズム・クライシス!」

 

 攻撃を避け、時に鏡像の囮で撹乱しつつ、着実にコクマーの本体に斬撃をぶち込んでいく。

 プリズム・クライシスで刻まれた輝くひび割れのような痕は残り続け、コクマーの修復力でも完全に消すことはできない。

 

『ォオオオオッ』

「おっといけね、ファースト・ピアッサー!」

『!?』

 

 ムカデの頭が頭上から噛みつこうと迫ってきたのを、伸びる突きで顎を跳ね上げる。

 こっちの強みは小回りだ。相手が巨大な火力で押し潰そうとするなら、こっちはそれらを避けて少しずつ噛んでやるだけだ。

 いや、それは正確じゃないか。

 

「こっちは原種特化のリフレクター様だ。ネズミが噛むような攻撃と侮ってもらっちゃ困るぜ!」

 

 身体は小さくても、リフレクターは原種を討つ存在。

 技に秘められた性能は見た目通りではない。

 少なくとも、私の持つ剣を刃渡り一メートル程度のものと思わない方が良い。

 

「プリズム・クライシス!」

『!!』

 

 下部の芋虫の頭にも剣をぶつけ、ひび割れを生み出す。

 切り裂かず、敵を砕く一撃。輝きを漏らす傷跡は既にコクマーの全身に広がり、その巨体を薄く発光させていた。

 その症状にさすがに危機感を覚えているのだろう。コクマーはこれ以上の損耗を防ぐためにか全ての槍を防御に回し、私との間に壁を作ろうと動いた。

 

『ゴォオオオッ』

「! そいつも顔動くのかよ」

 

 変わりに突き出してきたのは、コクマーの脚部としてしか働いていなかった巨大芋虫の頭部だ。

 巨大な口を大きく展開し、その奥から神々しいまでの輝きを湛えている。

 

 主砲だ。多分、これまで私が見たこともないような力がそこに込められているのだろう。

 最後っ屁だと侮りかけていたが、なるほどこれは『スパンコール・チャフ』で防ぐのは厳しい一撃だ。

 

 色々工夫すれば防げもするだろうが、撃たせたら最後、私の背後にある小山が、さらにはその奥の集落まで消し飛ぶかもしれん。当たりどころが悪ければそれだけで人類滅亡の可能性がある。

 

「決めるか」

 

 主砲の力をため続けるコクマーの真正面で、私は剣を掲げた。

 

「人の想いの輝きよ。空をも穿つ橋となれ……」

 

 白銀の剣が光を増し、悲鳴のような甲高い音を立てる。

 それと共にコクマーの全身に入ったひび割れからも輝きが溢れ、痛みに身悶えるように動きが鈍った。

 

 それまでに刻み込んだプリズム・クライシスの全てをダメージとして解放する私の奥義だ。

 ボス戦でしか使わない必殺技だぞ。最期によく見て……そして、砕け散れ!

 

「フラグメント・ミラージュ!」

 

 輝く剣を振り抜き――剣がガラスのように砕け散る。

 

『ガァアアアアアアアアッ!!』

 

 一振りで自壊した白銀の剣と連動するようにコクマーの身に刻まれたひび割れが炸裂し、眩い光が辺りを飲み込んだ。

 存在そのものに刻まれた亀裂はコクマーの主砲が溜め込んでいたエネルギーもろとも爆散し、その全身を無数の欠片にまで砕いて――全てが決着した。

 

「ふぅー……工事完了です……」

 

 後に残るのは、虹色の光を帯びてハラハラと降り注ぐ無数の欠片たち。

 コクマーは完膚なきまでに破壊され、消滅したのだった。

 

「あー……疲れたんじゃあー……」

 

 眩い光が降り注ぐ中、私は剣が砕けた脱力感もあって、その場にだらりと寝転ぶのであった。

 

 




:セイラ
戦うことそのものじゃ半分くらい自分の娯楽や趣味になってる系リフレクター。
相手の遠距離攻撃を介して敵本体をぶっ叩くインチキ技を持っている。
インチキ技なだけあって燃費は悪い。しかしそれを上回る性能もあるにはあるので……。

:コクマー
第二番目のセフィラ『知恵』を司る原種。
ブルーリフレクション初代における混乱クソボケジャワティー野郎。
ゲーム内では戦車や兵器モチーフのデザインがあったものの、この時代では有力な生物の一つである虫を象った姿を取っている。
色々と戦闘前の工夫はするものの、戦いとなれば力押しが大好き。
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